6.朝の日常①
「よし、これで大丈夫。」
少女は壁に立て掛けられた姿見鏡の前に立つと、全身が映るように数歩下がった。
黒と白のメイド服はシンプルだがエルナによって魔国の最新トレンドが取り入れられているらしく、古めかしくは感じられない。
「あら、もう着れたのね。うん、サイズもばっちりみたいね。」
スカートの裾をくるくると回して少女が遊んでいるとエルナがやってきた。
慌てて少女はスカートを正すと、エルナはフフッと笑った。
「その服ね、ずっとクローゼットの肥やしになってたのよ。だから、あなたが着てくれて本当に良かったわ。この屋敷、今まで私以外のメイドはいなかったから。いつか新しい子が来るって思って仕立ててたはいいもの、ずっと来なかったからそろそろ処分するところだったわ。」
「取っておいて良かったわ~」とにこやかに話しすエルナだが、少女の動きを止めるには十分すぎる発言だった。
(この広さの屋敷を1人で……)
少女は以前、暗殺対象の住む屋敷でメイドに扮したことがあるが、これほどの広さの屋敷であれば10~20人ほどのメイドを雇っていてもおかしくはないはずである。
「凄いですね……」
「オルマス様も、何度か新しい使用人を雇おうとしたのだけれどね。ほら、やはりオルマス様には敵が多いいから。それに……」
なるほど、と少女は思った。
エルナは言葉を濁したが、おそらくオルマスの地位を狙う輩からの刺客や機密情報を盗みだそうとした者などだったのだろう。
「流石に、夜中にオルマス様の寝室に忍び込んだ子が出てからあまり募集を掛けなくなったわね。」
「ああ……なるほど……」
遠い目をしていたエルナだったが、軽く咳払いをすると素早く表情を切り替えた。
「まあ、そんなことよりも朝食の準備をしましょう。そろそろオルマス様がお目覚めになるわ。」
「はい。」
少女は返事をすると、足早にエルナの後を追った。
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