表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/34

15話

「くじ引きをしましょう」


 遺跡の入り口に入ったところで、フィオナが制服のポケットから五本の小さな木の棒を取り出した。二本は先が赤く塗られていて、三本は緑に塗られていた。


「一発勝負、文句は受け付けないわ」


 くじ引き用の棒をぐっと握りしめるフィオナ。そのまま俺たちに手を突き出した。


「これでチーム分けってことか?」

「そうよ。文句ある?」


 憮然としているフィオナ。

 危険があるかもしれない遺跡の探索チームを、くじ引きで分けようとするその姿勢には正直言って文句は大有りだが、まぁ俺が言ったところでこいつは聞きはしないだろう。


 フルトやサクライ先輩が何か言ってくれないかなーと期待をこめて二人の方をチラリと見るが、フルトはニコニコしながら「誰から引きますか?」なんて言ってやがるし、サクライ先輩は「僕ってくじ運強いんだよねー」とか言いながらすでに手を伸ばしていた。だめだこりゃ。


「……文句ないわ」

「お、赤だ。次誰引く?」


 俺とフィオナのやりとりを丸っと無視してくじを引いたサクライ先輩は、先が赤く塗られた棒を掲げた。

 ……まぁ、危険があるかもしれないと言っても、俺たち学生に任務として出してしまう程度の遺跡探索なのだし、そこまで危険はないと思うしかない。前回の任務で学生なのに死にかけたのが特殊な事例なのであって、普通学生にそんな危険な任務は割り振らないだろう。たぶん。おそらく。……自信は無いが。


 などと俺が一人でうだうだ考えている間に次にくじを引いたのは、意外にも今までずっと黙ってついてきていたラドフォードだった。


「緑を引いた」


 特に感情を表す様子もなく淡々と報告するラドフォード。相変わらず表情筋が仕事をしていないが、もうそれが当たり前すぎて特に何も思わなくなってきたな。

 サクライ先輩が赤に、ラドフォードが緑か。残りは赤一に緑二。どっちを引いても俺としては構わないが……。


 何となくフィオナの顔を見る。何故かフィオナは睨みつけるようにくじを見ていた。


「僕は残り物で構いませんので、お先にどうぞ」


 フルトがそう言って順番を譲ってきた。

 俺も別に残り物でいいんだが、まぁ断る理由もないしな。遠慮なく引かせてもらうとするか。


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 そう一言断ってからくじに手を伸ばす。相変わらずフィオナはくじをめちゃくちゃ睨みつけている。

 そんなに睨みつけてるとちょっと引きにくいんだが。


「……赤だな」


 俺が掴んだくじの先は赤く塗られていた。


「僕と一緒のチームだね。仲良くしようぜ?」

「そうですね。よろしくお願いします」


 と言うことは、残りは二本とも緑が確定した分けだから、チーム分けは終了だ。

「残り二本は緑なので、僕とアインスタインさん、ラドフォードさんのチームですね。お二方、よろしくお願いします」


 フルトの言葉に頷くラドフォード。フィオナはそんな二人を無視して、自分が握っているくじを未だに睨みつけている。あまりにじっと睨みつけているせいでだんだん変顔になってきているくらいだ。


「なんだ、フィオナ。自分が用意したくじに何か不満でもあるのか?」


 あまりにもアレだったので思わず声をかけてしまった。

 フィオナは不機嫌そうにくじをしまうと「別に!」と言って俺に背を向けてフルトとラドフォードに合流した。何なんだあいつは……?






「いーい? デートじゃないのよ? 可愛い先輩と二人きりだからって遊んで終わりなんて許さないからね!? わかった!?」


 二手に分かれた後の探索先や合流時間など決めていざ探索、と言う別れ際にフィオナはそんなことを大声で俺に言ってきた。

 言われなくてもこんなところでデートになるわけないと思うんだが。しかもサクライ先輩と? ……ないわ、絶対。


 だいたいなんでフィオナは自分で決めたくじ引きの結果にイライラしてるんだよ。


「心配しなくてもそんなことにはならないぜ? ま、フィオナちゃんたちはフィオナちゃんたちで楽しんできなよ」


 なんてサクライ先輩の言葉を背に、フィオナは「行くわよ!」とフルトとラドフォードを引き連れて出発して行った。


「あのフィオナちゃんが、あんなふうにねぇ……」


 そんなことを呟くサクライ先輩に違和感を覚える。まるで昔のフィオナを知っているような口ぶりだ。


「……サクライ先輩は昔のフィオナを知ってるんですか? 士官学校で知り合ったって感じの話だった気がするんですが」

「んー……ま、何というか……言葉の綾ってやつだよ。ほら、僕たちも行こうぜ?」


 そう言って歩き出したサクライ先輩の後を着いて行く。

 あの口ぶりではしゃべる気はなさそうだ。自分で言うのも何だが、ほぼずっとフィオナと一緒にいた俺がサクライ先輩のことを今の学校に入るまで知らなかったのだから、小さい頃にフィオナとサクライ先輩が知り合いだったってことはなさそうだが。


 まぁ俺はサクライ先輩のことをよく知らないし、もしかしたらって可能性もなくはないが。

 俺たちは遺跡の廊下をまっすぐ歩いていく。軍が管理しているためか遺跡だと言う割にはしっかり掃除されており、ほこりっぽさとか砂利やゴミなんかは無い。遺跡だと知らなければ今でも普通に使われている研究所だと思ってしまうだろう。


 窓から太陽の光が差し込んできていて廊下は比較的明るい。流石に窓ガラスは新しいものが取り付けられているようだ。綺麗な透明のガラスが嵌め込まれている。昔は透明な窓ではなく、外から見えないようにすりガラスが取り付けられていたはずだ。


「サクライ先輩、窓ガラスは最近取り替えたんですか?」

「まぁ最近ってほどでもないけど、取り替えたのは確かだね。取り替えたっていうか、無くなってたから新しく嵌め込んだだけなんだけど。どうしてそんなこと聞くの?」

「いや、昔は今ある透明のガラスじゃなくて、すりガラスが付いていたなって思って」


 俺の言葉に、先を歩いていたサクライ先輩が立ち止まって振り向く。その顔は怪訝そうな表情に彩られていた。


「……何でそんなこと知ってるの? この遺跡が発見された時には窓ガラスなんて枠しか残ってなかったのに」

「何でって……」


 ……何でだ? 何で俺はすりガラスが付いていた、なんて知ってるんだ? この遺跡に来たのはこれが初めてだ。そもそもさっきのサクライ先輩の言葉通りなら、この遺跡が発見されたときには窓ガラスなんて残ってなかった事になる。すりガラスが付いていたなんてこと、知りようがない。それなのに何で俺はそれが当たり前のように考えたんだ?


「……何ででしょうね。分かりません」


 俺は正直に答えた。

 実際わからないのだからそれ以上の言いようがない。


 確かにこの遺跡の入り口を見たとき、既視感がするような、何とも言えない違和感はあった。でもデジャヴ的なものは日常生活でもごく稀に感じたりするし、そこまで不審に思うことではない。でも、今回は別だ。デジャヴなんてものではない。ごく自然と、それが当たり前だったかのようにその考えが浮かんだのだ。


「ふーん……ま、すりガラスがついてたなんて確かめようもないし、君が単にそう感じただけかもしれないね」


 なんてサクライ先輩は言うが、本当にそうなのだろうか? でも、そうと思うしかないようにも感じる。

 何とも言えない奇妙な違和感を感じたまま、俺は再び歩き始めたサクライ先輩の後をついて行く。


 廊下にあったいくつかの扉を無視して、廊下の突き当たりまで歩いて行く。そこには上に伸びる階段と、下に続く階段があった。


「上の方は軍がほとんど調べ尽くしてるから、僕たちは下の方に行こうか」

「下の方は軍は調べてないんですか?」

「調べられるところは調べてるけど、上の階ほど進んではないかな。もちろん今僕たちが進んできた一階が一番調査が進んでるんだけど。だから目の前を通った部屋を全部無視してきたわけだし」

「軍が調べられてないところを進むのって危なくないんですか?」

「危ないかどうかを調べるのも探索任務の内だよ」

「……そうですか」


 下の方は何となく見たくないというか、見てはいけない気がするんだよな。ほんと、気がするだけなんだが。ただまぁ、調べられていないところを調べるのが探索任務なら、サクライ先輩の言っていることは至極もっともで、俺が反対する理由は思い浮かばない。

 俺とサクライ先輩は階段を降りていく。


 当然地下は日の光が届かないので、真っ暗だ。真っ暗で何も見えない方に向かって降りて行くのは、何だかそこの見えない穴の中に降りて行っている気分にさせられる。大袈裟な表現ではあるが。

 階段を降り切って真っ暗の中にたたずむ。といっても背後からは一階からの光が僅かに届いているので、今のところ完全に暗闇というわけではない。


 そんな中、サクライ先輩は手で壁をペタペタ触っていた。と思ったら、いきなり眩しいくらいに光が降り注いで、地下を照らし出した。


「まぶしっ」

「おー、ついたついた」


 明るすぎて思わず目を瞑って腕で庇う。徐々に光に目が慣れてきたところで周囲の光景を見ようと目を開けた。


「……電気?」

 そこには、蛍光灯に煌々と照らされた無機質な廊下が奥の方まで続いていた。この地下の廊下もある程度掃除が行き届いているように見えるが、一階ほど綺麗にされてはいないらしい。

 ここは地下の端の廊下なのだろう。廊下の片側にだけ扉が複数あり、廊下の真ん中あたりと奥の方の突き当たりで左側に道が続いているようだった。


「お? この灯りのこと知ってるんだ」


 そう言われてハッとする。確かに俺は前世の記憶のおかげで蛍光灯と電気のことを知っているが、そういえばこの世界には電気を利用した灯りはない。代わりに魔力を光に変換する「魔光灯」なるものがあるが、形としては電球っぽい丸型で蛍光灯のような細長い円柱状ではない。


「たまたまそういう名前が浮かんだだけです」


 咄嗟にそう返す。特段前世の記憶について隠しているわけではないが、別に積極的に話しているわけでもない。説明が面倒だし、そもそも普通は信じてもらえないしな。

 まぁ前時代の文明でこれが蛍光灯って呼ばれてたかどうかなんて知らないしな。別の呼び方だったかもしれないし。


「たまたま? へえ、たまたまでこの灯りの名前を当てるんだ。シャン君はすごいねー」

「ええ、たまたまです。……ていうか本当にこの灯りって電気って言うんですか?」

「発見された資料から、この天井についている細長い棒みたいなやつに電気ってやつを流して光らせてるってことはわかってるぜ。細長い棒みたいなやつは蛍光灯って言うらしいんだけど。ま、僕には詳しい原理はよくわからないけど、とりあえず僕がさっき押したスイッチを押せば灯りがつくってわけ」


 そう言ってサクライ先輩は壁に設置されているスイッチを指さした。そこには日本でよく見た記憶のある、あのパチパチとオンオフを切り替えるスイッチが付いていた。

 スイッチを押したら灯りがつく。……電源の供給とかどうなってんだ? 発電所なんて無いし、まさかこの施設未だに自力で発電してるのか? どうやって? 核融合炉か何かでもあるの?


「とりあえず奥に行こうぜ? 軍が調査できなかった入れない部屋とかあるし、そういうところにどんどん挑戦していこう」


 歩き出したサクライ先輩に追従する。


「それにしても、何を研究していたんでしょうね」


 こんな三千年以上も形を保ったままの丈夫な建物を造って、一体何の研究をしていたのだろうか。地下にも建物が広がってるし、外に出したらやばいものの研究とかか? 細菌とか、感染症とか。

 いや、むしろ中からというよりは、外から壊されないためとか? ……壊獣的な? ……まさかな。


「壊獣の研究だよ」


 壊獣の研究か。まぁ壊獣の研究なら確かに頑丈そうな建物とか必要そうだよな。何せめちゃくちゃでかい怪物だったって話だし……神話の中の話だけど。


「ここは壊獣の研究をしていたんだ」


 もう一度言うサクライ先輩をまじまじと見つめる。冗談じゃなかったのか。

 壊獣の研究? 神話の研究でもしてたってのか? 三千年も前に?


 というか、ここに入る前に、何の研究をしていたかはわからないみたいなこと言ってなかったか?


中途半端だったのでもう1話投稿しています

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ