新しい朝
――やわらかな、金色の霧の中にいた。
重たかったはずの体は、ふわりと浮かび、怒りや絶望で満ちていた心も今はすっかり凪いでいる。
まどろむように漂うわたしの前に、美しく、圧倒的に大きな“何か”が立っていた。
その“何か”は人の輪郭を持ちながら、その存在は人の理から外れている。
ただ近くに在るだけで胸が熱くなり、涙が込み上げ、思わず拝まずにはいられない――まさに“神”としか言いようのない威光だった。
「……ミーヤ、様?……なの?」
記憶にあるジャージ姿のミーヤ神とは似ても似つかない、神々しい姿に思わず声をかける。
“何か”は静かに頷いた。
「そう。この姿こそ、私の“本当の”姿よ。ここは私が創った夢の世界。あなたに直接、話をしに来たの」
ミーヤ神はわたしの目をじっと見据え、言葉を紡いだ。
「あの時、説明不足のまま送り出してしまって……ごめんなさい」
ふわりと頭を下げられ、言葉に詰まる。
神様が、わたしに謝っている――その事実が信じられなかった。
「もしかして、わたし……死んだの?」
「大丈夫。ちゃんと生きているわ。あなたは、この星が待っていた子だから」
「でも、あんなに……怖くて……痛くて……!」
声が震える。石にされ、見世物にされ、バラバラにされ、それでも生きていた。そんな記憶が、夢の世界へ滲み出す。
「ほんとうに、ごめんなさい」
ミーヤ神は、それ以上の言葉を紡がなかった。
だが、その沈黙が、胸の奥で固まっていた何かをゆっくりと溶かしていく。
そして、目線を合わせ、そっと両手を差し出す。
「だから、もう一度……やりなおさせて? あの時できなかった分、あなたのそばにいる。ちゃんと教える。ちゃんと見てる」
差し出された手を握ると、その手は温かく、柔らかかった。
「ありがとう、これからは私もあなたを守るわ」
ミーヤ神がそっとわたしを抱きしめる。
その胸に顔を埋めると、母に抱かれた子どものように、心の奥底まで安らぎが沁みていく。
もう大丈夫――そう思えた瞬間、堰を切ったように涙が溢れた。
救われた――そんな気がした。
「――さあ。起きて、あなたの半纏が待ってるわ――」
――世界が、暗転する。
パチッと目を開ける。
頬を包むのはふわふわの枕、体には柔らかな毛布。
ゆっくりと視線を上げると、繊細な透かし模様のレースでできた天蓋が、風に揺れていた。
――ここは知らない場所だ。
『おはよう、お嬢』
頭の中に、低く優しい声が響いた。
声の方を見ると、蘇芳色の半纏がふわふわと浮かび、わたしの様子を覗っていた。
「今の声、もしかして半纏の声?」
『そうさ、やっと声が届いた。ずっと話したかったんだ』
枕元に座り、わたしの頬をそっと撫でてくれる。
半纏はずっとジェスチャーで頑張ってくれたけど、どこか伝わらない悲しさがあった。
でも、これからは――嬉しくて涙が溢れ、顔はにやけてしまう。
「おはよう……半纏。これから、いっぱいおしゃべりしようね」
半纏を抱きしめると、心地よい日差しの香りが包み込む。
その袖が優しく抱き返し、頭を撫でてくれた。
半纏に顔を埋め、ゆっくり深呼吸する。
言葉で通じ合えることが、こんなにも温かいなんて。
半纏もそっと背中をぽんぽんと撫でる。
まるで「大丈夫」と語るように。
――と、その時。
視線を感じて部屋の入口へ目をやると――そこにいた。
ニチャリと笑う球体関節人形。
扉を少し開け、その隙間からじっとこちらを見つめている。
六十センチほどのサイズ。
少々くせ毛でボリュームのあるロングヘア。
服の代わりに黒のフリルリボンを体に巻きつけた、なんだかちょっと変な装い。
透き通るような瞳が、扉の隙間から真っ直ぐにこちらを凝視していた。
「ミーヤちゃん……人形?」
静かな室内に、湿った鼻息のような音が漏れる。
「私の使徒ちゃんとイケボ半纏が……ハァハァ」
中に入りたいらしいが、じっと我慢しているようだ。
『おっ、なんだ来てるなら早く入って来いよ。お嬢に謝るんだろ?』
「え゛⁉ ……でも、今入ったらお邪魔だし……うーん……」
ぶつぶつ言いながら、観念して扉を開けた。
おそるおそる入ってきたが、途中から一気に駆け寄って――
ベッドの上にダイビング土下座!
わたしの顔を見上げ、上目遣いで――
「ごめ~んチャイ♡」
『まったく……、素直じゃないなぁ』
「ふふふっ、もうミーヤ様には夢の中で謝ってもらったから大丈夫だよ」
そう言うと、ミーヤちゃん人形は口を尖らせ考え込む。
「ねえねえ、これからずっと一緒にいるんだから、『ミーヤ様』って堅苦しいでしょ? だから――『ミーヤ』でいいわ。『お姉ちゃん』でも大歓迎よ♡」
“ずっと一緒”という言葉に、心がふわっとあたたかくなる。
これからの毎日が、色づいていくようなそんな気持ちが胸に広がる。
『じゃあ、俺は「ミーヤ」って呼ぶよ。お嬢も楽だろ?』
「ん⁉ う、うーん、でも……なんかやっぱり『ミーヤちゃん』って言いたくなっちゃうんだよね」
「ふふっ、まあいいわ。特別に“ちゃん”付きも許可してあげる、たまには『ミーヤお姉ちゃん♡』って呼んでくれてもいいのよ?」
ミーヤちゃんは得意げに胸を張った。
「あっ、ハイ」
「…………で、そっちは?名前とかあるの?五十年もこっちに居たんだし、呼び名の一つや二つあったでしょ?」
呼び名かぁ、確かミルクレインの街では――。
「わたしは街の人たちから『チンビン様』って呼ばれてたよ?」
『…………』
「ファッ⁉」
「……?」
なんだろう。半纏もミーヤちゃんも、黙り込んでしまった。
親しみやすい愛称だと思ってたんだけど……。
『あっ、あーアレだ。教会の奴らがお嬢や俺に名前を付けるのを禁止してたんだ。だから好き勝手、変な名前で呼んでたんだよ。ハハッ……』
「あっ、ああぁ、そうなの……。じゃ、じゃあ、特別に私が考えてあげるわ。特別よ!」
「えッ‼ すごい!神様に名前を付けてもらえるなんて!」
「その代わり、半纏の名前は貴方が考えてあげてね?」
わたしの半纏なんだから、カッコいい名前をつけてあげなきゃ。
「わかった、じゃあ、つける!今ここで!どんな名前がいいかな~」
『いやいや、急に決めなくても……ほら、呼びやすいのが一番だから』
二人とも、なんとなく保留の空気になり、話はふわっと落ち着いた。
ひと段落ついたところで、気になっていたことを聞いてみる。
「ところでここって……どこなの?」
確か森の中にいたはず。なのに、こんな広いベッドルームがある建物なんて――
「鏡の中よ」
ミーヤちゃんは胸を張り、ふわっと宙に浮いて答えた。
「ん?」
『俺の収納に入ってただろ? あれだよ、あれ。まさか鏡の中に安全な拠点があるとは思わなかったけどな』
……鏡の中に入れるってこと?
目を瞬かせるわたしに、ミーヤちゃんはにこっと微笑み、宙に浮いたままくるんと一回転して言った。
「ほら、この星のいろんな場所に行ってもらうから、移動できる拠点が必要でしょ?」
「……なんで鏡なの?」
問い返すと、得意げにニヤッと笑い人差し指を立てた。
「出発前に身だしなみチェックができるでしょ。身だしなみは大事よ」
神様レベルになると鏡の中に拠点を作るくらい簡単なことらしい。
「…………、あ〜なるほどね……。そういえばわたし、どれ位眠っていたの?」
『えっと……確か、五日ぐらいだったかな』
そんな話をしているうちに、自分の髪がさらさらと肩から胸元に流れていることに気づく。
血と泥でカピカピに汚れていたはずなのに、体も髪も驚くほど綺麗になっていた。
そんなことより今!今気になるのは――
「……あっ」
髪の毛がちょんちょんと胸の先端を撫でるたび、そこからぽたぽたと滴る白い半透明な雫。
まさかの母乳!
石像の時、ご婦人方が執拗に胸を弄って何かが出たと言っていたが、ほんとに出た!
――こ、これまずい!
「ミーヤちゃん、服、服をください!」
「ノンノンノンッ!」
ミーヤちゃんチッチッチっと指をふる。
「どうして⁉」
「天使は全裸がユニフォームです!全裸が正装です!」
ミーヤちゃん……。
「ってミーヤちゃん、使徒と天使は別物だよね?」
『お嬢、服を着るのか?俺以外の服を……』
半纏はしょんぼりとベッドに沈み込む。
「いや、ちが……っ!ほら、これ!せめて下着だけでもいいからっ!」
『あっ…(察し)』
髪をかき分け現状を見せると、ミーヤちゃんの顔が引きつる。
「……なにそれ……えっ、えっ、なにそれ……」
両手で口元を押さえ、震える声で詰め寄ってくる。
「ちょっと待って、妊娠⁉お相手はだれ?絶対許さん‼この星ぶっ壊す‼」
『待て待て待て!落ち着け!相手なんかいないから!』
「じゃあ、なに……神の子……ってこと⁉」
「違うの!妊娠じゃないの!石像だったときになんか変な風に弄られて、出るようになっただけだから!」
「えぇ…(困惑)」
しばらくミーヤちゃんはすんごい顔で絶句していたが、なんとか誤解は解けたようで、ぶつぶつ呟きながらクローゼットを漁り出した。
「……とりあえず、まずは下着!かわいいのじゃないとダメよ!」
そう言ってミーヤちゃんが差し出したのは、新緑の森を思わせるオパールグリーンのブラレットと、お揃いのデザインのショーツだった。
ブラレットは全体にフリルがあしらわれ、まるで雲のようにふんわりと柔らかく、肋骨のあたりまで優しく包み込む繊細なレースが可愛らしい。
ショーツは前面が柔らかく伸縮性のある素材で作られており、ブラレットと揃った色合いとデザインは、手に取るだけで気分が明るくなるような可愛らしさだった。
「かっ、かわいい~♡」
「ほらほら半纏、女の子の着替えをマジマジと眺める趣味でもあるの?先にダイニングに行って朝ご飯の用意でもしてなさい。料理は得意なんだし」
『おっ、おう、そうだな。……お前こそお嬢に変な事すんなよ?』
グキッ‼ っとミーヤちゃんがしたような気がしたが、シッシっと手を振って半纏を追い出そうとする。
「ねぇねぇ、半纏ってお料理できるの?すごい!天才じゃん!」
『まあ、ある程度はな、手の込んだ料理は流石に作れないぞ?』
「そうかしら?けっこういい線行ってると思うわよ?」
「いいこと思いついた!」
わたしはここぞとばかりにフィンガースナップを繰り出すが、乾いた音ひとつ鳴らず不発に終わる。
「天才だから、半纏は今から“テン”ちゃんね!」
「……半纏だから“テン”じゃなくて、天才だから“テン”なのね……」
『……テン……テン!……いい!いいじゃないか! お嬢、今から俺はテンだ!ありがとう!』
「わっ、きゃははっ!」
テンちゃんは、わたしを抱き上げベッドの上でクルクルと回り喜びを表現する。
「んふふ、気に入ってくれた?これからもよろしくね、テンちゃん」
喜びを分かち合ったあと、袖を軽くはためかせてテンはふわりと浮き上がり上機嫌で部屋を出ていく。
パタンと扉が閉まる音の後も、ダイニングへ向かう途中のテンちゃんの鼻歌が廊下から漏れていた。
テンちゃんの鼻歌が遠ざかっていくと、ミーヤちゃんの眼の色が変わる……。
「フフフッ、行ったわね……」
「ミーヤちゃん、すんごい低い声、出てるよ?」
「あのですね、ワタクシ神として、貴方の母乳の調査をしないといけませんの。そのお乳を一口飲ませてくださる?」
「はぁ?」
いきなり“エセお嬢様言葉”で話し始めたと思えばとんでもないことを言い出しやがった。
「オホホホ、いやですわよ。誤解なさらないで。あくまで調査ですわ。その“お楽しみお乳”に危険がないか、ワタクシがこの身をもって調査して差し上げますの」
“お楽しみお乳”って、心の声ガバガバのガバナンスですわよ?
わたしは一歩、後ずさった。
ミーヤちゃんは口元に手を当て、目まで妖しく細めてくる。
「ちょ、やめてミーヤちゃん、神様としてそれどうなの⁉ ねえ⁉」
「神だからこそ! 神としての責務ゆえの犠牲なのですわぁ!! さあ、恥ずかしがらずに……その聖なるお乳を……!」
ミーヤちゃんがすんごいパワーでわたしをベッドに押し倒し、とうとう、わたしの乳首に――
「あッ……」
ちゅう――
「…………っ?あれっ?」
一吸いしたミーヤちゃんがピタリと動かなくなった。
「もしかして! 危ない成分入ってた⁉ でもご婦人たち、顔面に塗りたくってたけど……」
慌ててミーヤちゃんの口元を引きはがし、顔を覗き込む。
「ミーヤちゃん⁉ミーヤちゃん‼」
呼びかけると、ビクンっと跳ねあがり、白目を剥きながらブツブツと何やら呟いている。
「……糖分高め、マナ濃度、高。浸透圧、並。内分泌系への干渉は……今のところナシ。味は意識を飛ばすほど甘美……」
「えっ!?」
真面目に調査してる⁉
「はっ!つい分析モードに入ってしまったわ。これは貴重なデータよ。未知なる液体“ミルキィドロップ”のサンプルだもの。ちなみに“ミルキィドロップ”っていうのは、今、私が名付けたのよ」
そう言ってバチ☆コンとウィンクを飛ばし得意げだ。
「母乳の呼び名より、わたしの名前をお願いしますぅ!」
「えっ、あっ。そ、そうね!」
どうしたんだろうミーヤちゃんは頬を赤らめながら、わたしの胸を名残惜しそうにチラチラ見てくる。
「ああっ……ちょっと……、だけ、また……ひとく……ち」
虚ろな瞳で手を伸ばし何やら呟いた。
「……?どうしたの?具合悪くなっちゃった?」
ぴたり。
「――ってダメダメダメ! 冷静になりなさい‼」
両手で自分のほっぺたをぺちぺち叩きながら、ミーヤちゃんは後退していった。
「さッ、さあ!調査も済んだし、お着替えの続きよ!」
そう言うと、先ほど差し出した下着をわたしにグイグイ押し付ける。
「わかったよ、似合わなくても笑わないでね?」
ミーヤちゃんにガン見されながら、下着を身に着けていく。
「そんなにじっくり見ないで、恥ずかしいよ。ミーヤちゃんは女の子の着替えをマジマジと眺める趣味があるの?」
「Yes! Yes! Yes! Yes!」
「……Oh my god。」
この神、もしかして邪神の類なのでは?
……でも、可愛い下着を身に着けるうちに、そんな呆れもどこかへ消えてしまった。
柔らかなブラレットが胸を雲のように包み込み、ショーツは伸縮性のある生地が、わたしの立派な下腹部をやさしく収めてくれる。
鏡に映る姿は、まるで可憐な妖精のようで、思わず頬が熱くなった。
「……ねぇ、これ、かわいすぎない?」
呟いた瞬間、ミーヤちゃんが嬉しそうに笑って「でしょ?」と返してきた。
「でも、この上から服を着たら見えなくなっちゃうから、もっと地味な下着でも……」
「ノンノン、見えないからこそいいのよ。かわいい下着は自分だけの秘密の宝物。身につけるとね、胸の奥からぽっと火が灯るみたいにやる気が湧くの。戦う時の鎧みたいに、“かわいい”に相応しい自分でいたくなるのよ」
そう言いながら、クローゼットから白いモコモコの服を差し出す。
「……そっか、秘密の宝物か」
胸の奥がほんのり温かくなるのを感じながら、わたしは差し出された服を手に取った。
「……え?」
受け取った服は白・赤・黄色が混ざったふわふわの生地でできている。広げてみると、立派なくちばしとトサカのついたフード付いた、雄鶏の着ぐるみパジャマだった。
「ど、どうしてこれ!?」
「鶏は神の使いと言われてるのよ? しかも雄鶏は“魔除け”の意味もあるのよ。私のかわいい使徒ちゃんに悪い虫がつかないように、このデザインにしたの。ね、かわいいでしょ?」
ドヤ顔で説明するミーヤちゃん。
「かわいいけど……、下着との温度差すごくない?」
わたしは呆然と、雄鶏の顔と目を合わせる。
――かわいい下着の上に、これを着るのか。
脳裏に浮かんだ残念な姿に、思わず視線を逸らした。
そんな時、部屋のドアをノックする音。
『お~い、ご飯冷めちまうぞぉ?』
テンちゃんの声だ。
「さあさあ、着た着た」
ミーヤちゃんに促され、渋々と雄鶏の着ぐるみパジャマに袖を通す。
フリース特有のふわふわした感触が心地よく、思わずそのまま抱きしめたくなるほどの柔らかさだ。ずっと触れていたくなる感触に、自然と肩の力が抜けていく。
そうだ、長すぎる髪も服の中に入れてしまおう。
「靴下と……靴はこれね、丈夫だし履きやすいわよ」
厚手のリブソックスに、艶のあるオイルレザーのチェルシーブーツ。
差し出されたそれを履いてみると、まるで最初からわたしの足のために作られていたみたいに、ぴたりと馴染んだ。
服以外はまともなんだよなぁ……。
「ほんじゃあ、行きましょうか」
ミーヤちゃんがドアを開けると、外でテンちゃんが腕を組んで待っていた。
『お嬢……、可憐だ……』
その声がやけに真剣で、思わず頬が熱くなる。
「え?そっ、そお?……ありがとテンちゃん」
テンちゃんは変にまっすぐなところがあるから反応に困る。
「ほらね、わたしのコーディネートに狂いはないんだから」
ミーヤちゃんが胸を張る。いや、ミーヤちゃん自身のコーディネートは狂ってるように見えるけど……
『服の代わりに黒のリボンを体に巻いた人形の口から出る言葉とは到底思えないな』
テンちゃんの冷静なツッコミが突き刺さる。あ、やっぱりそう思うよね?
ずっと喉まで来てた疑問をこの際聞いてみることにした。
「えっと……、ミーヤちゃん」
「何かしら?」
「その恰好、“H〇T LIMIT”?」
ミーヤちゃんの顔が一瞬で真っ赤になる。
「ちッ、ちがわい////」
『ぶはっ、俺も同じこと言ったな』
テンちゃんがゲラゲラと笑う。
「朝ご飯の後でいいから、着替えるの手伝ってくれない?リボンがほどけないのよ」
「わかった。 そうだ、ミーヤちゃんお洋服、ありがとう」
「ふふ……似合っているわよ。とっても。これから、たくさんおしゃれしましょうね」
優しく響いたその声は、夢の中で聞いたミーヤ神の声色と同じだった。
嬉しそうにがに股で小躍りするミーヤちゃんの後ろ姿に、思わず微笑みがこぼれ、胸の奥がふんわりと温まる。
わたしはテンちゃん、ミーヤちゃんと手を繋ぎ、軽い足取りで寝室を出た――。




