大魔王
「・・・貴様はデゼルト王国の第2王子だったな・・・貴様は誰に手を出したのか・・・わかっているのか・・・?」
いつも通りニシャモニターでニシャの様子を微笑ましく観察していれば・・・いきなりこのデゼルト王国のメヌリス第2王子がニシャに手を出してきたのだ。あまつさえ・・・俺の嫁になるニシャに横恋慕しようとした・・・だと・・・!?
これは・・・処刑だ。
処刑してやる。ただし殺すことは禁じられているので・・・殺さない程度に・・・なァ?
『大魔王が来たぞ―――っ!』
「おっしゃぁ、俺たちの勝ちだ―――っ!」
「やったれ大魔王さま―――っ!」
ふん、わかっているではないか。因みにあれは魔法爵家ゆかりの子女たちである。
「ちょっと、ルドラが調子に乗るからやめなさい!」
ディクーシャがやつらを制止しているが・・・大丈夫だ。これはお約束。彼らが魔法爵家のノリで爆発させようとすれば、一応ディクーシャが制止。それにも関わらずしつこく相手が出てくれば、一応警告はしたので躊躇いなく爆破―――っっ!!!
「な、何なんだ貴様は!俺はデゼルト王国の第2王子だぞ!」
「はぁ?だから何だ。俺はこのレーヴェ王国の魔法侯爵。大魔王と名高いレーヴェ王国の魔法使いのトップだが?」
「だ・・・だったら俺より下だろう!俺たちは国賓だからな!」
「はぁ・・・?知るかそんなこと!」
「あの、魔法侯爵閣下。彼らは正式に国賓を外れております。俺たちが世話人を外れたので」
そこに助太刀をしてきたのは、我がレーヴェ王国の第2王子で王太子のアヤン殿下である。更にその隣には婚約者のエリン嬢も一緒にいる。
「そ・・・そんな・・・そんなバカなっ!!」
メヌリスは目を見開いて狼狽している。
「で、でも俺はデゼルト王国の第2王子なのだから、それ相応の対応を・・・!」
「あぁ、殺しはしない。安心しろ。だが、俺の婚約者であるニシャに手を出した以上、罰は受けてもらう」
「んな・・・っ!?あの子はニシャと言うのだな!」
「俺のニシャの名を勝手に呼ぶな!」
「そうです!俺も許可しませんよ」
アンシュもこちらに駆けつけ、学園長を伴ってきてくれた。
「メヌリス殿下!我が国の魔法侯爵閣下の婚約者殿に何てことをしてくださったのですか!」
「んな・・・っ!?学園長!貴様は俺の味方じゃなかったのか!?」
いや、んなわけあるかよ。学園長は魔法伯爵夫人だぞ?完全に俺側だし、彼女はニシャをたいそうかわいがっているのだ。そんなことを言い出す輩の味方になるはずがない。
「なら、私にいい考えがありますわ!」
どこから現れたのか・・・それはデゼルト王国の第1王女であるモネ・デゼルト。
腰をくねくねさせながらこちらに駆けてくる。遠くから様子を窺っていたのだろうか?
「お兄さまがそこのニシャと言う女を娶って、私が魔法侯爵さまと結婚すればいいのです!天下の魔法侯爵さまと我が国のつながりができて、デゼルト王国のためにもなりますわ!むしろ、我が国にお越しくださってもいいですのよ?んふっ?」
と言って、俺に言い寄ってくる。何だろう。媚びでも売っているつもりなのか、この女。
「あなた・・・とってもキレイな顔をしているのね・・・その仮面の下の素顔・・・気になるわ♡ね、見・せ・て♡」
モネ・デゼルトが手を伸ばしてきたので、すかさず防衛魔法を展開しモネ・デゼルトを跳ね返す。
「やぁんっ!」
モネ・デゼルトは尻もちをついて倒れた。
「き・・・貴様!妹に何をするんだ!」
すかさずメヌリスが怒鳴るが・・・
「その言葉、そのまま返そうか?」
とアンシュ。
『さすがは大魔王の側近!』
『アンシュさんパネェっす』
と、バックヤードからも声援が飛ぶ。
「え・・・アンシュさんっていつの間に大魔王の側近になったんですか?」
と、アヤン殿下。ふふふ、まだまだ勉強不足だな、アヤン殿下も。だが十二分に勉強はしているのでこれから学んで行けばよいのだよ。大魔王を怒らせた者どもの・・・末路をなァ・・・?
「そんなに見たいのなら・・・ほら」
俺は仮面を外した。それを見た瞬間・・・
『ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ――――――っっ!!!』
デゼルト王国の兄妹が絶叫した。
再び仮面を装着。
「そんなに絶叫するほどですか?」
と、アンシュ。
「ふん・・・これだから温室育ちは困るな」
「全くです」
まぁ、恐怖は覚えたとしても魔法爵家メンツは逆にヒーハーするらしいし、アンシュは緊張はするもののそこまでではないらしい。
・・・優しい・・・と言ったのはニシャだけだけどな・・・。
「さて、では・・・オシオキタイムだ、諸君」
『イェーイ、大魔王さま最高―――っっ!!』
「おだてるなぁ―――っ!!!」
魔法爵家メンツからの声援に対し、再びディクーシャのツッコミが冴えわたる。
「よし・・・安心しろ。最上級爆風魔法をくれてやろう・・・爆風―――っ!!!」
俺の怒号と共に、竜巻のような風が舞い上がってデゼルト王国の兄妹がその中でぐるぐると回転する。
『ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ――――っっ!!!』
「死ななければいいんだよ、死ななければ。ちゃんと故国に送ってやるから安心しろ」
「そういう問題かっ!」
再びディクーシャのツッコミが来たところで・・・
「よし、爆破―――っっ!!!」
ドゴンという音と共に、爆風がそのまま遥か彼方へ飛んで行く。大丈夫。座標指定したからデゼルト王国の王城に落っこちるはず。どこに落っこちるかは保障しないけどな。まぁ、取り敢えずもう来ないのなら別にいい。
「さすがは私たちの大魔王さまね!」
学園長が拍手をくれると、魔法爵家メンツからも拍手と歓声が上がる。そして・・・
「ニシャ」
俺はニシャに歩み寄り、そっと抱きしめる。
「ルドラさま・・・」
「恐かっただろう・・・?もう、大丈夫だ」
「は・・・はい・・・あの・・・私・・・」
「・・・ニシャ・・・?」
少し抱擁を解いて、ニシャの顔を覗き込む。
「信じておりました・・・ルドラさま・・・!」
にこっと微笑んだニシャ・・・ヤバい・・・俺はもう一度ニシャを抱きしめる。
「・・・もう、いっそのこと結婚してしまおうか」
「えっ!?」
ニシャの素っ頓狂な声もかわいいな・・・。
「いや、まだ学生じゃないの」
と、ディクーシャ。それはそうだが・・・
「別にダメなわけじゃない」
ニシャを保護した時は、魔法侯爵家の籍に入れることしかできなかったが・・・
「もう・・・もう待てない・・・結婚しようか、ニシャ。戸籍上も俺の妻になってほしい」
「ルドラさま・・・私も・・・私も、ルドラさまのお嫁さんになりたいです・・・!」
「そうか・・・!なら早速手続きをしようか」
「はい・・・!」
感激したように微笑むニシャ。あぁ・・・今日もニシャは尊い・・・。そして俺の妻になるなんて、夢のようだな。
何だか呆れた声もちらほら聞こえては来るが・・・多くは祝福の拍手であふれていたのだった。




