表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/23

奇蹟のカーニバル 開幕だ!


 テンちゃんを肩で羽織り、干乾びた髭ダンディを右手に掴んで、都市に迫るワームの群れを追った。

 砂漠の地平線の向こうからも、黒い波のように砂煙が立ち上がっている。

 他にもたくさんの群れがいるみたい。

 しかも一つや二つじゃない。


 先団はすでに都市の外縁へ到達していた。


 人々はパニック状態に陥り、悲鳴と轟音が重なり合う。

『急ぐぞ!』

「うん!」

 わたしはメジェドモードへ切り替え、速度をさらに上げ 低空飛行で突入した。


「……様子がおかしい?」

 近付くにつれ異様な雰囲気に気が付く。

 逃げ惑う人々は、祭りの見物客なんかじゃない。

 鎧を着込み、剣や槍、銃剣の付いた長銃を握っている。

 ……お祭りに参加するには、あまりにも物騒すぎた。

 

「お祭りじゃ無かったの⁉」

〈え? 血祭だよ♪〉

『都市を包囲してたみたいだな。都市の中のヤツが起死回生を狙ってワームを呼んだのか?』


 戦争だ……。

 介入していいの?

 ワームを倒せば都市の人々から恨まれる。

 でも、見逃せば――きっと罪の意識に取り付かれる。


「どうしよう……助けた方が良いのかな?」

〈好きにしたらいいよ。アンタには力がある。力無き者は大きな波に呑まれるだけ。結果を受け入れる事しかできない。……なんだったら、この戦いを止める力だってアンタにはある〉

『お嬢はどうしたい?』

 視線の先には、鎧を着た兵だけじゃない。

 荷車を引く者、担架を担ぐ者など。非戦闘従軍者の姿も混ざっていた。


「助けよう!」

『決まりだ。なに、最後はミーヤにぶん投げればいいんだよ』

〈そうそう〉

「よぉーし、テンちゃん!」

『よし来た!』

 わたしは大きく跳び上がり、照明弾のすぐ横へ飛び込んだ。


 ――髭ダンディを魔法で横に置いてっと♪

「ムーンなんちゃらパワー(うろ覚え)ドレスアップ!」

 空中でメジェドモードを解除し、テンちゃんをパージ!

 文字通り、スッポンポンだ。

 テンちゃんが布の身体を翻し、上から覆い被さってくる。

 袖に腕が通り、前紐が蝶々結びになり――勝手に整っていく。

「~♪」

 しかし、その途中。

 ――あっ?

 髭ダンディが、すっぽ抜けた。

「落としちゃった……」


 ――変身バンク中、拾いに行くのも恥ずかしいし……。

 いや、便利な盾が無くなるとあとで絶対困る。


 わたしは半ばヤケになりながら、腕を上に掲げてクルクルと回転した。

 もちろん下からは逆光で見えない……はず。たぶん。


 テンちゃんを羽織り終え、再びメジェドモードに戻る。


 そして――ビシッと決めポーズ。

「月に替わってぇ~」

『お仕置きよ♡』


〈袖に腕を通しただけじゃんw でも、なんで合体を? 二人別々で殴った方がよくない?〉

『俺の火力だと、あのデカ物には威力不足だ。エルフ産のミサイルもあるが、威力が未知数だしな。二次被害が心配だ』

「わたしのビームなら倒せると思うけど、砂の中にいると見つけられないの」

『そこで俺が火器管制システムの代わりを担うわけだ』

〈……なるほど?〉


 わたしは落とした髭ダンディを拾いに降りた。

 その瞬間――足元の砂が、もこりと盛り上がる。


『真下だ! 来るぞ!』

「……っ!」

 放った光が地面を貫き、砂の下の巨大な肉塊が泡立つように崩れた。

 ワームの体が形を失い、金色の粒子となって宙に舞う。

 マナへ還元されたソレが、わたしの元へ吸い寄せられてくる。


 ――あ~んもぉッ、このまま続けたら……おちんちん生えちゃう~。

 せっかく調整したのに……でも、この状況で出し惜しみは良くないよね?


 半ば諦めて、ワーム達を見据える。

 ワーム達は、人々を襲っているというより――笛の音に吸い寄せられている。

 進む先に障害物があって、それを蹴散らしているだけ。そんな感じだ。

「向かう先に笛を吹いてる人がいるんだ!行こう!」

『応!』

〈お仕置きよぉ~〉


 射線が通りやすいように地上30メートル程の高さを飛ぶ。

 都市の防壁までは、まだ5キロほどある、ワームを倒しながら急ぎ向かう。

『11時方向! 距離二〇〇!』

 “Zing(ズィン)! ”

 テンちゃんが目標に向かって“ちくわ弾”を放つ。

 金色の曳光が、砂漠の空を裂いた。

 その軌跡を頼りに、わたしは瞳の模様の倍率を上げる。

「見えた!」

 テンちゃんの補助で、砂の下のワームの位置がなんとか分かる。

『ヒトが近い! お嬢、還元した粒子に気を付けな』

 還元したマナが飛び散れば、近くの人を穴だらけにしかねない。


 ――調整しやすいように出力を落として……。

「まかして! パワー 89 ! ビィーム!」

 還元光が地面を穿ち、砂ごと巨大な物体が崩れていく。

 近くのヒトも無事だ。

「どんなもんじゃい♪」

『上手いぞお嬢!』

 だが――砂の中で巨大なワームが消滅したことで、地面は深さ10メートルほどの蟻地獄みたいになり、周囲の人々が足を取られて巻き込まれた。

「ああぁ~……まあ、食われるよりはマシ! ヨシっ!」

『おっ、そうだな♪』

〈いいねぇ。でも……合体しなくても良かったんじゃない?〉

「『…………』」

 わたしは飛びながら、還元の光を撃ち続けた。

 砂が爆ぜ、地形が崩れ、人々をから悲鳴が上がる。


 ……許して。

 今は止められない。


〈ワタシも撃ちたぁ~い♪〉

「『え?』」

 突然わたしの意思とは関係なく、一筋の還元ビームが微かに明るくなり始めた西の空へ放たれる。

 都市の上を通り過ぎ、大きな弧を描き何かに当たった。

 ――メジェドちゃんビームの制御じょうず、わたしだって直線的な変化しか出来ないのに……

「って! ちょっと、ちょっとぉ⁉ お客様ぁ困りますぅ~!」

〈いやぁ~、あっちで大きな船が墜ちそうでさぁ~〉

 ――お船って……ここ砂漠よ?

〈嘘じゃないってぇ。それに誰も死んでないよ? たぶん〉

「“たぶん”って…………それならヨシ!」

『おっ、そうだな♪』


 その時。

 都市が白い煙に包まれた。


 直後――爆音。

 煙の中、都市の西側から、一〇〇騎にも満たない騎兵隊が飛び出してくる。

 どうやら防壁を爆破してそこから出てきたみたい。

 騎兵隊が跨っているのは馬じゃなくて鳥だ……ダチョウみたいな。

 そして同時に都市内からも砲撃が始まる。

「いま撃ったら、騎兵に当たっちゃうよ⁉」

 山なりの弾道が、騎兵の進むすぐ前に着弾する。

『……クリーピング・バラージだ』

 テンちゃんが低い声でつぶやく。

 巨大な白い鳥にまたがった兵たちが、砲撃の着弾と同時に前進する。

 着弾地点が道しるべとなり、その後を騎兵隊が突撃していった。

 

 着弾地点が一歩ずつ前へ移動し、その爆炎の“壁”のすぐ後ろを、騎兵隊が突き進む。

 前進速度が早すぎれば味方の砲撃で焼かれる。

 遅れれば敵の銃火に晒される。

「ひえぇ……ヒヤヒヤする」

 ……正気じゃない。


 だがその無茶の先に、ひときわ大きな陣地が見えた。

 旗が林立し、司令部らしき天幕が連なる。


 狙いは、あそこだ。


 相手も気が付いたらしい。

 赤い信号弾が続けざまに上がる。

 怒号が飛び交い、体勢を立て直し、少ないながら反撃を開始した。


 銃撃。砲撃。魔術の光。


 突撃する騎兵隊が、次々と落ちていく。

 白い鳥が悲鳴を上げ、砂に転がり、踏み潰される。

 それでも突撃は止まらない。

 命を燃やしながら本陣に向けて一気に駆けて征く。

 

 わたしは目を凝らす。

 突撃陣の中央。

 重装の騎兵たちに守られながら、細身のランスを掲げる一騎がいた。

 ランスの穂先には、小さな戦旗が翻っている。


 ――笛の音。

 あれは、あの一騎から放たれている。

「見えた! あの人!」

『アレか!』

「小さい……女の子?」

 少年かもしれない。

 けれど、わたしの目には女の子に見えた。


 小さな身体。

 誰かの装備を借りてきたのだろうか。胴鎧とチェーンメイルは明らかにサイズが合っていない。

 羽飾りの付いたフルフェイスの兜も、かろうじて頭の上に乗っている。

 そしてやはりサイズの問題だろう。

 腕や脚には、装備が付いていない。



 その時――頭の奥が、ぎゅっと掴まれる感覚。


 ――殺せ。


 冷たい声。

「シュウちゃん?」


 ――あの娘が元凶だ。コロセ。


「……え? 嫌だけど……」

『なんだぁ? お嬢に何させるつもりだこの野郎⁉』

 いきなり来て何なのさ?

〈まったく、シュウちゃんは極端だねw でもねぇ、ワタシは知ってるよ。あの娘に笛を渡したの、アンタだろ?〉

「『ホンマぁ?』」

 わたしとテンちゃんの声が重なった。

 メジェドちゃん、いつの間にそんな情報を?


 ――ッ‼ だ、黙れ!


 怒りと焦りが、脳内を殴りつけてくる。

〈えッw マジッ? アンタもミーヤも、わかりやすすぎるわw〉

『カマかけかよ』

 テンちゃんが呆れた声を出す。

 メジェドちゃん、カマかけ上手すぎる。


「うわぁん、サイテー。シュウちゃんの事なんて知らない」

 嘘つきシュウちゃんの事は無視だ。

 今は、目の前の事に集中しなきゃ。


 騎兵たちが突撃体勢を取る。

 ランスをランスレストに載せ、身を低く沈めた。


 撃ち減らされ、残りは二〇騎ほど。

 しかし、その前方には――

 パイクウォール。

 突撃を受け止めるため、パイク兵が密集している。

 その隙間からは銃兵が顔を覗かせ、容赦なく射撃を浴びせていた。


 なのに騎兵たちは、回避も……減速も……しない。


『死ぬ気か⁉』

 今ここで笛の音が止まれば、ワームたちがどう動くか読めない。

 ――なんとかしなきゃ!

「これしか!これしかなぁ~い!」

 とっさに、わたしは持っていた髭ダンディを投げた。


 髭ダンディが夜明けの空を飛ぶ。

 重装騎兵の間をすり抜け、狙い通り――あの小柄な騎手へ直撃した。


 不意打ちを受けた少女は、ぐらりとよろける。

 速度が落ちた。


 ……けど。


 減速した彼女たちに、容赦のない銃撃が叩き込まれる。

「――っ!」

 胴鎧に穴が開き、血が滴り落ちた。

 少女は落馬し、髭ダンディと折り重なるように倒れ込む。

 兜が転がって外れ、褐色の肌とピンク色の髪が露わになった。

 笛の音が、一瞬揺ぐ。


 ――まずい。


 このままでは兵たちが取り囲み、止めを刺す。

 笛を咥えていないところを見ると、口で吹く笛ではない。

 けれど彼女が死ねば、音は止まる。

 

「テンちゃん、アレを使うわ」

『ええ、よくってよ』


「スーパー!」

『プラズマ!』

「『キィーック‼』」

 少女の元へ急降下!


 わたしの足が火花を散らし、砂を爆ぜさせる。

 衝撃波と共に飛び込み――スーパーヒーロー着地!

 

 そして――


〈双方、矛を収めよ!〉

 わたしの声が魔法によって拡張され、戦場に響き渡った。

「(ちょっとぉ⁉ 何を勝手に言ってんのメジェドちゃん⁉ あれ? 声も出ないし、体の制御まで奪われたんだけどぉ⁉)」


〈我はミーヤ神が使徒、メイジェ! 天罰の地上代行者なり!〉 

 視界に映る兵が、一斉にこちらを向く。

 ワームたちですら、動きを止めた。


〈すでに勝敗は決した。これ以上の流血を望むなら――この干乾びた男のように、塵となるまで地獄の苦しみを味わわせてやろう〉


 少女の血を浴びた髭ダンディを、重力魔法で摘まみ上げる。

 周囲に見せつけると、ざわめきが広がった。


「(ひえぇ~w)」

『うわっ、うわぁぁ~w』

 あまりに中二感のあるセリフ回しに、わたしの心が若干折れかける。

 

 パキッ……パキパキッ!

「(何の音? わたしの心が折れる音じゃないよね?)」

 枯れ木が折れるような、不気味な音。

『この音……髭ダンディだ!』


 干乾びて、しおれていた髭ダンディが――

 パキパキと音を立てながら、動き出した。


「オォォッ……オっ! オオオン♡」

 呻き声。

 蠢く肉。


「死神だ!」

「死霊使いだ!」

「邪神!」

「悪魔め!」

 兵たちが わたしに武器を向ける。


〈アハハハハッ! 我に逆らうつもりか! ならばよい。奇蹟のカーニバル 開幕だ!〉

 両手の中指を突き立て、挑発。


「(ちょっとぉ!穏便に収めてよ!)」

『コイツ……勝手してくれるなぁ』


 一人の兵士が一歩前に出る。

「邪神め! 我が剣を受け――」

〈ワタシは知っているよ。その立派な剣、祖父を殺して奪い取ったもんだろ? その祖父も戦友から奪い取った、まさに呪われた剣だねぇ〉

「…………死ねぇ!」

 男が突きを放つ。

 わたしの頭部を狙った剣を、テンちゃんが収納。

 そのままの勢いで突っ込んできた彼の両腕は、マナへ還元されて霧散した。


「――ッ‼ 腕が!」

 後退りする男を前蹴りで倒し、心臓に手を突き立てる。


「ヤメっ――」

 ぬっぷりと腕が体内へ沈み込む。


〈咎人さん、アンタの心臓はどんな味がするのかな♪〉

 引き抜かれた腕には、脈打つ心臓。

 それを恍惚の表情で見つめ、躊躇なく食べ始める。

「(うん、おいしい!)」

『…………』

〈(テン、塩ちょうだい。塩)〉


「ヒィっ……化け物……」

 異様な光景に兵達も動けない。


 すると――心臓を抜き取られた兵士の遺体から血液が抜け、髭ダンディの躰へ吸い込まれていく。

 血液を吸った体はみるみるうちに肌の艶が戻り、空いていた穴も塞がっていく。


「(わたしの便利な盾が……)」

〈(ねぇテン。あれ……ちょっと若返ってない?)〉

『た……確かに』

 翼を広げ、くねくねと躰をくねらせながら完全復活した。

 確かに元々50代後半位に見えていたのが、40代前半位にまで若返っている。

 いい感じのイケオジ。

 しかし、全裸だ。


「あれはっ!血吸様(ちすいさま)じゃ!」

「神の使い……」

「おっきい///」

「///」

 周囲の兵もワームたちも、髭ダンディに夢中た!


 ――ふーん……なにさ、わたしの方がおっきいもんね!

 そんなことを考えた瞬間。

 股間が、もぞもぞと疼いた。

「(あぁ~あっあっあっ、おちんちん生えちゃう⁉)」

〈あれっ⁉ ちょっと待って! 今いいとろな――〉

 ポロンっ――

 いささか控えめな“おちんちん”がわたしの股間に姿を現した。それと同時にメジェドちゃんの気配が消える。

「(おーいメジェドちゃんぁ~ん!)」

『あいつ消えやがった……』

 メジェドちゃん困ります、やるなら最後までやって! この状況どうすればいいの?


「うぅっ……チンビン様……お許しください」

「――っ⁉」

 足元から声が――

 目を向けると、わたしは少女の頭を跨いでいた。

 思いっきり“おちんちん”見られちゃってる! ってか、わたしの事知ってる?


 少女は薄い意識の中で泣きながら、許しを乞うていた。



 そこへ――

「マリスティア海洋国、ディラン・シーウォード・フォン・マリスティアである」

 煌びやかな甲冑の男が、護衛を引き連れて現れた。


 ♪ピリリリリリリ……

 また着信……しかし今回は通話ボタンを押す前に、勝手に喋り始めた。

「タチケテ……あく、タチケテ……」

 ミーヤちゃん……


 弱々しい笛の音と、風の音が残る。

 ……あゝ。なんだかとっても面倒な事になりそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ