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超☆破壊神アイドル、メイジェちゃん

 クラウディア航星帝国(こうせいていこく)歴二八二八五年

 ルブナ・ディール暦七八五年、三月初頭。


 エラリス領・惑星ルブナ・ディール 防衛都市ミルクレイン郊外にて、旧体制時代の地下造船所が発見された。

 造船所内には艤装(ぎそう)前のアレックス級戦列艦一隻、建造途中の同型艦二隻を確認。艤装前の一隻は魔術による保護が施され、状態から使用可能と現地調査員が判断した。


 四月一日。規約に基づき住人の避難を完了後、衛星〈アルテナ〉から質量砲を発射。造船所をミルクレインごと完全に撃滅した。


 ――だが、その直後からミルクレイン周辺のマナ濃度が爆発的に上昇。

 魔術による監視網は機能不全に陥り、詳細な観測は不可能となった。以後、光学観測のみで警戒を続けたものの、五日間、実質的な対処は行えなかった。

 その理由は、ひとえに経験不足と、平時ゆえの油断の賜物である。


 そして、その均衡を破ったのは、一通の通信だった。


***


 地上から三万六千キロ。

 ≪クラウディア航星帝国所属 ルブナ・ディール星域艦隊駐留地 軌道ステーション〈ステーション・ラムダ〉 艦隊司令部≫


『――こtらは監視衛……〈クd……ャフk〉、ルブナ・dィール星域駐留艦……令部、応……願いまッ……』

 雑音まじりの少女の声が司令部に響く、監視衛星〈クドリャフカ〉に搭載された人工知能の声だ。

「受信状態、微弱。送信出力を上げろ」

喰星樹(しょくせいじゅ)に変化あり、至急の対策を――』

 司令部がざわめいた。


 喰星樹――七五〇年前、人類連合所属だったこの星域を、第十艦隊が制圧・接収した後、エニーマ製造プラント建設のために持ち込まれた『マナの樹』が、原因不明の変異を遂げ、現在の喰星樹となった。

 当時、艦砲にて殲滅を試みたが、地中に残された根から再生を繰り返し、殲滅は不可能と判断された。しかし幾度目かの再生の後、攻撃性を失ったため以後は放置されてきた。

 それが、今になって復活の兆しを見せたのだ。


「映像、来ます」

 通信士の声に、司令部は一瞬で静まり返る。

「メインスクリーンに」

 その沈黙を破り命令を出すのは、艦隊司令ヴェル=ルブナ・エラリス。

 純血エルフにして高い戦略眼とカリスマ性で知られ、戦時中にこの星域を制圧した伝説的軍司令官。その功績により、星そのものが彼女の名を冠し〈ルブナ・ディール〉と呼ばれるようになった。


 スクリーンに映ったのは、眩い光を天へと放つ喰星樹の姿だった。


「これは……攻撃なの?被害報告は?」

「現時点でステーション・ラムダ、軌道エレベーター、艦隊、喰星樹の森周辺の防衛都市に被害はありません。資料にも類似の現象は記録されていません」

「そう……直ちに第三戦闘配置。光の解析を急げ。〈クドリャフカ〉、詳細報告を」

『…………くぁwせ――』

「ん? どうした⁉」

『…………げぇっぷぅ‼』

 司令部が凍り付いた。耳障りな音が、通信を通じて響き渡る。

『キッタねぇでござッ――』

「……今の声は?少女の声?〈クドリャフカ〉の人工知能ではないな」

「〈クドリャフカ〉、通信途絶!」

「なにッ⁉どういう事!状況は⁉」

「不明……、いえ!〈クドリャフカ〉に隣接する監視衛星〈クローカ〉、〈バルス〉から映像来ます、ライブ映像です!」

 映像が切り替わる。そこに映ったのは――〈クドリャフカ〉のエニーマ貯蔵タンクが巨大な歯で噛みちぎられたように破壊された様子だった。

「攻撃……を受けたのか?」

「不明です。ただ、軌道に変化はなく物理的衝突ではない模様」

 この状況、遅疑逡巡(ちぎしゅんじゅん)は味方に危機をもたらすか……。

「情報が少なすぎる……、偵察を出す。無人機はまだ飛べるか?」

「はい、現状のマナ濃度ならまだ――」

「地上基地に無人偵察機を要請して。〈クドリャフカ〉は回収、修理可能なら修理後再投入」

「了解――」


***


〈クラウディア航星帝国〉――通称〈航星帝国(こうせいていこく)〉。

 始祖と呼ばれる不滅の亜人クラウディアを頂点に戴き、多種多様な亜人種を糾合(きゅうごう)して成立した国家である。


 その(おこ)りは宇宙の新天地を求める漂泊(ひょうはく)の旅にあった。

 旅の過程で力を蓄え、諸種族(しょしゅぞく)を受け入れ、ついには一大勢力へと成長したのである。


 亜人種はヒト種よりも宇宙での生存に長けており、航宙活動の範囲が拡大したのは彼らの影響によるところが大きい。

 特にエルフ種は魔力操作に優れ、長寿で食も細いことから、帝国の発展に大いに貢献した。

 ゆえに支配層にはエルフの名家が多く存在し、帝国の統治体制を今に至るまで支えている。


 ――以上のように、帝国の成り立ちは記録に残されている。

 そして今まさに、その帝国艦隊が、森に潜む脅威に向けて動き出そうとしていた。


***


 そんな事になっているとは露ほども知らず、当のメイジェ達はチュートリアルを続けていた。


「次は攻撃よ♪ 戦闘は火力! 火力こそパワー! 先手必勝! 百発百中! 出前迅速、落書き無用!」

 言葉の意味はよくわからんが、とにかくすごい自信だ。

「どういう意味?」

『お嬢、あれ何も考えてねぇぞ』

「失礼ね! 殴られる前に殴るのは常識でしょう?」

『……まあ、それも一理ある。殴られた痛みは消えないしな』

「痛いのはイヤ!」

「でしょ? 一撃で戦闘力を奪う――つまり火力こそ正義なのよ!」

 ミーヤちゃん結構“脳筋”なのかも。


「じゃあメイジェちゃん……まず服を脱ぎます」

「びっくりするほどユートピア!」

 叫んだ瞬間、周囲が真っ白に輝いた。

「なっ⁉ 今の台詞……霊体に対する攻撃手段!? さっきの一言で一帯が浄化されたわ」

「『えぇ…(困惑)』」

 そんなつもりじゃなかったのに……。


「これから教える能力を使うときは服を脱いでちょうだい。慣れるまではお洋服がボロボロになっちゃうから」

「え、下着も?」

「そうよ。前に言ったじゃない『天使は全裸がユニフォーム』って」

 納得はできないが、この可愛い下着がボロボロになるのはもっと嫌だ。仕方ない……脱ぐか。

 観念してメイジェドモードに切り替え、着ぐるみパジャマを脱ぎ、下着に手をかける。

 転生してから五十年、ずっと“全裸+半纏(はんてん)”だったのに――外で服を脱ぐのが、こんなに恥ずかしいなんて。


 じっとこちらを見つめるミーヤちゃんの瞳が、髪の奥まで覗き込んでいるようで落ち着かない。

「あんまり見ないで、恥ずかしい……」

「大丈夫、すぐ良くなりますヨ」

『お嬢これを、これならボロボロになってもいいから』

 テンちゃんは脱いだ衣類を収納しつつ、代わりにラップタオルを差し出してくれる。

「さすがテンちゃん、ありがとう」

『へへっ、こんなこともあろうかと、用意しておいて正解だった』

「チイッ!やるな、テンちゃん」

 ミーヤちゃんは(すこぶ)る悔しそうにハンカチを噛んでいる。


 ラップタオルを体に巻くと、少しだけ心が落ち着いた。やっぱり外で全裸は良くない。

 ――よし、髪を短くしても大丈夫かな?

 メイジェドモード解除、準備完了。

「ふぅ……ミーヤちゃん、準備できたよ」

「恥じらうメイジェちゃん、もっと見ていたかったけど……、じゃあちょっと動かないでね」

 ミーヤちゃんはわたしの頭の後ろに回り、何やらゴソゴソ。

『おい!……お嬢、痛くないか?』

 テンちゃんが心配そうにこちらを見ている。

「ん?何も感じないけど?」

『そ、そうか……、ならいいんだ』

「終了! できたわ」

「ありがとう……でいいのかな? いったい何を?」

「ちょっと、頭の中コネコネして、制限を解除しただけよ」

「のーみそコネコネ⁉ ……制限を解除?」

『つむじから腕突っ込んでグリグリしてたぞ』

 頭の中に手ぇ突っ込んだんかぁ⁉

「痛くなかったでしょ? ちょっと危ない能力だから、制限を掛けていたの。チュートリアル前にこの能力を使って、この星が無くなったら元も子もないでしょ?」

「『…………』」


「じゃあ早速、私がお手本を見せてあげる。この能力は攻撃であり、防御でもあるのよ」

 ミーヤちゃんの右手が金色に輝き出す。

「わぁ……キレイ」

「ふふっ、テンちゃん。なにか果実をこっちに投げてちょうだい」

『おっ、おう。……じゃあ桃を』

 テンちゃんが“収納”から食べごろの桃を取り出すと、芳醇な香りが漂った。

「美味しそうな桃……」

 山なりに投げられた桃に、ミーヤちゃんの右手が触れる。

 ――桃はサラサラと粒子状に崩れ、パチパチと小さく弾けながらミーヤちゃんの体内に吸収された。

「どうかしら?」ドヤッ!

「そんな……あんなに美味しそうな桃が……」

「…………どうかしら?」

『(お嬢、褒めてやれって)』

 テンちゃんが小声で囁く。

「ッ!ス、スゴーイ!桃ガ消エチャッター!」

「………………」

 どうしようミーヤちゃん、しおしおになっちゃった。

『ミーヤ、すまん。もっと熟れてない桃にするべきだったな』

「ご、ごめんね……」

「なーんちゃって!消えた桃が元通り!」ドヤッ!ドヤッ!

 ミーヤちゃんの手のひらからズズズッと桃が完璧な形で現れた。

「えっ……元に戻った! すごーい!」

「ふっふっふー、この能力はね、あらゆる物質をマナへ還元できるのよ!」

「それって凄くない? あらゆる物質って、あらゆる物質ってことだよね?」

『お嬢、同じことを二度言ってるぞ?』

「凄く難しそうだよ?」

「そんなことないわ、メイジェちゃんやったことあるはずよ?」

「ええッ⁉」

『もしかして食べた物を消化するときか?』

「そう、メイジェちゃんが食べた物は体内でこんな感じに、マナへ還元されているのよ」

 トイレに行かない存在――つまりわたしって、アイドルってこと⁉

 

「じゃあ、実際にやってみましょう。分解、もしくは消化のイメージで出来るはずよ」

 ミーヤちゃんから桃を受け取り、分解のイメージ……。

 両手が金色に輝き出すと、持っていた桃がボタボタと崩れる。

 ――あれ?サラサラしていない?

 崩れた桃がわたしの体内に吸収される直前、バチッと大きく弾ける!

「わわっ!」

 反射的に顔をそむけるが、視線を戻すと桃は消えていた。

「へへっ、できた!――んッ?」

 何だかスース―する?

『お嬢! 前! 前!』

 テンちゃんが慌ててタオルをわたしに巻き付ける。

「お゙ッほォぉぉー‼眼福ですわ!」

「ええッ⁉ な、なに⁉」

 ミーヤちゃんに背を向けて巻かれたタオルを開いて見ると、ラップタオルに大きな穴がたくさん空いていた。

「水玉コラ⁉」

 弾けた粒子が当たると、一緒に分解されちゃうらしい。

「グフフ、まぁまぁね。もう少し粒子状に出来れば、弾ける大きさも小さくなって、お洋服に穴が開くことが無くなるわ。練習あるのみ!」

「もぉ~!先に言ってよ!」

「あはははっ!さっきのお返しよ♪」

『はぁ、大人げないなぁ』


「でも還元された桃が元に戻ったのはどうして?」

 今はもうメジェドモードだ、油断しない。

「それは魔法との合わせ技ね。還元して吸収すれば、体内のマナで完全に再現できるの。同じ形で何度でも、何個でも創り出せるのよ」

 そう言って、次々と桃をテーブルの上に並べていく。

「すごい! チートだ! 食べ放題だ! まさに願いを叶える力!」

「すごいでしょ? 生物を還元して吸収すれば体を変化させることも出来るわよ」

 半魚人になれる!

「でも料理とか、いろんな物が混ざったものは再現できなッ――」

 八個目の桃を創っている途中でフリーズしてしまった。

 そのまま顔面からビターンと倒れた。首が明後日の方を向いたままピクリとも動かない。

「ミーヤちゃん‼」

『おい!どうしたんだ‼』

 返事はない……いや、かすかに声が……。

「……、マナヲ、チュウ☆ニュウ、シテネ♡ ……、マナヲ、チュウ☆ニュウ、シテネ♡……、マナヲ、チュウ……」

「えぇ…(困惑)」

『なんだよ……マナ切れかぁ』

「そうなの?」

『ミーヤは体内のマナが空っぽになると、空気中のマナすら取り込めなくなるらしいぞ』

 そんな、空っぽになるまで桃を出すなんて、ミーヤちゃん食いしん坊だな!

「もしかしてテンちゃんも、マナ切れになると動けなくなる?」

『俺は、空気中にお嬢のマナがある限り大丈夫だ!』

 よかった。いつも一緒なら安心だね。

「さすがテンちゃん!」

『へへっ、照れるぜ』

「ハヤク、マナヲ、チュウ☆ニュウ、シテ」

『はぁ、しかたねぇな』

 ――マナ注☆入!


「ちょっと!ちょっと!なんなのこの桃‼ どうしてこんなに再現するためのマナが多いの⁉」

「きっと、美味しい桃だからだよ!」

『食ってみな、飛ぶぞ』

 テンちゃんが桃を切り分けて。その桃をミーヤちゃんが、ひとくち――

「んんん~~ッッ‼ な、なんという甘さッッ‼」

 バァァァン!と頭上に雷鳴が轟くような迫力の声。

「ひとくち目で舌を包み込むのは……春風みたいにやわらかな甘味ッ! それが……それがッ‼ まるで滝のように押し寄せてくるッ!」

 ミーヤちゃんの背後に金色の光が(ほとばし)り、謎のエフェクトがキラキラと噴水のように舞い上がる。

「じゅわぁ~~っと広がる芳醇な香り! 鼻腔の奥まで突き抜けるみずみずしさ! まるで……まるで桃そのものが私を抱きしめているかのようじゃないッッ‼」

 両手を天に掲げ、涙目で叫ぶ。

「しかも! ただ甘いだけじゃない! 後味はさわやかで、舌に残るのは涼風のような余韻……っ! これぞ、天上の果実ッッ‼どこで手に入れたの⁉」

 鬼の形相でテンちゃんを問いただす、コワぁ。

『お供えとしてもらった』

「そんなわけないでしょ⁉こんなおいしい桃!もはや神の食べ物よ!何か特別な処理でもしたんじゃないの?」

 ズイズイと詰め寄る……

『んなこと言ったって……、確かに追熟は“収納”の中で時間操作してやったけど、後はずっと時間停止状態で入ってただけだぜ?』

「それなら追熟工程に秘密が有りそうね。多分、この感じだとメイジェちゃんのマナのせいだと思うけど。 後で解析しておくわ」


『なあ、やっぱり遠距離の攻撃があった方が良くないか? 魔獣を目の前にするのは、お嬢だって怖いだろ?』

「yes、恐らくきっと多分、泣くMaybe(メイビー)

 強がりを言いました。目の前に魔獣がいたら絶対泣くね、完璧にガチ泣きよ。

「それなら、さっきの還元する能力、飛ばせるわよ?――えっと……どの方向なら大丈夫かしら?……あっち?」

 ミーヤちゃんはマナの樹さんに話しかけ、試せる方向を聞いているみたい。

「じゃあ、よ~く見ておいてね」

 光の玉が現れ、音もなく前方の木に飛ぶ。

 きらきら光りながら一直線に進み、射線上にあった木の幹へ――すっと吸い込まれるように接触する。

 爆音も火花も無く、幹の中心に光の玉と同じ大きさの穴がぽっかりと空いていた。

『おいおい……、当たった部分がマナに還元されちまうのか。 えぐいな』

「どお? 触れてないから還元したマナを直接吸収する事は出来ないけど、これなら遠距離の攻撃もバッチリでしょ?」

「すごい!わたしもやる!」


 ミーヤちゃんの光の玉を参考に――そういえば頭から出てたな……。

 某ロボットのビームを思い浮かべてみる。

 ――いける ‼

「ヴァスタ~~ビィーム!」

   「ちょっと待って!」

「エッ⁉」

 言われた瞬間にはもう遅かった。

 メジェドフェイスの少し前から、金色の光線が暴発!

 光線が木に直撃すると瞬時にマナへ還元され、バチバチと弾けながら粒子が後方に飛び散る。さらに、その弾けた粒子にも還元効果があり、連鎖的に森の木々を崩していった。

「やっちゃった……。こいつは……強力すぎる……!」

『どひゃーッ!お嬢、二キロ先まで更地になってるぞ!』

 想像を超えた威力に、目を見開くしかなかった。

『さすがお嬢、火力は百点満点だったぞ!』

 テンちゃんが頭を撫でて褒めてくれるけど。今は罪悪感が……。

『そういや、地面はあんまり還元されないんだな』

「地面は私がカバーしたわ、下手したら奈落の底よ。もう……気を付けてよね」

 ミーヤちゃんは額に手をやり、ちょっと呆れた表情でそう言った。

「う、うん……ごめんなさい」

「まぁいいわ、マナの樹達にも被害が無かったし、テンちゃんの言う通り火力は百点満点よ」

「いいんだ……こんなにしちゃったのに」

「反省しているでしょ?」

「はい……」

「じゃあ次は火力調整の練習をしましょう。この能力は体内のマナを飛ばしているから、常に全開じゃすぐ体内のマナが尽きてしまうわ」

「もし、体内のマナが尽きたら?」

「その時は、体をマナへ還元しながら飛ばすことになるわね」

 ミーヤちゃん、しれっと怖いことを言うなぁ。

「火力調整ガンバリマス!」


『なぁ、さっきのビームでマナ濃度がグッと上がったから魔獣が寄って来るんじゃないか?』

「その時はメイジェちゃんの練習相手になってもらいましょう。でも流石に来ないんじゃないかしら、この濃さなら近寄る前に破裂すると思うわ」

「そんなに濃くなって大丈夫なの?」

「大丈夫よ、メイジェちゃんのもとに、勝手に集まって吸収されるから。うーんこの分だと……だいたい二時間位ここに居れば粗方吸収できるんじゃないかしら?」

 なんだか空気清浄機みたいだ。

「今度はもっと上向きに、空に向かって撃ってちょうだい」

 何もない場所に撃つの、ちょっともったいないかも。

『風船とか、空飛ぶなんか良い(まと)ないのか?』

「あっ……ちょっと待って、いま丁度いい的が手に入ったわ」

 そんな都合よく空飛ぶ的なんか手に入る?

 ミーヤちゃん何処からか“プロポ”を取り出した。プロポはラジコン用のコントローラーのことね。

 しばらく待っていると、空に飛行物体が現れた。

「来たわよ、あれを的にしましょう」

「うわぁ!UFOだ!」

『XF5Uみたいな形してるな……ミーヤが操縦しているってことは……ドローンか?』

「ドローン! わたしもやりたい! どこから持ってきたの?」

「森の上をフラフラ飛んでたから拝借したわ、まだ結構たくさん飛んでるわよ」

『ちょっと待て!明らかに人工物だよなアレ。この世界文明レベルはどうなってる? 街の様子から俺はてっきり“剣と魔法の中世ヨーロッパ風のファンタジー世界”だと思ってたぞ⁉』

 わたしもそうだと思ってた。

「この星の中は、剣と魔法の中世ヨーロッパ風のファンタジー世界から、大きく外れていないわよ?」

「この星の中は?それってどういう事?」

「宇宙人よ」

 ミーヤちゃんがわたしの耳元でそっと囁く――

「『宇宙人⁉』」

「つまり、この星を裏で支配しているのは宇宙人だったのよ‼」

「『な、なんだってー!!』」

『それは本当かミーヤ!』

「ええ。この星全体のマナが異常に濃いのも、あいつらの仕業なんだから! しかも! この星の人々は、宇宙人たちが意図的に造った“剣と魔法の中世ヨーロッパ風のファンタジー世界”で生きる事を……強いられているのよッ!(集中線)」

「つまり悪い宇宙人ってことだね!」


 ――敵だ。そう意識した途端、胸の奥が浮き立つ。殴ってもいい相手がいる、そう思うと不思議と愉快な気分になるのだ。

『お嬢……?』

「メジェド、ダメよ。あいつらは星をも破壊する力を持っているみたいだし。貴方はあくまで、この星――マナの管理と守護を最優先して」

 ミーヤちゃんに真名を呼ばれた瞬間、わたしの気持ちはすっと凪いだ。どうしてあんなに昂ぶっていたのか、急に恥ずかしくなる。

「壊していいのはあの的だけよ。せっかく用意したんだから、しっかり練習して全部ぶッ壊すのよ」

「はーい!」

『…………』


 何度か撃つうちに、少しずつコツを掴んできた。

 光線の太さを絞れば、まるで糸みたいに細くして翼だけを削ぎ落とすこともできる。

 逆に力を込めれば、一撃でドローンを消し飛ばすような破壊力だ。

 狙った場所に光を通すのが楽しくて、気が付けば夢中になっていた。

「やった!今の完璧!」

『さすがお嬢、俺より天才だ!』

「ふふ、最初の大惨事からすれば、ずいぶん成長したじゃない」

 ミーヤちゃんが小さく拍手してくれる。


『……お嬢。そろそろ昼にしないか?』

 テンちゃんの声で、わたしはハッとした。

 そうだ、気づけばもうお腹がぺこぺこだ。

「そうね、的も全部壊してしまったし、時間も良い頃合いね。鏡の中に戻ってお昼にしましょう」

「やったー!テンちゃんお昼ご飯なぁに?」

「今日のお昼は特製サンドイッチだ!」

「たのしみー!」

 両手を高く掲げて歓声を上げ、鏡の中へ。


 ――その時はまだ“ドローン”とミーヤちゃんがゲップで撃退した上空の“何か”。

 その二つの関係性に、わたしとテンちゃんはまだ気づいていなかった。

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