オウカ国じぃの会
―――さて、ミンミンがニシャをお部屋に招きたいと言うので、俺とアンシュもミンミン付きの侍女と共に彼女の私室へ向かった。そして、ミンミンの姿が見えるなり、その白い毛玉が盛大にミンミンへと迫ってきた。
・・・無論、危険なものではない。
「がぅ」
そう、短く鳴いた白い毛玉をミンミンが抱き上げてニシャに「見て!」と見せてくる。
「わぁ・・・かわいいです・・・!」
やはり女子はかわいいものが好きなのか・・・。
「この子は何と言う動物なのでしょう・・・」
「そちらは“ねこ”です」
「ねこ・・・ですか?」
侍女の答えにニシャが首を傾げる。
まぁ・・・ニシャの戸惑いはわからんこともない。それは一般的に俺たちの国で見る“ねこ”とは違うのである。ぱっと見・・・ユキヒョウの子ども。まんまるとした白いボディに、黒いヒョウ耳、額から背中にかけて広がる独特の黒い模様。そしてえりふわもふに極めつけはぼっふのふな白と黒のストライプしっぽである。
これはぱっと見ユキヒョウなのだが、種別的には魔物。オウカ国では神獣と呼ばれる、シェンビャオと言う種類の魔物の子どもである。
その子どもが何故ここにいるかと言えば、以前俺がシェンビャオを手懐けユエに出会った時にシェンビャオたちがその娘のミンミンを気に入ったのだ。
そしてミンミンを守る供として、このねこを置いていったのだ。以来、ユエが公務で留守にしている間ミンミンがお部屋でひとり寂しそうにしていれば子シェンビャオが寄り添い、おっきなシェンビャオたちまでお部屋にくるようになってしまった。因みにミンミン付きの侍女は“ねこと戯れる姫さまかわいい”と豪語する女傑なので全く心配はいらないのだ。
そうしてニシャがミンミン、ねこと戯れている間は女傑侍女に見守っていてもらい、俺はアンシュを連れ立ってある場所へとやってきた。
―――
「それで・・・?最近はどうなんだ?あのふたりは」
俺が問いかければ、俺とアンシュの前に並ぶオウカ国の重鎮じぃたちが口を開く。
「えぇ・・・以前魔法侯爵さまが出された焼き餃子の件・・・その時は背筋が凍る思いでしたが・・・。今ではすっかり焼き餃子が気に入ってしまわれた姫さまと、1週間に一度晩餐で焼き餃子を共に食べる陛下が・・・っ!うぅ・・・っ!とても仲睦まじく眼福ですじゃ」
「焼き餃子・・・って何ですか?」
あぁ・・・アンシュにはまだご馳走したことがなかったな。
「この国の名物なんだ。晩餐の時にでもだしてもらおう。ただ、餃子と言うのはこの国ではほぼ“水餃子”のことを言う。反対に焼き餃子は“残り物”のイメージが強くてな。前日に残った水餃子を翌日に焼いて食べる風習があるのだ」
「そうですじゃ・・・。なのでそれを国王陛下に出すのは・・・失礼じゃな」
じぃたちも困惑気に答える。
まぁ、俺がいきなり餃子を焼き出した時は、厨房の宮廷料理人たちは和やかに微笑んでいたが・・・。ユエに出そうとしたら料理人たちやじぃたちも加わり必死に止められたのだ。いや、でも既にユエの目の前に焼き餃子を提示した後だったし。しかも・・・羽根付き焼き餃子。
しかしながら、初めて見る羽根つき焼き餃子にミンミンは興味津々で、それをおいしそうに食べるミンミンにユエがデレたことで周囲に安堵の表情が浮かんだことはよく覚えている。
しかしながら、宮廷料理人のプライドとして国王とその姫に残り物を出すわけにはいかないと苦悩した結果、“これは焼き餃子ではなく羽根付き焼き餃子だからOK”と言うよくわからない理論を持ち出し正当化することに成功したらしい。
そして、ユエが堂々とデレられるようにと・・・オウカ国王宮の晩餐に週に一度、羽根付き焼き餃子が出されることになったのだと言う。
「しかしながら・・・」
「何か問題でもあったのか?」
「王太子殿下が、その羽根付き焼き餃子を見て宮廷料理長に激怒しまして・・・」
「ふんっ、あの堅物王太子め。羽根付き焼き餃子のすばらしさがわからないとは・・・」
「そう言う問題でもないのじゃが・・・あぁ、でも羽根付き焼き餃子は素晴らしいですじゃ」
うん、そうだろう、そうだろう!
「陛下がそれは自分が出せと命じたものだと仰ったことで・・・」
「ふむ、ならば問題なかろう。あの王太子は国王に逆らう程バカではない」
あのバカ王子と違って、その点だけは評価できるのだ。
「・・・その原因を作った魔法侯爵さまを敵視しておりますじゃ」
「ふんっ!それが何だ!先ほどはビビりまくっていたではないかっ!」
「ふむぅ・・・あれは心臓に悪いですぞ・・・」
「あぁ、それはすまん。だがお前たちにならちゃんと治癒魔法を使ってやるから安心しろ」
「それは何よりですじゃ・・・しかしながら!」
まだ何かあったか・・・?
「先ほどのアンシュ殿のアドリブ・・・素晴らしかったですじゃ・・・!」
『アンシュ殿!!』
「えっと・・・」
じぃたちに絶賛歓迎されているアンシュは何のことやらとたじたじである。
「まぁ、あれだ。アンシュもユエをデレさせたと言うことで、じぃたちも期待しているのだ」
「はぁ・・・デレ・・・ですか」
「あの調子で、クーデレなユエをデレさせる・・・!そしてミンミンが笑顔になる!そう言う父娘のデレ甘ライフをじぃたちは望んでいるわけだ」
「は、はぁ・・・」
「ですので・・・」
『頼みましたぞ!!アンシュ殿!!』
「え・・・は・・・はぃ・・・」
アンシュは戸惑いながらも頷いたのだった。