2.魔法使いと暗殺者
先に動いたのはオルマスだった。
「土魔法『棘』」
地面が動いたかと思うと、土の棘が少女の足元に湧き出した。
少女が後方へ避けると、着地点からも土の柱が現れ、少女を襲った。
少女は足に集中的に身体強化魔法をかけると、柱を破壊した。
(さっきの魔法、土魔法に水魔法を組み合わせて強度を上げてる)
反動で木に打ち付けられた少女は体勢を立て直しながら、オルマスの使った魔法の精度に頭を悩ませた。
1つの魔法に別属性の魔法を同時に発動させ、組み合わせる。
未だに人類が成し遂げていない偉業を目の前の男はやってのけてしまった。
その事実に、少女は頭痛がした。
一方、オルマスも驚愕していた。
(あの攻撃を破壊したのか……)
通常、どれほど鍛えられた肉体を持ち、身体強化魔法に精通した人間でもいくつか内臓が潰れ、失神、もしくは死亡している程の威力は込めていたはずだ。
しかし、目の前の少女はなんともないように見える。
300年以上生きてきて、初めてのことだった。
((強い……))
木々のざわめき、夜の静けさ、微かな呼吸音。
「……」
「……」
ひらひらと、1枚の木の葉が2人の間に落ちると、2人は同時に動いた。
「風魔法•『刃』!」「身体強化魔法•『瞬足』」
少女は駆け出し、オルマスは無数の黒い風の刃を作り出した。
八方から飛んでくる刃を少女はひらひらと舞うように避けるが、刃は闇に紛れて少女の頬を掠めた。
微かに血が滲むような感覚と、痺れるような痛みを感じた。
(毒か……)
神経系の毒なのだろう。
少女はだんだんと指先の感覚がなくなっていくのを感じ、ナイフを左手の甲に突き刺した。
「っ……!」
特殊な加工を施したナイフを刺したせいで、指先から足先まで激痛が走ったが、そのおかげで麻痺を紛らわすことができた。
「草魔法『蔦』」
休む間もなく、今度は地面から太い根が吹き出してくる。
生き物のように動き回る根は、まだ毒の抜けきらない少女を絡め取った。
(これは、どうする……)
身動きが取れなくなった少女をオルマスは興味深そうに眺めた。
少女は蔦にナイフを突き刺してみるが、浅く切れ込みが入るだけですぐに再生してしまった。
(これは……)
無理だ、と少女は思った。
もう少し上背があれば切ることも出来たかもしれなかったが、残念ながら、少女には切ることができなかった。
故に、少女に残された手は1つだけだった。
「どうしますか、降参しますか?」
オルマスが悠々とした足取りで近付くと、突然、少女の身体が燃え出した。
「なっ!自死する気か‼︎」
蔦に燃え広がる炎を慌てて消そうと水魔法で水球を作り出したが、何故か少女が絡め囚われていた場所にはローブのカケラを残して何もなくなっていた。
「は?」「『変身』解除。光魔法•『槍』!」
オルマスの視界の端で、白銀の猫が一瞬で少女の姿になり、心臓を1突きにした。
「……勝ち?」
白いブラウスに広がる赤いシミを見ながら、少女は大きな違和感を覚えた。
殺した感覚がない。
少女が違和感の正体に気が付いた時には、少女は床に倒れていた。
「全く……本当に貴方は何者なんだ……私にこの姿をさせるなんて……」
蝙蝠の翼に山羊の角。そして、真っ赤な瞳。
「あく、ま……?」
少女は意識を手放した。
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