ジュリア・クロス魔法伯令嬢の魔法
―――さて、偽使節団問題はすぐさま解決した。オウカ国では基本的に王族に手を出した者は問答無用で極刑が下る。情状酌量の余地はほぼない。いや、普通は王族に危害を加えればそうなるだろうが・・・この国はちょっとばかり特殊なのだ。
無論、今回ミンミンの私室に侵入し襲おうとした主犯のパトリック・ケイオスは処刑、それに追随したオウカ国の貴族の子息どもも処刑。そしてそれを唆し、ユエを騙して使節団代表を名乗った元外務大臣とその直属の部下も処刑だ。それもこれでもかと言うほどの拷問を与えられて、何度も何度もヒーリング魔法で回復された上に拷問が続くのだ。その期限は王が処刑せよと命じる日まで。まぁ、ぶっちゃけ2週間が限度なのだが・・・今回はユエの愛娘を害そうとしたわけだ。多分、処刑日は伸びるだろうな。
因みに、その親はと言うとお家取り潰しの上一族郎党平民落ちの上国外追放になった。一番家を背負う責任のあった両親は奴隷となり鉱山送りにされたらしい。
まぁ、そんな暗い話は俺の愛しいニシャや子どもたちにはナイショである。
そして本来の目的を果たすため、陛下、クロス魔法伯、ジュリアを伴ってユエ、ミンミンと面会した。俺と一緒にニシャとアンシュも一緒である。
互いに挨拶を交わした後、早速とばかりにミンミンを招く。ぱたぱたとかわいらしく駆けてきてくれたミンミンは、俺の服を不安げに掴みながらも同じ年ごろのジュリアに興味を持っているようだ。
「ジュリア、この子が以前話した、ミンミンだ」
「・・・!」
それを聞いてやっぱりと頷いたジュリアがミンミンに手を差し出す。
「ミンミン、ジュリアの手に手を重ねてごらん」
そう伝えると、ミンミンは恐る恐る彼女の手に自身の手を重ねる。
『初めまして、ミンミンさま。私はジュリアと申します』
その場にジュリアの声が響くが、ジュリアの口元は動いていない。そのことにミンミンも気が付いたのかびっくりしているようだった。
『あなたの声を、みんなに届けてもいいかしら?』
その言葉に、ミンミンは驚きつつも頷く。これから何が起こるのだろう・・・少し不安げな表情が見えるものの、ジュリアが相手なら多分大丈夫だな。
『あ・・・あの・・・』
その声は、ジュリアの声ではなかった。
『みんな・・・聞こえてる・・・?』
びっくりしてミンミンが俺を見れば、俺はうん、と頷く。
そしてミンミンがユエを振り返る。
『・・・とうさま・・・?』
「・・・」
ユエが初めての愛娘からの“とうさま”に完全に機能停止していた。
『きこえて・・・ない・・・?』
不安げに俯いてしまうミンミン。
『大丈夫よ。オウカ国の国王陛下は照れやさんなのね』
そう、ジュリアが微笑めば・・・
『とうさま・・・てれやさん?』
その声でかわいらしく首をこてんと傾げられたものだから、完全にパニくっている。ユエがパニくっている。
「よし、ジュリア・・・GO!」
『わかったわ!お兄ちゃん!』
俺のGOサインに、ジュリアはミンミンと手をつないだままユエに駆け寄る。
「いや、お前一体何する気だ!」
ちっ、さすがは陛下。俺の悪巧みにもう気が付いたか!しかし時すでに遅し!!
『・・・ミンミンがかわいい・・・ミンミンがかわいい・・・ミンミンがかわいい・・・ミンミンが・・・(以下略)』
ジュリアは既に、ユエの体にちょんっと手を触れていた。
「・・・!」
そんなユエの心の声をしかと聞いたミンミンはそっとジュリアの手を離れ、そしてユエの着物を掴んで見上げている。
「・・・」
どうやらユエは自分の心の声が周囲に駄々洩れなことに気が付いていないようだった。じっとミンミンを不思議そうに見つめていた。そしてジュリアがユエの手にそっと触れて見上げている。あぁ・・・あれは多分、ユエだけに何かを伝えたな。そして戸惑いつつも、ユエはミンミンをひょいっと抱き上げる。
ミンミンは嬉しそうにユエにくっつき、そしてユエもまんざらでもない様子だった。
そんなふたりの様子をみて満足したのか、ジュリアはとてとてとクロス魔法伯に歩み寄り、魔法伯になでなでされていた。
「あの・・・あの子の力ってもしかして・・・」
勘のいいアンシュは気が付いたらしい。俺はアンシュとニシャを近くに呼んだ。
「ジュリアは・・・と言うかクロス魔法伯の家系はな。あぁいう念話や、精神に直接作用させる魔法が先天的に発達していてな。ジュリアはその中の念話を自在に操れるんだ」
「わぁ・・・ジュリアちゃん、とってもステキです!ミンミンちゃんとお父さんとの絆をあんなに深めるお手伝いができるなんて!」
そう言ってニシャが微笑む。普通はこんな話を聞けば少しは不気味がるものなのだが。ニシャは純粋にジュリアの美点を褒めてくれる。やはり俺のニシャは最高だ。本当に、ゲームで何故悪役令嬢の立場だったのかまるで理解ができないな。ふふっ。そう思っていれば・・・アンシュがニシャをなでなでしている・・・。また先にとられた!!俺がガーンとしていれば陛下から何故か小突かれた。
う~む・・・解せぬ。
「まぁ、とにかく・・・」
俺がパンパンと手を叩く。
「顔合わせは無事に済んだことだし・・・これからミンミンにはジュリアに付いて、念話の使い方を学んでもらうことになる」
「・・・」
ユエがゆっくりと頷く。
しかしミンミンは不安そうな表情をしている。自分に本当にできるのか・・・不安なのだろう。
「大丈夫よ。だって、お兄ちゃんがそう感じたんでしょ?」
「そうだな」
クロス魔法伯と手をつないで微笑むジュリアに俺も頷く。
「俺もジュリアに手助けしてもらって、念話を後天的に身に着けたんだ。まぁ、だが誰にでもできるわけじゃない」
恐らく・・・ジュリアとの信頼関係が最も大切だと考えている。ジュリアの他にも念話に優れた者はいた者の、それを後天的に身に付けられたのはその者の伴侶だけであった。
クロス魔法伯家の力は周囲から見ても不気味がられることが多いのだ。だからこそいろいろな土地を転々として来たが、俺の祖先に迎え入れられてこの国に来た。この国の国王の中にはそれを恐れた者もいたそうだが・・・ぶっちゃけシュヴァルツ魔法侯爵家がその膨大なる魔法の才で黙らせたらしい。多分俺の大魔王性は祖先からの遺伝だと思う。
無論陛下はそんな彼らの能力を恐れてはいないし、俺に信頼を寄せてくれるから彼らのことは一任してくれているのだ。
「ジュリアとミンミンの相性はよさそうだからな。ミンミンが念話を習得できるのもそう遠くないだろうな」
そう伝えれば、ニシャが再び嬉しそうな表情を見せる。
「それじゃぁ、私もジュリアちゃんとミンミンちゃんと一緒に、たくさんおしゃべりができますね!」
そして、何故かジュリアがこちらにとてとてと近づいてくる。
「お兄ちゃん、このお姉ちゃんがお兄ちゃんのお嫁さんになるの?」
「あぁ、そうだが」
「じゃぁ、お姉ちゃんって呼んでいい?」
「えぇ、もちろんです!よろしくお願いしますね、ジュリアちゃん」
「うんっ!お姉ちゃん大好きっ!」
そう言ってニシャに抱き着くジュリア・・・。
俺も手を伸ばしかけたその時、その手をアンシュに止められる。
「・・・大人げないですよ、ルドラさま」
「・・・」
く・・・っ!何故バレた・・・っ!
「・・・お前な」
何故か陛下にまで呆れられたんだが・・・。
そう言えば・・・国家機密だけど・・・このふたり、異母兄弟だったな。




