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神とエルフと薄い本


――プリミアside――


 ミーヤに連れられ、夜の空を飛んでいる。

 眼下には無数の光が瞬き。

 煌々と照らされた街並みは、栄えていることを雄弁に物語っている。

「ここは?」

「地球って呼ばれてる星の、日本っていう島国よ」

 ――地球? ルブナ・ディールの近くにそんな星など聞いたこともない。

 首を傾げるわたしに、ミーヤはにやりと笑った。

「まだ、貴方達には見つかっていない星よ。宇宙進出もしてないし、文明的にはまだ発展途上ね」

「……つまり、ルブナ・ディールからとんでもなく離れている、ということか」

 ――どうやってここまで移動してきたんだ……。

 考えるだけ無駄かもしれない。神の力というやつは、理屈の外側にある。


「ただいまー、帰ったわよ」

 ミーヤが降り立ったのは、集合住宅の一室だった。

 年季の入った生活感が充満している。

「お帰りなさい」

 奥から現れたのは、藍白のベビードールを着た亜麻色の髪の女性。

 おっとりした雰囲気の美人だが――いや、服装がラフすぎる。

 ――これは……際どい。

 わたしが女でよかったな。男なら目のやり場に困るやつだ。

「あれ? その“くっころ系 女騎士風 スク水エルフ”のお人形は?」

「私の新しい使徒ちゃんよ」

 女性はジト目でミーヤを睨む。

「ミーヤ様、今回はちゃんと申請書出したんでしょうね?」

「もちろん、これから出すわよ?」

「まったく、上から文句言われるのはミーヤ様なんですよ? も~、逃げないでください?」

「はいはい、わぁったわぁった。あ~アチかった~、ちょっとお風呂に入ってくるから適当にのんびりしてて~」

 ミーヤはそう言って自室らしき部屋へ入り、私を机の上に置いて服を脱ぎ散らかしながら出て行ってしまった。

「普段の自分の姿を見せつけられているようだな……」

 

 一人残された机の上。

 乱雑に置かれた小物の中に、一冊の薄い本が目に入った。

 帝国では娯楽書など、とうの昔に絶滅している。

 久々に見る紙の本に好奇心が湧き、つい手を伸ばしてしまった。


 やや厚みのある表紙には、笑顔で寄り添う二人の少女のイラスト。

「……この白髪の子、どことなくメイジェに似ているな。もう一人の子も髪色や目の雰囲気は違うが双子のようだな。 ふふふっ、私は知っているぞ。この形式は、絵と吹き出しで物語を綴る書だろう! 実家の書庫にもあったぞ。しかし、ここまで薄くは……」

 ――そう言いながら、表紙を捲った。


 ムムムッ! どうして……、どうして白髪の女の子にご立派な男性器が?

「あーそんな、なんて破廉恥な/// 前から?今度は後ろから? えッ!口で⁉ 腋で⁉ 触手⁉ そんな……!すごい量……ど、どれだけ出せるというのだ……?」

 ――それにあの……とろける様な表情……。

 いったいどんな感覚なのだろうか……。

 少女二人が激しく絡み合う衝撃的な内容に目が離せない。

 六〇センチ程の人形になってしまったため、視界いっぱいにモザイクのかかった絵が広がり大迫力だ!


「あれれ~、お客さん、そういうの興味あるんだ?」

 背後から声がして、思わず本を閉じた。さっきの女性だ。完全に見られていた。

「ひゃーっ!こ、これは! ち、違うっ! ちがうのだ!」

「いいのいいの、わかってる。恥ずかしくない恥ずかしくない。で……どうだった? 欲情した?」

 ――な、なんてことを平然と聞いてくる女だ。

 返す言葉もなく口をぱくぱくさせていると、彼女はふと表情を和らげ、ぺこりと頭を下げた。

「あっ、ごめんなさい。はじめてエルフの子に見てもらったから、つい気になっちゃって」

「……この本は、あなたが描いたのか?」

「そう。ミーヤ様と私、ふたりで描いたの」

 彼女は胸を張りながら言うと、少し照れたように笑った。

「そういえば自己紹介してなかったわね。私はテイラ。愛と喜びの神よ、よろしくね♪ 貴方は?」

 ――神⁉ 神がこんな本を……。

「あ、ああ……。私はプリミア・エラリス。しばらく居候させてもらうことになった。……テイラ神、よろしく頼む」

「プリミア・エラリス……じゃあ、プリエラちゃんって呼ぶわ。私のことはテイラでいいわ♪」

 軽い。あまりにも軽い。

 目の前の女神は、神々しいというよりノリのいい隣人のようだった。

「愛と喜びの神かぁ……ところで、ずっと気になっていたんだが……ミーヤは死神なのか?」

「違うわよ~」

 テイラはくすりと笑って、指をくるくると回した。

「ミーヤ様は、死と再生を司る神。 そして――貴方達がルブナ・ディールと呼んでいる星の、管理者。知らなかったの?」

 ――ッ!

 ただ者ではないとは思っていたが……まさか、ルブナ・ディールの管理者⁉

 我が航星帝国は……とんでもない存在に喧嘩を売ってしまったのではないか?

 ミーヤがその気になれば、星系どころか――

「大丈夫よ」

 テイラは、わたしの思考を読み取ったように微笑んだ。

「ミーヤ様も私も、力の大部分を失ってるの。航星帝国を壊滅させるほどのことは、今は出来ないの。……まあ、近くの艦隊を皆殺しにするくらいなら、頑張れば出来るけどね」

 あまりにも淡々と、さらっと言うから余計に恐ろしい。

 だがその瞳には、嘘や誇張の色は見えなかった。


「それでプリエラちゃん――どうだった? 欲情した?」

「……それを聞いてどうするんだ? 答えによっては――」

「貴方たちの性的嗜好を解析したいの!」

 ――即答である。

 あまりに真剣な顔をして言うものだから、怒る気も失せてしまう。

「解析……? 何のためにそんなことを」

「もちろん、“信仰”を得るためよ」

 テイラは軽く指を鳴らした。

 空気が揺らぎ、淡い光が室内に広がる。空気が微かに艶を帯び、彼女の声が直接、脳髄を震わせた。

 ――これが……神の威光⁉

 テイラは一転して静かな声で語りはじめた。


「貴方たち航星帝国は、文明のリセット、人民の総入れ替えと宗教の一本化――つまり、“航星帝国”という神の創造によって、この星の多くの神を消滅させたの」

 ――神の創造? 神を……消滅?

「そう。神というものは、その星の生物から“信仰”、つまり“認識”されることで形を成しているの。だから、多くの生物が“航星帝国”を神だと“認識”すれば、それが一柱の神として完成する。逆に、既存の神を“認識”する生物がいなくなれば、存在意義を失い、やがて消滅してしまうの。旧来の神々はほとんどがそうして滅び、残った神たちも力を失っていったわ」

 私は息を呑んだ。

 確かに、航星帝国がルブナ・ディールを接収した際、住民の多くは他星へと移住させられたと聞く。

 戦争で増えすぎた捕虜の収容地として、また、破壊された兵器や人造生命の廃棄場として――。

 ルブナ・ディールはただの“廃棄惑星”へと成り下がったのだ。


 収容された捕虜たちには、建国の祖、不滅の亜人『クラウディア』を主神とする宗教が与えられた。

 不自由のない生活を約束する一方で、旧態依然とした生活を強要し、宇宙への進出を禁じた。

 接収から二〇〇年が経つころには、技術者も技術も失われ、再び宇宙へ出る術を失ったという――。

 そして今では、接収から七五〇年。

 幾度もの世代交代を経た捕虜たちの子孫は、もはや自らのルーツが遠い宇宙の果てにあったことすら知らない。

 

「さらに過剰なマナへの対策として魔獣の投入、あなたたちが持ち込んだ魔獣が、この星固有の生態系を喰い尽くしたの。結果として、旧来の神々を信じる存在はさらに減り、神々は一層力を失っていった。

 そして――マナをり込み進化して強力になった 魔獣を、航星帝国が討伐する。派手な演出、誇張された英雄譚……その全てが航星帝国への信仰を補強したのよ」

「……だが、航星帝国が神になったというなら、なぜ我々は何も変わっていない? 神の加護など感じたことはないぞ」

「それは――“象徴”がルブナ・ディールにいないからよ」

 テイラは静かにわたしを見つめ、続けた。

「神として力をふるうに相応しい器、信仰に耐えうる強い魂。その両方を備えた“象徴”がいなければ、形だけの神は存在できても、力を発揮することはできないの」

 ――形だけの神。

 それは、力も意志も持たないただの概念。

 信仰がありながら、何も為せない無力な神……。

 

 テイラは小さく息をつき、柔らかく微笑んだ。

「でもね、残った神たちは、ただ消え行くのを待っていただけじゃないの。“認識”を求めて在り方を変えたの。“信仰”を得るために人の姿で下界に降り、さまざまな活動をしているのよ」

「……つまり、あの破廉恥な薄い本も“信仰”を得るための活動の一つだと?」

「その通ぉ~り!」

 テイラは胸を張り、目を輝かせた。

「神々の実験場――地球で、私たちは素晴らしい成果を上げたの! 他星の生物に“認識”されることでも、存在を維持できるように進化したのよ!」

 誇らしげに笑うテイラ。

「今の私たちはね、信仰だけではなく、文化の中に息づく神なの!」

「文化の中に……息づく?」

「そう。崇拝の形式が変わっただけ。エロでも、絵でも、言葉でも――誰かが“尊い”と思えば、それは立派な信仰。だから私は愛と喜びを通して、人々に私の存在を“認識”してもらうの」

 その瞬間、私は理解した。

 この女神は、真面目に破廉恥なことを言っているのだと。


「だから! 知りたいの! 貴方たちにミーヤ様と私の作品が“刺さる”のかを!」

 グイグイと体を寄せ、今にも噛みつきそうな勢いで迫ってくる。

「……はぁ、あくまで私個人の意見だからな?」

 しばらく居候する身だ。今、逃れてもどうせまた聞かれるだろう。ならば、さっさと白状してしまおう。

「私達ピウメールは――」

「ちょっと待って! 話の腰を折るようで悪いけど、“ピウメール”ってなに?」

「あ、すまない。“ピウメール”は航星帝国におけるエルフ種の総称だ」

「へぇ~、エルフにも種類が有るのね」

「うむ。二種を覚えておけば十分だ。ひとつは“アルプ”。ヒトよりも魔術に長け、寿命が長いのが特長だな」

「私のイメージする“エルフ”と一緒ね。もうひとつは?」

「もうひとつは“フィルカ”、小型のエルフで、成人しても平均身長が一四〇センチほど。身体は華奢だが、“アルプ”よりも魔術の精密操作と妖精種の扱いに長けている」

「なるほど。で、ダークエルフは? ダークエルフはいないの?」

「ダークエルフ……? もしかして、アルプ種の宵銀(しょうぎん)族のことか?」

「そう言われても……ちょっとイメージしてみて」

 言われるがままに、身近に居た宵銀族、我が隊のセリュナ・ヴァルネスの姿を思い浮かべた。

 テイラが私の頭に手を当て、イメージを覗き込むように目を細めた。

「おほぉー、それそれ……?」

「ん?どうしたんだ?」

「いや、基本的には私のイメージしたダークエルフなんだけど……思っていたのと違って、むっちり&おっとり系だったから……」

「セリュナは事務・会計担当であって、戦闘員ではないからな。私のように鍛えてはいない。柔らかな印象から、隊の中でも男性陣に人気が高いのだ」

「それにしても属性盛りすぎでしょ? 銀髪、片目隠れ、ゆるく編んだサイド三つ編み、むっちり、おっとり、ダークエルフ。さらに制服フェチ要素まで……ぱっと見だけでこの戦闘力! とんでもない逸材!」

 ――属性?

 ミーヤもユルナに対して、似たようなことを言っていた気がする。


 テイラは興奮気味に、手元のスケッチブックを取り出し、すらすらと線を走らせはじめた。

 ――うまいな……。だが、これでは話が進まない。

「……話を戻してもいいだろうか?」

「五分……いや、三分だけ待って! イメージが消えないうちに出力しちゃうから!」

「話が終わったら、またイメージし――」

「ホント⁉ いいの!? 助かるぅ~。じゃあ続きをお願い!」

 切り替えが早い。

 さっきまでペンを走らせていたと思ったら、もう完全に聞く体勢だ。

 この落差が、神らしいのか、ただの変人なのか……判断に困る。


「私達ピウメールは、寿命が長く一二〇〇年ほど生きるのは知っているな?」

「ええ、ヒトよりもずっと長く生るのは知っているわ。 具体的な数字は初めて知ったけど……」

「……ピウメール以外の長寿種にも言えることだが、生殖できる期間が長いため、生殖行為そのものをそれほど重視していない。つまり、性欲というものが比較的希薄なんだ」

 メモを取るテイラのペンが止まった。

 目をぱちくりとさせたあと、信じられないというように口を開く。

「え゙⁉ ってことは……私達の薄い本は――」

 急にしゅんと肩を落とすテイラ。

「性欲が少ないとは言っても、欲情しないわけではない。安心してくれ。性的興奮状態を促す――視覚的に強い刺激、それがこの“薄い本”にはあった」

「ほ、本当!?」

 テイラの目が再び輝きを取り戻す。さっきまでの落ち込みはどこへやら。

 ……神、というよりクリエイターの反応だ。

「ただし、その手の耐性がないピウメールには刺激が強すぎると思う」

「なるほど……刺激が強すぎる……つまり、求心力が高いってことね!」

 どこか誤解したまま嬉しそうに頷くテイラ。

「現に私も、あの本の内容を思い出すと――」

 自分で言いながら恥ずかしさが込み上げ、口をつぐむ。

 ――私は今、何を言っているんだ……。

 ふと顔を上げると、目の前にはにんまりと笑うテイラ。

 その笑顔は、妙に艶っぽく、そして――不気味なほど嬉しそうだった。


「貴方……才能あるわ。気に入った! 貴方に私の加護をあげる!」

 そう言って私を抱き上げ、蕩けるような抱擁をする。

 柔らかく……甘い香りに包まれる。そして私の額にキスをすると、頭の中に甘い電流のような衝撃が走った。

 全身の毛穴が開くような感覚に、思わず変な声が漏れる。

「ふふっ……感じた?」

「な、何を⁉」

「加護よ。貴方の精神と私が一瞬だけ接続されたの」

 言葉と同時に、身体の奥に淡い光が灯る。胸の内で温かい何かが流れはじめ、鼓動がほんの少し早くなる。

「うん……うまく通ったみたい」

 テイラは満足げに微笑み、私の頬に手を添える。


 その後も、テイラからの質問攻撃を、浮ついた思考のまま彼女の膝の上で受け続けていると。

 風呂場の方から、やけに元気な足音が近づいてきた。

「あれぇ? 二人ともずいぶんと仲良しじゃない」

「なんて格好してるんだ!」

 バスタオルを首にかけ、全裸で水滴を垂らしながらドカドカと歩いてくるミーヤを見て、反射的に声が出た。

「ええぇ~⁉ いいじゃない? 私の部屋なんだし」

 そんなミーヤを、テイラが甲斐甲斐しく世話している。

 タオルで髪や体を拭いたり、ボディクリームを塗ったり、パンツを……


 ――パンツぐらい自分で穿け!

 私だって下着は、自分で着用できるようになったんだぞ!

 

「ん?……あれ? テイラ、リミィちゃんに加護をあげたの?」

「“リミィ”はやめろ!」

 ミーヤはにやにやと笑いながら、こちらを指さす。

「……そう、リミィちゃんのこと気にいっちゃった♡ 私の使徒にしたいぐらい」

 な、なんてことだ。

 テイラまで、私のことを“リミィ”と呼ぶようになってしまった……。

「リミィちゃんにちゃんと許可もらった? アンタの加護、けっこう厄介でしょ?」

「どういう事だ⁉ 勝手に付けられたんだが……」

 ミーヤが『あちゃ~』という顔で額に手を当てる。

 テイラの方を見ると、視線をそらしながら、鳴らない口笛を吹いていた。

 ――あ、これはやらかしてる顔だ。


「リミィちゃん……テイラが何の神だか聞いた?」

「“愛と喜びの神”と聞いたが」

「ハァーッ!」

 ミーヤが思い切り素っ頓狂な声を上げた。

「やってんねぇ! 詐欺だわ!」

「詐欺だなんて酷い、だいたい合ってるじゃない?」

 ――だいたい合ってる……?

 なんだその曖昧な逃げ方は。

 ミーヤは肩をすくめ、深くため息をついた。


「テイラはね、“官能・快楽の神”よ」


「…………」

 頭の中が一瞬で真っ白になった。

「うふふ、そんなに固まらないでよ。べつに変な力を入れたわけじゃないの」

 テイラはケロリと笑い、指先で私の頬をつつく。

「……テイラの加護とはいったいどんな物なんだ?」

「神の加護っていうのはね、基本的には神が加護を与えた者を見つけやすくするための印に、いくつかの特典が付いたものなの。共通する特典として、加護を与えた神と意思の疎通が出来るのと、マナの蓄積量と吸収力が増えるの」

 ――マナを? 確かにマナは魔道エネルギーの源『エニーマ』の原料であり、強力な力を秘めている。しかし、そのマナを直接体内に? そんな事をしたら体が破裂するはずではないか?


「それに加えて私の加護はね、周囲の生物の気持ちがなんとなく分かるようになるの」

「なんとなく? ずいぶんとフワついた表現だな」

「まぁ、それは……あんまりはっきり他人の気持ちがわかると、壊れちゃうから……」

 その言葉に、テイラの笑顔が一瞬だけ翳った。

「なるほど? どんなふうにわかるんだ?」

「加護を意識する事で視覚レイヤーが追加されて、色の付いたオーラが見えるようになるわね。好意的ならピンク色とか、悲しいなら暗い色、敵対しているなら警戒色みたいな感じ」

 ――思っていたより便利じゃないか?

 感情を色で判別できるなんて、戦闘でも交渉でも役に立ちそうだ。


「ところで、特典の中に、マナの蓄積量と吸収力が増えるとあったが。大丈夫なのか?」

「おやおやぁ? 天下の航星帝国様もマナについては理解不足のようね。マナっていうのは――」

 テイラとミーヤが視線を交わし、代わる代わる語りはじめた。

 世界の理。生き物に与える影響。そして、増え続けるマナの危険性。

 そして最後に――。

「あと、魔法が使えるようになるわ」

「なにっ? 魔法⁉ 素晴らしいじゃないか!」

 魔力の蓄積量が少なく、魔術すら制限されていた私が魔法をッ⁉

「んふふ、でもねテイラの加護には副作用があるのよ」

 まるでオチを告げるようなタイミングでミーヤが言い放った。

「……嫌な予感しかしない」

「もう、ミーヤ様ったら、せっかく言いくるめられそうだったのに」

「テイラ、教えてくれ。とんな副作用なんだ?」

「まっ、バレちゃあしょうがないかぁ。私の加護の副作用はね……リミィちゃん自身が“その気”になってる時に……」

「……に?」

「リミィちゃんに対して好意を持ってる相手と目を合わせたら……」

「……ら?」

「その人も“その気”になっちゃう♡」

「なっ⁉」

 思わず声が裏返った。顔が一気に熱くなる。

 ミーヤは腹を抱えて床を転げ回っている。

 笑いの合間に息継ぎをしている姿が、もはや苦しそうだ。

「……どうしてそんな事になるんだ⁉」

「そりゃあ、“その気”になってる時は、目から魅了の魔法が駄々洩れになるから……」

「テ、テイラ。それ、加護っていうより呪いじゃないか?」

「ひどいなぁ。リミィちゃんが“その気”にならなければ発動しないし」

 テイラは悪びれる様子もなく、にこやかに笑った。

 いや、笑いごとじゃないから。

 自分の感情ひとつで周りを巻き込むなんて、爆弾を抱えて生きるようなものだ。

「まあ、でもピウメールは元々性欲が薄いって話でしょ?滅多に発動しないし大した影響はないと思うわ」

「んふふっ……“今のうちは”ね」

 ミーヤが小さく何かを呟いたが、私には聞き取れなかった。

「ミーヤ、何か言ったか?」

 彼女は唇の端を吊り上げ、不穏な笑みを浮かべる。

 その瞬間、背筋に妙な寒気が走った。

 ――いやな予感しかしないんだが!

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