アリーナ席
また一番前だ、と春灯はくじを見て肩を落とした。
教室がどっと湧く。
「これで中学から数えて五十九回連続、アリーナ席……」
教卓の真正面。教師の息遣いまで届きそうな逃げ場のない席。
もはや恒例行事で、男子は笑い、女子は「ドンマイ」と声をかける。
そんな光景を横目に、僕――冬樹は、別の理由で胃が重くなっていた。
手の中の紙にも、同じ文字が書いてあったからだ。
一番前。
机を運ぶ必要のない春灯は、すでに席に座っていた。
足を組み、なぜか少し誇らしげに。
「よろしくね、冬樹くん」
「……よろしく」
短く返すと、春灯はふと思い出したように教室を見回す。
「理秋、どこ?」
親友の名前。
視線の先で、理秋が一瞬だけこちらを見て、すぐ逸らした。
「後ろから三番目。窓際」
「そっか。ちょっと遠いね」
一瞬だけ寂しそうにして、すぐに笑う。
その切り替えが、なぜか胸に残った。
休み時間、理秋が近づいてきて言う。
「五十九回連続達成おめでとう。次は六十ね」
「いらない記録だよ……」
「でも、人生って席替えみたいなものよ。当たりもハズレもある。引いちゃったなら、そこで頑張るしかないの」
妙に納得してしまって、何も返せなかった。
その直後だった。
「ツバメ!」
誰かの声。
本当に鳥が教室に飛び込んできて、迷うことなく春灯のほうへ向かってくる。
考えるより先に、体が動いた。
春灯の前に立った瞬間――
ごんっ、と鈍い衝撃。
「……っ」
ツバメは僕の頭にぶつかり、羽音を立てて逃げていった。
「冬樹くん!?」
春灯が、心配そうな顔で覗き込む。
「大丈夫。平気」
本当は普通に痛かったけれど、そう言った。
そう言わないと、この子はもっと落ち込む。
「……ありがとう」
安心したように、春灯はくしゃっと笑う。
その笑顔が、ずるかった。
春灯の周りでは、なぜか不運が起こる。
鳥や虫、倒れる掃除用具、ありえない場所に落ちているバナナの皮。
偶然にしては多すぎる、不運体質。
だから、この席替えが憂鬱だった。
巻き込まれるのが、正直めんどうだった。
「冬樹くんが隣でよかった」
小さく、でも確かに言われる。
……悪くないかも、なんて。
ほんの一瞬だけ思ってしまう自分がいて。
それを認めるのが癪で、僕はそっと目を逸らした。




