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ヘラヘラした女

真っ黒な遮光性の高いカーテンを開ける。


半開きの目に映ったのは厚い雲が掛かった薄暗い朝の空。

これで雨が降って雷でも鳴れば最高だ。


昨日は遅くまで動画編集していたから寝不足で頭がぼーとしている、外に出て一服するとしよう。

晴れの日以外は外でタバコを吸うと決めているのだ。


「おい、出て来たぞ、お化け屋敷の住人だ」

「うわぁ死神じゃん」


チャリンコに乗った近所のガキが道路の端からこちらを見ている。俺の家はちょっとした肝試しスポットになっているからな。

夜中に来ないところが何とも小学生らしいが、朝からキンキンと甲高い声が脳に響く。


「ああいう奴の事なんていうか知ってるか?中二病って言うんだぜ、母ちゃんが言ってた」

「中二病!」

「中二病!」


「カーカー」

くそ、カラスまで煽ってきた。


聞き捨てならないワードに、煙で燻された俺の目は更に細まる。

指を閉じた状態で手を上げて胸の前でクルクルと円を描きながらブツブツと何かを唱えた。


「や、やべー、呪いをかけてやがる!」

「逃げろー!」

「うわー!」


小学生達は砂煙を上げながらチャリを漕いで帰っていった。

「ふふふ」

チャリの漕ぎ過ぎでケツにニキビでも出来りゃ良いんだ。デカくて痛いやつがな。


片頬を上げてニヤついていると車の走行音が聞こえてきた。

ここは人里離れた森の中、車が通るのはちょっと珍しい。

音の発信源が姿を見せる。トラックか、珍しいな、なんて呑気に見てたが車が隣の空き家の前に停まると、俺は被っていたフードを外して目を見開いた。


引越し…⁉︎

トラックの荷台にそう書いてあるのだ。


確かにここ最近、隣の空き家に人の出入りがあるように感じていたが、あんな平屋のボロ屋に人が住むなんて思わなかった。

俺の2階建ての豪邸より明らかにお化け屋敷感あるのに。


嫌だ、隣に人が越して来るなんて嫌だ。

ここは俺様のテリトリーで他者の侵入などあり得ん。


トラックからキャップを被った業者の男が2人降りて来ると、その中に小さな体をした人間が1人混ざっている。

髪の毛が長くて線が細い。あれは女か?


女は俺に気付くとニヤニヤ笑いながらこちらに近づいて来る。

俺は慌てて玄関扉を開けて家の中に逃げた、いや、入った。

だってガウンの下はパンツ一丁だったから。


窓のカーテン越しに外を確認すると女は俺に背を向けてボロ屋に戻っていた。

業者は荷物を家の中に搬入している。


本当にあの家に越してきたのか、くそ、俺様の自由気ままな孤独ライフを脅かす害虫め。


外の様子を見ていると女が紙袋を持ってこちらに向かって歩いて来る。

慌ててカーテンを閉めて身を隠す。


ピンポーン


チャイムが鳴った、あのメスブタが鳴らしたに違いない。

宣戦布告にやって来たのか?受けてたってやろう。


俺は乱れたガウンを直し、フードを被って玄関を開けた。10㎝位。

すると女は俺を見るなりさっきのガキのように甲高い声で喋り出した。


「こんにちは、隣に引っ越して来た香田優香こうだゆうかと申します。よろしくお願いします」

目をカッパえびせんみたいな形にして歯を見せながら喋ってる、悍ましい。


俺は眉間に皺を寄せて女を見た。


「ひぃ、うぉっほん」

声が上擦った、久々に喋ったからだ、最悪だ。今の失敗を思い出して3日は落ち込める。


「良い度胸だな、俺の家の隣に越して来るとは、直ぐにまた引越したくなるだろうよ、ふふふ」


女はキョトンてした顔で俺を見ている。

少しの沈黙と気まずい空気が流れた後女は「えへへ」と笑い出した。


「よろしくお願いします」

ヘラヘラしながら女は言った。


———この女、只者では無い。

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