5.そうして彼女は手を取った
「そうか。なら、何の問題もないな。」
「……え?」
オルマスがそういうと、少女は目を大きく見開いた。
眉をひそめている少女に対してオルマスは自信に満ちた顔をした。
「お前は別にここに居たくない訳ではないのだろ?」
オルマスの質問に、少女は息を詰まらせた。
少女は本当は理解していた。
自身が本当はここに居たいこと。
このまま、幸せを享受していたいこと。
本当は……。
(……得てもいいのかな)
「お前は自分が身勝手に子供たちを逃がしたと言ったが、それは違う。お前の判断は正しい。自分の弟子を、家族を守って何が悪い。お前は正しいことをしたんだ『灰姫』。」
「っ!なんで、その名を……」
『灰姫』というのは少女の暗殺者としての呼び名である。
しかし、ごくわずかの人間でしか知りえないはずの名を何故オルマスは知っているのか、少女は驚きを隠せなかった。
「知らないだろうが、俺は他人の記憶を見ることができる。本当はお前が話したことについても知っていました。」
「……え。」
少女は絶句した。
何事もないようにまっすぐこちらを見つめてくるオルマスの瞳に蹴落とされ、数歩後ろへ下がった。
途端に、激しく感情が雪崩込んできた。
(知られてた……知られてた、知られてた、知られてた、知られてた、知られてた、知られてた、知られてた、知られてた、知られてた、知られてた、知られてた、知られてた、知られてた、知られてた、知られてた、知られてた、知られてた、知られてた……)
だんだんと息が苦しくなっていく。
オルマスは小さく息を吸った。
「お前が欲しい。」
「っ!」
「お前が欲しい。俺は。」
ただ一言。
けれどそのただ一言にどれだけの重みが込められていたのか。
「お前のそれは強さだ。鎖に繋がれ、自由を知らなかったはずの人形が、自分の意思で、自分の守りたいものを守るため、正しいことをした。並大抵の者ができることではない。俺は、その強さが欲しい。お前のその、強さが。」
白い手が少女に差し出される。
オルマスは優しく微笑みかけた。
「俺の手を取らないか?」
――こんなの……
「取りたくなってしまうじゃないか……」
少女は、消え入りそうな声でそう言った。
白い手の上に、無垢な手が乗った。
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