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手記3

 結局私が街を出たのは、それから三日後の昼だった。

 翌日は予定通りソーシャの買い物に一日付き合い、その翌日の午前中は友達の家のお茶会にソーシャを送って行き、帰りも迎えに来てとせがまれてしまった。

 さすがにその願いを無下にする訳にもいかず、ようやく気兼ねなく自由に体が動かせるようになったのが、街に帰って来てから三日後の昼だった。

 出発する前に一言エレノアに納期の件を話しておこうとも考えたが、運悪く避暑に行ってしまったらしく会う事は出来なかった。

 だが、このまま上手く行けばぎりぎりだが期日を守る事が出来そうだと判断し、言付けも何もしてこなかった。

 走り出した馬車の不規則な揺れは石畳の道が終わりを告げると同時に収まり、代わりに速度を落とした馬車は、時たま思い出したように複雑な動きをする。

 最初慣れないうちは酷く乗り物酔いをしたが、今は馬車の中で刺繍を施せる位には慣れたもの。

 この訪問でエレノアの手袋分の生糸を捻出出来たとしても、あの様子では今年の糸はもうそれ以上期待出来ないだろう。

 数日前に眺めた風景を横目に、街で仕入れた生糸でハンカチの隅に刺繍を施しながら馬車に揺られ続けた。

 

「ヘイスター様?」


 村に到着し再び丘の上のレネの家を訪ねたのは、日も傾き夕刻に差し掛かった時だった。

 レネは一週間後に来ると言った私が予定を早めた上に、こんな時刻に現れた事に驚きを隠せなかったようだが、事情を説明すると再びその土気色の顔に玉の汗をかき、玄関先だと言うのに床に頭を擦り付けんばかりに謝罪をした。


「そこまでせずとも……私は支払った代金の一部返金と、金糸を紬直して貰えればそれで良いだけだ。とりあえず差し迫った納品に間に合えば良いのだから、一先ず頭を上げ――」

「きき金糸で御座いますね! それらなば丁度良いのが御座います!」


 話を遮るようにレネが顔を上げパメラに目で合図を送る。

 少し躊躇った素振りを見せたパメラが隣の部屋に姿を消すと、またすぐに小さな籠を持って戻って来た。

 それを受けとったレネが私の前に恭しく置き、また少し離れた場所戻るやパメラと共に頭を床に擦りつけた。

 ここまで平服されると、どうもすまない事をしてしまった気持ちになってくる。

 少し気後れしつつも置かれた籠を確認すると、確かに中には見事な金糸が数本入っていた。

 だが、金糸を手に取ろうと身を屈めた時、ふと騒ぎを聞きつけた村人がレネの家を遠目に覗いているのが扉の隙間から見えた。

 一先ず平伏しているレネを立たせながら後ろ手に扉を閉め、金糸の籠を拾い上げると、俯いたままのレネとパメラの肩を順番にそっと叩いてやった。

 すると小刻みに震えるレネはどうにか頭を上げ、頼りない足取りながらも私をどこかへ案内し始めた。

 静かにレネについて行けば、そこは家の入り口から真っ直ぐ奥に向かったいつもの作業部屋ではなく、家の中を通り抜け、庭続きの隣の建物に通された。

 通された建物には窓こそはあるが他には何も無い、本当に窓だけだ。

 ここで生活して行く様に造られた訳では無さそうだ。

 きっと蚕小屋か倉庫として使う事を前提に造られたのだろう。

 雑然と物が置かれた部屋の中には、スピンドルや籠、蚕巣が無秩序に置かれ、最近の養蚕の慌しさを物語っていた。


「このような所で申し訳御座いませんが、本日はこちらにお泊り下さい」


 床に転がったスピンドルを足でつついていると、レネが部屋の隅に置かれたランプに順番に火を灯しながらか細い声で呟いた。

 部屋の壁に掛けてあるランプ全てに火を灯しても薄暗い室内。

 顔を上げ振り返ればパメラが寝具を抱え、母屋から庭を渡ってくるのが見える。


「いや、こんな時分に押しかけてしまったんだ、これ以上迷惑はかけられない。今日は最近出来たと聞く村の麓の宿に世話になろうかと思っていたんだが」


 入り口傍に設置されたランプの下のテーブルに持っていた籠を置き、部屋の中を片付け始めたレネとパメラを止めるも、どうぞお泊り下さいと言って引かない。

 この前もそうだったが、レネは一度言い出すと意見を曲げないきらいがあるらしい。

 一部屋しかない建物の、入り口から一番遠く離れた場所は木の板や箱が積み重ねられ一段高くなっていた。

 その一段高い場所にパメラが慣れた手つきで素早く寝具を整えると、また小走りで母屋に戻って行ってしまった。

 レネも部屋のあちこちを片付けたり掃除をしたりと、一日労働した後とは思えない程きびきびとした動きを見せている。

 ここまで準備して貰っておいて宿屋に行くと言える訳も無く、半ば諦める形で金糸の籠を再び手に取り、用意された簡易ベッドに腰掛けた。

 思ったよりも柔らかく厚みのあるベッドは、小さく鳴きながら私の体重を支えた。

 これなら宿屋で寝るのとそう変わらないのではないだろうか。

 掃除に精を出し、ついには床の水拭きを開始したレネの邪魔にならぬ様に靴を脱ぎ、ベッドの上に胡坐で座り直し金糸を手に取る。

 淡いランプの光でも分かる程に光沢のある金色。

 試しに一本糸を伸ばしてみれば冷害の被害が嘘のようなこしと張りがあり、糸を撚り合わせた事により出来る、些細な凹凸も無い文字通り滑るような肌触り。

 この村の糸を使うようになって何年も経つが、これ程不思議な糸は無かった。


「レネ、こんな素晴らしい糸どこに隠してたんだ? 出し惜しみせずともそれなりの値で……」


 糸の束を再び光にかざそうと顔を上げた時、何か香った様な気がしそのまま言葉を止めた。

 何がどこから香ったのか分からず、周囲を確認しながら匂いの元を探していると、床の水拭きをしていたレネがその手を止め、飛び切りの笑顔で顔を上げ口を開いた。


「仄かに良い香りがしますでしょ? 桑の葉だけを食べて育つ蚕は、自分自身が桑の葉の香り――ジャスミンのような香りになるんですよ。その中でその金糸のような飛び切り上質な物を作る固体になると、その糸からも仄かにジャスミンの香りがするのです」

「へぇ! 糸が香るのか。ジャスミンの香る糸……貴族が喜びそうな謳い文句じゃないか」


 新しい商品として売り出す謳い文句としては十分だが、しかし話を聞く限りではそれこそ量産は難しいのだろう。

 手の中の金糸を繁々と眺め、手触りと光沢を再度確かめる。

 いつもの糸よりは幾分か太い気もするが、輝きは申し分無い。

 基本の刺繍は普段使用する糸と同じ物を使用し、アクセントとしてこの金糸を使うのも良いかも知れない。

 これでもし期日までに納品出来なくとも良い言い訳になる。

 掃除を終えたレネと軽食を持って戻って来たパメラに礼を言うと、二人はいつもの様な朗らかな笑顔で母屋に戻って行った。

 部屋に一人になった私は作業を始めるべく、入り口にあった小さなテーブルをベッド際に移動させると、早速刺繍の図案決めに取り掛かった。

 

 葉の擦れる音と折り重なる虫の声。

 かすかに開いた窓から吹き込む夜風に揺れるランプの光。

 初夏と言えど夜風は身に沁みるらしく、一人ベッドの上に腰掛けていた私は身震いをした。

 作業の手を止め窓に視線を向ければ外はすっかり真っ暗になっていた。

 必死に目を凝らさないとそう離れていないはずの母屋の壁すらも見えない程の深い闇が広がっている。

 どうやら随分長い事作業をしていたようだ。

 作業中だった手袋を投げ出し、伸びをすれば腰も腕も木になってしまったのではないかと思う程軋み、ベッドに仰向けで寝そべれば腰や首が軽い音を立てて鳴った。

 そのまま寝そべった状態でベッドの隅に投げ置いた手袋に視線を落とすと、純白の手袋の上で金糸がランプの光を乱反射し、小さな宝石をいくつも散りばめた様な輝きを放っている。

 まだ作業は終わっていないが我ながら見事な出来だと思う。

 レネから受け取った籠の中には、例の不思議な金糸の他に、見慣れたいつもの金糸も入っていたので両方を織り混ぜ刺繍を施してみたのだが、それは期待以上の代物になった。

 鈍いながらも自身が金糸である事を主張する様にしっとりとした光沢を有する細い金糸と、それらが全て自分を引き立てる為に存在すると、周りに錯覚させる程に輝きを放つ太い金糸。

 平面の刺繍にも拘らず、多くの糸を使用せずとも二種類の糸の太さ、輝きだけで遠近感を表現し、まるで一枚の絵画の様な見事な大輪の花が手袋の上に咲き誇っているような出来だ。

 乱雑な部屋の中であまりにも異質なその手袋に見とれる反面、一週間など期限を設けた自分を呪いたくなった。

 これは片手間に、しかも日常使いの手袋なんかに使用するにはあまりにも勿体無い。いや、勿体無いどころかいずれ天罰が下るのではないか。

 ベッドの上で一人、時間を忘れ少女のように手袋を眺め刺繍に触れを繰り返し、この奇跡のような出来事に静かに歓喜する。

 意味の無い寝返りを何度かし、ようよう気持ちも落ち着き始めた時、ふと微かに物音がし気がした。

 それは本当に小さな小さな物音だったが、気のせいで済ませるにも風の音と片付けるにも無理のある、どうにも気味の悪い何かを引っかく様な耳に残る音。

 その本能的に受け付けない音に、無意識にベッドの上に両膝を抱える情けない状態で座り込み音に全神経を研ぎ澄ませる。

 するとやはり気のせいでは無かった。

 それは少しでも顔の向きを変えれば聞こえなくなってしまう程本当に微かな物だが、確かに不規則な音がする。

 言い知れぬ不安の中、最小限の動作で音の発信源を見つけようと腰を浮かせた時、ベッドの脇に置いていたテーブルの上で、淡いランプの光に照らされ何かが動いた。


「っ……!」


 自分でも悲鳴を上げなかった事に驚いた。

 テーブルの上。正確にはテーブルに置かれた籠の中に、いつかレネの家の壁を這っていたあの多足の虫が二匹うごめいていたのだ。

 以前見た物よりも幾分か大きい様な気もするそれらは、薄気味の悪い姿を淡い光に晒しながら、長い足で何かを確かめる様に金糸に張り付いている。

 しかもよくよく見れば、張り付いているのはよりにもよってあの不思議な金糸のみ。

 自慢ではないが貴族出身ではないにしろそれなりに裕福な家に生まれ、あの整った街以外で暮らした事の無い私はこう言った生物にはめっぽう弱い。

 徐々に全身が粟立つのが分かる。

 その直後、衝動的にレネが部屋の入り口に置いて行った掃除用具の中から柄の長い箒を取り上げ、それで籠を上手く引っかけ扉の外に投げ置いた。

 その衝撃で張り付いていた虫は一目散に闇に消え去ったが、次はどこから奴らが来るか分かったものじゃない。

 投げ出した籠もそのままに、開けたままだった部屋の窓を閉めて回り鍵をかける。

 勿論虫が窓を開けられる訳も無いので鍵をかける必要など全く無い。

 だがどうしてもそれだけでは不安で何かしたくてたまらなかった。

 これが自宅だったら部屋中の目地と言う目地を塞いで回ったに違いない。

 初夏だと言うのに締め切った室内は、やはり扉を開けただけでは意味は無いのか徐々に温度が上がって来た。

 このまま扉だけでも開け放っておきたいが、先程の事を考えるとそれも躊躇われるし、それ以前に室内にもう虫が居ないとも限らない。

 こんな状態ではとても寝れそうには無い。

 だからと言ってもう作業する気にもなれなかった。

 外に転がった籠の端を摘み拾い上げながら、これからどう過ごそうか途方に暮れる。

 籠を抱えたまま外に一歩踏み出し丘の麓へと視線を向ければ、村は静まり返り明かりの一つもついてはいない。

 きっと今起きているのは私だけなのだろう。

 時折吹き抜ける夜風はうっすらと汗ばんだ肌とシャツの間をなぞり、まるで落ち着きの無くなった私をあやしているようにも感じられる。

 確か部屋の中に長靴もあったはずだし、このまま少し散歩をしてみても良いかも知れない。

 確か桑の畑の方に井戸があった。虫が触れた金糸を散歩ついでに洗うとしよう。

 そう不安を払拭する様に無理矢理自分に言い聞かせると、早速部屋の隅にあたった長靴に履き替え、ランプと籠を手に歩き出した。

 井戸のある場所はレネの家から丁度道を挟んだ反対側に位置し、私の居る場所からだとレネ達の居る母屋を通り抜けるか、周りの桑の畑の中を通っていくしかない。

 さすがに夜も更けた今母屋の中を通り抜ける訳にはいかない。

 この暗く見通しが悪い中、ランプ片手に桑の畑の中を通っていくしかないようだ。

 雑草のせいか土壌のせいか、そろりと歩き出せば思ったよりも足元は柔らかかった。

 適度に足が地面に沈み、石畳の道なんかよりも歩きやすいように思える。

 長靴を履いている為気兼ねなく歩ける。

 そのまま枝に気をつけながら少し湿り気を帯びた雑草を掻き分け母屋を迂回し始めると、微かに窓から灯りが洩れているのに気づいた。

 位置的に普段糸紬の作業をしている部屋の様だが、こんな時間まで作業をしているのだろうか。

 失礼な事と重々承知の上だが寝室でも無い。

 ばれなければどうという事は無いと自分に言い聞かせ、好奇心に任せ少し覗いてみる事にした。

 静かに近づいてみると窓を開けていた訳ではなく、扉と同じ立て付けが悪い窓の隙間から光が洩れているようだった。

 光で気付かれない様少し離れた所にランプを置き更に距離を詰める。

 そう言った趣味は無いはずだが、レネに見つかってはいけないと思うと、密かに興奮していく自分がいる。

 一歩一歩慎重に近づき窓に手をかけゆっくりと力を入れれば、意外にも窓は物音一つ立てずに僅かに開いてくれた。

 ぎりぎり見えるか見えないか位に開けた窓から、呼吸を殺し中を覗き込んでみると、そこにはレネの背中が見えた。

 レネは小さなランプの前に座り込み、一人スピンドルと回していた。

 直接板の間に座り込んでいるレネの服装は夕方に会った時と同じ物の様だ。

 私と一緒であれからずっと作業をしていたのか。

 寝る間を惜しんで作業をしなくてはならない程村は緊迫していたのかと、寄ってくる小さな蛾を払い除けながらそんな事を思っていると、ふとレネの隣に置かれた籠が視界に入った。

 その籠には紡ぐ前の糸が入っているようだが、どうにも違和感がある。

 蚕の繭は全て長い一本の糸で出来ている。その為煮繭をした後の糸ならばいくら洗って解したからと言っても、それなりに繭の原型を留めている物だ。

 だが今レネが紡いでいる糸は全て同じ長さに切り揃えられ、真っ直ぐにした状態の物が籠の中に寝かされている。

 確かに先程刺繍をしていて、あの不思議な糸は通常の物よりも上質と言っていながらも、途中で短い糸を何本も繋ぎ合わせたような形跡があったので疑問に思っていた。

 それに、なぜあの籠の中の糸は紡ぐ前に染色をされているのだろう。

 ランプの光の加減、いや、そんなはずは無い。

 先程までじっくりと糸を使い眺めていのだ。

 あの金の光沢と輝きはランプのせいではない。

 考えれば考える程どうにも腑に落ちない。

 それどころか気分が悪くなって来た。

 手に持った籠の中に視線を落とすと、先程まであんなにも自分を魅了した金糸だと言うのに、今は得体の知れない恐怖がそれの上に覆いかぶさっていく。

 自分でも脂汗をかいているが分かる。

 これ以上見てはいけないと言い始めた本能に従いその場を後にしようとした時、レネの隣の籠にあの多足の虫が入っていくのが見えた。

 よく見ればランプの光に寄って来ているだけだと思っていた蛾も、ランプではなく籠の周りを飛び回っているようだ。

 レネはその虫達を忌々しそうに手で払い除けると、また籠の中から一本糸をとり紬はじめた。

 私は母屋から離れランプを鷲掴みにするとがむしゃらに走った。

 どこに行こうという訳ではなくただただあの場を離れたかった。

 頼りないランプの光だけでは木の根に足をとられたり枝に頭をぶつけたり、気が動転しすぎて今自分が丘を登っているのか下ってるのかも分からなかったが、それでも構わず走った。

 もうあのレネの準備してくれた部屋に戻りたくは無かった。

 こんな気持ちを抱えひとり高すぎる小屋の天井を眺めながら眠りにつける程、私は神経が太くない。

 だが長靴で走るのは相当体力を使うようで、じきに息も絶え絶えになり足元が覚束なくなって来た。

 それでも無我夢中に走ったが、ついに体力の限界を迎えた時それ見計らった様に何かが足に絡み付き、私は盛大に転び柔らかな地面に顔を打ち付けた。

 転倒した拍子に籠の中の金糸を落としてしまったようだが、どうにかランプだけは死守し光を失う事は無かった。

 体中に響く鈍痛に顔を歪ませながら顔を上げれば、村のどの辺りかは分からないがまだ桑の畑の中に居た。

 立ち上がり体中に付いた土と草を払い落としランプを握りなおす。

 もう金糸を拾う気にもなれないが、それでも散らばった金糸を探す為ランプで辺りを照らすと、自分の足元の何かがあった。

 どうやらよくよく見れば木の下に布が埋まっているようだ。

 土から少しだけ覗いているその布の一部に足をとられたのだろう。

 桑の木の害虫予防かなにかか。

 それの意図はよく分からないが半ば八つ当たり気味に埋まっている布を爪先で蹴り上げた。

 だがそれは相当大きな布が埋められているのか、少し掘った位ではその全貌は分からなかったが、埋められているのは意外にも上質な布のようだ。

 ぼんやりとそれを眺めていると、散らばった金糸と土に埋まった薄い緑色の布にゆっくりとあの虫が這いはじめた。

 

 

 近年貴族の間では田舎で夏を過ごすのが流行っているらしい。

 貴族とは随分と変わった生き物で、田舎は田舎でも特に観光する所も何も無い場所の方が好ましいと言う。

 その為最近簡易の宿らしき物を作る村も増え、気まぐれな貴族の趣向は村の本業を越える程立派な収入源となっている。

 ただやはり貴族は貴族。

 いくら流行に乗った貴族が村に出向いたとしても、その貴族がお気に召さなければ意味が無い。

 あの髪のオイルが虫が寄ってくるという理由で早々に廃れたのと同じ。

 例えそこの村人が繊細な特産品に触らないよう近づかないようにと懇願しても、相手は御貴族様。

 村人のそんな願いを聞く所か逆上し怒りをあらわにするだろう。

 そして街に帰ったらその事を、さも大事件に巻き込まれたかの様に大げさに言うだろう。

 そんな貴族の行動など想像も容易に出来るし、その時の村人の考えも想像がつく。

 そう言えば余談だが、イヌプス村のあの不思議な糸は夏の間しか出回らないらしい。

 そしてあの日以来エレノアの姿を街で見る事は無く、その後数年間、年に何人も貴族の娘がエレノアと同じ様に居なくなる事があった。

 だがそれも最初こそ誘拐だなんだと騒がれはしたが、貴族の娘だけではなく同行した従者も一緒に居なくなっている事から避暑に行く途中、または帰り道で事故にあったものとされ、次第にその騒ぎを受け田舎に避暑に行く者も減った。

 それと行方不明になる貴族の娘の共通点として、混じりけの無い長い金髪という事が上げられたが、金髪の女など掃いて捨てるほど居る。

 ただの偶然と処理された。

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