雨の日の来訪者
※誤字修正しました※
さて、ニシャとの王城のパーティーを楽しみに待っていた俺。尤も、楽しみなのはニシャの晴れ姿であり王城のパーティーではない。パーティー自体は物凄く憂鬱だ。俺に擦り寄ってくる奴らをどう追い払うか毎回気が気でない。しかしながらニシャのおかげで少しは前向きに出席する気になっていた頃だった・・・。
屋敷に突然の来訪者があった。その日は珍しく王都でも土砂降りの雨が降っていた。そんな日の突然の来訪者であったが、俺はアールシュと共にその客人を迎え入れたのだ。
「あ・・・あなたが・・・シュヴァルツ侯爵さま・・・ですかっ」
息せき切ってきた男はまさに満身創痍だった。その土砂降りの雨でずぶ濡れで泥まみれ。黒っぽい髪は泥にまみれてぐしょぐしょである。服も安物のようで、黄ばんだシャツとボロボロのズボン。足に至っては裸足である。しかしながらアールシュはできた執事で素早く彼にタオルをかけていた。
「そうだが、何用だ?」
「お・・・お願いします・・・妹を・・・ニシャを助けてくださいっ!」
男はそう言って、まるで夜空のようなインディゴブルーの双眸で俺を見上げた。
しかし、ニシャを助ける・・・?
「一体どう言うわけだ!?ニシャに何が・・・」
「ニシャが・・・屋敷の地下に・・・っ!」
「屋敷の地下・・・カシス公爵邸の地下と言うことだな・・・。アールシュ。俺はちょっと出てくる。彼を頼む」
「畏まりました」
アールシュが答えるのとほぼ同時に俺は屋敷を飛び出し、土砂降りの雨の中浮遊魔法で飛び立った。公爵邸の場所は把握している。前にドレスと宝石を贈った時に、宝石にGPS機能を付けておいたから。その場所はこのだだっ広い屋敷だ。
「さて・・・地下のある場所は・・・」
地面に手を当てて、地下空間を探す。その場所に目星を付けた俺は、そこから地下トンネルをつなげ、真っ先にニシャの場所へと急いだ。
そしてその先には・・・
「ニシャ!」
狭い地下牢の中でぐったりと横たわるニシャがいたのだ。髪はボロボロ、服も襤褸同然であちらこちらに傷がある。何故こんなことに・・・っ!俺は迷いなく牢を魔法で破壊し、ニシャを抱き上げた。
「おい、ニシャ!大丈夫か!」
急いでヒーリング魔法をかけ、めぼしい傷を塞いでいく。
「・・・ぅ・・・ど・・・ら・・・さま・・・?」
彼女は薄れゆく意識の中で俺の名を呼んだ。しかしもはや目の焦点が合っていない・・・俺の姿も捕えていないだろう・・・。どうしてこんなことになっているのかは知らないが・・・
俺は急ぎ、屋敷へと転移した。
―――
「今帰った。アールシュは」
アールシュを呼ぶと、アールシュとは別の青年がやってきた。狼耳しっぽに黒髪黒目の長身の青年だ。通常、この世界に獣人はいない。彼は人間の姿をとれる魔物である。ふわもふわふたん魔物である。いや、今はそれよりも・・・
「アールシュは・・・さっきの男を介抱してる」
「そうか、では俺は彼女を一旦風呂に・・・」
まずは薄汚れたこの身をキレイにしなくては・・・
「んじゃ、嫁さんに」
「いや、俺がやる!婚約者だ!将来は結婚するんだから!」
「んだども」
「いや、だが・・・!」
「いい、わよね?」
しかしその瞬間肩を掴まれビクッと反応する。恐る恐る後ろを振り向けば・・・妙に笑顔の女性がそこに立っていた。彼女はたれ耳わふたんお耳にしっぽのナイスバディな女性だ。妖艶な目尻にライトブルーの瞳。そして白いロングヘアーの持ち主。
「・・・わかった・・・頼む」
ここは・・・女性同士の方がいいと言うわけで・・・その、決して屈したわけじゃない・・・ぞ!
「ルドラ・・・?」
狼耳しっぽの青年・・・クロ(命名:俺)に名を呼ばれ渋々彼女の身を狼耳しっぽの女性・・・シロナ(命名:俺)に預ける。
「それじゃぁ、身を清めたら知らせてくれ。さっきの男・・・ニシャの兄の様子を見に行く」
「わかった」
そして、俺は急ぎニシャの異母兄の元を訪れた。
「アールシュ、ニシャは保護した。彼は?」
「未だ目を覚ましませんが、私のヒーリング魔法で何とか」
「そうか」
ウチの客間のベッドで眠る男は、“アンシュ”と言う。俺とニシャよりも2歳年上でアールシュと同い年だ。
ずぶぬれだった黒い髪はすっかり乾いてキレイになっている。服はアールシュの物を貸しているそうだ。彼は一応跡取りの予備のために生かされていたが、公爵家の戸籍には入っていない。公爵夫人が自分の息子に爵位を継がせるために反対したのだ。
そして彼が産まれて2年後、自身も息子を産んだため更に彼の立場は悪くなる。彼の母は伯爵家から勘当されているため、母親の身分はもはや平民であった。そして公爵家に入れなかった彼もまた平民の身分。公爵の血を引いていながらも彼は公爵令息ではないため学園にも通っていないはずだ。そして“苗字”もない。
それにしても、一体なにがあってこんなことになったのか・・・まずは彼が目を覚ましてからじゃないと始まらないな・・・。
アールシュ「因みに、穴は塞いできたんですか?」
ルドラ「あ、忘れてた」