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煮るなり焼くなり――

 ――ミーヤside――


「そろそろ……貴様らの望みを、聞かせてもらおうか」

 ルブナ提督は、長い沈黙の末、ゆっくりと顔を上げ、かすれた声でそう言った。

 身内の受け入れがたい現実はいったん脇に置き、責任者として、目の前の課題と向き合う覚悟を決めた――そんな顔だった。

 彼女の視線の先にあるのは――

 石化したメイジェちゃん。

 ハンガーで拘束されたテンちゃん。

 全裸のまま、ルブナ提督とリュシアンきゅんの馴れ初めを、嬉々として熱弁するメイソン。

 そして、それを真顔でメモに取っている私。

 ――よくこの状況で、正気を取り戻せたわね。

「わざわざこの状況を作り出したからには、何かしらの要求があるはず。 そうだろ?」

 そう言って、ルブナ提督は静かに私を見据えた。


「じゃあ、まず一つ目の要望ね」

 私は指を一本立てた。

「――今いる面子で自己紹介しましょ」

「そうだな。名も知らぬ相手に未来を委ねるほど、私も無謀ではない」


『……おいミーヤ、収納からラップタオルを出してやれや』

「あらテンちゃん、ずいぶん優しいじゃない」

『全裸で自己紹介とか……流石に同情を禁じ得ない』

「そお? (おもむき)があっていいじゃない?」

『……頭、おかしいんか?』

「………………」

 渋々テンちゃんの袖口から“収納”へアクセス……って、どんだけ入ってるのよラップタオル! 一〇〇枚以上あるじゃない!

 これ全部、無地のバスタオルを改造した一点物。 可愛い柄が入ってたり、ネコミミフードが付いていたり……。

 ――これ全部、メイジェちゃんのためにテンちゃんが夜なべして作ったのよね。 そういえば元のバスタオルは無地なのに、柄が入ってるってことは……一度糸に戻して織り直したってこと⁉

 そんなクソデカ感情()の籠ったラップタオルを二枚取り出し、ルブナ提督とメイソンに渡す。

「衣類君は紳士なんだねぇ」

『あ゙あぁん⁉ 毟るぞテメェ、髭』

「こわぁ~」

 そんなやり取りを横目に、未亡人エルフがラップタオルを“上から被る派”か“下から上げる派”か確かめるべく、私は熱い視線を送る。

 ――これは神として確認する義務がある。 こんなチャンス、もう来ないかもしれないわ。

 ルブナ提督がラップタオルを広げ、今まさに――

 っとその時!

 ぬっ、と視界にメイソンの下半身。

 どうやら彼は頭から被ろうとしてバランスを崩したらしい。

 メイソンのメイソンちゃんが視界いっぱいに迫る。

 ――何だァ? 喧嘩かァ⁉

 反射的に蹴り倒す。

「ひんッ!」

 卑猥な悲鳴と共にすっ転ぶヒゲ。 思わずイラッとするが、今は――それどころでは無いッ!

 急いで未亡人エルフを視界に収めるッ――


 だが――時、すでに遅し。

 視線を戻した時には、ルブナ提督の身体はすでにラップタオルで覆われていた。

「はぁ~~~~……」

 思わず、魂の抜けたようなクソデカため息が漏れる。

 ――無念……余りにも無念である。

 すっ転んで、めそめそと涙を零すヒゲを、八つ裂きにしてやりたい気持ちを抑え、耳元で一言だけ囁く――。

「お前は殺す……」デデン!

「えっ? なんで? なんなの...この人...。こわぁ~」

 

「衣類殿、済まない。正直助かった……年寄り婆の裸を見せつけるのも、どうかと思ってな」

 礼を言うルブナ提督。

 だが装備されたラップタオルは、明らかにギリギリサイズ。

 メイジェちゃん基準で作られているのだから、無理もない。

 ――うん、全裸よりエッチだわ。

 なお、さらに体格のいいヒゲは完全に隠しきれていない。

 メイソンちゃんがチラチラしている。

『お前は下半身だけ隠せばいいだろ! 見えてんだろが!』

「いや、紳士として乳首も隠さねばならんだろ?」

 ――よし、オハナシが終わったらヒゲはテンちゃんに処してもらお♪


 場がようやく落ち着いたところで、私は咳払いを一つ。

「……じゃあ、ルブナちゃんからよろしく」

「ヴェル=ルブナ・エラリス。エラリス伯爵家の当主だ。 この星域の所有権を得て、領地として維持管理を任されている」

『ほぉ~、エルフの貴族様か』

 テンちゃんの感心とも皮肉とも取れる声が響く。

「爵号+名+姓で合ってる?」

「そうだ、ヴェルが伯爵号を指し。ルブナが名、エラリスが家名だ」


「オッケー覚えたわ。 次、メイソンちゃん」

「カル・ロベール・メイソン。 本艦メイリリー艦長にして副司令官。そして――エラリス家に忠誠を誓う者の一人です」

「見た感じ、種族的な特徴が見えないけど……ヒト族?」

「いいえ、私は吸血種です」

『バンパイアぁ~!』

「なるほど。“首を洗う”の誤解はそこからね 不死の存在?」

「自分でも不死かは分かりかねますが……八千年ほど生きて、未だに死にませんね」

『あったりめぇだろ? バンパイアだぜ?』

 ――コイツ……どこの星の、何て神の“使徒”なのかしらね。


「……じゃあ改めて。私はミーヤ、死と再生を司る神――そして、貴方達がルブナ・ディールと呼んでいるこの星の管理者よ」

 バチコリとウィンクを決める。

 ……が、反応は驚くほど薄い。

「神かぁ……コレが……」

「そう、コレが。 言っとくけど、お人形ボディーは地上で活動するための姿だからね、本体はもっとナイスバディよ?」

『死と再生を司る神ってのは俺も初耳なんだが⁉』

「はて? そうだったかしら?」

『…………』

 テンちゃんの呆れ声は聞こえないふり。


「んで、石にされちゃってるこの子は私の使徒、メイジェちゃん」

「ミーヤ神……」

 ルブナ提督が申し訳なさそうに声を上げる。

「……石化を解いた方が良いか?」

『駄目だ』

 ――テンちゃんは分かってるようね。

 今ここで石化を解いたらきっと真っ赤に染まったメイジェちゃんが現れるわ。

 実はあの赤メイジェちゃん、この星……ルブナ・ディールの意思がシンクロして乗っ取られそうになってるのよね……。

 今のところはメイジェちゃんが勝ってるけど、何か切っ掛けが有れば完璧に飲み込まれてしまう危険な状況。

「メイジェちゃん、激昂状態だから全員殺されるわよ?」

「「ふぇぇ……」」

 ルブナ、メイソン、女児化。

「石化させたって事は、この子が地上でどんな扱いを受けたか知っているんでしょ?」

「…………ああ」

「はぁ~……今回は何とかしてあげる。だからその後は、メイジェちゃんに誠意を見せなさい」

「……わかった」

『もし、お嬢が赦しても。俺は赦さんからな!コロスッ!』

 ――どうにかして、テンちゃんに溜飲を下げてもらわないと……このままオハナシが終わったら、本当に殺してしまいそうね。

 メイソンはともかく、ルブナ提督には任せたい事が有るのよね。


「続けるわよ。この衣類の化け物はテンちゃん」

『コロスッ!コロスッ!コロスッ!コロスッ!』

「ファッ⁉」

 ハンガーで拘束されたまま、テンちゃんが暴れ出す。

 ――あれ⁉ もしかして、マナを通して赤メイジェちゃんの意識が侵食してきている?

 生地が伸び、縫い目が裂け、中綿が飛び出した。

 ――テンちゃんが……喰われるッ⁉ テンちゃんが消えたらメイジェちゃんが……!

 急いでテンちゃんの背後に周り、裂けたところからマナを吸い出す。

 テンちゃんに供給されている、高純度メイジェ産のマナはと~っても甘露、だがその中に舌を刺す鋭い苦みの塊が混じる。

 床に吐き出すと、静脈血の様などす黒い赤いマナが広がる。

「――ッ! ヤバっ!」

 赤い(もや)となり空気を侵し始める。

「びっくりするほどユートピア! びっくりするほどユートピア!」

 赤マナを消費する目的で魔法を無駄撃ちすると、次第に周囲の不穏な赤マナが少しずつ薄れていく。

「ミーヤ神、大丈夫なのか?」

 メイソンが様子を窺いながら訪ねる。

 動かなくなったテンちゃんを確認する。

「……よかった。今はマナ切れで動けないだけ。メイジェちゃんが治れば、元に戻るわ」

「いや、テン殿もそうだが……いきなり意味不明な言葉を叫び、白目剥いて尻を両手でバンバン叩き始めたから……」

「…………自己紹介も終わった事だし、絶対に譲れない要求いくわヨ!」

 緊急時とは言え醜態を晒した気まずさを隠すように話題を切り替える。


 ――これから突きつける要求を呑ませるためだけに、ここに来たと言っても過言ではない。

 もし拒絶されたら、その時は……。

 まぁ、こちらの本当の狙いまで察せるとは、さすがに思ってないけどね♪


 そして私は指を一本、立てた。

「一つ。私たちの行動の自由を、全面的に保障すること」

 ルブナ提督は何も言わず、黙って続きを待つ。

 二本目。

「一つ。マナの樹の存在を、今後いかなる理由があろうと脅かさないこと」

 提督の眉が、わずかに動いたのが分かった。

 三本目。

「一つ。この星域内で亡くなった者たちの遺影を――ルブナ・ディールの地で、焚き上げること」

 そこで私は指を下ろし、私はにっこりと笑う。

「以上よ」

「……それだけか?」

 探るような提督の声に、私は軽くうなずいた。

「ええ。それだけ」

 ルブナ提督は腕を組み、しばし沈黙する。

「確認なんだが、マナの樹とは……喰星樹の事か?」

「そうよ、貴方達が執拗に攻撃してくるもんだから、こちとらヒヤヒヤしたわ」

「そ、そうか……」

 提督は一度息を吐き、慎重に言葉を選ぶ。


「一つ目の行動の自由は分かるんだが、他の二つは?」

「その問いに答えるため、まず前提として。この星、ルブナ・ディールが陥っている状況について話すわ」

「陥っている状況? 随分と芳しくない言い回しだな」

「そうね」

 私は、あえて淡々と言った。

「この星は、長く見積もっても……あと三〇〇年、もたないわ」

「「三〇〇年!?」」

 提督とメイソン、二人の声が重なる。

「……なぜだ?」

「マナが、濃すぎるの」

 私は顔の前で手を握りしめ――

「このまま増え続けたら、三〇〇年のうちに」

 ぱっと、手を開いた。

「――破裂してしまうわ」

 言葉の意味を噛みしめるように、艦橋の空気が凍りつく。


「マナが濃い原因は?」

「マナを消費する生物の絶対数が少なすぎるのよ」

「それならば魔獣の発生を促して対応しているはずだが?」

「確かに魔獣たちは、生きる糧として普通の生物よりも多くマナを消費するわ。でも――」

 私は首を振った。

「そんなレベルの話じゃない。元はヒトだけでも八〇億人で対応していたのに、今はたったの五億人。魔獣で補うなら、もっとマナ消費の激しい強力な個体を、大量に用意しなきゃならない」

 一拍置いて、言い切る。

「今でさえ、この星固有の生態系を蹂躙しているのにね」

「……魔獣しか住んでいない星になってしまう、か……」

「そう。ヒトを増やそうと思っても、地上のヒトたちは濃ゆいマナに感化されて、数が揃うとすぐ殺し合いを始める。 貴方達も、止めないし」

「……我らが禁じたのは、宇宙に上がる事だけだからな」

 自嘲気味な声。

「そこにさらに、多数撃ち込まれた重質量弾の残骸。大量の戦争廃棄物。そこから滲み出すマナが、濃度上昇をさらに加速させたの」

「………………」

 言葉を失った。


「そこで、マナの樹の出番よ」

 私は少しだけ、声を和らげた。

「私が手を加えたマナの樹が、より効率良くマナを“実”に蓄えて、濃度を正常化してくれるの」

「……手を加えた?」

「ただの樹だったマナの樹に攻撃性が追加されて、喰星樹と呼ばれるようになったのって――」

 感づいた二人に、私は悪びれずに言い放つ。

「私の管理する星に、貴方達が勝手に外来種を植えたんだから、私が好きにしたっていいじゃない?」


「マナの樹でマナ濃度の管理をするのはわかった。では……遺影を焚き上げるのは? 何の意味があるんだ?」

「亡くなった人の魂を、私の管理下に置くためよ」

「魂の……管理?」

「そう。ヒトを増やそうとしても、この星で輪廻する魂の数が足りないの」

 私は問いかける。

「死んだら、魂はどうなると思う?」

「再生の眠りに付き、来るべき時に再び生まれ変わる……というのが一般的な解釈だ」

 私は指を立てて、軽く横に振った。

「魂は早く処理してあげないと、マナへ帰ってしまうの」

 言葉を継ぎながら、ゆっくり説明する。


「魂は基本的に生まれ故郷へ帰ろうとする。でも距離が遠いほど形は崩れて、最後はマナになって散ってしまう。貴方達の魂だってそうよ?」

「……遺影を焚き上げる、というのは?」

「現地神に託すってこと。そうすれば、その星で新しく生まれ変われるのよ」

「基本的、故郷へ帰るということは……その場に留まる魂もあると?」

「ええ。強い未練や怨みを抱えた魂は、散らずに残ったり、他人や物に取り憑いたりもするわ」

「亡くなってから、どれくらいで魂はマナへ帰ってしまう?」

「四十九日よ。ちなみに――処理が早ければ早いほど、来世の在り方を前世から引き継げたりもするわ」

「…………そうか」

 ――あら。プリミアちゃんの事を考えてるのかしら? それなら安心して。私が最速で処理したから、まるっきり同じ魂で再生できるわ。

「時間があれば、自然に魂が増えるのを待てば済むんだけど……」

 肩をすくめ、私は続けた。

「今は、そんな流暢なこと言ってられないのよ」

「………………」

 艦橋に、重たい沈黙が落ちた。

 二人は言葉を探し、そして見つけられずにいる。

「認めてくれるかしら?」

 その沈黙を、私が破る。


「認めるも何も……そんな話をされたら、認めざるを得ない」

 ルブナ提督は、低く息を吐いた。

 その声音には、諦観(ていかん)と――覚悟が混じっている。

「だが、ひとつだけ良いか?」

 提督は視線を上げ、まっすぐこちらを見る。

「私はともかく、この星域にいる部下や非戦闘員の安全は、保障してくれるか?」

「安心して。今世は、ちゃんと全う(まっとう)させてあげるわ」

 私は即答した。

「私は何もしない。メイジェちゃんとテンちゃんも、ちゃんと説得してあげる」

「……そうか」

 一拍、間を置いて。

「それならば――敗者は勝者に従うのが筋、だろう?」

「フフフッ」

 思わず、口元が緩む。


「こういう時ね。私たちの文化では――相手に自分の処遇を委ねる、って意味をね。自分を“食材”に例えて言うのよ。“煮るなり焼くなりしてくれ”、って」

「なるほど……我らは敗者だからな……ならば、そちらの文化に合わせるとしよう」

 ルブナ提督が静かに頷く。

「煮るなり焼くなりしてk――」

「ストォーップ!」

 我ながら、ジャストなタイミングで割り込む。

「ルブナちゃん、これ、な〜んだ?」

 懐の“収納ポッケ”から鍋の蓋を取り出し、これ見よがしに掲げてみせる。

「……鍋の、蓋だが?」

「そうそう。蓋。これは“ふた”よ♪」

「その“ふた”が……何なんだ?」


「リピート・アフター・ミー。 ニルナリ、ヤクナリ――」

 ひらひらと、蓋を揺らす。

「ニルナリ……ヤクナリ……? ……ふた……なり?」

 ――Yes !!

 満を持して、二枚目の蓋を取り出す。

「にぃ⁉」

 ――ああぁ~、この子……天才だわ!

 満面の笑みで、続きを促す。

「……してくれ?」

 パンッ、パンッ、パンッ!

 思わず、スタンディングオベーション。

 意味も分からぬまま、提督もメイソンも、つられて拍手をしている。


「お望みのままに……“ふたなり”に、してあげるわぁ!」

 

 ――次の瞬間。

 理解するより先に、ルブナ提督は悟った。

 自分の身体に走った、決定的な“異変”を。

「……な……にを……」

 言葉は続かず、思考も追いつかない。

 ただ確かなのは――

 己の身体から、“ルブナちゃん”が生えてしまったという、否定しようのない感覚だけだった。

 メイソンは口を開けたまま硬直し、私は満足げに、ひとつ頷く。


「……これもミーヤ神の要求なのか?」

「え? これは貴方の願いを聞いたまでのことよ」

「もっ、戻してくれ!」

「神(私)の寵愛(ちょうあい)を受ける“上位種”に昇格したのよ?喜ぶところじゃない?」

 くすり、と笑う。

「まったく。“おちんちん”しか目に入らないなんて、むっつりスケベね♪」

「そ、そんな……」

「このオハナシが終わるころには、感謝を述べるようになるわ」

「んなわけあるか!」


「それからもう一つだけ、個人的なお願い」

 空気が、わずかに張り詰めた。

 言葉はなくとも、『まだあるのか』と提督の眼が訴えている。

「助手として、プリミアちゃんとユルナちゃんを、私に預けてもらうわ」

「――プリミアを?」

 ルブナ提督の声が、はっきりと荒れる。

「生きているのか……! プリミアは……!」

 私は、その視線を正面から受け止め――ゆっくりと、首を振った。

「残念だけど」

 一拍、置く。

「プリミアちゃんは、もう亡くなっているわ。――地上でね」

 提督の表情が、凍りつく。

「貴方にはその身体を使って、プリミアちゃんの“パパ”になってもらうわ」

「「は?」」

「どゆこと?」

「プリミアちゃんの魂は、私が確保してあるの。それを入れる“新しい身体”を創ってほしいのよ」

 淡々と、事実を並べる。

「血縁者でしょ? 相性がいいの。今なら――記憶だって、引き継げるわよ?」

「……それは、本当にプリミアなのか?」

「別に、信じなくったっていいわ」

 私は軽く肩をすくめた。


「これは取引じゃない。貴方が私の要望を受け入れてくれたことへの――お礼として、貴方にチャンスを与えているの」

 一拍、視線を逸らす。

「可愛い孫娘を、死地に送り出してしまったことへの……罪滅ぼしをするための“チャンス”を」

「…………」

「しかし、我らがソレを許すと?」

 ここでメイソンが口を挿む。

「ふふっ、心配しないで。 カップリングを崩すようなことは、しないわ」

「ん? どういう事だ?」

「と~っても良い事、教えてあげる」

 私は、にんまりと笑った。

「リュシアンきゅんの魂は、今ルブナ・ディールにあるの。しかも――今はヒトとして、人生を送っているわ」

「なに⁉ どうして⁉」

 声を荒らげたルブナ提督に、ミーヤは落ち着いたまま視線を返す。

「リュシアンきゅんって、ちょうど今から二五一年前の冬に、ルブナ・ディールの地で亡くなったんでしょう?」

 私の問いに、メイソンが一歩前に出た。

「はい。リュシアン様にこの星域の統治を託し、我らは前線へ向かいました。その直後――地上で流行り病が蔓延し……」

「ステーションラムダに居れば良かったんだ……」

 ルブナ提督が、悔恨を噛み殺すように呟く。

「地上に居なくても、統治は出来たはずだ……それなのに……」

「……間違いないわね、希少なエルフの魂を私が取り逃がすはずないもの」

「そ、それで……」

 ルブナ提督の喉が鳴る。

「その魂は……今、どこの誰なのだ?」

 一瞬の沈黙。

「その魂の持ち主は――」


 ドルルルルルル……と、口でドラムロール。

 満を持して、告げる。


「ジェルベラ王国・第四王女。ベスタ・ジェルベラちゃんよぉ!」


 その名を聞いた瞬間、メイソンは弾かれたように端末を操作し始めた。

「い、いや、しかし……」

 ルブナ提督は明らかに動揺している。

「いいじゃない! ルブナちゃんは、愛する孫娘と夫に再会できる。メイソンちゃん達は、敬愛する二人の物語の“続きを”観られる。私は優秀な助手が手に入る」

 私は指を折りながら数えてみせる。

「ほら、完璧じゃない? ねっ♪」

「……しかし私は、こんなにも老いた婆になってしまった……。仮に再会できたとしても、愛してもらえるとは思えぬ……。それに……孫より若いし……ヒト族だし……」

「なぁにウジウジ言ってんのよ!」

 私はぴしっと言い切った。

「貴方の身体は、上位種に昇格した瞬間から“最盛期”まで若返ってるわ! 肌だって――ほら、ピッチピチ!」

 収納ポッケから手鏡を取り出し、魔法で灯りを点けてやる。

「……っ!」

 提督は息を呑んだ。

「……本当だ……あの頃の、私が……帰ってきた……!」


「こ、これは……!」

 端末を見ていたメイソンが、思わず声を張り上げる。

「閣下、こちらを!」

「……これは……リュシアン⁉」

「どれどれ……って、はぁっ⁉ 褐色肌、ピンク髪、男装ロリっ⁉ リュシアンきゅんの面影もある……!え、ええぇ? 確か成人してたわよね⁉」

「資料によれば……数えで十八才です。ジェルベラ王国の成人年齢は男女とも十五才なので、既に成人しています!」

「合法ロリってこと⁉ リュシアンきゅんの時もそうだったけど、どうなってんのよこの魂!」

「……閣下、会いに行きましょう」

「そッ、そそそッ、そうだな……」

 ルブナ提督はチラチラ私に視線を送ってくる。

 ――フフフッ、すっかり乙女の顔になってるわね。

「いいわよ。オハナシはもう終わったし、好きにして頂戴」

 私はにんまり笑う。

「種族が違うんだから、()()りにね♪ フフフ……ガハハハ……はっ?」



 ――……いない⁉

 さっきまでそこに置いてあったメイジェちゃんが……いない。

「楽しそうだね、私も交ぜてよ♪」

 背後から、耳元に吐息混じりの声。

 いつの間にか、自力で石化を解除した赤メイジェちゃんが立っていた。

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