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やっぱりデッカイのがいいよね♪

 ――光が、消えていく。

 夢の中でミーヤちゃんと別れたと思ったら、一気に意識が浮上した。

「……『助けられる』って、ミーヤちゃん言ってたよね?」

 ぼそっと漏れた声に、胸の上の布がぴくりと震えた。

『……お嬢、目が覚めたか。おはよう』

 テンちゃんが、(えり)をそっとすり寄せるようにして頬に触れてくる。

「おはようテンちゃん」

 わたしを守るように覆いかぶさったテンちゃんは、ほんのり温かくて、まるで大きな湯たんぽみたい。

 そっと避けてもらい体を確認する。火傷は治っているけれど、腰から下はまだ再生していなかった。

 ――マナが足りないのかな……?


「そうだ! テンちゃん! プリミヤちゃん助けられるって!」

『……本当か? よかった……。お嬢、あんなに自分を責めて……泣きながら眠っていたからな。見ていて胸が締めつけられそうだった』

 (そで)で、頬の涙の痕をそっと撫でる。

『お嬢の心が軽くなったなら……それでいい』

 また包み込むように覆ってくれるテンちゃん。

 ――なんだか、鳥の卵みたいに大事にされている気分。

「ミーヤちゃんがね、夢の中で魂に合わせてくれたの。それで……わたしが依り代を創ってあげるんだって」

『そうか。……でもまずは、お嬢の体を治すのが先決だぞ?』

「ふふっ、わかった。ありがとう、テンちゃん」

 心配してくれるテンちゃんを両手でぎゅっと抱きしめ、顔をうずめた。

 すると――ふわりと、日向のようなあたたかい匂いと、ミルクみたいなやさしい甘さが胸いっぱいに広がった。


「ところで。 わたし、どれくらい眠ってたの?」

『九時間ほどだな。二度寝もありだが……起きるかい?』

 なんとも魅力的な提案。

 二度寝。しかも、テンちゃんにくるまれて。

 ――絶対気持ちいいやつだ。

 だけど、早く体を万全にして、プリミアちゃんの依り代を創ってあげなきゃ。

 のんびりしてる場合じゃないよね。

「起きる。……ミーヤちゃんとユルナちゃんは?」

『ユルナ嬢のために新しく作った部屋にいるはずだ。正直、あの組み合わせは不安だが……お嬢が今気にすることじゃないさ』

「ケンカしてないよね……?」

『ミーヤがこの部屋に顔を出した時、ユルナ嬢も一緒に居たが、落ち着いてたから平気だと思うが……』

 一瞬、嫌な予感がしたけど、大丈夫かな?

「……もしかして、殴り合って友情が芽生えた感じ? ユルナちゃん、そういうタイプには見えなかったけど……人は見かけによらないってことだね」

『お、おう……まあ、そうかもな』

 テンちゃんがちょっと困ったように笑うのがわかった。

「ユルナちゃんにも、プリミアちゃん助けられるって伝えたいんだけど……。まずマナを補給しに行かない? 足、生えてこないみたいだし」

『ああ、そうだな。早く治さねぇと』


 ベッドから抜け出そうとした瞬間、テンちゃんが両袖をぱっと広げて迫ってくる。

『さぁさぁ、俺を羽織ってくれ、袖に腕は通さないで大丈夫だ。』

 袖がフリーな方がお世話しやすいんだって。

「二人羽織みたいだね」

『ははっ! そうだな。今日はお嬢から絶対に離れないからな!』

「よろしくね、テンちゃん」


 テンちゃんを羽織り、ふわりと浮き上がってベッドルームを出る。

『……なぁ、お嬢。マナもそうだが――腹は減ってないか?』

 廊下をふわふわ飛びながらテンちゃんが問いかける。

 その言葉に意識を向けた途端、きゅるる、とお腹が主張してきた。

「お腹……空いてきた⁉」

『ん? なら軽く食べるかい?』

「う、うん。食べる……」

 わたしが頷くと、行き先を変更してダイニングに運ばれる。

 席に着くと、“収納”から湯気の上がるどんぶりを取り出した。

『弱ったときにはやっぱり“おうどん”だな』


 ――タマゴ餡かけうどんだ。

 よく煮込まれて柔らかくなったおうどんに、生姜を効かせたとろとろのタマゴ餡。

 かつお出汁の香りが唾液腺を刺激する。

『熱いからゆっくり食べな。それとも、あーんしてあげようか?』

 熱々の餡かけうどん――

 二人羽織――

 そこから導かれる答えは――

「――ッ‼ だっ!大丈夫!ひとりで食べられるよ!」

『ん? そうか?』

「……いただきます」

 ひと口すすると、ほわっと体がほどけていく。

 生姜のあったかさとタマゴの優しさが、五臓六腑に染み渡る。

「ぅんまッ!」

 ひと口、またひと口……体の奥からじんわり温かさが溢れてくる。

『そうだろ? 弱ったときには、これが一番効くんだよ』

 箸を動かすたび、湯気の向こうでタマゴ餡がつやりと揺れる。

 とろりと絡みつく餡をまとったうどんを口に含むと、じゅわっと旨みが広がり、自然と目尻が下がってしまう。

「ん〜……しあわせ……」

 最後の一口をすすり、どんぶりをテーブルに置く。

「……ぷはっ。あったまったぁ……」

『お嬢、まだいけるなら……ほれ、おかわりもあるぞ?』

 気づけば、袖から二杯目のどんぶりが少し顔をのぞかせている。

 その動作が、まるで『ほれほれ、遠慮するな』と言っているみたいで、思わず苦笑した。

「テンちゃん……そんなに食べられないよ……」

『そうかい?』

「うん、もうお腹いっぱい。 ごちそうさまでした」


 おうどんでお腹いっぱい、体も温まったし。いざいざ外へ――

 まだ夜明け前で、薄暗い。

 空気は冷たく、吐く息が白く漂う。

 暦の上では春だけど朝晩はまだまだ冷えるのだ。

 わたしは裸半纏スタイル、でもテンちゃんがホッカホカだから全然寒くない!

 

 昨晩は宇宙から散発的な攻撃があったらしいけど、ミーヤちゃんが全部防いでくれたんだって。

「ミーヤちゃんすごっ! 宇宙人とタイマン張れるんだもん!」

『お嬢、それはタイマンでは無いと思うぞ?』

「え? そっかぁ」

 ふわりと周囲の空気が揺れる。

 マナが集まってきているのか、再生途中のお腹が少しずつ生えてくる。

「マナ、来てる?」

『ああ、順調に集まってきているぞ』

「そう? わたしの濃縮マナなら金色に光るけど、普通のマナは見えないからちょっと不便だね」

 それに、保有するマナの量もわからないから、やめ時もわからないし――

 そういえば“おちんちん”って体の部位だと最後に生えてくるんだよね? なら、上手く調整すれば生えてこないんじゃない?

「わたしってば天才!」

 つまりは自分の“ステータス”が見えれば調整できるって事だね!

『どうしたお嬢?』

「フッフッフ……。 ステータス!」

『んっ⁉』

「ステータスオープン! ステータス表示! 能力値確認! 能力開示!」

『…………』

「はぁ~、ダメか……」

『何をしたいかはわかったが……まぁほら、気を落とすな。今度ミーヤに相談してみよう、な?』

「……うん」

 マナの樹さんが落ち込むわたしを慰めるように、カカオをフリフリ。

「あっ、マナの樹さん、おはよう」

 私はそっとカカオに触れながらナデナデ――

 その指先から、すっと声が流れ込んできた。

〈お嬢ちゃん、今朝も元気そうで何よりだ〉

「わっ、なに? 声? 聞こえた……⁉」

 渋い、落ち着いた声だ。テンちゃんがナイスなミドルなら、マナの樹さんはナイスなシニア。優しいお爺さんのような雰囲気がある。

『ん? お嬢、声って?』

「マナの樹さんの声、触ってると聞こえるんだよ!」

 テンちゃんも、マナの樹さんに触れてご挨拶。

『すげぇな! 昨日は聞こえてなかったよな?』

「うん。昨日は全然」

『ってことは……マナの樹が“お嬢と話したい”って強く願ったから、聞こえるようになったってことかもな』

「え、そうなの⁉ マナの樹さん……頑張ったの?」

〈うむ。お嬢ちゃんが無事であるか気掛かりでな。声を届かせる術に少しばかり力を使った〉

「……ありがと。嬉しいよ」

 樹の表面をそっと撫でる。


〈さて、お嬢ちゃん。実を採りたまえ。我の実には凝縮マナが詰まっておる。“還元”すれば回復が早い〉

『ほぉ~、それならお言葉に甘えて採られせてもらおう』

「でも……ミーヤちゃん曰く、カカオを採ると痛いみたいなんだよね。昨日採ったのはミーヤちゃんに渡しちゃったし」

『そっかぁ……それじゃあ、あんまり気軽には採れねぇよな』

〈お嬢ちゃんの痛々しい姿を見るのは忍びない。 一刻も早く元気になってほしいのだ〉

 マナの樹さん、優しいなあ。

「……んじゃ、お言葉に甘えて――」

 モギンッ!

〈ア゙オ゙ッ!〉

 樹の鋭い叫びが響く。枝葉が悶絶するように震え、採った場所が痛そうに揺れる。

『お、お嬢……容赦ないな』

「だ、大丈夫⁉ 痛かった?」

 思ってたよりも痛そう。採った跡を撫でてあげる。

〈フーッ♡フーッ♡ だ、大丈夫……何ともない……何ともない。さぁ、“還元”してみなさい〉

「わかった」

 もぎ取った黄緑色のカカオを“還元”するとピンク色の濃縮マナがブワリと広がる。

 チョコレートの香りのするソレが患部に吸い込まれる――が。

「あれ? 終わり?」

〈えッ? えッ‼〉

 もっと治るかと思ったけど……これだけ? お腹が3センチぐらいしか生えなかったけど?

 マナの樹さんも予想外だったのか戸惑ってるし。

〈…………もっと採っていきなさい〉

 そう言ってカカオを揺らしてアピールする。

「で、でも。あんまし治らなかったし……痛そうだよ?」

 声が聞こえない時は知らずにモギモギしちゃったけど。聞こえると、ちょっとねぇ。

〈大丈夫、自我が歓喜の振動に溶け出すようだ〉

 ちょっと何言ってるか分からないけど、マナの樹さんの優しさを無下には出来ないし。

「じゃあ……もう一個だけ……」

 もう一個のカカオを採ろうとした、そのとき!

「ん?」

 何かいる。三頭の犬がこちらを見ている!

 でも犬たちは、見てはいけないものを見てしまった様な――明らかに動揺している様子だ。

『お嬢! あのときのジャッカルの魔獣だ!』

 あ、ジャッカルかぁ。確かにキツネみたなシルエットだけど……よく見分けられるね。

 わたしはさっと髪を伸ばし、テンちゃんを着たままメジェドモードへ。

「へっへへ、あの時とは違うんだからね!」

 強がってみても体が震える。

「やっぱり怖いよぉ……」

『心配ないさ、メジェドモードなら奴らの牙は通らない』

〈貴様らァッ!〉

 マナの樹さんの怒号が森に響く。

 その声と同時に、地面から根が走り、三頭を瞬く間に絡め取った。あの素早い魔獣たちを、あっさり絡め取ってしまった。

「すごぃ!」

〈こやつらは我の僚属。ふむ、どうやら貢物を持ってきたらしいが……ちょっと待っとれ〉

 そう言い残すと、魔獣たちを引きずったまま裏手へと連れて行ってしまった。

 まるでお説教しに行くようだ。

 根で拘束されたジャッカルの首のあたりで細い根を素早く左右に振り「斬るぞ」と脅しているようにも見える。

『どうなった?』

 状況がわからずテンちゃんが心配そうに聞いてくる。

「知り合いみたい? “りょうぞく”?って言ってたよ」

『そうか……なら大丈夫か?』


〈散れッ!〉

 しばらくして魔獣たちを森の中へ放り投げた。

〈まったく、空気を読まぬ奴らよ!〉

「マナの樹さんありがとう、また襲われるかと思ったよ」

 メジェドモードを解除してマナの樹さんに話しかける。

〈奴らにはキツく言っておいた、もうあの犬ッコロどもに襲われることは無いぞ〉

「へぇ、ありがとう。 ところで貢物って何を持ってきたの?」

〈なんてことは無い、ただの魔石だ〉

 マナの樹さんが、根を器用に動かし、わたしの目の前へ色とりどりの石を“ころん”と並べてくれる。

「魔石!」

 思わず声が弾んだ。深紅、琥珀、翡翠色……ぜんぶキラキラしていて、宝石みたいだ。

〈魔石はな、魔獣の体の中にある石で――血管を通って巡るマナが、年季と共に結晶化したものだ〉

「ほぇ~、尿路結ッ……真珠みたいだね」

〈…………奴らはこの魔石にマナを溜め込む。もちろん、強い魔獣ほど質の良い魔石が育つのだ〉

『大きいほど良いのか? それとも重さか?』

〈そうではない、質の良い魔石とは、マナ容量の大きさで決まる。小粒でも奥深くマナを蓄える物――それが上質とされる〉

「マンガン電池より、アルカリ電池ってことだね」

〈うむ、例えはよく分からんが……、うむ、例えがよく分からん〉

『まぁ、だいたい合ってるんじゃないか? ただマンガン電池にも利点はちゃんとあるってのは忘れちゃいけないぞ』

「適材適所ってことだね」


 わたしは石を一つ指先で転がしながら首を傾げる。

「ジャッカルの魔獣はどうして魔石を持ってくるの?」

〈魔獣は魔石を取り込むことが出来んのよ。だから我が代わりに取り込み、己の糧としているのだ。そして、その見返りとして“実”を少しばかり分けておる〉

「共存関係って奴だね」

〈うむ。我の実に含まれるマナは、魔獣にとって進化のきっかけとなる。対価を払って得るだけの価値はあるのだ〉

『なるほどねぇ、ジャッカルの魔獣は、カカオの濃縮マナを摂取して進化したのか』

〈ふむ、あやつらは他の魔獣より賢くてな。実を無理やり奪おうとはせず、魔石との“交換”を持ちかけてくるのだ。最近は進化したおかげで、持ってくる魔石の質も上がっておる。だから実もよく与えておるのだ〉

 なるほど――魔石を食べてパワーアップできるのはマナの樹さんだけだから、ジャッカルたちは「魔石を代わりに食べてもらう→カカオをもらう→進化チャンス」という流れになる。

 なんだかんだで、生き残るために工夫してるんだなぁ。

 やるなぁ、ジャッカル!

 

〈ぬっ! マズい、ミーヤ様が来る! お嬢ちゃん、我と話せるようになったことはミーヤ様には内緒だ〉

 マナの樹さんの声が、慌てたようにひそひそ声へと変わった。

「えっ⁉ う、うん、わかった」

 慌てて手を離すと、何事もなかったかのように枝を揺らして誤魔化している。かわいい。

『なんだ? お嬢と話せると何かマズいのか?』

「なんだろうね?」

 テンちゃんと首を傾げていると――

「メイジェちゃんいた!」

 ミーヤちゃんがダダダッと駆けてきた。

 飛べるのに全速力で走ってくるほどだから、これは本当に緊急事態だ。

「よかった、まだ近くに居てくれて」

「ミーヤちゃんおはよう。どうしたの?そんなに慌てて」

「メイジェちゃん大変よ! ユルナちゃんの記憶を覗いたら、ヤバい攻撃が来る事がわかったの!」

「ミーヤちゃんサイテー!プライバシーの侵害!」

『まったく、神って奴はよぉ~』

「ええぇ……」

 いやホント、プライバシー大事だからね、神様。


『で? “ヤバい攻撃”ってのは何なんだ?』

 テンちゃんが渋みのある声で問いかけると、ミーヤちゃんはビシッと指を突き出した。

「月から大きな石を撃ってくるみたいなのよ」

『それって、ミルクレインを壊滅させたやつじゃねぇか?』

「全然違のよ! ミルクレインの時は直径10m級だったのに対して、今回のは――1キロ級! しかも日の出とともに着弾するって!」

「『ぎょえぇ~~!』」

 日の出ってもうすぐじゃん!

 東の空はすでに薄明り。

 太陽が顔を出すまで、あとわずか。

『待てミーヤ、今お嬢はマナの回収中なんだ、脚だってまだ生えてないんだぞ!』

 その言葉に、マナの樹さんが ぶんぶんッ! と強めにカカオを揺らした。

 ……え、我の実を使えって言ってるのかな?

 しかしミーヤちゃんは鼻でふんと笑った。

「ふん。あんな子供みたいなちっさいカカオじゃ、埒が明かないわ」

 そう言うと、何もない空間に指先でスッと切れ目を入れる。

 そこへ腕を突っ込み、ごそごそ――

「――よいしょ!」

 ずるりと引きずり出されたのは、わたしの身長より大きい2メートル級のカカオだった。

「うわぁ、デッカぁ~!」

 大きさもさることながら色も、鮮やかな赤色。

 そして、甘くフルーティーな香り。

「一番大きなマナの樹のカカオよ。 これなら一個で治るはず」

『デケェ……同じカカオとは思えないな!』

 ミーヤちゃんがカカオをペチペチ叩き、わたしに“還元”を促す。

 ――デッカ過ぎて、ちょっと怖いんだけど!

 でも時間はない。

 覚悟を決めて、そっと手を触れ“還元”!

 瞬間――

 濃厚なチョコレートの甘い香りが爆発するように広がり、視界がふわっと金色に染まった。

「――っわ……!」

 濃縮マナが流れ込み、ニョキニョキと両脚が生える。

 ――マナの量も比べ物にならないほど多くて濃い♡

 ほんの数秒で、わたしの体は――完全復活!

「おろっ? “おちんちん”生えてこn――」

 ボロンっ!!

『またまぁ……立派なのが生えたなぁ』

「あるべき姿ね♪」

 ミーヤちゃんは腕を組み、満足げにうんうんと頷く。

 

「…………それで? どうすればいいの?」

 再生した脚を確かめつつ尋ねる。

「私の指示する方向に、思いっきりビームをぶっ放してくれれば良いわ。細かい調整はこっちでやるから」

「え? それだけ? もっとこう――隕石に取り付いて、穴掘って爆弾仕込むとか……」

『石ころ一つ押し返してやるとか……』

「ギターでぶっ叩いて打ち返すとか……」

「『熱い展開は⁉』」

 わたしとテンちゃんの声が揃う。

「そんな悠長なことしてる時間ないのよ! ほら――」

 ミーヤちゃんが上空を指さす。

「――もう来るから」

 その指先の向こう。

 薄く白む空に、黒い影がポツンと浮かんでいた。

 最初はただの点。

 でも瞬きするだけで、確実に近づいているのがわかる。

「あ……」

 大気を焼きながら落ちてくる巨大な塊。

 距離感おかしくなるレベルでデカい。

『お、お嬢、準備だ! 撃たねえと森が消えちまうぞ!』

「ひぇぇ~~! 了解~~!」

 ミーヤちゃんがわたしの背中をバシッと叩く。

「そんな気張らなくたって大丈夫よ、初めて撃った時くらいの出力でいいんだから」

「う、うんっ!」

 ちらりと横目に、あの時つくった更地が視界に入る。

 ――大丈夫、大丈夫。できる、できる! あの時みたいにッ!

 額のあたりへ、わたしの中の濃縮マナがぎゅううっと収束してくる。

 マナの色も、金色から強い光へと変質し――

 ――いける‼

「――ッ! ビィムッ‼」

 発射の瞬間、音もなく、一本の細い白い光が空へ伸びた。

 ――あんれぇ? 細くない?

 細いけど、速い。鋭い。

 光の筋は時折カクカクと小刻みに軌道を変えながら、巨石の中心へ迫っていく。

 到達した白光は、抵抗もなく巨大な石を貫いた。

 次の瞬間、穴を中心に石が、じゅぞぞぞっ……っと、吸い込まれるように縮み始めた。

 ――わぁ~……ストローでゼリーを吸ってるみたい。

 吸われた石は“還元”され、濃縮マナの霧となって大気へ噴き出す。

 金色の霧が日差しを受けてきらめき、朝焼けの色とまじり合いながら、空に淡い光の層をつくっていた。

 みるみるうちに石は萎み、そして――

 音にならない破裂を起こし、粉々の光となって空へ散った。


『おぉおおぉッ! よっしゃあああ!! やったなお嬢!!』

「やった……やった!」

 舞い降りる光の欠片を見上げながら、わたしは大きく息を吐いた。

「撃ったビームが細かったから、ダメかと思ったよ」

『細いのは前より収束率が上がったからさ。 威力も速度も底上げされてたぞ! 練習の成果ってやつだ!』

 テンちゃんが満足げに頭を撫でてくれる。

 その横で、まだ静かに降り注ぐ金色の光を見上げながら、ミーヤちゃんがぽつりと言った。

「――さて」

 顔がニィッと悪い笑みに変わる。

「ほんじゃ、このままカチコミにいきますかぁ!」

「カチコミ! カチコミ!」

『おうともよ! カチコミ上等だ! お嬢が居るってのにあんなモンぶつけてきやがって、許せねぇよな!』

 朝焼けと金色の霧がまだ空に残る中、わたしたちはそのまま歩き出した。

 足取りは軽い。けれど向かう先だけは、とびきり物騒。

 神さまと、半纏と、そしてわたし。

 こいつらが揃ってしまった以上、もう、誰にも止めら――

「ヘェッキシっ!! さむぅ~」

 生えた足がテンちゃんからはみ出して寒い!

 冷気に当てられて“おちんちん”も縮み上がっている。

『ああッ! マズいお嬢が風邪ひいちまう! クソォ!俺の丈がもっと長ければ……。ミーヤ、温かい服無いか?』

「そうね、フルチンでカチコミは格好がつかないから、いったん戻ってお着替えしましょ」

 わたしたちは、その場でくるりとUターン、そそくさと鏡の中へとんぼ返り。

 戦いに向けて、お色直しでござる。



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