1.闇に潜む者
少女は埃が舞う屋根裏で息を潜め、そして、下の部屋から聞こえてくる話し声に耳を傾けていた。
板と板の隙間から下の様子を伺うと、犬のような顔をした騎士風の男と、資料に載っていた不鮮明な写真の男性、オルマスがいた。
2人の話す内容を理解はできなかったが、会話の多くは機密情報に準ずるものらしい。
(あ、私……)
ふと少女は普段の諜報活動のせいか、彼らの会話を記憶していることに気が付いた。
少女は苦笑し、改めてオルマスたちの会話に耳を傾け直した。
「――ですので、人員の補充をお願いしたく……。」
「昔からそうだ……。参謀部に人望がない訳ではないだろうが、やはり、皆前線で戦うことを望むのだろうな。
分かった、俺の方から人事部に申請しておこう。その方が、多少は融通が効く。」
「ありがとうございます、オルマス様。
では、私は本日はこれで失礼いたします。」
獣人の騎士がいなくなると、オルマスは小さく欠伸をした。
続けて眼鏡とネクタイを取り外し始めた。
(私には分からないけど、部下の前で尊厳を保つのって大変なんだろうな)
椅子の背に寄りかかるような形で座り出したオルマスを見ながら、少女は称賛を送った。
寝込みを襲おうと考えていた少女だったが、オルマスのデスクに積まれた書類の山を見てその考えを諦めた。
代わりに、部屋全体を観察した。
(この部屋じゃ、狭すぎるな)
なんとかオルマスを外にだそうと少女は屋根裏を見回した。
すると、少女は部屋の隅に猫の死骸があるのに気が付いた。
(あれを使うか……)
少女は心の中で猫に謝罪をしながら、死骸を手に取った。
――――――――――――――――――――――――――
「にゃーにゃー」
「うん?猫の声……?」
もうじき日付が変わろうとしていた時、オルマスは外から猫の声らしきものが聞いた。
バルコニーへと続く大きな窓から森の方を眺めると、森と敷地の境目辺りに金色に光る2つの目があった。
(この森で猫が生きていられるなんて……)
珍しい、とオルマスは窓を開け、バルコニーからゆっくりと地面に降下し、猫に近付いた。
オルマスは猫を撫でようと、手を伸ばした。
後ろで月明かりに照らされたナイフの刃が光った。
「死ね……」
「なっ……!!誰だ!」
オルマスが間一髪のところで避けると、少女は小さく舌打ちをした。
オルマスが触ろうとしていた猫はいつの間にか正気を失い、元の死骸となって地面に落ちていた。
(死霊魔法……気が付かなかった)
「中々良い腕をしている。だが、惜しいな。」
「……そう。」
少女はナイフを構え、真っ直ぐオルマスを睨んだ。
一方、オルマスの方もフードに隠れて少女の表情は見えていなかったが、睨みをきかせていた。
読んでいただき、ありがとうございます
・誤字、誤字等の報告がありましたら、宜しくお願いいまします
・感想も受け付けております