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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

白鈴の血

作者: 四十早
掲載日:2026/03/17

三百年、城の外に出たことがない。


城主は若い顔のまま年を取らず、白鈴(はくりん)という名の姫もだ。


死を予感させるほどに美しいまま、時の中に閉じ込められていた。


不老不死の血が流れているのだと、竜の化身なのだと、人々は噂した。


怪力無双と呼ばれた然宋(ぜんそう)が盗みを覚えたのは、妹のためだった。


薬は高い。何度も盗んだ。一度も捕まったことはなかった。腕っぷしは強く、頭も回る。しかし妹の病は一向によくならず、ある夜ついに血を吐いた。


医者を脅した。刃を喉元に当て、助かる方法を言えと。


医者は震えながら答えた。


「白鈴の血を、飲ませれば」


その夜のうちに、然宋は城に忍び込んだ。


部屋の奥に、姫はいた。


燭台の光の中で、ただ座っていた。死の匂いのする美しさだった。生きているのか死んでいるのか、区別がつかないような静けさで。


「なんじゃ、われに何か用か」


声は涼やかだった。恐れも驚きもなかった。


「お前の血が欲しい。分けてくれないか」


「この城に忍び入った者は、お前が初めてじゃ。何か珍しいことを教えてたもれ」


「そんなものは知らない。俺は盗みしかしないからな」


「つまらん男じゃ」


然宋は少し考えてから言った。


「ずいぶん美しい顔だ。刻んでやってもいいぞ」


「そんなことをして、何になるのだ」


「お前の美しい顔を刻み、血を妹に飲ませれば、元気になる」


「そんなことがあるなら、やってみるがいい」


ためらいなく、然宋は斬った。


血が流れた。竹の筒に受けた。しかしそれより早く、傷がふさがっていく。見る見るうちに、肌が元に戻っていく。


「化け物か、貴様は」


「人の顔を斬るお前は、化け物ではないのか」


然宋は何も言えなかった。


「そうか」


と白鈴は言った。


「では、お前の妹に聞いてみよう」


「どうやってだ」


「お前がわれをさらい、妹のところへ連れてたもれ」


「城主が怒り、俺を追ってくるだろう。俺はもうお前に用がない。さらばだ」


血を飲んだ妹は、みるみる元気になった。


しかし数日後、また倒れた。


その日のうちに、然宋は城へ忍び込んだ。


「またお前の血をもらいに来た」


「おお、お前か」


白鈴は笑った。


「楽しみにしておったぞ。今日もわれの顔を斬るのか」


「そんなことはしない。俺の家へ連れて行く」


然宋は、白鈴を軽々と抱き上げた。


ずいぶん軽い、と思った。


「われは白鈴という。お前は?」


「俺は然宋だ」


「いい名じゃな。気に入ったぞ」


しばらく、然宋と白鈴は一緒に暮らした。


おかしなことに、城は騒がしくなかった。姫をさらったというのに、追っ手が来なかった。


ある朝、布団から起き上がった然宋の横に、白い肌を露わにした姫がいた。


「人間は、ずいぶん面白い夜の過ごし方をするものじゃ」


「そうだ、おもしろいだろう。肌を重ね、口づけをする。そして子どもを作るのだ」


「ほう」


白鈴は天井を見上げた。


「われがお前の子を産むのか。実に面白い」


「おかしな姫だな。ずっと捕らわれていて、おかしくなったのか」


白鈴は答えなかった。ただ、微かに笑っていた。


やがて妹は元気になった。


然宋は白鈴に言った。


「お前の血で妹が助かった。礼を言う」


「そうか。ではわしは城へ帰るか」


「なぜだ」


「妹は元気になったのだろう。われがいる意味がなくなった」


「俺と一緒にいれば、何でも食べさせてやる。林檎も、米も、魚も、お前はうまかっただろう」


「そうじゃな」


と白鈴は言った。


「城では食べたことがなかったからな」


「そうだろう。ここにいろ。毎日愛してやる」


「いいのか、われはうまいものが好きじゃ」


「いいとも、それを愛と呼ぶのだ」


「これが、愛か」


次の日、然宋は病に倒れた。


白鈴の血を飲んだ。毎日飲んだ。しかし元気にならなかった。妹はあれほど早く治ったのに。


「妹はどこだ」


「わしが食べた」


「何を言っている」


「お前がうまいものを食わせてやると言ったから、食べたのだ」


「嘘をつくな」


「しかし本当に、われの血でないと、お前は元気にならんな」


白鈴は首をかしげた。


「もしや、この血は妹の血か」


「妹に聞いてみようと、顔を斬った血じゃ」


然宋は白鈴を刺した。


激怒して、刺した。返り血を浴びながら、竜の血を飲んだ。


しばらくして、白鈴は生き返った。


然宋の額に、角が生えていた。


「死なない化け物め」


「おかしなことを言う。お前に角が生えているぞ。お前も化け物だ」


然宋は怖くなり、逃げた。


しかしまた病に倒れ、姫の血を奪いに来た。白鈴は家にいた。然宋は血を飲んだ。


やがて体に鱗が生え、角がさらに伸び、牙が生えた。


「おや、然宋。牙も生えたな」


然宋は言葉を発しなかった。


白鈴は然宋を食べた。


「これが、愛。……あまりに、熱くて」


「うまい」


紺野の白鈴は城へ戻った。


白鈴の腕には、小さな赤子がいた。


城主が問うた。


「その子は何者じゃ」


白鈴は答えなかった。ただ赤子を見つめ、静かに言った。


「然宋という」


赤子の額には、小さな小さな角の芽があった。

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