王太子と妹姫
『・・・じゅ、りあちゃん?』
『そうよ!ミンミンちゃん、とっても上手!』
ジュリアとミンミンは互いの名を呼び合うくらいに仲良くなっていた。そしてミンミンも念話魔法がすっかり上達して・・・
「とっても微笑ましいですね」
「あぁ」
ニシャがその光景を見て俺に微笑んでくる。俺にとってはニシャも微笑ましい。さりげなくその頬に手を添えればニシャがこてんと首を傾げる。なにこれこんなスチル知らないっ!てかかわいいわっ!己の中でノリツッコミをしていたら、近くで見ていたアンシュとクロス魔法伯に苦笑される。何故だ・・・っ!
ついでに先日俺が連れてきたウチの国の陛下は、ユエとクロス魔法伯とともに会談をして俺が転移魔法で国に送り届けたので既に帰国している。
今はクロス魔法伯とジュリアたち使節団が、ミンミンの念話魔法習得のために滞在している。ぶっちゃけ、国同士の交流を深める目的もあったがこちらが本題だったのだ。それなのに欲を出したあの某父子は本当に愚かだったな・・・。
今頃どうなっているかなんて俺の知るところではないけれど。
そして、ミンミンはお付きの侍女曰く滅多に外で遊ばない子だったらしいが、社交的なジュリアの影響ですっかりお庭で元気に遊ぶようになっていた。
「わっ!ごめんなさいっ!」
突然ジュリアの声が響いて顔を向ければ、そこには何と臣下を連れた王太子がいたのだ・・・恐らく移動途中だったのだろうが。ミンミンが尻もちをついてジュリアがミンミンの体を支えているところを見ると、どうやらミンミンが王太子にぶつかってしまったらしい。急いで侍女とクロス魔法伯が駆け寄っていた。
「貴様・・・よくもそんなに堂々とはしゃげるものだな!自分が犯した罪を忘れたとは言わせんぞ!」
王太子が眉間に皺を寄せてミンミンを見降ろしていた。彼の背後の臣下たちは困ったようにそれを見やるが、そっと視線を外す。侍女が慌てて頭を下げるものの、ミンミンは明らかに脅えているようだった・・・。
「何か言えんのか!あぁ・・・貴様はしゃべれんのだったな!母の腹を食い破り殺して産まれてきたくせに、産声もあげなかったのだったな!」
「ちょっと!あんた何なのよ偉そうに!」
しかしそこで、ジュリアがビシッと指を差して叫ぶ。
「んな・・・っ!不敬だぞ!」
王太子の怒りように侍女がハッと息を呑むが・・・
「えぇ・・・子ども相手に大人げないですねぇ」
クロス魔法伯の率直すぎる意見。王太子は「なに?」と眉を吊り上げる。
「その通りだ、王太子。ウチの魔法爵一家の中のアイドル・ジュリアを恐がらせるのなら俺たち全員を相手取ると思え!」
ばーんと俺が乗り出てやった。実際、クロス魔法伯がみんなの前にジュリアを連れてきた時なんて最高にフィーバーするからな!
「・・・魔法侯爵か・・・。父上は貴様を気に入っているようだが私は決して認めないぞ。そこの忌み子を外に出したのは貴様か?それは父上が何よりも愛していたこの国の王妃を、母を殺して産まれてきたのだ!そのくせして父上に這い寄り媚びを売るとは・・・何たる母への侮辱!恥を知るがいい!」
王太子の気迫にミンミンは今にも泣きだしそうだが、ミンミンは涙は出てもその声を出すことができないのだ。
「言いすぎだろう・・・12歳の実の妹に対して」
「こんなもの・・・妹と思ったことなどない。母を殺した仇だ!」
「何故ミンミンのせいにする」
さすがにイラっとしてきた。あのバカ王子に比べたら数百万倍も優秀な奴だが・・・ミンミンに対する態度はやはり看過できんな。
「貴様にはわからん!」
「・・・お前な・・・」
俺が口を開きかけた時、聞こえた声の主は意外な人物だった。
「わかるわけないじゃないですか!」
・・・ニシャ・・・?
彼女が声を荒げたところなんて、初めて見た。いや・・・前世でプレイしていたゲームでは自身の婚約者に言い寄った妹に激怒していたが・・・。今の彼女の表情はひどく悲しそうなものだった。
「私の育ての母さまは、兄さまを産んで体を悪くして・・・年々衰弱して行って、死にました。私の父は、その原因を作った兄さまを憎んでいました。でも育ての母さまは、私に兄さまを残してくれました。本当は産んだら母体がどうなるかわからない・・・そう言われていたのに命がけで兄さまを産んで、私に残してくれました!だから私は、ひとりじゃなかった!どんな時も兄さまと支え合って生きてこられたんです!あなたは・・・ミンミンちゃんを命を懸けて産んだお母さまの気持ちもわからないのですか!?」
「んな・・・っ」
王太子は呆気に取られているようだった。確かに・・・ニシャが実家での酷い扱いを受ける中で生きて来られたのは、アンシュの母が別邸で庇護していたからだ。何年も起き上がれないような日が続く中、彼女の母親はアンシュとニシャを兄妹として愛情を与えて育てたのだろう。
だからこそ、ニシャはアンシュを支えに生きて来られた。その育ての母が死んでからも・・・。
「ニシャ」
アンシュがそっとニシャに寄り添う。さすがにあの兄妹の中に無理矢理踏み込んだりはしないぞ、シロナ。何故かシロナにそう訴えたくなった。今はお国でお留守番している頃だろうけど。
「その・・・すまなかった・・・」
王太子は、ニシャの言葉に先ほどの威勢のよさをどこにやったのやら意気消沈したように呟いた。
「謝罪なら、ミンミンちゃんにしてあげてください!」
ニシャが真っすぐに王太子を見つめる・・・。何かイラっと来たので俺も殺気を放つ。ぶるるっと王太子の体が震えたのがわかった。
何故かアンシュに怪訝な目を向けられたから、ふいっと殺気を消したけどな。
王太子はゆっくりとミンミンの前に跪いた。
「・・・私が・・・どうかしていた・・・お前に当たり散らすなど・・・愚かだった」
「・・・」
ミンミンは驚いたように王太子を見上げていた。
「母上が死んだことを、お前のせいにするなんて・・・な・・・。母上の気持ちもお前の気持ちも考えず・・・私は自分が母上を喪ったことしか考えていなかった・・・。すまなかった・・・」
ミンミンはそっと身を起こして、王太子の手にそっと自身の手を乗せた。
『にいさま、さみしかったの・・・?』
「・・・それは・・・」
『ミンミンじゃ、だめ?』
「・・・」
『ミンミンが、そばにいる・・・だから、おこらないで・・・』
ミンミンの念話が俺たちにも響いてくる。
そして悲しそうに王太子を見上げる。
「あぁ・・・もう、怒らない・・・だから・・・私を許してくれるか?」
『・・・うん』
そう言ってミンミンは頷いた。まだ12歳の少女だと言うのに・・・。ミンミンは強い子だな。でも、だからこそ守ってやる存在が必要なんだと思う。あの子は・・・ニシャに似ているな・・・。




