朝の来客
―――翌朝・・・
んぅ・・・
何だかふわもふ感が増している気がする・・・
仰向けに寝る俺の右側には獣姿のクロ。そして左側には・・・銀色の獣姿のわふたんが眠っていた。
「・・・何だ、シルヴィーか。おはよう」
『うむ、久しいな。ルドラよ』
「起き掛けにふわもふってくれるなんて最高だな」
『あぁ・・・私もかわいい孫のようなルドラに会えて何よりだが・・・』
「何かあったのか?」
『私が治めるこの土地に、侵入者があったのだ』
「精霊わふたんが守るこの地にか」
一応、ここは我がシュヴァルツ魔法侯爵領と銘打ってはいるものの、元々の地主はこの神獣と呼ばれることもある精霊わふたん・・・もといこの狼である。我がシュヴァルツ魔法侯爵家はこの銀色のわふたん・・・シルヴィーの土地を守るため、国からこの土地を下賜されている。
魔法爵が治める領地と言うのはこういったワケアリが多い。人知を超える異能を持つ魔法爵。それにはしっかりとした理由があるわけで。魔法爵の多くはこのような人外と関わり合いを持つ。魔法爵の多くは人外の主のため、なるべくこの地を動きたくないのだが・・・まぁ、あのバカ王子がこの国の長となったなら、俺たち魔法爵は渋々人外の主を連れて、この地を後にするだろうが・・・。多分あのバカも見納めだろうし・・・。俺たちがまだまだ安心して暮らせそうな目途は立ちそうだ。
『汝はどうするか?』
「ふむ・・・とりま・・・メシだな。お腹がすいた。その欲求を奴らのために棒に振る意味がわからない」
『まぁ、よい。ここのメシはそれなりに旨いのだ』
「だろう?ならシルヴィーも来るといい」
『・・・長・・・おはよう』
おっと、クロも目を覚ましたか。
『ふふ、おはようじゃ。さて、朝飯に行くかな?』
『ん』
ゆっくりとクロが頷けば、ふたりはヒト型を取った。もちろんわふたんお耳としっぽ付き。
シルヴィーは女性名のようだが性別不詳である。セミロングの銀色の髪に、神秘的な金色の瞳を持つ中性的な顔立ち。服装は前世の巫女さんの服装に似ている。
早速ダイニングに移動し、初対面のニシャとアンシュを紹介する。
「ほぅ・・・かわいいメノコじゃ。ずるいぞ?ルドラ。この子を長年ひた隠しにしてきたとは・・・」
むぅっとシルヴィーが頬を膨らませ、ちゃっかりとニシャに抱き着いていた。
「し、シルヴィー・・・」
ちょっと、そこは俺のポジだから・・・とアピールしたかったのだが・・・
「お行儀が悪いわよ」
と、シロナに言われて大人しく卓につく・・・。ぐぅ・・・何なんだろう。この前世のお姉ちゃん的なシロナの圧倒的なお姉ちゃん感はっ!!
「わふたんたくさんで、かわいいですね」
うん、俺はニシャのその笑顔だけで生きていける・・・!
「あぁ、気に入ってくれて何よりだ」
「わふたん好きを甘やかすと調子に乗るからダメよ、ニシャ」
と、ディクーシャ。
いや、別に調子には乗っていないし・・・。
だがしかし、アンシュとアールシュが揃って頷いているのは何故だ・・・!
全く・・・。因みに今日の朝食は貴族の朝食っぽくない、ピザトーストとサラダ、ウィンナーである。うむ。ピザトーストは・・・旨い!!
「やっぱりこっちに来るとこういうのが食べられておいしいわ」
「えっと・・・ディクーシャちゃんのお家では違うの?」
ニシャはすっかり仲良くなったらしいディクーシャと朝食の話を始めた。
「実家はハンバーガーを片手で食べるのよ。違うのは向かいの公爵家の方」
「えっと、昨日の朝はロールパンにスープと・・・サラダでしたね。ちぎって上品に食べます」
と、クリシュナ。
まぁ、貴族なら大体そうだな。魔法爵家が特殊なだけで。いや、でもちゃんとマナーは学んでる。ただ寝食忘れて研究や魔法の修業に没頭する変人どもが多いので、片手で食べられるような食事が多いのも事実だ。
そんな感じで賑やかに食事をしていれば・・・
「ルドラさま、お食事中申し訳ございません」
執事長がやってきた。
「どうした」
「・・・表にルードハーネ公爵閣下がお見えです」
「おじさまが!?」
「お父さま!?」
見事に昨晩ルードハーネ公爵邸から夜逃げを敢行したふたりがびっくりしていた。まぁ、公爵公認の元夜逃げ・・・と言うかウチに避難してきたのだが・・・。こんなに朝早くから来るとは、何か急用か・・・?
「とにかく出るか」
「私も行くわ」
と、ディクーシャが言うと、クリシュナやニシャ、アールシュ、アンシュも一緒に向かうことになった。
「朝早くに申し訳ない。シュヴァルツ魔法侯爵」
「いいや。公爵閣下が直接来られるなんて、よほどのことがあったのでしょう?」
玄関ホールには、何やらげっそりとしたルードハーネ公爵が立っていた。見た目はアッシュブラウンの髪に、クリシュナとお揃いの赤い瞳のナイスミドル。
「あぁ・・・明け方貴殿らの領地に無断で侵入した・・・バ・・・第1王子殿下とダーシャ・カシス公爵令嬢の件について・・・です」
今、公爵もバカ王子って言おうとしたよな?別にいいぞ。俺の屋敷の連中は全員“バカ王子”と呼んでいるからな。まぁ、公爵は真面目な貴族だから、王族ってんで一応敬意は払うんだよなぁ。俺も見習わねばな。・・・実際にマネするかはおいといて。
「では、ニシャとクリシュナはアンシュと屋敷で待っていろ」
「そうね。クリシュナもニシャちゃんも、アイツらとは会わせたくないわ」
と、ディクーシャも賛同する。
だが・・・
「あの・・・行きます!私も・・・!」
意外だった。ニシャが行きたがるなんて・・・。
「だが・・・あのバカ王子のことは覚えていないと思うが・・・ダーシャ・カシスは・・・」
「そ・・・それでも・・・行きたいんです・・・!ルドラさま・・・と、一緒がいいです・・・」
ぐっはぁっ!!
何それ!何この状況!つまりは俺と片時も離れたくないと言っているのと同じでは!?
「その解釈はともかく、アンタも一緒なら大丈夫でしょ。私もいるし」
それはどう言う意味だ、ディクーシャめ。
「じゃ、じゃぁ、ぼくも行きます!」
ニシャに触発されたのか、クリシュナも名乗り出た。
「けど・・・あのバカ王子にはいい思い出ないでしょ?」
「あの・・・でぃ、ディクーシャが・・・いっしょ・・・だから・・・大丈夫・・・っ!」
必死にディクーシャの手をとるクリシュナ。ディクーシャは観念したかのようにクリシュナの頭を優しく撫でる。
「わかった。一緒に行きましょ?」
「う・・・うん!」
ディクーシャが手をつないでクリシュナと互いに微笑み合う。うむ・・・俺もつないでおこう。ニシャの手を握るとニシャはハッとして驚いたような顔を見せたものの、ほっと安堵したように微笑んだ。やばい、今この場で抱きしめてもいいかな?
「下手すると大魔王降臨ですよ」
「え・・・大変なことになりそうですね」
おい、後ろの執事兼助手ふたり。聞こえてるからなっ!
まぁ・・・そんなわけで俺たちは、公爵と一緒に外へ繰り出したのだった。




