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5話 鏡花水月➀

 オリンピックに出れば、金メダル間違いなし!そんな異常なスピードで、颯爽と平原を駆け抜ける迅人。


 異世界へと来てから……明らかに上がった、自分自身の身体能力の限界や力量を確かめていると、あっという間に街道近くまで来てしまった。


「思いっきり全力で走ると、踏み込んだ地面がえぐれるし、これは制御するのに時間がかかるなぁ」


 迅人が走ってきた道を振り返ると、小さな穴のような足跡が続いている。


 自分自身の力を、思ったように制御できない事に、嬉しいけど困ったなぁ。そんな風に内心で思いながら、苦笑いする。


 身体能力の制御をするために、これからどんな修行のメニューで鍛えていこうかと、考えていると……街道の先、遠くから鳥達の騒がしい鳴き声や、怒声のような人の声がする。


 そして、いったい何か起こっているのかと、身構えていると……木々の倒れる音がして、馬車を守るようにして街道に飛び出してきた集団を見つける。




「街道に馬車を使って、防衛陣を組め! スミレは赤鬼の対処だ! 他のやつらは、馬車に鬼共を寄せ付けるな!!」


 2台ある馬車の上から、眼帯をした大柄な女性が大声で指示を飛ばす。


 森から馬車を追いかけて出てきたのは……緑色をしたゴブリンのような小鬼の集団と、赤い肌をした大型の赤鬼が1匹。


 馬車の人達が10人程しか居ないのに対して、鬼達の集団は……見えているだけでも、遠目で30匹位は確認できる。


 ハの字型に2台の馬車を組み合わせて盾にし、その内側には馬を守るように入れて、周囲にはお揃いの赤い羽織をまとった護衛達が、綺麗に陣形を組んでいる。


 手慣れた的確な指示に、すぐさま防衛陣を作った手際と言い、今までにも……まるで何度も繰り返してきたような、そんな場慣れした雰囲気を感じる。


「うわぁ。まるでこれは、ファンタジー映画に出て来る戦争みたいだなぁ」


 迅人は突然の出来事に驚きながらも、いつでも手助け出来るように戦場へと近づいていく。




 馬車の集団は……陣形を組みながら、小鬼に対して的確に対処しているが、鬼達の数が多くて、馬車を守るだけで手一杯な感じがする。さらに、一際異様な雰囲気を放つ赤鬼が居て、そちらでは長い黒髪にスリムな体形と似合わないような、身長程もある大剣を軽々と扱う女性が、自分自身へと注意を引きつけようと、赤鬼と対峙している。


 迅人は周囲の状況を見回しながら、どうするべきか内心で考える。


 こういう場面に出会ってしまったのはしかたない……やっぱり、見て見ぬふりをするなんて、俺には出来ないよな!


 決断したら即行動。馬車の人達と、鬼達の戦いの中へと飛び込んでいく。


「馬車の方々、小鬼の相手はまかせろ! 手助けする!」


 突然乱入して、馬車の人達に攻撃されないように……きちんと中心人物らしき大柄の女性に声を掛けながら、馬車を取り囲むようにして迫ってきている、小鬼達に向かって走り出す。


 気持ちを戦闘状態へと切り替えるために、深呼吸をそっと一息。


 義手を添えた刀をそっと抜き放ち、まるで水が自由に流れるのように、軽やかな体重移動と足さばきに身を任せ、刀を振る時の力の反動さえも上手く利用し、小鬼達の間を舞い踊る。


 一族に代々伝わってきた『流水の型』の剣舞だ。


 いざ戦いをすると決めると……スイッチが切り替わるように、冷静に周囲を見回しながら、戦う事が出来る。まるで、瞑想状態で戦っているような、不思議な感覚だ。


 1、2、3……これで10匹目!


 突然の乱入者に慌てる小鬼の間を、流れる水のように倒していくと、馬車の護衛達の動きが変わる。


「1番隊の奴らは、反撃開始だ! 小鬼達を殲滅しろ!!」


 掛け声と共に、馬車の上で大弓を放ちながら指揮をしていた人物が地上に降り立ち、今度は刀を使って小鬼を軽々と倒していく。


 戦闘に参加してから、10分も経たない程で、あっという間に馬車を取り囲んでいた小鬼達は殲滅される。


 そして、少し離れた場所でやり合っていた、赤鬼と大剣の女性の戦いも、どうやら終わりが近そうだ。


 怪力に自信があるのか、大ぶりの拳を振り回す赤鬼に対して、大剣の女性は軽々と攻撃をかわしながら、赤鬼が少しでも隙を見せれば、手足を的確に狙うように反撃する。まるでボクシングのヒットアンドアウェイのような感じで、様子を見ながら慎重に戦っていた。


 そして……長く続くかと思われた戦いは、急な展開を迎える。


「グガァァア! グルゥギャァアアアア!!」


 率いてきた小鬼達をやられてしまい、まるで怒りの感情にまかせたかのように……大きな吠え声と共に、赤鬼の拳の連打がくる。


「ハァッッ!」


 気迫の籠った赤鬼の拳をかわし、大ぶりで態勢を崩した隙を見逃さずに……ここぞとばかりに懐に飛び込み、大剣を赤鬼の胸へと深々と突き刺す。苦し気に呻く赤鬼に、さらにきっちりと、息の根を止めるために、短剣で首元に止めを刺す。


 大剣を手足の様に軽々と扱いながら、危なげのない立ち回りをする姿は、相当の実力が伺える。


 そうして、小鬼の群れを率いていた赤鬼も倒れ、生死を懸けた命のやり取りは、唐突に終わりを告げる。


 戦い終わって、一息つくのも束の間。馬車を守って戦っていた人達が、討伐した魔物達の解体を始める中……戦いの指揮していた、大柄な女性が歩み寄ってくる――




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