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1話

 俺がどんな人間だったかということは、正直に言って語ることなんて特に何もないような薄っぺらい人間だった、ということに尽きると思う。月並みな家庭に生まれ、それなりに家族からの愛情を受けて育ち、そこそこの大学に行って、そこそこの企業に就職して。三年目くらいに仕事に悩み始め、転職でもするかなーなんて考えながら、いやでもせっかくここまで頑張ったんだし、もう少し続けてみようかな、なんて考えてるような、そんなどこにでもいる普通の人間だ。


 何も特別なことなんてない。大多数の日本人と同じように神様なんて信じてはいないし、新興宗教なんてものは怪しさの総本山みたいなところだと思っている。

 そんな俺だったが、この度、何故かわからないが、どうやら生まれ変わったらしいということに気がついた。


 いや、気分が一新して生まれ変わった気分になったとか、そういう話ではなくて、文字通り生まれ変わったらしい。肉体精神丸ごと丸っと今までとは違う人間に。

 俺死んだっけな……? なんて考えてしまうくらいには何もなかったし、今も何もないと思うんだが、どうやら生まれ変わったことだけは確からしい。いやもしかしたら生まれ変わったのではなくて胡蝶の夢的な何かかもしれないが、兎にも角にも今までとは全く違う状況に置かれているのは確かなわけだ。


 もう一度言うと俺はどこにでもいるような普通の人間で、入社三年目の会社を転職しようか続けていこうかなんていうありふれた悩みを抱えながら生きていただけの人間だったはずだ。

 つまり、そう。成人した一人の大人だったのである。

 人生の先輩方からしたらまだまだひよっこの若造であったかもしれないが、少なくとも俺の一人称的視点から言えば成人した大人で、一人暮らしで自立した個であったわけだ。


 それが、どうだろう。俺が今何をしているのかというと、なんだろう……。ぶっちゃけよくわからない。いや、やってること自体は馴染みがあってわかるんだけど、なんでこんな状況でこんな事をやっているかなんてことは一切わからない。

 多少の嗜みがあった流行りのネット小説とかで言えば、生まれ変わり――いわゆる転生直後というのは赤ん坊の姿で、母親の乳を吸っているような、そんな状態が多かったように思う。だが、俺はというと、なんだかそんな状態とは違って、まあ、体は3歳児くらいの大きさになっているらしい。


 そもそも赤ん坊の頃に意識があったり、記憶がある、というのはいくら生まれ変わりでも違和感があったので、そこについては特に何も思わないでもない。俺の記憶をたぐり寄せても、一番最初の記憶は幼稚園の入園式あたりからだ。それ以前のことなんて全く覚えちゃいない。母親から「あなた小さい時にお父さんのタバコ飲み込んだのよ」なんて言われたこともあったが、覚えていないのだから反応のしようもない……話が逸れたな。


 それで今の俺が何をしているのかというと、床に座って目の前にいる俺と同じく三歳くらいの赤い髪の子供とチバリ? 指スマ? みたいなことをしている。指スマ2! みたいな。伝わるのかなこれ……。なんか地方によって言い方違うみたいだし。

 ていうか、髪赤いんだよな……。三歳で染めてるなんてこともないだろうし、おそらく地毛なんだろうが。地球上に赤い髪が地毛の人間なんているのか? いそうにないよな……。少なくとも俺は見たことなかった。


 俺の髪は、視界にチラチラ映る前髪から推測するに黒髪だから、今まで通りなんだけど。

 それと床に座ってると言ったが、床っていうか、なんというか地面というか。いや板張りだから床なんだけどさ。日本みたいに土足厳禁で素足でとか靴下とかスリッパとかで歩く比較的綺麗な床じゃなくて、諸外国みたいな土足で上がり込むタイプの床なんだよな。ここ日本じゃないのか?


 まあ日本でも土足で上がる人ぐらいいるんだろうけど。でも赤髪が地毛の人はいないよな、なんて考えながら目の前の子供と遊び続ける。


 正直本当に何もわからないので話のしようもない。これから何をするかとかもわからないし、自分の名前すらわからない。いや、いわゆる前世的な名前は覚えてるけど、というか俺って本当に死んだのか? 何にも記憶にないんだけどな……。まだ夢って可能性もあるし、なんとも言えない気もする。でもやけに動きとかリアルなんだよな。これは夢だ! って認識しながら見る夢っていうのもなかなか無いし。……転生するよりは確率高いか。圧倒的に。

 まあ、でも、とりあえず今は指スマに集中するしかない。めちゃくちゃ白熱してるんだよ、これ。今三勝三敗で、次で決着つけようぜって感じで。三歳児には決着なんて言葉わからないかもしれないが。


 なるようになれ、だ。俺は知らん。夢なら覚めるし、本当に生まれ変わってるならどうにもならないし。万事休す。意味違うか。


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