8.初めての城下町
少女はその日、異様な空気を感じ取っていた。
「……」
「……」
最近は見慣れてきた昼食の風景のはずだが、今日は何故か違和感を感じる。
しかし、オルマスもエルナも普段と違った様子は見られなかったため、少女は自分の気のせいだということにした。
「そうだ、今日はお前に少し用事を頼みたい。」
オルマスは少女に一枚の紙を渡した。
少女がメモを開こうとするとオルマスはそれを制し、後で見るように言った。
(何だろう……)
食器を片付け、部屋に戻り外出の支度を始めると、ドアが叩かれ、エルナが入ってきた。
「少し、いいかしら?」
「はい、何かご用でしょうか?」
エルナはゴソゴソと何かを取り出し、少女に手渡した。
中を確認すると使用人に手渡すには多い量の金銀の硬貨がぎっしりと詰まっていた。
少女は驚きで顔を上げるとエルナはニコニコと笑っていた。
「余りはあなたのお小遣いよ。」
「いや……こんなにには、流石に……」
少女は一部を返そうとしたが、エルナはそれを拒んだ。
渋々ながらも受け取った少女を見て、エルナは満足げな表情をした。
「では、楽しんできてちょうだい。あまり、帰りが遅くならないように。」
「はい……」
――――――――――――――――――――――
「これが、魔王城……」
魔王城のすぐ近く、公的なオルマスの私邸にやってきた少女は魔王城を見上げていた。
メモ書きの通りに指定された時間にオルマスの書斎の扉を開けると、別の屋敷へと移動していた。
紙はすぐに燃え消え、少女は相変わらずの魔導士の格の違いに感嘆した。
数人の使用人たちにすれ違いながらも外に出ると、そこには馬車が待機していた。
「本邸からのお使いの方ですね。お待ちしておりました。オルマス様からご用件は伺っております。城下までは少し距離がございますので、お送りします。」
「よろしくお願いします。」
馬車が動き出すと、少女はしばらく車窓から見える景色を眺めていた。
貴族街から平民街へと向かう程に人気は増えていく。
多種多様な種族が行き交う街並みを、少女は目に焼き付けていた。
(こんなの、帝国ではありえなかったな……)
少女が暮らしていた国、ブラータ帝国は人間族による人種差別が国家規模で行われていた。
亜人族は勿論、森の守り手であるエルフたちや、神の使いの子孫とも呼ばれている天使族まで。
人間以外のありとあらゆる種族を迫害し、時には見せしめとして罪のない者たちまで殺されていた。
(思えば、今もなお帝国が他国に滅ぼされていないのが不思議なくらいだ。
無駄に軍事力だけはあるからな、あの国。)
「到着いたしました。」
思い出に耽っていると馬車が止まり、運転手の男が扉を開けた。
少女が馬車を降りると、目の前には大きな広場があり、屋台や出店がいくつか開かれていた。
「お迎えは夕方頃になります。」
「ありがとうございました。」
馬車が去っていくのを見届けて、少女はまずは仕事を済ませるため、歩き出した。
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