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貧乏バンドマン、労働を嫌う

作者: 山下 隆

タカヒロは26歳で、プロを目指すアマチュアバンドのギター・ボーカルだ。


彼は会計事務所の正社員として働き、余暇で音楽活動に励む。仕事は嫌っていたものの、4年続けていた。


彼は、憧れるバンドマンの生き方を模倣をして、プロになる夢を持っている。高校時代、軽音部の新規設立に苦労していた時、あるバンドの曲に勇気をもらった。ボーカルのカリスマ性と歌唱力に魅了され、ずっと憧れを持っている。

 

タカヒロには後先考えず、その場の熱で衝動的に行動する悪い癖があった。

 

俺はプロを目指しているんだ。バンドに専念するため、仕事を辞めるぞ!


彼は仕事を辞め、バンド活動に専念した。


練習やライブに加え、作曲の役割も担っている。


心配性でくよくよ悩むのが癖で、仕事を辞めた途端、ひたすら不安が募るようになる。

 

明日のライブ成功するだろうか?

客はどれくらい来るか?

グッズが売れない。

俺達の将来はどうなるのか?

貯金が尽きたらどうしよう。

 

将来へのきりのない不安とプレッシャーが溢れてくる。


タカヒロは酒に溺れた。


きっかけは、活動資金のことを考えると緊張して、作曲のパフォーマンスが落ちたことだ。飲めば緊張が和らぐ。


酒で乗り切ればいいんだ。酒を飲めば気が楽になる。嫌なことは忘れてしまう。

  

メンバーからは金を借りたり、飲んだ挙句、知らない駅に一人でいるところを迎えに来てもらったりした。新曲作曲にも手が付かず、信頼関係は無くなった。


「新曲?悪い、インスピレーション待ち。許して。」


メンバーは見透かしている。

 

「一日中飲んでて何も考えてないだけだろ。分かりきってるんだよ、いい加減にしろ!」


決定的だったのは、酔った勢いでライブハウスの機材を壊したことだ。彼は弁償代としておおよそ自分の生活資金一年分の借金を負った。


「ごめん、後で払うから、君たちとりあえず、肩代わりして。」


メンバーの怒りは頂点に達した。

 

「ふざけるな!バンドから出ていけ!」

  

彼はバンドから追い出され音楽活動を中止する。


なけなしの金で居酒屋に行き、飲んだくれていると、会計事務所時代の同僚に出会う。良い仕事仲間としてコンビを組んで働いていた。バンドに専念してからはすっかり疎遠になる。


「タカヒロ、バンドはどうだ?今はバイトでもやってるのか?」


「ずっと働いてないね。バンドでは僅かな収入はあったけど、もうクビになったよ。酒に頼りすぎてトラブル続きでね。音楽は諦めたし、金も尽きた。この有り様だと、新たにバイトができるモチベーションすらない。」


「酒だと!お前はそもそも無職、低収入のプレッシャーに長期間耐えられるようなメンタルは持っていないだろ。人それぞれに応じたスタイルがある。やり方が間違ってたんだよ。今からでも遅くはない。バイトを始めろ!うちの事務所で仕訳入力のバイトを募集している。やってみたらどうだ。」


「そうだな。自分のことを分析もせずに突っ走った俺の間違いだ。」


タカヒロは、やっと大事なことに気付いた。好きなことで食っていくのは憧れではある。しかし、嫌いな仕事でも食っていけるスキルがあることがどれだけ貴重で救いになるのか。収入を得る手段があることは精神的な支えになるからだ。


俺は甘かった。バイトで生活を支えながらであれば、音楽活動はまた再開できるかもしれない。バンドに復帰できるかどうかは分からないけど、働きながら自分の音楽を続ける道を探っていこう。


タカヒロは酒と縁を切り、地道に自分の夢を追う決意をした。まだ、自信がないながらも手の届く希望を掴み、ゆっくりと歩みだした。


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