プロローグ
目が覚めると、何もない明るい空間を漂っていた。
夢うつつのまま一点を見つめる。体は動かず、視線も動かせない。呼吸も……していない?
「あっ、来た来た!」
耳に届いたのは、落ち着きと安心感を帯びた女性の声だった。やがて声の主がわたしの視界に入る。
背が高く、やや癖のあるボリュームたっぷりの黒髪ロング。寝不足なのか目の下にはクマがあり、その瞳は紫を帯びた暗い青色をしている。
神秘的でミステリアスな容姿にもかかわらず、彼女は紺色のジャージを見事に着こなしていた。そして――乳がデカい。
その女性はわたしの顔を見た瞬間、ぴたりと硬直した。
「これはちょっと……マズいわね……」
そう呟くと、何もない空間に光る板を出現させる。
「年齢を低くして、目も垂れ目に――」
ぶつぶつ言いながら、光る板を指で操作している。……もしかして、わたしの容姿を弄ってる⁉
「あっ、そうだ。自己紹介しておくわね。私はミーヤ。貴方の転生先で神をやってるわ、よろしくね」
にっこり笑うミーヤ神。その背に後光が差して見える。ずいぶんノリの軽い神様だ。
あっ、はい。ミーヤ神、よろしくお願いします。
転生……そういう流れか。
前世の最期は――と記憶をたどろうとしても、自分自身に関することはまったく思い出せない。
知識や読んでいた漫画、小説、映像作品の内容は、おぼろげに思い出せるのに。
そういうものか……。
「そういうものよ。新しい人生だもの、思い出も新しく作ればいいわ」
意思疎通できた……?
「神ですから。――あ、時間がないから軽く説明するわね。貴方には私の使徒として、私が管理する星に降りてもらうわ」
使徒……? わたしが?
「そうよ。貴方には“マナ”の管理をしてもらうわ」
“マナ”の管理?……“マナ”って何?
「まぁ、その辺は追々。……よし、我ながら可愛くできたわ。ふふっ、妹ができたみたい」
ミーヤ神が光る板を消す。どうやら、わたしは可愛い女の子の姿になったらしい。
でもどうして容姿を改変したんです?
「え……⁉ 知らない方がいいこともあるわ」
動揺してる……何か隠してる?
「…………」
まぁいいか、可愛くしてくれたのなら。
「……そうだ。この半纏、貴方のマナを供給すれば使えると思うから渡しておくわね。きっと役に立つわ」
ミーヤ神は半纏を広げて見せてくれる。
蘇芳色に銀鼠の麻の葉模様が映える、特徴的な半纏だ。
……なんで半纏なんだろう?
「この半纏には“収納”機能があって、必要な物が入ってるから到着したら確認してね♪」
そう言ってミーヤ神は、半纏をわたしに着せてくれる。
んッ? 半纏って上着だよね? 全裸で半纏っておかしくない? 風邪ひいちゃうよ?
「大丈夫よ。貴方は病気にもならないし、死ぬこともないから安心して」
……さらっとすごいこと言ったね?
その時、どこからかドアを叩くような音が響いた。
『ミーヤ様‼ 居るのはわかってますよ! 出てきなさい‼ 許可なく使徒を地上に送ろうとしてますね!』
…………。
「…………じゃあ、早速行きましょうか!」
いやいや、駄目でしょ⁉
「少し前に神託を出しておいたから大丈夫よ。きっと歓迎してくれるわ」
そういう意味ではなくて!
「あっそうだ! あぶない、忘れるところだったわ」
再び光る板を取り出し、ポチポチ操作すると――下半身に妙な違和感が……。
「ふふっ……よく似合ってるわ。やっぱり可愛い女の子にはおちんちんがあるべきよね~♡」
ちょっと! 何してくれるんじゃワレ‼
「じゃッ、いってらっしゃーい」
眩い光がわたしを包み、強い眠気がわたしの意識をさらっていく――