花邑杏子は頭脳明晰だけど大雑把でちょっとドジで抜けてて馴れ馴れしいがマジ傾国の美女【第2話】
花邑杏子から、ひっきりなしにラインが送られてくる・・・
「ねぇ今度ご飯一緒に食べましょう」
「いま何してるの?」
「おやすみって、毎日ラインしてーー」
はっきりいって、ウザかった。
あの牛乳瓶が愛の囁き?ちゃんちゃらおかしいわ!警察官が口説いてきてとかはどうした?
義範が寝る前にーー
「同じ会社に勤められるといいね。おやすみぃ。chu」
あいつーー知ってたのか。
大徳エンジニアリングを受験したのは、宇宙に飛ぶ人工衛星への憧れがあったからだ。しかし、凡庸な文系学生である義範には、ハードルが高すぎた・・・彼が解けた問題は、一般教養だけ。数式が絡む問題は全滅。こんな奴を、バリバリ理系の会社、大徳エンジニアリングが採用してくれるわけがない。幸いなことに、地元の運送会社に内定が決まっているので、そっちに行くことになるだろう。東京とも、あと3ヶ月ちょいでお別れだ。前倒しして、荷物を纏めておこうかな。あの牛乳瓶ーー花邑杏子はどうなんだろ?名前を書き忘れるくらいだから、成績も体たらくに決まっている。
「こらぁ~!返信せんかい!」
なんて、馴れ馴れしい奴!
あまりにもウザいので、ブロックしたーー
どうせ、大徳エンジニアリングは落ちる。余計な人間関係は形成しないほうがいい。
とは言うもののーー合否はとても気になって仕方がない。合格発表は二週間後。単位はあらかた取ったし、大学には行かず「絶縁!ヤギ娘」の世界に浸っていようーー
大徳エンジニアリング合格発表の日ーー
「等身大東雲うみちゃん抱き枕」を抱いて夢見心地の義範・・・
アラームがけたたましく鳴っているのに、起きる気配は全くない・・・
だめ押しのように電話が鳴った。しつこく鳴るのでこれには反応したが、寝ぼけていた義範は
「出前はやってませんよ」
と、言ってしまった。
相手はあの牛乳瓶ーー花邑杏子だった!
「バカ!今日は合格発表の日だろうが!早く起きろ!ゲス野郎!」
耳をつんざく大音量が。
寝ぼけているなりに、彼女は俺がラインをブロックしたのを根に持っているのは分かった。でも何故電話番号を知っているのか。
「番号案内で聞いたんだよ!」
ご丁寧に答えてくれた。
「とにかく、三十分後に駅で待ち合わせするぞ。もしスカしたら・・・若いの引き連れてお前ん家の玄関を破壊してやる!」
なるほど、そっち系のひとでしたか・・・こりゃ、急がなきゃ!!
「遅い!」
牛乳瓶ーー花邑杏子が既に待っていた。
「そんなこと言ったって、歯磨きする時間とかーー」
「言い訳無用!」
「はい・・・」
牛乳瓶にマスク姿だから全く迫力がないが、相手は極道の娘。
「よろしい。さ、行くぞ」
花邑杏子が腕を絡めてきた。
「あのーー」
「うるさい!」
「これはいかんせん、不謹慎なのではーー」
「私はいいのぉ!」
「はい、すみません・・・」
電車に乗っているときも、会場までの道のりも、花邑杏子は義範の腕にしがみついている。しかし、極道の娘に「ウザい!」とは決して言えない。お願いだ。早く時間よ過ぎてくれーー
会場に着いても、花邑杏子は腕を離さなかった。周りからはジロジロと見られ・・・
「あの、そろそろ離れてーー」
彼女はさらに強い力でぎゅっと腕に絡みつく。
「もしかして、不安なの?」
花邑杏子は小さく頷いた。
「だって、ここしか受けてないからーー」
無謀だなあと、義範は思った。
もし落ちたら、どうするつもりなんだろ?
「まもなく合格発表です。合格者は受験番号が記載されています」
担当者がメガホンで言った。
「きたぁ!」
絡みつく腕が震えていた。
絡まれた腕も震えていた。
二人とも緊張していた。
十一時ーー
合格者が貼り出された。
「あなた、何番?」
「175番」
「私は96番ーーあ、あーっ!」




