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【完結】隻狼の魔法侯爵の俺と悪役令嬢なはずの彼女  作者: 夕凪 瓊紗.com
第3章 シュヴァルツ魔法侯爵領
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ナディー魔法伯令嬢と婿養子


―――さて、事態が動いたのはその晩のことだった。


夏らしくざるうどんを用意してもらってさぁ、みんなで食べようか・・・と思っていた時だった。急に慌てたように執事長が駆けてきたのだ。


「一体どうした?何かあったのか」


「はい・・・実は・・・お隣からナディー魔法伯家のディクーシャさまとクリシュナさまがお見えになられており・・・その、“夜逃げ”だと仰られております」

は・・・?夜逃げ・・・?

ナディー魔法伯家に夜逃げする理由なんて見当たらないぞ?てか、そんな理由があればまず魔法侯爵の俺に・・・あ、だから来たのか。


「まぁ、いい。通せ」

執事長に命じれば、彼に連れられてふたりの少年少女がやってきた。


まず、少女の方がディクーシャ・ナディー魔法伯令嬢。彼女はナディー家の直系の令嬢である。アイスブルーの長い前髪を真ん中分けにして、髪はドリルツインテールに整えている。雪のように白い肌とそのアイスブルーの神秘的な髪のコントラストはさながらどこかのお姫さまのようだが、そのドリルツインテールがそのイメージから抗おうとするようにめちゃくちゃ主張している。少し吊り目がちなエメラルドグリーンの瞳で気が強そうながら面倒見の良い少女である。


そんな少女はいつものように味気ないシンプルなワンピースに身を包んでいる。本人曰く、この方が万が一の時に足蹴りがしやすいから・・・らしい。足蹴り以外の選択肢はないのだろうか。一応足蹴りが必要になった時のために、スパッツと言うものを提案し彼女にはそれをワンピースの下に履いてもらっている。


もうひとりの少年はクリシュナ・ナディー魔法伯令息。彼はナディー魔法伯家の養子・・・と言うか婿養子である。将来はナディー魔法伯家の直系であるディクーシャと婚姻を結ぶことが決まっており、彼の戸籍は完全にナディー魔法伯家にある。


つまりは俺のニシャと同じ立場だ。俺はニシャを守るため、ナディー魔法伯家はクリシュナを守るために事前に籍を魔法爵家に移して身の安全を保障しているのである。

そう言う特権が、魔法爵と言う特殊な爵位持ちには許されている。

無論、魔法爵以外の爵位持ちには適用されない制度だ。


そしてクリシュナは薄い黄色の髪に、赤いぱっちりとしたかわいらしい瞳を持つ庇護欲をそそられる少年である。そしてこの子は・・・“攻略対象”である。因みにハーパンっ子である。

但し原作ゲームとは名前が違う。ゲームでの彼の名は、クリシュナ・ルードハーネ公爵令息。現実ではクリシュナ・ナディー魔法伯令息だ。


余談だが、ゲームの中に“魔法爵”と言う爵位は存在しない。彼はあくまでも公爵令息であった。そして本来ならば彼はルードハーネ公爵令息なのだが、彼の類まれなる魔法の才ととある事情により“避難”と言う名目でナディー魔法伯家に将来の婿養子として引き取られたのだ。


そんなふたりが、なぜお隣のルードハーネ公爵邸から夜逃げをしてきたんだ。


「それで?何があった。飯がまだなら一緒に食うか?」


「え、いいの?ちょうどお腹ぺこぺこなの。夕飯前に出てきちゃったから」

「ちょっと・・・ディクーシャったら・・・」


相変わらずディクーシャは貴族令嬢っぽくない。元々は魔法爵と言う特殊な爵位持ちの家の令嬢だし無理もないのだが、そこが彼女の魅力のひとつでもあるのだろう。まぁ、公の場では貴族令嬢らしい立ち振る舞いを完璧にこなす彼女ではあるのだが。


ディクーシャが席に着いたことで、恐る恐るクリシュナも席についた。

すかさずメイドがうどんを追加で持ってきてくれてみんなで晩餐を囲みながら事情を聞くことにした。


「そんで、何かあったのか?公爵閣下と喧嘩でもしたか?それともどっちかの“きょうだい”ゲンカか?」


「私がお姉ちゃんと喧嘩するはずないじゃない」

まぁ、そりゃそうだ。ディクーシャは姉・・・ルードハーネ公爵令息の妻であるリディ・ルードハーネとは大の仲良しだ。しかし並べるとどちらが姉なのかわからない。外見上ははっきり姉と妹だとわかるのだが、中身が逆転しているような姉妹なのだ。


「ぼ・・・ぼくも、お兄さまとは・・・なかよし、です。お父さまともなかよし・・・ですよ?」

そう、クリシュナが恐る恐る口を開く。

クリシュナが言う“お兄さま”とはルードハーネ公爵令息のことで、“お父さま”とはルードハーネ公爵閣下そのひとのことである。

クリシュナは元々ルードハーネ公爵の次男として産まれたのだ。原作ではその有り余る膨大な魔力のせいで家族からもうとまれ、産みの母が亡くなった後は孤独の中で育つのだ。


しかしながら実際にはクリシュナはとある問題を抱えており、当時対処に当たった俺は魔法師団長・ラーヒズヤの協力でクリシュナをナディー魔法伯家に預けることを提案した。それを公爵が納得し、彼はそれからずっとディクーシャと一緒に魔法伯家で育てられた。


本来ならば冷え込んでしまうはずだったクリシュナと実の父兄の関係だ。しかし、ゲームにはない魔法伯爵夫妻とディクーシャのおかげでクリシュナは元の家族との縁を切らずに済み、また今でも将来婿養子に入ると言うだけでルードハーネ公爵家はクリシュナを家族として受け入れている。


更には、ナディー魔法伯家に生まれながらその魔法の才を受け継がなかったディクーシャの姉・リディは、ルードハーネ公爵令息の妻として迎え入れられた。しかも政略結婚ではなく、恋愛結婚であった。そんな兄姉と弟妹がそれぞれ夫婦、または夫婦になる予定の両家はとても仲がいい。夏はこちらの方が涼しいとあって、ディクーシャは姉に会いに、クリシュナは家族に会いに訪れるのである。


しかしながら・・・家族仲が良好と言うのなら・・・何故・・・?


「あのバカ王子と、爬虫類女が来たのよ」

そのディクーシャの言葉に俺はついつい、吹きかけたのだった。



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