15歳になった俺と悪役令嬢なはずの彼女
―――3年後
俺と彼女の出会いから、3年の月日が経った。俺はあの悪趣味な悪戯はやめ、外では顔の左側に仮面をつけ、彼女と会う時は外すと言った行動をとっていた。彼女と会うのは大体2週間に1度。俺はパーティーなどにはほぼ出席せず魔法の研究にばかり打ち込んでいたため、すっかり忘れていた。
「デビュタント・・・そう言えば・・・お前のデビュタントは・・・?」
今日も彼女とお茶をする日。
「いえ・・・パーティーは・・・行ったことがありません・・・」
「・・・そうか・・・その、今度ドレスと宝石を贈るから」
「え・・・っ!?」
「・・・陛下から・・・いい加減出て来いと招待状が届いてな・・・」
今までは子ども扱いだったし、陛下もなんだかんだでそう強引に出席せよとまでは言わなかった。しかしながら、婚約者を迎えてもはや3年。15歳からは貴族が多く通う学園に入学しなくてはならないのだ。そうすれば俺もおのずと人前に出て行くことになる。
その前段階として、王城のパーティーにくらい顔を出せとの命だった。
「当日は迎えに行く。贈ったドレスと宝石を身に着けておけ」
「は・・・はい・・・っ!」
彼女は頬を赤らめながらも嬉しそうに微笑んだ。
何だろうこれ・・・多分・・・“尊い”?
―――
「やっと行く気になったのですね」
彼女が帰った後、俺に茶を出してきたアールシュがそう告げた。
「王命だからな。仕方がない」
「そうじゃないと行かない方も行かない方ですが」
「気乗りがしないんだ。マジで」
「“マジで”とか言わないでくださいよ、パーティーで」
「わかってる」
元庶民派日本人の感覚から言えば、パーティーなんて面倒くさいの一言に尽きるだろう。今生の俺にとってもそれは同じである。出来ればお家に引き籠って魔法の研究だけしていたい。貴族社会なんて面倒くさそう。まぁ、今まで後見人であった父の友人に何度か連れて行ってもらったことはあるが・・・仮面をしている俺に飽きもせず言い寄ってくる令嬢どもが嫌だった。その一言に尽きる。でも、さすがに婚約者と一緒なら大丈夫だろうと言う安心もあるのだ。
そう言えば・・・彼女には異母兄がいたな。彼女の父親が伯爵令嬢とできちゃった婚しようとしたら、まさかの公爵令嬢が横恋慕。そして彼の母はメイドとして公爵家に迎え入れられたが本妻のいる家で共に暮らさねばならないなんて・・・俺なら絶対嫌だが・・・。しかしながらニシャとは仲がいいらしい。ただ、反対に妹のほうはそうではない。ニシャの妹・ダーシャは双子であった。ニシャと双子なのではない。紛らわしいが、ダーシャには双子の弟がいるのだ。その双子の弟はオトゲーにも登場し、ダーシャの良き理解者で応援役として活躍する。しかしながら彼女たちに異母兄がいたと言う設定はゲームにはなかった。まさに異世界はゲームよりも奇なり。
家の内部の縮図はこうだ。妹派:公爵、公爵夫人、双子の弟、姉派:異母兄のみ。更に使用人たちも妹派とあれば彼女たちの肩身は狭い。更に異母兄の母はメイドとは名ばかりに別邸で異母兄と暮らしていたようだが、彼女は1年前に亡くなっている。彼女はニシャにとっても、彼女を卑下する実の母親よりも母親代わりだった。つまり1年前から彼女と異母兄は庇護者を喪ったのだ。
彼女はそれでも健気だった・・・。俺に会いに来るときは笑顔で楽しそうに話をする。
それでもなお、心配なものは心配で・・・。
「なぁ、アールシュ・・・そろそろウチに抱き込んでも犯罪にならないだろうか」
「・・・ルドラさま・・・婚姻前ですよ」
「とは言ってもな・・・」
「とにかく、やることやってからにしてください」
「ウチの執事が俺に厳しい」
「執事長から甘やかすなと伝言を受けております」
「うぐぐ」
俺がこんな成りでも昔ながらの使用人たちは俺を卑下しなかったし、アールシュの見た目も最初は驚いていたが俺並みの魔法使いになれると知った途端・・・“坊ちゃまの手綱を握れそう”と嬉々としてかわいがっている。お前らの不純な目的は俺は知ってんだからなっ!全く、俺はそんな危ういことなんてしてないのに・・・アールシュをお目付け役のように仕立て上げたのである。
「それもこれも、狼を拾ってきたり」
「だってわふたんわふわふなんだぞ?」
「意味がわかりません。あとまた狼を拾ってきたり」
「お嫁さんにいいと思ってだな」
「繁殖までして」
「だって本当にラブラブなんだぞ!?いいじゃないか!ニシャもかわいいと言ってくれた!」
「ニシャさまはお優しいから」
「ぐぬぬ・・・解せぬ・・・あ、そう言えば・・・」
この伏線を忘れていた。
「お前さ・・・将来魔王になるかもしれないって言われたら・・・信じる?」
そう、名前はともかくアールシュは前世のゲームで見たような魔王のフォルムに限りなく近づいてきた。と言ってもおどろおどろしい姿ではなく、美青年だ。完全なる美青年魔王。しかもマッチョじゃない。細身で優雅な美形魔王。
「俺が魔王なら、ルドラさまは大魔王でしょうね」
マジで・・・?ゲームにもなかった大魔王ルートを歩むのか?俺は。