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黄昏の海

「――危ないッ‼」

 突然の声に驚くわたしを、プリミアちゃんが強く抱きしめた。

「えっ⁉」トゥンク……。

 驚いた瞬間、魔法の制御が吹っ飛んで、“重力魔法”が解けてしまった。

「あッ、あッ、あッ、チョッ、チョッ、チョッ」

 そのまま、硬い腹筋に押しつけられるように地面へ押し倒され。

 わけもわからず目を白黒させていたその時――。

 強烈な衝撃。

 続いて、爆発。

 炎が襲いかかり、視界が真っ赤に染まる。

「あああっ!……アツイッ! アツイ……アッ……アッ……」

 叫ぶたびに喉が焼け。

 残骸の下で身動きが取れず、もがいて手足を振り回すと、手は指先から炭化して崩れていき、足は――あれ……?胸から下が……無い⁉

 そして、(かば)ってくれたプリミアちゃんは動かなくなっていた。

 その腕の力も抜け、だらりと垂れた。

 ――ああぁっ! プリミアちゃんが死んじゃう!

 何か、何かできることッ――!

 髪を伸ばし、炎から彼女を守るように包み込む。

 伸ばした先からチリチリと燃えるが、そんなことを気にしている暇はない。

 (まゆ)のように密閉し、熱を下げるように魔法で冷たい空気を送り込む。

 わたしは体の半分以上を失い意識が遠のいていくが、必死に自分に言い聞かせる。

 ――わたしの体はマナの塊。人とは違う。

 痛いと思うから痛いんだ。苦しいと考えるから苦しいだけ。

 使徒なのに、人ひとり救えなくてどうするッ!

 

『お嬢! お嬢ーッ!』

 テンちゃんの悲痛な声が、煙の向こうから響いた。

 ――テンちゃん……早く!もう……持たない。

 必死に残骸をかき分け、わたし達をこの地獄から引きずり出してくれる。

 髪を解き、恐る恐るプリミアちゃんの様子を確かめる。

 しかし、腰から下が無くなっていて最初の衝撃の時点でもう、亡くなっていたようだ。

 ――何もできなかった……。

 己の無力さに、(いきどお)りさえ覚える。


「えっ……、リミィ……⁉ リミィ! なんで……イヤ……っ!」

 気を失っていたユルナちゃんが目を覚まし、プリミアちゃんに駆け寄る。

「この残骸……フェ・ランシエ……⁉ 私が……私が気を失っていたから……? 私が……? 私が……!」

 動かないプリミアちゃんにすがりつき、泣き崩れるユルナちゃん。

 その(かたわ)らで、わたしの体は――少しずつ、再生していく。

 死なないわたしを庇って、助かったかもしれないプリミアちゃんが死んじゃったんなんて……。

 その事実だけが、何度も胸の中で繰り返された。


「どうしてこんなことになってるのよ!」

 ミーヤちゃんが帰ってきた。

『エルフのお嬢さんを運んでる時に、小さい飛行機が突っ込んできたんだよ!』

「この子たちが連れてきた奴ね……。この様子だと、ワザと突っ込ませたわけじゃなさそうね」

『そうだな、偶然が重なって起きた事故……だな』

「そう……()()ねぇ……」

 ミーヤちゃんは、燃え跡を一瞥(いちべつ)してため息をついた。

「はぁ、失敗したわ。――全部、きっちり始末しとけばよかった」

 その言葉を聞いたユルナちゃんが、ミーヤちゃんに掴みかかる。

「あなたが! あなたが私達を攻撃したんですか!」

 掴まれたミーヤちゃんは、ニヤリと笑い返す。

「さっきはビビって気絶してたくせに、ずいぶん威勢がいいじゃない。――そうよ! 私が喰星樹を操って、貴方たちを攻撃したの! 恨むんだったら私を恨むことね!」

 一触即発の空気が走る。

 ユルナちゃん……こんなヤバそうな人形に掴みかかるなんて、プリミアちゃんのことを、大事に思ってたんだ……。

 ――わたしが、ユルナちゃんの大事な人を奪ってしまったんだ。

 罪悪感だけが、わたしの心を支配していった。


『お嬢様方!』

 テンちゃんが間に割って入った。

『とりあえず移動しよう。またいつ攻撃が来るかわからない。ユルナ嬢も落ちついて。プリミア嬢をこのまま地面に放置するつもりか?』

「…………」

「お嬢様方って、プププっ……なんなのテンちゃん、その呼び方」

『……うるせぇぞミーヤ! 俺は先にお嬢を運ぶ! 好きなだけやってろ!』

 そう言ってテンちゃんは、わたしとプリミアちゃんを布で包み、そっと浮かばせ鏡の中へ運び入れる。


「ぇんちゃ……あぃあお(テンちゃん……ありがと)」

『……ごめんな、お嬢』

 テンちゃん……謝らないで、わたしが悪いの。

 プリミアちゃんだって、わたしがしっかりしていたら助けられたのに……。


  生々しい火傷がゆっくりとカサブタの様に変わっていく。

 ――新しく生え変わるより時間がかかるみたい。

 そして、テンちゃんの優しい介抱(かいほう)に包まれているうちに、胸の奥の緊張が、ひとつひとつほどけていく。

 気づけば、心も体も、痛みからやっと解き放たれて……

 そのまま、すうっと静かな眠りへ落ちていった。


――ユルナside――


「まったく……テンちゃんは、メイジェちゃんのことになるとホント過保護ね」

 人形――ミーヤは、やれやれと肩をすくめて見せた。

「ちょ、ちょっと待ってください! あの女の子は、生きてるんですか!?」

 あの子、隊長よりも損傷(そんしょう)が酷く見えたのに……。

「メイジェちゃんは特別よ。死ぬことなんてないわ」

 ――特別? 死ぬことが、ない?

 何を言ってるの……。

「ど、どういう意味ですか? あの子はいったい何者なんですか?」

「メイジェちゃんは、私が(つか)わした“使徒”よ」

「はぁ?」

 ――つまり、自分が“神”だって言いたいわけ?

「信じてない顔ね」

 ミーヤは薄く笑う。

「“使徒”だの“神”だの……そんなの、航星帝国(こうせいていこく)がいくら支配圏を広げても見つけられなかった。

 無数の文明を支配しても、神の加護なんて誰も得られなかった。

 それなのに今さら信じられるわけ、ないじゃないですか……!

 もし神様がいるなら――隊長だって、あんな……!」

 言葉が喉で詰まる。違う……隊長が死んだのは――私のせい。

「リミィ……ごめんなさい……」

 小さな心の声が、涙と共にこぼれ落ちていく。

 ミーヤはわずかに口角を上げた。

「そりゃそうでしょ」

 冷たい声が胸を刺す。

「ここには、貴方たちの“神”はいないもの。

 “神”は星に宿る――つまり、いくら神に願っても、貴方たちの起源の星でしか、その加護を受けることはできないのよ。

 それなのに、自分たちの故郷を放り出して他の星を侵し、危なくなったら“助けて”だなんて……都合が良すぎるわ」

「…………」

 返す言葉が見つからない。

「でも――」

 ミーヤは一歩近づき、私の耳元にそっと顔を寄せた。

「この星の神なら、貴方の目の前にいるわ」

 吐息が頬をくすぐる。

「ねぇ……信じてみない? あたしを」

 そして、静かに――甘く(ささや)く。

「今なら、貴方の大切な隊長さんを……生き返らせてあげるわ」

 ぞくりと背筋が震えた。

 この人形が神なのか、悪魔なのかわからない。

 けれど……もし本当にリミィを取り戻せるのなら――。

「フフフッ、決まったようね」

 悪魔だって魂を売ってやる……。


――プリミアside――

 

 私はルブナ・ディール星域艦隊司令、ヴェル=ルブナ・エラリスを祖母に持つ、エラリス家の末端に生まれた。

 祖母はこの星――ルブナ・ディールと、その周囲の宙域を統べるエラリス領の統治者である。

 本来、航星帝国の貴族家に生まれた三女ともなれば、軍に入ったとしても最前線からは一歩引いた後方勤務が定められ、やがては縁談によって家を支える。それが「普通」だった。

 だが、私はどうしても祖母の背中に憧れていた。

 鋭い戦略眼と確かな指揮力、そして捕虜を人道的に扱う慈愛の精神。

 “剣と慈愛の乙女”――そう呼ばれた祖母の姿は、私の目に眩しく映っていた。

 才能では到底及ばない。

 魔力の蓄積量は一族の中でも群を抜いて少なく、頭の回転も人並み。

 それでも、祖母のように誰かを守れる人になりたい――ただその一心で、私は士官学校への進学を決めた。


 最初、祖母は渋い顔をした。

 けれど、最後には小さく微笑み、こう言ってくれた。

「今のルブナ・ディールは前線から遠い。危険は少ないだろう」と。

 ――あの言葉が、どれほど心強かったことか。


 そして、士官学校で出会ったのがユルナだった。

 入学初日、学生寮の同室に割り当てられた彼女は、箱入りだった私を放っておけなかったのだろう。

 訓練も、講義も、生活の細かなことまで、何から何まで気にかけてくれた。


 ペアを決める時、皆が“貴族の責務”を背負う私を避けていった。

 最後の最後にユルナへ声をかけたのは、正直怖かったから。拒絶されると思っていたからだ。

 でも彼女は笑って言った。

 『リミィは一人じゃ靴下も履けないんだから、私以外の人が面倒見きれるわけないでしょう?』って。

 ――あの笑顔、今でも胸の奥で温かく(よみがえ)る。


 初めて二人で宇宙へ飛び立った日のことは、昨日のことのようだ。

 ユルナが、あまりの景色の美しさに見惚れて定期連絡を忘れ、教官にこっぴどく叱られたっけ……。

 その時も、彼女は照れくさそうに笑っていた。


 士官学校を卒業してから、軍に入隊してもう三十年近く苦楽を共にした。

 お互い馬が合ったのだろう。何をするにも一緒だった。

 友として、家族よりも長い間一緒に過ごした。

 ――もう二度とユルナとあの煌めく宇宙を一緒に飛ぶことは出来ないのか……。

 そんなことを思いながら、私は目を閉じた。


 ――気がつけば、私は白い砂浜に立っていた。

 誰もいない静かな海辺。波が寄せては返すたび、耳鳴りのような音が胸の奥に響く。

 太陽がゆっくり、静かに沈みゆく夏の夕暮れが、人生の終わりを彷彿とさせる。

 ――ここは死後の世界……なのだろう。

「あっけないものだ……」

 実戦データを持ち帰ろうと欲をかいた結果がこれだ。

 『いつ墜ちるかわからない』と言われていたのに……。

 自業自得だな。

 ユルナには悪いことをした。目を覚ましたらきっと、私の死を自分の責任だと責めているに違いない。


 私は波打ち際に腰を下ろし、ぼんやりと海を見た。

「海か……本物の海を間近に見るのは、初めてだな」

 ステーション・ラムダの展望室で見た“映像”の海じゃない。

 どこまでも広がる、手の届く本物の海だ。

 初めて嗅ぐ潮の匂い、波のリズムが、やけに心地いい。

 そのリズムに誘われるように、過去のこと、残してきた人たちのことを思い出していく。

 両親のこと……、姉弟のこと……、祖母のこと……、部下たちのこと……。

 残された人たちは、どうか前を向いて生きてほしい。

 特に、ユルナには――。

 ――私のことなど忘れて、幸せになってくれれば……いい。


 気づけば太陽は水平線に接し、空の色もより赤を強くしていた。

「綺麗だ……」


「お隣、いいかしら?」

 不意に、すぐ(かたわ)らから声がした。

 驚いて目を開けると、いつの間にか一人の女性が立っていた。

 長い黒髪に、丈の長い黒のニットワンピース。

 色白で、神秘的でミステリアスな雰囲気――そして、乳がデカい。

 (……背の小さいユルナの方が、相対的に大きいな)

 そんな不謹慎な思考がよぎり、思わず苦笑する。


「あ、ああぁ。どうぞ」

 もの悲しさから、つい許してしまった。

 この女性も、私と同じように亡くなった人なのだろうか。

 静かに隣へ腰を下ろし、沈みゆく夕日を眺める。

 会話もなく、波の音だけが二人の間を満たしていた。


「貴方、心残りがあるのね?」

 太陽が半分ほど沈んだ頃、不意に語りかけてきた。

 その声は、波のように柔らかく、それでいて底の見えない深さを持っていた。

「……どうしてそう思う?」

 核心を突く言葉に、つい質問で返す。

「この砂浜には、そういう人しか来られないからよ」

 ――そうか、この女性は死神なのかもしれない。


「目の前に広がるこの海は、貴方のような迷える魂を、この星の“輪廻の輪”へと優しく導いてくれるのよ」

 そう言って、この場所の(ことわり)を語る。

「この海に入り、波を一つ越えるたびに、生前の記憶が少しずつ(さら)われていくの。つらいこと、悲しいこと、今の貴方が抱える心残り……、それが砂になってこの浜に残るのよ」

「……全てを……忘れるのか?」

「新しい人生には必要ないから。でも、ほんの一握りだけ……結晶になって魂の隅に残るわ」

 ――ほんの一握り、だけ……?

「頭のてっぺんまで浸かってしまえば、再び“輪廻の輪”に加わり、新しい貴方に転生できるの。 でもね、あの太陽が沈みきって夜になってしまったら、貴方の魂は消えてしまうわ」

 そう言うと、音もなく立ち上がり、私に手を差し伸べた。

「もし怖いのなら、私が一緒に行ってあげましょうか?」


 ――嫌だ……。

 心ではそう思っているはずなのに、体が勝手に差し伸べられた手を取ってしまう。

 そのまま、手を引かれて海の方へ――


「――ィャ……いやッ……イヤだッ……! 私はッ……私は忘れたくないッ!」

 泣きながら訴える私を見て、女性はわずかに口角を上げた。

「あら? 貴方、ユルナちゃんには忘れて欲しいと思っていたのに、自分じゃ忘れたくないのね?」

「イヤだッ! 忘れて欲しくない、私をずっと覚えていて欲しい。ずっとそばにいたい! 私を……一人にしないで……!」

「フフフッ、我が(まま)な子ね……いいわ、貴方の願いを叶えてあげる。このまま私に身を委ねなさい」


 太陽はすでに水平線の下に沈み、残光が最期の時を知らせる。

 女性の姿が大きくなり、抱きしめるように私の体を包み込む。

 意識が、そこで途切れた――。


***


 気が付くと、何もない明るい空間を漂っていた。

 すでに体はなく、光の玉のような姿になっている。

 ――ここは……? さっきの海とは違うみたいだ。

「あっ、来た! これ、プリミヤちゃん?」

 視界の端から、白髪の少女――メイジェが手を振りながら現れた。

 ――メイジェ⁉ そうか……彼女も死んでしまったのか……。

「ふぅ……素直な子でよかったわ。海に入られたら、私でもどうしようもなかったのよね」

 海で会った黒髪の女性も姿を現す。

 ――やはり死神だったのか……。

「? でもミーヤちゃん、プリミアちゃんのこと、海の中に連れて行こうとしてたけど、なんで?」

「だって、それが私の本来の仕事だもの。それに、私が無理やり連れ出しても、本人の意思が無いとこんな無茶は出来ないのよ」

 ――なに⁉この女性があの人形だったか! 年甲斐もなく泣きわめいて、恥ずかしいところを見られてしまった……。

 いや、そんな事より彼女は何者なんだ? ただの人形では無いことは重々承知しているが……この姿が本体なのか?


「へぇ〜、そうだったんだ。 よかった、これでプリミアちゃん、助けられるんだね!」

 メイジェの言葉が聞こえた瞬間、ミーヤが何者なのか、そんな些細な疑問は霧散(むさん)した。

「一応言っておくけど、“生まれ変わり”よ?」

 ――助かる⁉ 私は……助かるのか? しかもこの口ぶりから察するにメイジェも無事だったんだな?


「この子の依り代(よりしろ)を創ってあげないといけないから、その時は協力して頂戴」

「わかった、なんでも言って! わたし、頑張るから!」

「フフフッ、()()してるわ。ユルナちゃんにも伝えておいてね。貴方の“リミィ”は助けられるって」

 ――んなッ⁉

「“リミィ”?」

「ユルナちゃんがそう呼んでいたのよ」

「へぇ〜、可愛い呼び方だね。……なんかいいね、そういうの」

 ――ユルナのやつ! 恥ずかしいからプライベート以外では呼ぶなって言ったのに!


「いやぁ~夢の中で、いきなりここに来たから、てっきりわたし、死んだのかと思ったよ」

「驚かせてごめんね。でも、メイジェちゃん、罪悪感で押しつぶされそうだったから……早く知らせたかったの」

「ミーヤちゃん……ありがとう……」

 泣き出したメイジェを、ミーヤがそっと抱きしめる。

 ――そうか……私がメイジェを庇って死んだ事で、気を病んでしまったのか……。

 にしても、ミーヤはメイジェに対しては随分と柔和な態度だな。こうして見ると年の離れた姉妹のようだ。


「さて、そろそろ戻った方がいいわね。メイジェちゃんのマナだいぶ減ってるから、目が覚めたら外に出てマナを回収しないとね」

「わかった、何かあったらまた呼んでね。おやすみ――」

 メイジェは光の中へと消えていった。


***


「聞いてのとおりよ、リミィちゃん。貴方には、私の“使徒”として活動してもらうわ」

 ――使徒⁉ そんな話、聞いてないぞ! あと“リミィ”はやめろ!

「そうだったかしら?」

 ミーヤは軽く笑い、どこからか大きめの人形(全裸)を取り出した。

「とりあえず、新しい体ができるまで――この子で我慢してもらうわね♪」


 ――ん? この人形、私にそっくりだ……筋肉の付き方も……偉く精巧に作られているな。

「凄いでしょ? 地上にある私の人形と同じ作りなの」

 ――いや、凄いのは認めるが……人形じゃないとダメなのか?

「恒久的な体だと魂が定着しすぎるの。仮初(かりそ)めの(うつわ)の方が、後で調整しやすいのよ。……元の体に近い方がいいでしょう?」

 ――ああ、できる事なら元の体にして欲しい、丈夫さには自信があったからな!

「んふふっ、そうよね、その方がユルナちゃんも喜ぶだろうし」


 そう言って、ミーヤは私をヒョイと掴み、人形のお尻に――

「えっ、ちょっ、そこは――!」


 ずぶり。

 ――わっ! これ!どういう状況だ⁉ ねじ込まれてる⁉ そこは入る場所では無くて、出す場所なんじゃないのか?

「んー……ちょっとキツいけど……よし、入ったぁ!」

「…………」

「動ける? 声も出せる?」

 体を動かして……気づく。

「前後逆では⁉」

「ん!? まちがったかな……」

 そう言って私の股を覗き込む。

「なっ、何をするんだ! 流石に恥ずかしいんだが⁉」

「ア!ナルほど、向きがあったんだ! ちょっと一回出すわよ?」

「ちょっと!そこッ!指でホジホジしない! 絶対どこかに出るための機能が有るから! トリセツ読んで!」

「いや大丈夫、もうちょっとで(つま)めそうだから」

「絶対爪を立てて摘む気だろ! やめろ!毛を抜く感覚で魂を抜くんじゃない!」

 叫んだ瞬間、スルンと抜かれ、そして――また突っ込まれた。

 ……乙女として、何か大事なものを失った気がする。


「オッケェェェーィ! ほんじゃあ、新しい体が出来るまで()()()で待ちましょうか♪」

「……頼むから服を着せてくれ……」

「仕方ないわね……はい、スク水」

 抵抗もむなしく、流れるような手つきで“スク水”とやらを装着され、私はミーヤに小脇(こわき)に抱えられて、どこか別の空間へと運ばれていった――。

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