僕の桜な恋人と栞
僕には、3年前恋人がいた。
彼女は、まるで桜の花の様に綻ぶ笑いを浮かべる女性だった。
彼女の名前は、桜井 美桜。
僕は、この時初めて名は体を表すという言葉の意味を実感した。
だけど、ちょうど春が終わり桜の花が葉桜と移り変わる頃彼女は癌になって天国へと桜の花びらと共に飛び立ってしまった。
癌になる前は毎年2人で来ていた、桜が沢山植えたある公園へと僕は今一人で訪れている。
3年前の出来事のはずなのに美桜さんと一緒にデートした事を今でもはっきりと思い出すことが出来る。
けれど、この公園にはもうあの時のような輝きも鮮明さも何処にも見当たらなかった。
僕は、目の病気になった訳ではない
では何故かというと理由はもう分かりきっている。
それは隣で微笑む彼女がいないからだ…
ベンチに座ってぼんやりと桜を眺めていると、フワッと彼女の香りがした様な気がして、僕は必死になって彼女の存在を追いかけた。
「何やってんだろう。」とベンチに座りながら静かに呟いた後にふと手のひらを見てみると一枚、桜の花びらが乗っかっていた。
その花びらを見ていると無性に泣き出したくなり。
大の大人が公園で1人蹲りながら号泣してしまった。
僕は、家に帰るとすぐにその花びらを栞にした。
〜10年後〜
「おとーさん、これ何?」
「この桜の花びらが挟んである奴?」
「それはね、僕の宝物だよ。」
僕は彼女が亡くなって5年目の時、あの公園で出会った女性と結婚した。
その女性が、僕の気持ちを全て受け止めてくれたおかげで…
こんなに大切な娘に出会えることも出来た。
それでも、僕は彼女の事を忘れる事は出来ないんじゃないかなって思っている。
あの栞がある限り。