魔法師団長と騎士団長
さて、いろいろなことが転がり込んできたその日は、さすがにニシャとアンシュは休ませて明日陛下にチクろうと考えていた。
ふたりにはそれぞれ部屋を与え、シロナから夜ニシャの寝室に忍び込まないようきつく言われ・・・。(いや、さすがに夜這いはしねぇっ!!)
ねーね警備隊と称してわふわふちびっ子狼・ソラとシエルがニシャのベッドに派遣されることとなった。いや・・・さすがにその、しないからな?
夜は軽くごはんを作ってやり(※俺は料理男子であったりする)、さぁひと息つこうとベッドに入って・・・数時間後・・・。
「起きてください、ルドラさま」
「んぅ~~~?あれ・・・わふたんは~」
「わふたん双子なら今、ニシャさまのところでしょう」
アールシュにそう言われそうだったと思い出す。まだ眠たい体を無理矢理起こして枕元のふわもふわふたん抱き枕を引き寄せぎゅむ~する・・・あれ、アールシュの横にラーヒズヤまでいる。
「ん~?ラーヒぅゃまでいうぅ・・・なぁで~?」
「寝ぼけている場合じゃないぞ。ルドラ。大変なことになった」
ラーヒズヤが俺の両肩を掴んでガクガクと揺さぶる。
「んぅ~わふわふ~・・・」
必死で眼を擦ってラーヒズヤを見やる・・・。
うぅ・・・眠い・・・。
「ダーシャ・カシス公爵令嬢のことだ!あの後すぐにお前がくれた薬を届けたのだが・・・ひと晩でビンの錠剤を全部飲んだらしい・・・」
「・・・んで~?ニシャに関係ないなら別に俺関係ないじゃん・・・」
「1錠飲んでも体中の痛みがなかなか消えず、紫色のままで全く効果が出ず全て飲み干したそうだ。そうしたら今度は全身緑色になったらしい・・・。今度は手足指先まで・・・全部」
「・・・ぶふっ!!!」
「おい、ルドラ・・・」
「うっひゃひゃひゃ・・・!緑って・・・全身紫蛙のあとは・・・緑!カメレオンかよ!あっはははははははは、うひひひひ・・・ひ~っひっひっひっ!!!」
「いや・・・ルドラ、落ち着け・・・」
「はぁはぁ・・・笑いすぎて涙出てきたぁ」
ついでに目も覚めた。
「・・・こっちだって泣きたい気分だよ。全く・・・」
「そんで?何で俺に?」
「・・・侯爵が毒物を盛った上に解毒剤と嘯き、更に悪質な毒物を盛った。これはどう言うことかと公爵家から王城の魔法師団が明朝に叩き起こされたんだ!」
んー・・・今は5時かぁ・・・。通りで眠いわけだ。
「あのさぁ・・・?そもそも何で毒盛ったやつに解毒剤もらいに行かせんの?おかしくない?大体毒なんて盛ってねぇし。アイツらが他人のもん盗んだからいけないんだろ?それに、全身緑になったのは俺のやった解毒剤を処方通りに飲まなかったせいじゃん?せっかく魔法師団長ラーヒズヤの顔に免じて解毒剤を恵んでやったのに処方通りに飲まずに副作用に襲われていちゃもんつけるとかふざけてるだろ」
「あぁ・・・だから、玄関で騎士団長が大人しく待っている」
「・・・連れてきたのか?」
「・・・さすがに毒を盛った容疑となれば動かないわけにもいかなくてな・・・俺の顔に免じて騎士団長と一緒に来たんだ」
「さすがにお前の顔使いすぎだろ。苦情いれっぞ」
「やめてくれ・・・胃が痛くなる」
「胃薬処方してやろうか?」
「取り敢えず王城に来てくれ」
「・・・ったく・・・。アールシュ、ここは頼んでいいか?」
「もちろんです」
アールシュは頷くとコートを差し出してくる。俺はそのコートをアールシュに背中に掛けてもらうと、玄関で待っていた騎士団長ドゥルーヴと合流した。
銀色の美しい髪は胸元まであり、それを1本に結って左肩の前に垂らしている。更にアメジスト色の瞳は神秘的で、雪のような白い肌も合わさればどこかの仙人みたいな美人である。しかしながらその体には異世界ファンタジー特有の頑丈な部分鎧を付け、帯剣している紛れもない王国屈指の腕前を持つ騎士である。
「あんたも大変だな」
「・・・全くだ」
このひとは王弟殿下でもある。国王の異母弟でありながら騎士団長も兼任しているのである。もちろん腕は折り紙付き。
「アンタも疑ってんの?俺のこと」
「いや・・・そんなバカはカシス公爵家のやつらだけだろう?さすがに俺もあの家のダーシャ嬢は好きじゃないな」
このひとがこんなにも辛辣に吐き捨てるとは・・・。見た目のクールビューティーに似合わず割と毒舌なのはそれなりに親しくしているので知っている。元々ラーヒズヤと学園時代の同期だったのもそうだが、この外見で外に飲みに行くと確実に騒ぎになる。そこで目を付けたのがラーヒズヤの実家。いや、もちろん騎士団長の実家でもいいのだが、ウチのつまみは旨いらしい。因みに俺の手作り。・・・と言うわけでこのひととはウチに飲みにくる割と見知った仲。
「何かあったのか?」
「・・・殿下の婚約者なのに、殿下の側近であるウチの息子にやたらと言い寄るんだと。殿下も甘え上手なのだと意に介さないし、そのうちボディタッチもどんどん増えているそうだ。人前で手をつなごうとしたり、わざと背中に抱き着こうとしたり、唇を近づけられたりといろいろされて女性恐怖症になりそうな勢いだ。今はもう、ウチの妻以外の女性との会話も厭うほどにな。もうさすがに我慢ならない。息子が日に日にやつれていくんだ。今は側近を休んで自宅療養中でな。そろそろ第2王子殿下付きにしてもらおうと兄上を脅している最中だ」
今、脅してるって言わなかったかこのひと。
まぁ、このひともあのカメレオン令嬢に苦労してそうだったので王城までサービス転移で一緒に連れて行ってやった。
シュヴァルツ侯爵邸へ向かう前のひとコマ。
ラーヒズヤ「さて、俺の転移で向かおうか」
ドゥルーヴ「・・・空を飛んで行くのはだめだろうか?」
ラーヒズヤ「俺と手をつないで飛ぶことになるがいいのか?」
ドゥルーヴ「・・・うん、じゃぁつなごうか」
ラーヒズヤ「いや、俺は嫌だぞ!?ほら、転移!」
ドゥルーヴ「・・・えー・・・」
※BLじゃないよっ☆