似た者同士
さて、オウカ国の飲茶の席に、ひとりの青年がやってくる。友人・ユエの遺伝子を受け継いだかのような青銀の髪を後ろで束ねた青年で、瞳は同じく紫だったが、こちらはやや柔らかな面差しをしている。顔立ちはユエの亡くなった奥さんに似ているらしい。年齢は18歳のはずだな。
「父上、ミンミンを世話人に預けるとは聞いておりましたが、何故ご自分まで一緒に楽しんでいるんですか。そろそろ使節団の方々が到着します。至急準備を」
そう述べたのは、ユエの息子でありミンミンの兄・フェイランである。彼はミンミンに冷たい視線を送ると、すぐにまじめな顔でユエに向き直る。
全くこの父子は・・・。ユエの方は最近絆されてきたが、コイツは難敵だな。ミンミンなんて早速脅えて俺のニシャに抱き着いちゃったじゃないか。
「もう・・・そんな時間か」
「そうです」
フェイランに急かされ、ユエは渋々立ち上がる。
「では、ミンミン。いい子にしていなさい」
そう、ユエが淡々と言えば、ミンミンは少し残念そうな表情をしながら頷く。しかしすぐフェイランの鋭い視線を感じたのか、顔を隠すようにニシャの腕に抱き着いてしまった。そんな様子を見てフェイランがニシャを睨もうと・・・!?ふん、させるかぁっ!
貴様・・・ニシャを睨んだら許さん・・・と言う恐怖オーラ全開にしてやれば、ぶるぶると震えてフェイランがそっぽを向いてユエと家臣たちと共に去っていく。
「何してるんですか、ルドラさま」
うん、やはりお前にはバレていたのか・・・、アンシュ。最近はアールシュの教えもあって、非常にアールシュやラーヒズヤとノリが似てきた。
「それよりも・・・使節団、と言うのは一体・・・」
ニシャがミンミンをなでなでしながら首をこてんと傾げる。隣の席を奪取できなかったのは残念だが、正面からそのかわいらしい“こてん”を見られるのもなかなかいいものだなと思いつつ。
「あぁ・・・ユエの在位20年記念式典の関連でな。各国の王族や自国の貴族たちを招いて祝宴を開く予定でな。ウチの国からも使節団を出しているから、それだと思う」
「いや・・・ルドラさま。今、“在位”って聞こえたんですが・・・王さまですか?」
と、アンシュ。
「あぁ・・・オウカ国の国王だが、どうかしたか」
「・・・どうかしたかじゃないですよ。あぁ・・・その、失礼な態度とか取ってたら・・・!」
「気にするな。今回はユエの単なる友人として来ているんだ」
「いえ・・・ですけど・・・それに、ミンミンちゃんの世話人って聞こえた気がします」
「あぁ・・・実はな。来賓たちの相手をしている間、どうしてもミンミンをひとりにしなくてはならなくてな。ユエが心苦しいと言う視線を送ってきたので、“遊びに行こうか?”と申し出てみただけだ」
「・・・視線ですか」
「・・・クーデレだからな。だが、ポイントを掴めば割とわかりやすいクーデレなんだ」
「クーデレ?」
そうだ。あの氷の彫刻のような表情とほぼ笑わない表情筋のせいでアイツは氷王とか呼ばれているからな。しょうがないのだ。しかし家臣たちは気が付いている。だってわかりやすすぎるんだよユエは。アイツは完全に・・・心の中ではミンミンを溺愛したくてたまらないが表に出せないクーデレなのである。
「それじゃぁ・・・ミンミンちゃんはオウカ国の姫さま・・・なのですね」
ニシャがそう告げれば、ミンミンは何となく寂しそうな表情を見せる。
しかしニシャはミンミンを優しく撫でながら続けた。
「ミンミンちゃんはとってもかわいくて、お姫さまみたいだなって思っていたんです。ミンミンちゃんさえ良ければ、これからも“ミンミンちゃん”と呼んでもいいでしょうか?」
そう、ニシャが問うと、ミンミンはぱあぁっと顔を輝かせてうん、うんと頷く。
やはりニシャを連れてきてよかった・・・そう思いつつも・・・
「・・・俺も少しニシャに触れたい」
「いきなり触ったりしたらミンミンさまがびっくりしますよ」
「・・・っ!?」
何故かシロナのような洞察力まで・・・!?思わず衝撃を受けた俺であった。