幻想4
「ここに来るのも久し振りね」
私は例の怪しいフォトフレームを持って、ある公園に来ていた。
途中で酔っ払う可能性もあるから、もちろん公共機関を使って来たわ。
毎年毎年、夏は暑い、夏は暑い、と言っているのに、涼しくならないものね。
電車内の冷房は弱く、地球に優しいのかもしれないけど、私に優しくないのなら意味がないわ。
中途半端に優しくするくらいなら、始めから優しくしないで欲しいものね。
微妙な優しさが、あとで後悔することになるのよ。
男女関係では、特にモテない男子が勘違いするのよね。
ちょっと笑顔で話しかけただけで。ちょっと手を触っただけで。ちょっと目が合っただけで。
常識的な対応をしているだけなのに、困ったものよね。
初々しい反応を可愛くは思うときもある。
でもね、恋に発展することなんてないのよ。
私が求めているのは、しっかりして、頼れる男性。
もやしっ子に興味はないわ。
コンビニエンスストアでスポーツドリンクを購入し、喉を渇きを潤す。
午後の熱い時間もあるのかしら。
駅を降りる人は少なく、コンビニエンスストアには誰もいなかった。
店員さん、暇そうに欠伸をしていたわ。
バスのターミナルを過ぎ、歩いていくと見えるのは、大きな観覧車。
確か日本で一番大きかったのかしらね。
観覧車の大きさが一番だろうが、二番だろうが、私の人生にはなんの関係もないのだけど、おっきなものを目にするのはいいわね。
どうでもいいことだけど。
フォトフレームを鞄から取り出す。
カメラではなく、フォトフレームを持ち歩く女。
周りにはどんな目で映るのかしらね。
不気味に映りそうなものだけど、周りに人がいるわけでもないし、問題ない。
「いるのねー……」
死んだ彼が映っている。
もちろん、現実にいるわけではないのだから、フォトフレームをどけると、誰もいない。
ああ、この不可思議な現象はなんなのかしら。
全く、想像がつかなくて、困ったものよ。
また覗き込み、眺める。
変わらず、気の抜けた顔をしているのね。
私の気持ちなんか知らないで、勝手に死んで。
ほんと、昔から勝手だったわ。
私は、あなたのどこに惚れたのかしら。
忘れてしまったわ。
映像は見えるのに、声は入らないのね。
そっちからは接触ができないのかしら。
こっちから聞こえたりしないのかしらね。
「元気してた?」
何食わぬ顔で歩いている彼に発した言葉。
元気も何も、今は死んで、焼かれて、土の中に埋められて元気なわけがないのにね。
でも、変わらないあなたを見ていると、元気でやっていそう、と思ってしまう。
一人でぶつぶつと呟きながら、つっ立ているのも変なので、足を進めることにした。
思い出の場所ではあるのだけど、この公園、大きくて広いのよね。
足を痛めたくないのに、私ったら、普段と変わらないヒールを履いてきてしまった。
軽く周るだけでいいわね。
と、水族館が見えてきた。
懐かしいわね。
さかなクンでもないのに、水族館によく誘われていたわ。
一人で行くのは遠慮しとこうかしら。
女性一人で、水族館。
悪くはないのかもしれない。
たまには、たまにはね。
ソロ活動をしていくのもいいわね。
[本日は休館日となります]
私の運の悪さを呪ったわ。
なに、そこで笑っているのよ!
って、あなたね。
無邪気に、無垢に、無頓着に。
変わらないわね。
本当に、懐かしいわ。