ずっと忘れてたこと
―――さて、今晩はシロナがちびっ子狼双子、ニシャ、ディクーシャと寝ると言うので、本来のおっきなふわもふ獣わふたんバージョンのクロが俺のベッドの上にどでんとくつろいでいる。
「あぁ・・・クロ・・・♡ふわもふわふたん・・・最高・・・っ!」
早速とばかりに黒い艶やかなふわっもふ毛並みに顔をうずめれば・・・
「ちょっと―――っっ!?ルドラ―――っっ!!?」
不意に寝室のドアがばたんと開かれ、ディクーシャの声が響き渡る。
「・・・貴様・・・俺のふわもふわふたんタイムを邪魔してただで済むと思っているのか・・・」
すごごごご・・・っ
「シロナさんにチクるけど」
「ぐはっ!!」
さすがは幼馴染み。的確にこの俺の弱点を突いてくるとは・・・恐るべしっ!!
「それよりもニシャちゃんよ!」
「ニシャに何かあったのか!!」
「いや、違うって。てかアンタ取り乱しすぎ」
「だ・・・だってな・・・ニシャに何かあったと思うと・・・」
「その過保護が原因かどうかはわからないけど・・・」
姉に過保護なディクーシャには言われたくないのだが・・・まぁ、お互いさまか。
「ニシャちゃん、私と同い年じゃない!」
「ん?そうだぞ。だから仲良くなれると思ってだな・・・」
ニシャは恥ずかしがり屋さんなかわいいところがあるが、ディクーシャは社交的で面倒見がいいから相性がいいと考えたのだが・・・?
「だから、学園よ!王立学園!貴族の子女は通わなくちゃならないでしょ!?」
「学園・・・」
あれ・・・?
「私、学園でニシャちゃんに会ったことがないのよ!アンタは魔法侯爵だから特例か何かがあるのかと思ってたけど・・・!」
そう言えば・・・
「そうだ・・・ずっと何かを忘れている気がしていたんだ。そうだ。学園に通うのを忘れていた」
「いや、しっかりしてよ、魔法侯爵。もう前期が終わっちゃったじゃない」
「後期から通えばいいだろう?」
「そう言う問題じゃ・・・勉強のペースとかあるでしょうが!」
「・・・まぁ、確かにな」
「簡単にだけど私も基礎を教えようか?」
「それは助かるが・・・ニシャは魔力がほとんどない。俺が渡した指輪に込めた魔力で魔法を使うことはできるかもしれんが」
「それなら大丈夫。そんな指輪を渡していたのも驚きだけど。魔法を使えないのは私も一緒よ?」
まぁ・・・確かに。ディクーシャのナディー魔法伯家は、魔法爵家でありながら正統な血筋のものは魔法が一切使えないのだ。その代わり、彼女たちだけの特別な能力が備わっているのである。だからこその魔法伯爵。
そしてその特異性から、彼女たちナディー魔法伯家は他の魔法爵家から重宝されているし、そのナディー魔法伯家の正統後継者に手を出せばただじゃ済まさない・・・これが魔法爵家全体の総意なのである。
「・・・ニシャを学園に通わせるのは・・・少し不安だったこともある。現実逃避をしていたのかもしれんな・・・」
「大魔王の現実逃避とか、しゃれにならないじゃない。ニシャちゃんのことは後期から私が面倒みるから、一緒に通うわよ」
「まぁ・・・お前が一緒なら考えてやらないことも・・・ないな」
「むしろ貴族の義務なんだから、通わないとさすがに陛下からもお叱り受けるんじゃない?」
「善処する」
「前向きに検討しなさいよ」
まぁ・・・確かにディクーシャが一緒なら大丈夫だと思うがな・・・。俺はさすがに学園の魔法の講義を、学生たちと一緒に受けることはないからな・・・。その分ニシャと一緒にいてやれないのが辛い・・・。
「必要なもののリストも揃えるから、ちゃんと工面してよね」
「それは問題ない。ニシャは俺の伴侶だ」
「ニシャちゃんかわいいもんね。守ってあげたくなるわ」
「ふぅん・・・確かにニシャはその通りだな。で、一応爬虫類女も守ってあげたくなる庇護欲をそそるタイプの女らしいぞ」
「噂は随分と聞いているわよ。学園でもその噂で持ちきりよ?あのバカ王子は私たちと同い年だし」
そうだった・・・同学年だったな。
「嘘か誠か、いろいろ吹聴して回ってるんだもの。でもさすがにアンタの悪口とその伴侶を貶めることまで叫ぶから、みんな遠巻きに見てる。そんなことしたら魔法爵家の人間たちから総スカンよ?そこまでしてあのバカ王子の側に付いたところで、魔法爵家から敵視されて将来潰されるのは目に見えてるもの」
「まぁ、確かにな」
しかし・・・ニシャをあのバカと鉢合わせさせるのは・・・さすがに・・・。
「大丈夫よ。私が一緒にいるもの。今でも周りが過保護すぎるのよ?それでカリスマ大魔王の妻になるニシャちゃんまで加われば、多分周りも気合入りまくりよ」
「まぁ・・・アイツらならそうか」
魔法爵家のメンツにとって、ディクーシャは特別な存在なのだ。だからこそ、魔法爵家の各家では彼女のことを気に掛ける風潮がその子女にも伝わっている。なおかつ彼女はとてもいい子でもある。面倒見が良くて明るくて、それで友人が多い。
周りがディクーシャに付いてくる一番の要因は・・・彼女の人柄だ。
だからこそ、クリシュナも救われたのだろう・・・。
「じゃ、後のことは任せて、入学準備しなさいよ」
「わかった」
そう頷くと彼女は颯爽と俺の寝室を後にした。
もふっ
クロのわふわふ毛並みに埋もれよう。
『心配なのは・・・わかる』
クロの声が聴こえる。もちろん今はわふたん姿なので高位の魔物でもあるクロは念話で話しかけてくる。
「ん」
『ウチの、ちびたちも・・・』
「んん・・・アイツらはまだまだちっちゃいからな・・・俺って過保護だと思うか・・・?」
『・・・粘着質』
「・・・」
それは一体どう言う意味だろう・・・まぁ、いいか・・・。
「俺はとにかく寝る・・・わふわふしながら」
『ん』
クロの短い答えを聞いて、そっとクロに身を寄せながら俺は瞼を閉じたのだった。




