隻狼の魔法侯爵の寵愛
―――その日、王都のとある教会でひとくみの夫婦の結婚式が催された。
花嫁はまだ学生の身ではあったが、夫である魔法侯爵の寵愛を受けて正式に魔法侯爵夫人となったそうだ。
貴族の場合、通常は学園卒業後に結婚するものが多いためこの婚姻は異例のものであったが、国内一の魔法使いである魔法侯爵の熱意に屈した国王陛下がふたりのためを思って許可したのだと言う・・・
―――が・・・
「・・・いや・・・正直に言えよ。ルドラ。国王陛下に何言って婚姻認めさせたんだ・・・?」
「俺は特に何も言っていないぞ。結婚させろ。じゃなきゃデゼルト王国を丸ごと滅ぼしてくると提案しただけだ」
「提案って、おい」
かねてよりの願いであったニシャとの婚姻の契りを結んだ俺は、屋敷で満足気にコーヒーを啜っていたのだが、いきなり魔法師団長のラーヒズヤが帰邸してきたから・・・一体何の要件だと思ってみれば。
「そもそも何だ、デゼルト王国滅ぼすって!」
「いやぁ・・・陛下もそろそろ滅ぼそうとしているんじゃないかなと、ちょっと思っていたものだから」
「冗談でも言うなよ!?今回、ニシャちゃんが巻き込まれた件については俺も思うところがあったが・・・」
「あぁ・・・あと聞いたか・・・?あのバカ王子とバカ王女。生涯塔に幽閉されるそうだ。北の塔などと言っていたが、それだと我が国の国境の街になってしまう。だから南にしろと難癖付けてきた。因みに南の塔の方が暑さが過酷らしいぞ。俺のニシャに手を出しておいて、どさくさに紛れて北の塔に幽閉すればOKだなんてテンプレを許すはずがない。あの国では北の塔はかなり快適らしいからな」
「・・・相変わらずえげつないな。まぁ、それに関しては俺も賛成だが・・・。ニシャちゃんはこのまま、卒業まで通わせるんだよな・・・?」
「ディクーシャと陛下がうるさいからな。仕方がない」
「いや・・・じゃなきゃここに一生閉じ込める気か?」
「まさか。領地に避暑にはいくし・・・あぁ、オウカ国のミンミンにも会いに行くからそんなことはない。ただ・・・」
「だた・・・?」
「俺の側からは放さない」
「・・・それは何だ・・・?この前魔法師団に持ち込まれた最新通信機器と言い張って、毎日アンシュと一緒にニシャちゃんの行動を逐一録画しつつ、監視しているのも関係しているのか」
「ニシャはディクーシャと一緒だからな。クリシュナも一緒にやっている」
「いや・・・そう言う問題じゃなくてなぁ・・・あぁ・・・どんどん悪化していく。俺は死んだお前の父さんにどう言えばいいんだ・・・あぁ・・・だめか。これは遺伝だから」
「え・・・?」
「・・・何でもない・・・全く・・・。でも、ならニシャちゃんは幸せになれると思うよ」
「当たり前だ。俺がニシャを悲しませるはずがない」
「随分と気に入ったんだな」
「当たり前だ」
俺は身を翻せば、そろそろニシャが焼いたパウンドケーキができることだと思い、厨房に向かう。料理や菓子は俺が作っていたのだが・・・最近はニシャも作りたいと言っている。学園での勉強に加えてディクーシャと一緒にルードハーネ公爵邸にお菓子作りを習いに行っているらしい。
別に俺でもいいのにと思いつつも、“乙女心なんだから”とディクーシャに言われ、しょうがないからクリシュナにその一部始終を録画させることで妥協している。クリシュナもディクーシャの姿を収められるのだから両得だろう・・・?
「ルドラさま!」
ニシャが嬉しそうにぱたぱたと駆けてきた。
「ニシャ!済まない。俺に会えなくて寂しかっただろう?」
「は・・・はい!」
「いや、ちょっとお菓子作りしてただけでしょうが!」
と言うディクーシャのツッコミはさておいて・・・
「あの・・・!おいしくできた・・・と、思います!その・・・食べて・・・くれますか?」
「あぁ、もちろんだ」
「では、お茶の準備をしますね!あの、ラーヒズヤ叔父さまもご一緒に」
「えー・・・」
ニシャのお菓子をラーヒズヤにもやるのか・・・?
と、不満げに見やれば・・・
「いや、別にいいだろ!?お前の嫁なら俺の姪っ子みたいなものだし・・・ウチのアンシュの妹なんだから!」
と、ラーヒズヤ。
「あ、もちろん俺も食べるよ、ニシャ」
「はい、兄さま」
アンシュもやって来て、ニシャが頬をほころばせる。
「アンシュはいいのか・・・!?」
「まぁ、共犯者だからな。普段の職務に見合ったご褒美だ」
「じゃぁお前の発明するストーカー魔法の数々を処理する俺への慰謝料代わりにご馳走しろ。いいな?」
「大人げないわよ」
ラーヒズヤに続いてシロナにも言われれば・・・
「ん、あきらめろ」
『ねーねのおかしー』
クロが追い打ちをかけ、また双子のちびっ子狼たちもニシャのお菓子に喜んでいる。
「・・・だが、最初のひとくちは・・・俺だからな!」
「はいはい。アンタは全く大人げないんだから」
ディクーシャに呆れられつつももちろん一番の座は俺がしっかりといただいた。
「その・・・おいしぃ・・・ですか?」
「あぁ、もちろんだ」
「で、では、また・・・作りますね」
そう言って微笑むニシャは本当に尊い・・・もういっそ結婚したのだから今夜は一緒に・・・
「ねーね、こんやもいっしょにねんね」
「ねんね~」
と、ちびっ子狼のソラとシエル。
「うん、いいよ。ソラちゃん、シエルちゃん」
ニシャはもちろんというふうに応じる。
「・・・なら・・・俺も一緒に・・・」
「・・・ルドラ」
シロナにぐぁしっと肩を掴まれる。
「そ・・・そう言うのは・・・卒業してからだ!」
と、ラーヒズヤまで。
ぐぅ・・・。まったく、コイツらめ・・・っ!
「あの・・・ルドラさま・・・?」
ニシャが不思議そうに見上げてくる。
「ふん、今はこれくらいで我慢してやる」
そっとニシャを抱きしめれば・・・
「あ・・・えと・・・」
「少し、このままで」
「は・・・はい・・・っ!」
何だか周囲から生温かい目で見つめられている気もするが・・・まぁいい。卒業までは仕方ないから我慢してやるが・・・その後は・・・
「絶対に放さないからな」
ニシャにしか聞こえない声で耳元で囁けば、びくん・・・とニシャの体が震えた。そして・・・
「はい・・・私も・・・私もルドラさまとずっと一緒にいたいです」
「あぁ・・・俺もだ」
―――
その後、魔法侯爵夫人となったニシャ・シュヴァルツは無事に王立学園を卒業し、魔法侯爵自身に大切に愛されながら、魔法侯爵邸で幸せな生活を送ったと言う・・・。
(完)
本編はこれにて終了ですが、次回はめくるめくネタバレ回をお送りします(/・ω・)/




