表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

ミーヤの胸の内

 ――ミーヤside――


「まさか、メイジェちゃんが“きゅうりのサンドイッチ”にあそこまで飛びつくなんて思わなかったわ」

 テンちゃんが用意してくれたサンドイッチは種類が豊富だったのに、その中からあえて“きゅうりのサンドイッチ”を選ぶなんて……なかなか通ね。

 私は断然カツサンド派ね。甘めのソースにたっぷりのカラシこの組み合わせがたまらないの。カツの旨味もキャベツのシャキシャキも、パンのふんわり感も、全部が見事に調和してるわ。しかもテンちゃんは、カツの片面にだけソースを塗るのよ。そのおかげで衣のサクサク感がちゃんと残っていて、食感まで完璧なの。

「“きゅうりのサンドイッチ”こそ至高!」

『ハっハっハっ! お嬢、そんなに気に入ったか!今度はアレンジを加えて、“きゅうりのサンドイッチ”オンリーのご機嫌なランチを用意するぞ!』

「やったー!」

 テンちゃんはメイジェちゃんに甘いわよね……まあ、あんなに嬉しそうにサンドイッチを抱えてる顔を見せられちゃったら、私だって何も言えなくなるけど。

 さて、腹ごなしも済んだことだし――チュートリアル、再開といきましょうか。


「ねえねえ、そういえばテンちゃん。森で戦った時って、何を飛ばしていたの? ズィン!ズィン!ってすごい音してたけど」

 たしか、メイジェちゃんを襲った魔獣たちを、テンちゃんがボコったって言ってたっけ。

「私も気になるわね。飛ばしてたってことは……飛び道具かしら?」

『ああ、あれね』

 テンちゃんが袖を振ると、“収納”からメイジェちゃんの手のひらに何かをぽとりと置く。

「これ?……なんか“ちくわ”みたいだね」

『“ちくわ”かぁ。お嬢がそう言うなら“ちくわ弾”って名前にするか』

「メイジェちゃん、私にも見せてちょうだい」

「いいよ、けっこう重いよ」

 受け取ってみると、確かにサイズのわりにずっしりしている。

「形状は中空円柱、直径二〇ミリ、内径一〇ミリ、長さ六〇ミリ、重量は約六〇グラム。 先端は黒く光沢を帯びた金属製……これは銅かしら? 中央から下にかけては、白っぽい陶器のような質感ね」

「どうやって使うの?」

『収納の中に電磁投射砲(レールガン)を再現して、そこから発射しているんだ。 そんで“ちくわ弾”の穴にはマナを詰めてあって、燃焼させると曳光弾みたいに弾道が光る。音が鳴るのは形のせいだな』

 これだとテンちゃんしか使えないわね。

 とりあえず、どんなものか見せてもらいましょう。

「実際に見せてもらってもいい?」

 私は魔法で土壁をこしらえる。

『おっ、いいぞぉ!』

 テンちゃんが袖口にマナを収束させ、“ちくわ弾”を放つ。

 “Zing(ズィン)!”

 独特な風切り音を響かせて飛んだ弾は、土壁に深々と突き刺さった。

「あらあら、ずいぶん威力があるわね」

『でもな、でかいクマの魔獣には致命傷を与えられなかったぞ?』

「この弾が通らないなら魔法で強化していたのかもしれないわね」

『身体強化ってやつか? 厄介だな。まぁ、他の魔獣にはちと過剰だったけどな』

「なるほど……使い勝手が悪いのね」

 何か代用できるものはないかしら。そう思って見回すと、マナの樹に(みの)ったカカオが目に入った。

「ちょっともらうわよ~」

 モギンッ!

〈オ゙ぅフっ♡〉

「…………」

 躊躇(ちゅうちょ)なくもぎ取ると、マナの樹から色っぽい声が聞こえたけど無視!

 普段はまともだから忘れてたわ。この子、燃えたときに(へき)が目覚めたドМだったわ。

「ミーヤちゃんお腹空いたの? さっきお昼ご飯食べたでしょ?」

「ちがわい! “ちくわ弾”の代わりにできないかと思ったのよ」

『カカオで?』

「テンちゃんみたいに電磁投射は出来ないけど、中身の濃縮マナを燃焼させて飛ばす事ならできると思うけどわ、やってみないと分からないけどね」

 モギンッ!

〈オ゙オ゙ぅフっ♡〉

 モギンッ!モギンッ!

〈オ゙オ゙オ゙オ゙っ♡〉

「…………メイジェちゃん、あんまり採っちゃダメよ」

 メイジェちゃんとテンちゃんは、マナの樹の声が聞こえないんだったわね……。

「そうなの? でも採ってほしそうに揺れてるよ?」

 ユサユサ♡フリフリ♡

〈お嬢ちゃん……いいもぎっぶりだね……ハァハァ、こっちの実も、もいで欲しいな……ハァハァ〉

「…………(うわぁ)」

「マナの樹さん、なんか言ってるの?」

「“イタい”って言っているわ(大嘘)」

「そうなの? ごめんなさい、マナの樹さん」

〈チッ!〉

「…………(黙レ!()ルゾ!)」

〈ひぇッ〉

 待てよ……マナの樹達って思考を共有してるんじゃなかったっけ?

 いや大丈夫、この子だけよ!きっと、多分……Maybe(メイビー)……。


「……じゃあ、やってみましょうか!」

 カカオをひょいと空へ放り投げる。

 ヘタの部分から濃縮マナを燃焼させると、ピンク色の煙を曳いて空高く舞い上がった。

「わっ、煙がピンク色なの可愛いね!」

『おお、匂いもチョコレートだな』

 形がいびつで真っ直ぐ飛ばないが、ヘタをグリグリ動かし、無理やり軌道を修正する。

「おっ、これ……! いける! 操作できるわ!」

 左右に軌道を変え、確かめるように飛ばしてから空中で自爆。

 散弾のように四方へ飛び散ったカカオ豆が、次々と小さな爆発を連鎖させる。

「爆発もピンク色だ!」

『誘導弾だな……』

「集中すればちゃんと誘導できるわね。形を整えればもっと簡単に操作できるはず。これならメイジェちゃんでも扱えるわ♪」

「でも、もぎるとマナの樹さん、痛いんでしょ?」

「…………そうだったわね」

 まぁ、マナの樹が自衛として撃つぶんには、十分アリかもしれないわ。



「防御、攻撃ときたら……次は素早く動く方法かしら?」

「わたし、空を飛んでみたいな!」

 メイジェちゃんが元気よく答える。移動手段としては、やっぱり空を飛ぶのがいちばん効率的よね。

『お嬢、俺を着れば、どこへでも飛んで行くぞ!』 

「でも、“還元”を使うとテンちゃん穴だらけになっちゃうよ?」

 あっ、メイジェちゃんに説明するの忘れてたわ。

「その心配はいらないわ。私とテンちゃんは、メイジェちゃんに“還元”されないから。着ていても大丈夫よ」

『ヨッシャァっ‼ 他の服どもにお嬢は渡さん!!』

「「…………」」

 ……テンちゃん、独占欲強めのタイプかも?

「まあでも、メイジェちゃん自身も飛べるようになっておいた方がいいと思うわ」

「じゃあ、わたしが飛べるようになったら、一緒にピクニック行こうね♪」

『それ! イイな! お弁当用意してピクニック!』

 さすがメイジェちゃん、テンちゃんの扱い方がうまいわ……。


「テンちゃん、空を飛ぶってどんな感じ?」

『えッ!俺は気付いたら飛べてたからな……、どんな感じって聞かれてもなぁ』

「ミーヤちゃんは?」

「うーん……“水の中を泳ぐ”って感覚が近いかしら」

「……水……? うーん……泳いだことないしな……」

 メイジェちゃんは腕を組み、じっと空を見上げる。

 しばらく唸り声だけが漏れ、浮かぶイメージが掴めないみたい。

「ちょっと考えてみる、ちょっと待ってて」

「慌てなくていいわ。今までが順調すぎたくらいなんだから」

『……じゃあ、お嬢が感覚を掴むまで、ちょっと見守るとするか』

 メイジェちゃんはその場に座り込み、目を閉じて想像を巡らせ始めた。

 その隙に、テンちゃんがふわりと私の方へ寄ってきて、ひそひそ声で話しかけてきた。


『お嬢の名前付けるの、ずいぶん焦ってたみたいだな。よかったのか?神の名をそのまま名前に付けて』

「そうね、実際かなり焦ってたわ。でも、メジェド神はこの星の神じゃないから大丈夫よ」

『そうか? ……真名をもらってから、お嬢がちょっと変わった気がするんだが?』

「それについては、どんな真名が付いても多少はその名に引っ張られてしまうのよ。いっそのこと“ミーヤ”って名前にして、同志として迎えてあげた方がよかったかしら……」

『“メジェド”イイナマエダヨナー、強イ!カッコイイ!ナンバーワン!』

 そこまで拒絶しなくてもいいじゃない……。


「…………。それに、ある程度“格”のある名前じゃないと、いざという時あの子の力を縛れないわ」

 私の答えに、テンちゃん首をかしげるような仕草。

『縛るって、お前、神だろ? そんなことしなくても余裕だろ?』

「何言ってるの。 メイジェちゃんはもう、神の領域に届きかけているのよ?」

 テンちゃんの袖が驚いたようにピンと跳ねた。

『なに⁉』

「テンちゃんだって『お嬢が邪神になりそうだった』って言ってたじゃない。邪神だって“神”よ?」

『ああ……確かに言ったけどよ……』

 きっと、感覚的にわかっていたのよ。 同じ魂を分け合い、同じ時間をずっと過ごした仲だもの、そういう繋がりは誰よりもずっと強いはず。

『でも、なんでそんなことになってるんだ?』

 そこで私は、軽く肩をすくめた。

「マナの保有量が異常なのよ、もともとマナの器は大きかったけど――」


 初めて出会ったとき、メイジェちゃんは地球の神である姉上と瓜二つの姿だった。つまり魂以外は神そのもの。

 あの時、私は慌てて彼女の容姿を姉上から離れるように変え、弱体化を図った。しかし再会してみれば、器は以前よりさらに大きくなっている。理由はやはり――

「……石化の影響かしら」

『石化の影響なのか?』

「本来、メイジェちゃんの体は濃縮マナを自ら生み出すようにはできていないの。他の生物と同様に、濃すぎるマナは外に出さないと破裂するわ」


 フフフッ、本当は破裂する前に過剰なマナは“おちんちん”から出るから心配ないんだけどね♪

『でも現にお嬢は濃縮マナを作ってるぞ?』

「そこにあの石化魔法が絡むの。あの魔法、ただ単に対象を石化させるだけじゃなくて、現状を維持させる――つまり延命のための魔法なの」

『ほぉ』

「体は破裂したくても石化の影響で出来ない。だからマナを濃縮して対応した……それでも足りないからマナの器を拡張させ続けた。こんなところかしら」


 はぁ~(クソデカため息)、ただでさえマナの器が大きいのに濃縮までされたんじゃあ、満タンになって(あふ)れるまでどれだけかかるのやら……。

『そうだったのか……』

 テンちゃんはやれやれと短く息を吐き、両袖を組んだ。私もつられて視線を地面に落とす。

「あと、この星に来てかなり信仰されてたんじゃないかしら? 人々に神格化されればそれだけでも神に近づくわよ?」

『信仰か……、確かに信仰されていたかもしれないな。なにせ、お嬢の母乳――』

「ミルキィドロップよ」

『んッ?なんだそれ?』

「メイジェちゃんの母乳の名前」

『…………、そのミルキィドロップだが、皮膚の病気とか火傷の跡なんかを一瞬で治すぐらいのすごい効果があるんだよ。それ目当てに海を越えてわざわざ来た奴らもいたぐらいだ』

「へ、へぇ~」


 あ~あ、考えないようにしてたのに、吸いたくなってきたわ……。

 調査の結果、ミルキィドロップには治癒能力と多幸感を与える効果があると、この身をもって確認した。

 治癒能力は塗布すれば患部へ、飲めば内臓へ作用する。さらに高い栄養価を誇り、三〇〇ミリリットルで一日分の栄養をまかなえる――まさに完全栄養ドリンク。

 そして何より、飲んだときの多幸感! あれはもうヤバい! 脳内を幸せ成分が駆け巡り――母の愛に包まれるような、あったかくて、とろけるような安心感……!

 気づけば心の奥底まで「よしよし」って撫でられてる気分になって、涙まで出てくるんだから!

 …………夜中に、こっそり吸い付いちゃおっと♪


『他にもこれだ――石像だったお嬢が載せられていた銅製の台座だ』

 テンちゃんは収納から、私の手の平に台座のミニチュアを置いた。

「器用ね。この銅、“ちくわ弾”の物と同じ?」

『そのとおり、“ちくわ弾”の材料はこの台座さ』

「これただの銅じゃ無いわよね?」

『お嬢のマナが浸透して別物になってる。この台座がお嬢から放出されるマナをほとんど吸い取っちまうんだ。そのせいで、こっちはロクに供給を受けられず、ただの布切れ同然だったってわけよ』

 テンちゃんは袖で台座の下を指した。

『人間達は台座下の地面を掘って、そこに寝っ転がる事で台座を通して出るお嬢のマナを浴びて病気を治していたのさ』

「なるほど、この台座自体が治療器具みたいな物なのね……ッて、この形状……この下に寝たらメイジェちゃんの大事な所丸見えじゃないの!」

『しかも効果は抜群。高額なお布施を払って藁にもすがる思いで皆この治療を受けに来るんだ』

「はぁ……これなら信仰されて当然よ」

 人間達はメイジェちゃんを上手く利用していたみたいね……。

『でもな、お嬢にはかなりのストレスだったんだ。考えてみろよ、毎日ベタベタ触られたり、いやらしい目で見られたり。逃げも隠れも、文句を言うことすらできなかったんだぜ?』

「そうよね……いくら弱体化させた()()()を持っていても、元はヒトの魂……耐えられるはずないわ」

『……何だか聞き捨てならない単語をサラリと吐いたな、弱体化させたなんだって? おまえ何か隠してるだろ!』


 グキッ‼ 私としたことが! よりによって一番触れられたくないワードを……!

 いや、落ち着けミーヤ。神の器のことも、姉上のやらかしのことも……絶対にバレてはいけない!

 とくに姉上のやらかしだけは――!

 前世のメイジェちゃん達の死の原因が、姉上がSNSにアップした裏アカ エチエチ チラ見せ 裸半纏(はだかはんてん) 自撮り画像だったなんて、口が裂けても言えない!

 あの画像は完全にアウトよ!

 承認欲求こじらせて、画像に神力まで盛っちゃって……そりゃ死人も出るわよねぇ。

 そのせいで、あの子たちは「神が手を下した存在」になってしまい、地球の輪廻から外れてしまったのよ。


 本来、神が手を下した魂は消滅させられるものだけど、その過程で詳細が上神に報告されるせいで、姉上の愚行まで丸バレになってしまう。

 だから私が秘密裏に引き取ったんだけど……。

 きっと姉上の事だから、何にも知らずに「お主、テクノブレイクで死んだのか? なら来世はお主が最期に“おかず”にしたおなごの容姿にしてやろう!」なんて言ったに違いないわ!

 テンちゃんのデザインだって、あの画像で姉上が羽織っていた半纏と同じデザインだし……。


 器が大きいことは今さらどうにもできないし、使命に役立つからとりあえず良しとして、メイジェちゃんの魂まで神格化してしまったらマズイわ!

 新しい神を誕生させたとなると経緯調査が入って、姉上の愚行も露呈して、私だって罰せられるかもしれないんだから……!


 …………まてよ……もしかして、姉上も母乳が出るのかしら……ムホホッ、こんど会ったら確かめてみなきゃ♪

『ひぇっ……なんだ? いきなりニヤニヤして……コワっ……』

 あらいやだ、顔に出てしまったかしら?

 そんな事より何とかしてテンちゃんの気をそらさないと――


「みて!テンちゃん!ミーヤちゃん!飛べた!」

 振り向くと、つむじ辺りの髪を高速回転させ、メイジェちゃんがふわりと宙に浮いていた。その高速回転に何の効果があるのかは謎だが、本人は得意げだ。

『おおぉッ! 凄いぞお嬢!』

 ナイスタイミング、メイジェちゃん!このまま有耶無耶(うやむや)にできそうね。

 一度でも意識が外れれば、こっちのもんよ!

 声に魔法をのせて――

「テンちゃま、この台座のミニチュア少しばかりお借りしていきますわぁ、神として、この変化した銅に危険がないか調査しないといけませんの。メイジェちゃまの事よく見ていてくんなまし!」

『おいまだ話は終わってねぇぞ‼』

「ごめんあそばせぇ!オホホホ……」

 フッフッフッ、完璧!これですぐに忘れるわ♪

 こうして私は、テンちゃんの疑念を華麗にスルーし、調査という名の遁走(とんそう)を果たした。


 さて、そろそろ宇宙人のお客さんが来そうだし。おもてなしの準備をしないとね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ