魔法師団長ラーヒズヤ・シュヴァルツ
※誤字修正しました※
急いでニシャが眠る寝室に向かえば、既にニシャは目を覚ましてシロナになでなでされていた。因みにちびっ子双子狼たちはすやすや寝入っている。なかなかに眼福なのだが・・・
「ニシャ!」
俺が呼ぶと、ニシャが体を起こそうとしてシロナが止めていた。
「ルドラ・・・さま・・・ごめ・・・なさい・・・」
彼女は俺の顔を見るなりぽろぽろと涙を流す。
俺は顔の左側を覆う仮面を外し、そっとニシャの頬に手を添えた。
「謝るな。それよりニシャが無事でよかった」
「い・・・え・・・ルドラさま・・・うぅ・・・会えて・・・よか・・・た・・・」
「すまん。俺がもっと早く・・・」
「いえ・・・ルドラさま・・・の、せいじゃ・・・」
「・・・ニシャ」
俺はニシャに顔を近づける。シロナも止めない・・・これは・・・チャンスか!!
ゆっくりとニシャのその桃色の唇に・・・
バタンッ
その時、扉が開いた音がした。
「ニシャ!!」
そして青年の声と共にバタバタとこちらに誰かが駆けてくる。
シロナが気を遣って場所を譲ったため・・・
がばっ
「ニシャ、良かった!」
「兄さまっ!?」
突然のことで驚いているニシャ。ニシャの異母兄は至極大事そうにニシャを抱きしめた。
「いや・・・その・・・」
俺の声を聞いて、ハッとして青年・・・ニシャの兄アンシュが身を起こした。
「申し訳ありません、魔法侯爵さま。お礼も言わずに」
そう言ってアンシュが頭を下げる。
「ルドラさま・・・どうか兄を・・・」
いや、罰しようとしているわけではないが・・・
「その・・・貴様がニシャの異母兄の・・・アンシュだな」
それとなく仮面を付けなおすが・・・特に気にした様子はないようだな・・・
「はい」
俺の問いにアンシュは素直に答える。
「・・・ニシャの兄だから此度のことは目をつむるが・・・」
「ありがとうございます」
「ニシャに触れるのは1回3秒までだ!」
『え・・・?』
何故そこできょとんとなるんだこの兄妹は。
「よいか。こころしておくように」
「は、はい」
アンシュは戸惑いながらも頷いた。
「では、早速事情の方から・・・」
聞こうとしたところで、おもむろにクロが顔を出す。因みにアンシュを連れてきたアールシュもこの部屋にいるがアンシュの行動が早すぎて解説し忘れていた。すまん。
「どうした、クロ」
「ラーヒズヤが来てっけど」
「ラーヒズヤが!?」
ラーヒズヤとは父の友人であり俺の後見人になってくれていたひとで、今も保護者のような存在だ。しかしながら戸籍上は父の弟と言うことになっている。平民出身で後ろ盾のない彼に言い寄りおいしい汁を吸おうとするものがあとを絶たなかったため、対策として父がラーヒズヤを先代侯爵夫妻であった祖父母の養子としたのだ。だから戸籍上は父の弟。俺の叔父。彼はこの屋敷の人間なのでこの屋敷にも出入り自由である。玄関で特に応対せずとも彼は普通に行き来しているし、彼の部屋も未だにきっちり残っている。ぶっちゃけ実家同然である。ただワーカホリックで年がら年中城に寝泊まりしているが。
「あぁ、でも今あいにくニシャとの大切な時間を過ごしているから好きにくつろいでくれと伝えてくれ」
「んだども、急ぎだと」
急ぎ・・・?ニシャとの時間を過ごすうえで、国王陛下とラーヒズヤが急ぎだと言うならば俺は特別に応対してやってもいいと思っている。
「すまん、ニシャ。叔父が来たからちょっと話してくる」
「は、はい」
「それまで兄妹水入らずで過ごしていてくれ。ただし1回のお触りにつき3秒だ」
「わ、わかりました!」
アンシュが緊張したように答える。
しかし・・・
「気にしなくていいわよ。ただのヤキモチだから」
と、シロナ。うぐぐ・・・っ!
「ほら、とっとと行きなさいな」
「うぐぅ・・・わかった・・・」
何故こうもシロナに頭が上がらないのか・・・自分でも、わからない。
―――
応接間へ向かうとそこには既にラーヒズヤが腕組みをしてソファーに腰掛けていた。グレーの髪で前髪を真ん中分けにしており、鋭い瞳は銀色に輝く。一見するとガタイが良くコワモテで、騎士団に紛れていても違和感がないのだが・・・魔法専門の魔法師団長である。
「何か用?今ちょうど立て込んでいてな」
俺は何食わぬ顔でラーヒズヤの前に腰掛ける。
「・・・単刀直入に言おう」
「何?」
「解毒剤をくれないか」
「解毒・・・?そりゃまた何の」
俺はずずずっとアールシュが出してきたお茶を啜る。
はぁ・・・ほうじ茶うま~。
「・・・お前が、ダーシャ・カシス公爵令嬢に贈ったドレスと宝石に込められた呪術による猛毒汚染の、だ」
「はぁ?何で俺が会ったこともないそんな女にドレスと宝石を贈らにゃぁならないんだ?」
「・・・間違った。お前がニシャちゃんに贈ったドレスと宝石を勝手に着用してネックレスに首を絞められ窒息寸前にまでいったうえ、ネックレスと耳飾り、ドレスから放出された猛毒の解毒剤だ」
「ほぅ・・・?じゃぁ、先ほどきた公爵家の使いは堂々とこの俺を騙して解毒剤をぶんどろうとしたわけだな」
「その使いが何を言ったかは知らんが、ウチに・・・魔法師団宛てに公爵家から直接使いが陳情しにきた。侯爵のお前に取り合ってもらえずダーシャ・カシス公爵令嬢が死にそうだと」
「ふぅん、で、魔法師団で対処できなかったの?」
「できたのはネックレスと耳飾りを破壊して首と耳から外してドレスを剥ぎ取ったところまでだ。しっかりと毒耐性を持たせる腕輪を付けさせたうえで作業したから師団に被害はない」
「あぁ、前に俺が開発した魔道具か。なら万事解決じゃないか」
「どこがだっ!まぁ慌ててひん剥いたからご令嬢は嫁入り前なのに大勢の殿方にパンツ一丁の姿を見られたわけだが・・・」
「ぶぷぷ・・・っ、パンツ一丁・・・別に見たくもないけど」
「俺だって見たくないわっ!重要なのはここからだ・・・!ダーシャ・カシス公爵令嬢は猛毒におかされ、手足指先以外の全部・・・つまり顔全体、首、体を猛毒におかされ紫色に変色し痛みで泣きわめいている」
「んむ・・・っ!紫・・・!はっはっはっ!紫蛙みたいになってたりして・・・っ!ぷぷっ!」
「笑ってやるな・・・こっちは涙目だ」
「だってそうだろう・・・?俺がニシャに贈ったものを勝手に奪い取って着用して、俺が盗難用につけた防犯魔法にやられたんだから!」
「本当にえげつない防犯魔法を開発しやがって」
「それで紫蛙・・・っ!ふっふふっ!」
「だから、その・・・解毒剤・・・あるだろ?」
「えぇ?何で俺が窃盗犯の解毒剤なんて渡さなきゃならないんだ?おかしいだろ?俺からニシャに送ったものを勝手に奪って」
「・・・その、“王子命令”だそうだ」
「はぁ?ニシャを一目見ただけで捨てたあのトンチキが?それが頼んできたところで俺が言うことを聞くと思うか?俺が仕えてるのは陛下であって殿下じゃない」
「わかっている・・・だが・・・人命にかかわることだ。見殺しにはできん」
「全く・・・ラーヒズヤはお人よしすぎる」
「お前の父親にもよく言われたよ」
「んじゃ、今回だけだ。ラーヒズヤの顔に免じて提供してやる。費用はたっぷりいただくからな」
「わかった」
俺はラーヒズヤにとあるビンを差し出した。
「中は・・・錠剤か?」
「うん。1日1錠、30日分だ」
「・・・まさか解毒に30日かかるとか・・・じゃないよな?」
「何か問題ある?まさか盗みを働いた上、即快癒なんて甘ったるいことを言わないよな?」
「・・・あぁ・・・言わないでおこう」
そう言うと、ラーヒズヤはビンを受け取り屋敷を後にした。
公爵邸に駆けつけた魔法師団「師団長!公爵邸前にバカでかい穴が空いています!」
ラーヒズヤ「・・・とりま仮蓋しとけ」