悪役令嬢にされた彼女
※誤字修正しました<(_ _)>※
シャーラ・トゥウィンクル男爵令嬢の玉の輿で社交界がにぎわっている冬のある日のことである。ニシャが俺の書斎を訪れた。
「あの、ルドラさま・・・今、大丈夫でしょうか」
「あぁ、ニシャならいつでも構わない」
ニシャを書斎のソファーに座らせ、俺もその隣に腰掛ける。
「何かあったのか?」
「あの・・・その・・・私・・・昔から、“悪役令嬢”と呼ばれることが多くて・・・」
あぁ・・・シャーラも最初に現われた時に言ってたな・・・
多分、生家であったカシス公爵家でもダーシャとアニクが中心となってニシャにそのような言葉を投げていたのだろう・・・。
「その、“悪役令嬢”って・・・何なのでしょうか・・・?」
う~ん・・・そうだな・・・前世の知識のないニシャに分かりやすく説明するとすれば・・・
「そうだな・・・特定の令息などに言い寄りたい、横恋慕したいという欲を持った女が、特定の他の令嬢を“悪役”として配置することで、自分自身の好感度を上げようとするときに使用するものだな」
「・・・どうして・・・私・・・なんですか・・・?」
ニシャは不思議そうな目を俺に向ける。それはそうだろう。アニクの前世の知識で、彼女が悪役令嬢だったからと言う根も葉もない根拠で長年にわたり虐げられてきたのだ。現に彼女には何の落ち度もない。
大体、ニシャは婚約者として引き合わされた元第1王子に素通りされて、その場で妹に鞍替えされたのだ。ダーシャは既に元第1王子の婚約者となったのに、原作ゲームの設定だからとその後も一方的にわけもわからぬまま虐げられた。
「・・・誰が選ばれるかは、誰にも分らない。そのように悪役令嬢とやらを設定するような卑劣な輩が勝手に決めることだ」
「そんな・・・っ」
ニシャはショックを受けたように俯く。それはそうだろう。理不尽以外の何ものでもないのだから。
「私は、これからも・・・悪役令嬢にされ続けるの・・・ですか・・・?」
ニシャが俺を見上げ、訴えるような目を向ける・・・。
「・・・もし、今後もニシャをそのようにほざくものがいれば、俺が許さない」
「もし・・・もしもルドラさまが私以上に好きな方ができたら・・・」
「そんなことはあり得ない。俺はニシャだけを愛している」
「けど・・・もしもルドラさまを好きになった方がいらしても・・・私は、私はまた、“悪役令嬢”になるのではないですか・・・?」
ニシャの不安は尤もだ。そう言えば・・・夏に領地に帰った時も、俺がダーシャと元第1王子に会いに行く時に付いていきたいと言っていたな・・・。ダーシャは第1王子以外にも多くの高位の貴族令息に手を出していたと言う。
その証拠にアンシュはニシャを人質にダーシャにいいようにこき使われ、イシャンは女性恐怖症を発症した。
ニシャもダーシャがとっかえひっかえ令息に手を出していたのを知っていたのだろうか・・・。いや、そんなのは別邸で暮らしていたとはいえ、あの屋敷の敷地内にいれば嫌でも耳に入ってくるのかもしれない。
だとしたら・・・ニシャは俺がダーシャにとられないかどうかを心配していたのだろうか・・・。そんなことは天地がひっくり返ってもあり得ないが・・・。ニシャがそう、嫉妬してくれたのは何だか嬉しく思えてしまう俺もいる。
「俺を伴侶として好きになるのは・・・ニシャしかいない」
「・・・そんな、ことは・・・ルドラさまは、お優しい・・・から」
「そうか?」
日々“大魔王”だと称賛される(※世間一般的に言えば恐れられている)俺が優しい・・・か。
俺は顔の左半分を覆う仮面を外す。
「俺の顔を“優しそう”と言ったのは、ニシャだけだ」
「・・・ルドラさま・・・」
「この顔の左側には・・・俺の祖先の精霊の血が色濃く出ている。ひとの理を外れたものを、ひとは時に恐れる・・・。本物の精霊であるシルヴィーはそれを使い分けることができるが・・・先祖返りと言っても大部分はひとである俺にはどうしようもない。これはただのひとからすれば、十分に・・・ひとの理を外れた恐ろしいものらしい」
「そんな・・・ルドラさまは、ルドラさまです。私にいつも優しくて・・・強くて、かっこよくて・・・」
「・・・っ!」
そんなことを言われたら・・・
「ニシャ・・・大丈夫だ」
俺は自然とニシャの体を抱き寄せた。
「俺にとっての唯一はニシャで、これからもそれが違うことはない。信じてくれるか」
「・・・はいっ!信じて・・・信じております・・・」
涙で震える声は、とてもか細くて・・・今にも消えてしまいそうなほどだが・・・ニシャは必死に声を絞り出していた。
そっとニシャの抱擁を緩めれば・・・俺は自然とその艶のある桃色の唇に自分の唇を重ねた・・・。
「ニシャ・・・俺が生涯で愛するのは・・・ニシャだけだ」
「・・・はい・・・私も・・・私も、ルドラさまを、愛しています」
「・・・あぁ・・・嬉しいよ」
俺は再びニシャをそっと抱きしめる。お互いの気持ちが通じ合うことが、こんなにも満たされるとは・・・暫くはこのまま、ニシャを放せそうにない・・・。