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アリーナ席

作者: Y太郎
掲載日:2026/01/16

  また一番前だ、と春灯はくじを見て肩を落とした。

 教室がどっと湧く。


「これで中学から数えて五十九回連続、アリーナ席……」


 教卓の真正面。教師の息遣いまで届きそうな逃げ場のない席。

 もはや恒例行事で、男子は笑い、女子は「ドンマイ」と声をかける。


 そんな光景を横目に、僕――冬樹は、別の理由で胃が重くなっていた。

 手の中の紙にも、同じ文字が書いてあったからだ。


 一番前。


 机を運ぶ必要のない春灯は、すでに席に座っていた。

 足を組み、なぜか少し誇らしげに。


「よろしくね、冬樹くん」


「……よろしく」


 短く返すと、春灯はふと思い出したように教室を見回す。


「理秋、どこ?」


 親友の名前。

 視線の先で、理秋が一瞬だけこちらを見て、すぐ逸らした。


「後ろから三番目。窓際」


「そっか。ちょっと遠いね」


 一瞬だけ寂しそうにして、すぐに笑う。

 その切り替えが、なぜか胸に残った。


 休み時間、理秋が近づいてきて言う。


「五十九回連続達成おめでとう。次は六十ね」


「いらない記録だよ……」


「でも、人生って席替えみたいなものよ。当たりもハズレもある。引いちゃったなら、そこで頑張るしかないの」


 妙に納得してしまって、何も返せなかった。


 その直後だった。


「ツバメ!」


 誰かの声。

 本当に鳥が教室に飛び込んできて、迷うことなく春灯のほうへ向かってくる。


 考えるより先に、体が動いた。

 春灯の前に立った瞬間――


 ごんっ、と鈍い衝撃。


「……っ」


 ツバメは僕の頭にぶつかり、羽音を立てて逃げていった。


「冬樹くん!?」


 春灯が、心配そうな顔で覗き込む。


「大丈夫。平気」


 本当は普通に痛かったけれど、そう言った。

 そう言わないと、この子はもっと落ち込む。


「……ありがとう」


 安心したように、春灯はくしゃっと笑う。

 その笑顔が、ずるかった。


 春灯の周りでは、なぜか不運が起こる。

 鳥や虫、倒れる掃除用具、ありえない場所に落ちているバナナの皮。

 偶然にしては多すぎる、不運体質。


 だから、この席替えが憂鬱だった。

 巻き込まれるのが、正直めんどうだった。


「冬樹くんが隣でよかった」


 小さく、でも確かに言われる。


 ……悪くないかも、なんて。

 ほんの一瞬だけ思ってしまう自分がいて。


 それを認めるのが癪で、僕はそっと目を逸らした。



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