融通のきかない僕の話
尊敬する父さんが死んだ。死ぬ間際、父さんは僕を気がかりに思って、いくつかの言葉を送ってくれた。
僕は感動して、いつだって父さんの言った通りにしようと決めた。
父さんは、『胸を張って歩きなさい』と言った。
だから、僕はその通りにした。
すると、通りすがった不良たちが、気に食わないものでも見つけた様子で、僕を突き飛ばした。
僕はつまずく小石もない道端で、思いっきりすっころんでしまった。
父さんは、『いつも堂々としなさい』と言った。
だから、僕はその通りにした。
すると、不良たちは、苛立ったようで、尻もちついて動けないでいる僕のことをぼこぼこにした。
僕は情けなくて、気がついたら、母さんからもらった大事な帽子を剥がされてしまっていた。
父さんは、『人の言うことは素直に聞きなさい』と言った。
だから、僕はその通りにした。
不良たちは、小さな店を指さして、帽子を返して欲しかったら、あそこで万引きをしろと僕に言った。
僕は反対も言い訳もしないで、その通りにするために、店の中に入って行った。
父さんは、『嘘をついてはいけない』と言った。
だから、僕はその通りにした。
僕のどんくさい万引きの様子を見つけた店主が、何をやっているのかと僕を問い詰めた。
僕は正直な気持ちで、この店からいくつかの商品を盗みたいのだと言ったら、店主はかんかんになって、僕をひっぱたいて、お巡りを呼んだ。
父さんは、最後に、『悪いことをしてはいけない』と言った。
けれども、店主とお巡りにこっぴどく叱られている僕を見た、母さんは静かに泣いていて、
僕は、ついに父さんの言った通りにはできなかった。