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明日、君に会いたい  作者: 小槻みしろ/白崎ぼたん


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第42話 「ボッチ」


 一瞬の静寂。

 オージはマオに向き直る。そして、


「ああ」


 と、マオからボールを受け取った。そうしてパス練を始める。

 ユーヤは、がく然と目を見開いた。ボールを取り落としそうに、ふるえていた。

 三者の様子を、周囲の生徒達もさりげなく脇見をしていた。

 意外、そんな空気に満ちていた。これには隼人も同じ気持ちだった。

 いままで、どんなに険悪でも、オージはユーヤ以外とペアを組まなかった。ユーヤがどんなに邪険にしても、他の生徒達とペアを組みたがっても、相手を威嚇してでもオージはユーヤを連れて行った。


『離せよ、人さらいー!』


 ユーヤの怒りと嬉しさ半々の声が呼び起こされる。

 この喧嘩は、相当根深いぞ。隼人は寒くなった。

 ユーヤは、顔を俯かせ、ぶるぶるとふるえていた。あまりに痛ましい様子は、義侠心をわきおこさせた。しかし、自分が声をかけたら絶対殴られる未来もわかるので、そっと下がった。

 すると、ケンがこちらに向かって歩いてきた。

 助かった! という思いがわき起こる。

 ユーヤもケンに気づき、気分を持ち直したようだ。ふふんとマオやオージ、ついでに隼人を嘲笑い、笑顔でぴこぴこ揺れながらケンを出迎えた。

 隼人はもうその場を離れ、準備体操を余分にしていた。

 なので、ケンがずんずんとユーヤの脇を通り過ぎ、隼人の襟首を掴んだとき、飛び上がらんばかりに驚いた。


「うわっ!」

「うっせーな」

「な、なな何?」

「ボッチのからあげは、組むやついねーんだろ? 組んでやるよ」


 ケンが、犬歯を見せて笑う。隼人はぽかんと口をあけた。――なんで俺? 一ノ瀬くんと組むんじゃないのか?

 浮かんだ疑問で表情を固めたまま、隼人はケンを見上げていた。ケンは焦れたように、「文句あんのか?」と威嚇してきた。


「い、いや……」

「なら早くいくぞルァ」


 ぐいっと首をホールドされ、連れて行かれる。すれ違う生徒たちが、皆、何事かと、隼人とケンを見ている。その中に、ユーヤの能面のような顔もあった。


「ぷっ、からあげ以下とか」


 マオの嘲笑が、やけによく、あたりに響いた。隼人がぎょっとしたのと、ユーヤが顔を羞恥と屈辱に燃やしたのは、ほぼ同時だった。涙に濡れたその目が、縋るようにオージに向かう。オージはユーヤの刺すような視線をとらえ――そしてそらした。


「おい、行くぞからあげ――」


 ケンがどこか気まずげに、隼人を急かした時――


 バアアアアアアアアンッ!


 すごい勢いで、ボールが叩きつけられた。

ユーヤだった。両腕で振りかぶって、投げたらしい。投げ終わった姿勢のまま、息をついていた。

 ボールは、ワンバウンドして、オージとマオのもとへ飛んでいく。マオは、ふんと鼻で笑って、それを遠くへ弾き飛ばす。


「なにしとるかー?」


 川端先生の間延びした声が、わって入った。マオはそ知らぬ顔で、「フジタカ、行くよー」とトスを上げた。オージは応える。ユーヤは震えながら、体育館を飛び出していった。


「おい、行くぞってんだろ」


 ケンに引っ張られる。隼人は思い切り、ケンを突き飛ばしていた。

 ケンが目を見開き、「何しやがる」と凄んだ。隼人は睨み返す。


「組みたくない!」

「はァ?」


 ケンは一瞬ぽかんとしたが、言葉の意味を理解すると、怒りに顔をゆがめた。


「ふざけんな、人がせっかく――」

「嫌がらせのために誘われても嬉しくないよ! よくも利用したな!」


 屈辱だった。ひとりになる悲しみは自分が一番わかっている。なのに、こんな卑劣なことに加担させられた。


「ちが、俺は――」

「話したいって言ってたくせに! 一ノ瀬くんだって待ってたよ!」

「うるせえ! こっちの事情、わかってんだろーが!」

「知らないよそんなの! 支倉くんの嘘つき、ちゃんとしたいって言ってたくせに!」


 隼人はケンに背を向け、駆け出した。


「一ノ瀬くん!」


 体育館を出て、あたりを探し回る。午後の白い陽光が、隼人をじりじりと照らした。すぐに肌がほてり、汗がにじんでくる。

 なんでこんなことを自分がしてるのかわからない。仲間外れなんて、卑劣な真似に加担させられたのが許せない。

 ユーヤのことは、自分が一番怒っていると思う。けれど。

 ユーヤの呆然と傷ついた顔が、頭から離れない。

 自己弁護、自己満足、そんなものが頭によぎる。けれども、自分は。


『ボッチ!』


 自分がひとりのとき、マオたちとからかってきたのは、間違いなくユーヤだった。でも、だからこそ。

 自分は笑いたくなかった。でなければ、いつまでも、きっと。

 ひとりだった自分が浮かばれない。




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