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異世界召喚者アルクの多世界冒険録  作者: 猫寝寧
第一章 召喚する世界
2/3

最初の別れ

二ヶ月前……。



「アルク!! 父上がお呼びだ」



ルーファス家の長男であるバトラー・ルーファスからその言葉を聞き、ゆっくりとベットから起きる。



「今日でお前をこの屋敷……いやこの国で見るのも最期だろうな」



「わかっていますよ……兄上」



そう言っていやらしい笑みを浮かべるこのバトラーは兄と言っても腹違いの兄であり、ルーファス家の次期当主とされている長兄だ。

バトラーの契約している世界ストラデルはルーファス家始まって以来の最高位世界だと言われている。

《ストラデル》から召喚される物全てが規格外の強さを誇る。


そんな兄上が俺の様な人間をルーファス家と認めるわけが無かった。

とりあえず寝癖を治して顔を洗い、ルーファス家の広い屋敷の中庭を抜け父上のいる部屋へと入る。



「来たか……まぁ座れ」



「はい」



豪華な装飾が施された部屋に座る父上、ジーク・ルーファスはアルクを用意した椅子に座らせる。

その後父上はバトラーの方に目を向けた。

そこで空気を読んだバトラーは部屋から退室する。



「アルク……今日呼び出された理由はわかっているな?」



「……はい」



僕は目の前の机に置かれている絶縁契約書を見る前から理解していた。

そう……僕、アルク・ルーファスはこれからルーファス家と縁を切られこの国を追い出されるのだ。

唯一の後ろ盾だった母も病気で亡くなり、邪魔者だった僕を家からそして国からも追い出すつもりなのだ。



「もうお前の顔を見ることは無いだろうな……」



「ええ……今まで育てていただきありがとうございました」



そう言って一瞥もせずに父上と別れた。

すると部屋の外で待っていたバトラーが近づいてきた。



「フッ……ルーファス家の面汚しがようやく消えてくれるか」



「兄上……」

 


優秀な兄バトラーは次期当主として、兄弟の中でも最弱な僕を追い出すことに最も積極的だった。



「安心しろロベリア嬢は俺が貰ってやる」



なるほど本命はそっちだったか。

ロベリア・クラウンベル。

僕と仲の良くてずっと一緒にいる彼女のことを兄上は必要に狙っていた。

アルクという邪魔者が居なくなり、彼女と婚約する気なのだろう。



「兄上が守ってくださるのなら彼女も安心でしょう

 ロベリアのことをよろしくお願い致します」



「あぁ……明日にでも俺の物にしてやるよ」



とバトラーが土のついた靴で蹴ろうとしてきたのでアルクは最小限の動きでソレを躱す。



「あの女の教えた動きか……どこまでも気に入らない奴だな」


腹違いとはいえ我が兄ながら随分と腹黒く育ったものだ。



「さっさと消えろ」



「……それでは」



そう言ってあっさりと屋敷を去る僕に舌打ちする兄上。

僕が怒り激情して向かって来ると思ったのだろうか?

予想と違った反応なのでイラついている様だ。



「荷物は用意出来たし後は馬車を捕まえないと……」



「アルクー!!」



と都市を歩いて5分ほどで騒々しい奴に見つかってしまった。


「何その嫌そうな顔……ていうかその格好はなんなの?

 なんで今日は寝癖はないの?

 なんでそんなにたくさんの荷物を持っているの?」



「質問は一個ずつにしろよロベリア」



彼女が兄上が狙っているロベリア・クラウンベル。

ルーファス家と肩を並べる十二聖家の一つクラウンベル家の次女だ。



「じゃあその格好はなんなの?」



「母上が作ってくれた形見の服だよ

 スーツと呼ばれる異世界の衣服らしい」



黒くスマートなこの衣装は自分が母上から受け継いだ黒い髪と黒い眼によくあっていると自負している。



「ふーんなんかスッとしててかっこいいよ

 アルクによく似合ってるね」



「そうか……それは母上も喜んでくれるよ」



するといきなりぐぅ〜〜と音を立ててロベリアの腹が鳴った。

 


「お腹すいたよー!!

 朝から姉上に召喚鍛錬付き合わされた所為で朝から何も食べてないよー!!」



「クレセリア様の鍛錬か……

 どこかでご飯でも食べる?」



まだ出発まで時間はある、腹ごしらえをしておいても問題ない。


「もしかして『ショーガヤキ』を食べさせてくれるの?」



「別にいいよ

 今日からあんまり会えなくなるだろうから……」



と言うとロベリアは少し不思議そうな顔をした。



その後二人で食事処に向かい、料理召喚を行う。

このショーガヤキという食べ物がロベリアの大好物でいつも食べさせて欲しいと懇願して来るのだ。

確かにこのショーガヤキと呼ばれる食べ物は俺の契約している世界『アース』の中でもトップクラスに美味しい。

一度召喚した食事は記憶されている為、あれから何度も召喚している。



「ありがとー!!」

と言いながらショーガヤキを美味しそうに食べるロベリアを見て自分もお腹がすいてきたので食事を召喚する。



「レイドワールド!!」

白い魔法陣が現れ《アース》から料理を召喚する。



「『シセンマーボードウフ』?」



召喚に乗じて頭に流れ込んできた情報は今までに無い物、つまり新しい料理だ。

見たことのないソレ、は赤い汁に肉と白く四角い石の様な物が敷き詰められている。



「石かと思ったけど柔らかいな……美味しそうだ」

スプーンで掬ったそれを口に入れた時、旨みが広がる。



美味い……美味いがこれを食べている内に体が熱くなってきた。

い……痛い。

口がヒリヒリしてきた。

全てを完食した後、全身から汗がでて背中が少し冷たくなっていた。



「ごちそうさまー!!

 ってアルク汗だらけだけど大丈夫!?」


「シセンマーボードウフ……か」


母上の住んでいた世界では確か綺麗な物には棘あるという言葉があったと言うが美味い物には辛味があるという言葉もあるのだろうか?


「……とても美味しい料理だったよ」


「本当に!?

 じゃあ今度私にもご馳走してよ」



「うーん……ロベリアにはまだ早いかな?」

そんな馬鹿な会話をしているとそろそろ出発の時間になった。


「そろそろ行かないと……」



「そういえばアルクはこれからどこに行くの?」



「どこって……まぁ遠いところかな?」



行く先は決まっている。

もうこの国に戻ってくることは二度と無いだろう。

つまりロベリアと会えるのはこれが最後になるかもしれない。


「いつ帰ってくるの?」



「……どうなんだろうね

 まぁでもすぐに帰ってくるよ」



ここで僕が国を追い出されることを知ったら彼女は絶対についてくる。

ロベリアはそういう人間だ。

だから絶対に別れは言わない。


「そうだ!!

 ロベリアにいい物をあげるよ」


そう言ってアルクは用意しておいた銀色の筒をロベリアに渡した。


「これは……なに?」



「これを一週間後に開けて見て欲しい

 それまでは絶対に開けないで置いておくんだ」



「ふーん……なんかわかんないけどありがとね」



馬車に乗り込み後ろの窓からロベリアに手を振る。

その間に馬車はどんどん進んでゆく。


「……今までありがとう」

誰にも聞こえない場所でアルクはそう呟いた。


ご覧いただきありがとうございました

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