12.
◇
『カスミ、私は本気だから』
シグルド殿下の言葉が耳に残っている。
火照る顔に両手を当てて、ゆっくり深呼吸……。
シグルド殿下の気持ちを疑ってるわけじゃないけど、本当に私で良いのかな?
この間ルーシャに聞いたんだけど、魔力のこともあって、シグルド殿下はこれまで女性とは距離を置いた付き合いをしてきて、婚約などもしてなかったらしい。
魔法防御が得意なリアナさんはそんなことお構いなしにアプローチを続けていたらしいけど、シグルド殿下は取り合わなかったとか……。
気を許してくれて嬉しいけど、もし、もし、私の魔力もいっぱいになってしまう日が来たら、私達の関係はどうなってしまうんだろうって、考えてしまうことがあって、不安だったりして。
私達の関係以前に、私が魔力を溜められなくなったら、またこの世界の危機でもあるし……。
でも、魔力の器に人を召喚することはしないで欲しいし……。
私も循環と発散にも力を入れようと思ってるし、まだまだ溜められるらしいから大丈夫だろうけど……。
もし私が魔力の器じゃなくなる時がきても、大切に思ってくれる……のかな。
森の中の離宮には、ルーシャはついてきてなくて、静かな夜だけど、なかなか寝付けそうになかった。
◇
「カスミ、こちらはクレード伯爵夫妻。クレード領は王都の南東に位置し、魔導具の職人が多い領でもある。近年人口が増加傾向にあって……」
うん、覚えることが多過ぎてもうダメです……。
貴族の顔と名前だけでもって頑張ってるんだけど、それもあやしい……。
婚約した事を祝うために集まった貴族の人達が次々に挨拶に来る。
もしかしてこれ、結婚した時もあるのかなあと思いながら、必死で頭に叩き込んではいる。
今はシグルド殿下が居てくれるからいいけど、一人の時に遭遇して慌てるのは避けたい。
今日はこの後、ダンスも踊る事になっている。
この日のために必死で特訓して、何とか形になった……はず。
でも、緊張するー。