第1章 第9話 討伐の報酬
エリックはふた角兎の卵をすべて破壊した。
その上で、何やら別の作業を続けていた。
???:「きゃー」
エリック:(森の外で何か起こったのか?)
エリック:(今の悲鳴はゴメスの仲間のものか)
何かを脇に抱えエリックは森を出た。
そこにはもう1匹の女王兎と太刀を上段に構え立ちふさがるカイトの姿があった。
と次の瞬間、カイトは太刀を振り下ろした。
物凄い衝撃が辺りを襲う。
カイトはくるりとこちらを向き、太刀を鞘に収める。
その直後、女王兎は真っ二つになり、左右に別れて倒れる。
そして、カイトも仰向けに倒れた。
エリック:「・・・・・・」
呆然として立ちすくむエリック、ゴメス達の笑いで我に返る。
エリック:(全く…俺も愚かなことをしていたな)
エリックはカイトたちを馬鹿にしていたことを恥じた。
エリックは真っ二つになって倒れる女王兎のところに言った。
倒れているカイトのところへベリアス、マイラそしてラミルもやって来た。
ベリアス:「大丈夫ですか?カイト!」
カイト:「もう、1歩もうごけねぇ!」
ベリアス:「そんな事言わずに、移動しましょう」
ベリアス:「ほら、あそこの木まで、それくらい動けるでしょ」
ベリアス:「さぁ、つかまってください」
ベリアスの肩を借り、カイトは木の根元まで移動し、そこに腰をおろした
エリックが何やら抱えてカイトのもとにやって来た。
エリック:「ほら、これは兄さんのものですよ」
女王兎の角2ツイと2本足兎の角5ツイをカイトが座っている横に置いた。
オースティン:「そうです、倒した魔獣の角や牙などは、倒した人に所有権があります」
カイト:「いや、でも・・・」
ベリアス:「頂いておきましょう」
アリア:「そうだよ、そんだけありゃ〜一生遊んで暮らせるんじゃないか!?」
ラミル:「これで、あのエロジジイたちと会わなくてすむわ」
マイラ:「あら、あのジジイたちから『金を巻き上げてやる』って言ってくせして」
そこにいた者たち全員が笑う。
ベリアス:「町に戻りたいのですが、カイトがこの状態ですと・・・」
オースティン:「わかりました、向かいを呼びましょう!町の方の状況も知りたいですし」
オースティンは伝書鷹の笛を吹いた。
上空から鷹が舞い降り、オースティンの差し出した左腕にとまった。
オースティンは手紙の入った小さな筒を鷹の足につけ放った。
カイト:「その笛は?」
オースティン:「これですか。伝書鷹の笛と言いまして、一番近いギルドで飼っている鷹を呼べるんです」
オースティン:「さっきみたいに、ギルドへ手紙を送れます」
オースティン:「ギルド間の通信も鷹で行っているようです」
しばらくして、バルナックギルドの馬車が2台連なって到着した。
上空では鷹が旋回している、馬車は上空の鷹に先導された来たのだろう。
先頭の馬車の馭者:「皆、無事で何より!」
ゴメス:「イーサン!?ギルドマスタ自らのお迎えとは・・・」
イーサン:「この位させてもらわないと、バチがあたる」
オースティン:「マスタ、町の方は?」
イーサン:「冒険者達のおかげで、撃退した!」
イーサン以外、この場で戦っていた9人はホッとした表示になる
ベリアス:「カイト、立てますか?馬車に乗りましょう」
カイト:「ああ、なんとかね」
9人は2台の馬車に別れて乗った。
イーサンが馭者をつとめる馬車にはカイト達のパーティ、
もう一台の馬車にはゴメス達のパーティ、その馭者の横にエリックが座った。
カイト:(馬車なんて初めて乗るなぁ)
カイト:(なんだか、ノンビリしていて、その上揺れも心地良い・・・)
#カイトは眠りに落ちた
ラミル:「寝ちゃったね!」
マイラ:「変なことしてはだめですの」
ラミル:「わかっているわよ!こうして寝顔を見ているだけ」
ベリアル:「起こさないようにしてください」
ベリアル:「それにしても、カイトのあの力・・・」
ラミル:「すごかったですわ、さすが大」
マイラ:「それ以上はダメですの」
#マイラがラミルの言葉を遮った
ラミル:「あっ!」
ベリアル:「そうではありません」
ベリアル:「カイトが凄いのは当たり前です」
ベリアル:「カイトの能力に今の身体がついていけないとしたら・・・」
マイラ:「暴走するってことですの?」
ベリアル:「わかりません、が可能性はあります」
ラミル:「どうすればよいのかしら?」
ベリアル:「何ともいえません。今は注意して見守るしか・・・」
ベリアル:「そして、最悪の事態が起きた場合の覚悟をしておく必要があるでしょう」
マイラとラミルはうなずいた。
少しして、馭者をつとめるイーサンが話しかけてきた。
イーサン:「今回の働きではっきりしたが、あんたらのランク、AいやSとしてもおかしくない」
イーサン:「俺の一存では1つ飛ばしでCにするくらいだ」
イーサン:「全ギルド統括に今回の働きを申請して、俺にはできねぇB以上のランクになってもらいたい」
イーサン:「あんたらだったら、ランクA確実だ」
ベリアル:「そうですか、カイトが起きたら相談してみます」
馬車は町に着いた。
道の両脇に人だかりがができ、歓声をもって馬車を出迎えた。
歓声にカイトは目を覚ました。
カイト:「ん?」
ベリアル:「目が覚めましたか、バルナックに着きましたよ」
カイト:「寝ちゃってたんだ(笑)」
ラミル:「それはもう、食べちゃいたいくらい、可愛いい寝顔でしたわ」
マイラ:「茶化してはダメですの」
カイト:「我々の凱旋をたたえてくれているようですね」
馬車はギルドの前でとまった。
女王兎討伐の9人はギルドのBarで一休みをすることにした。
エリック:「ヘレン、エール9杯たのむ」
ヘレン:「はーい」
しばらくして、エールが運ばれてきた。
カイト:「腹減ったねぇ〜」
エリック:「何か食べ物を見繕ってたのむ」
ヘレン:「それが・・・あるにはあるんだけど」
エリック:「じゃ、それでいいよ、急いでたのむ」
しばらくして、すまなそうな表示で焼いた肉を持ってきた。
エリックとゴメスがその肉を同時に口に運ぶ。
顔を見合わせる2人、
ゴメス:「ちょっと癖が強いな〜」
エリック:「ああ〜」
カイト:「えっ?」
カイトもその肉を食べる。
カイト:「うわっ、本当だ!」
ヘレン:「すみません!その肉、ふた角兎の肉なんです」
ヘレン:「ふた角兎の肉はいくらでもお出しできるんですが・・・」
ヘレン:「他のものは・・・」
エリック:「バルサのおっさんが、また何か言っているんだな!」
ヘレン:「町の復興のために仕方ないんです」
エリック:「明日、文句言いに行ってやる」
カイト:「ヘレンさん!」
カイト:「卵と植物性の油、お酢と塩コショウって、ある?」
ヘレン:「はいありますが・・・」
カイト:「持ってきてもらえる?」
ヘレン:「はいぃ・・・」
ヘレンは厨房から卵、オリーブオイル、お酢、塩そしてコショウを持ってきた。
オースティン:「カイトさん、何をするんですか?」
カイト:「まぁ〜、見ててください」
カイト:「卵は卵黄だけ、卵白はもったいないので、何かに使ってください」
カイトはボール上の容器に卵黄を入れ混ぜ始めた。
カイト:「そして、オリーブオイルを少し入れて混ぜる」
カイト:「混ざったら、またオリーブオイルを入れる」
カイト:「これを繰り返す、卵黄1個にオリーブオイル100mlくらいかな」
カイトは混ぜる、オリーブオイルを入れるの作業を繰り返した。
カイト:「ほら、クリーム状になって来たでしょ」
カイト:「そしたらお酢小さいスプーンで2杯入れて更にませる、」
カイト:「最後に塩コショウで味を整え、出来上がりー!」
オースティン:「何ですか、これ?」
カイト:「マヨネーズ♡」
カイト:「ふた角兎の肉に、このマヨネースをつけてって」
カイトはマヨネースをつけたふた角兎の肉を口の中に入れた。
カイト:「んまい!」
ゴメス・エリック:「何だって?」
二人も同様に、ふた角兎の肉にマヨネーズをつけて口の中に入れた。
ゴメス・エリック:「んまい♡」
他の客:「何だって!」
Barにいた冒険者達が集まってきた。
冒険者A:「俺にもそのマヨネーズとやらを試させてもらえねぇか?」
カイト:「ああ、いいよ」
冒険者Aも、ふた角兎の肉にマヨネーズをつけて口の中に入れた。
冒険者A:「んまい♡」
その他の冒険者もマヨネーズをつけたので、あっという間になくなった。
マイラ:「ちょっと、私達の分なくなったの!」
カイト:「また作ればいいよ!」
ヘレン:「私達が作ってきます、作り方わかりましたので」
ヘレンは厨房へ入っていった。
しばらくしてマヨネーズと追加の肉を持ってきた。
Barにいた客は、マヨネーズを付けたふた角兎肉そしてエールを堪能しきった。
しこたま酔ったカイトたちは宿の戻った。
翌朝、カイトの部屋をけたたましくノックする者がいた、エリックである。
エリック:「おい、カイト!まだ寝てるのか?」
部屋の中から半分寝ているようなカイトの声がする。
カイト:「なんだよ、いったい?」
カイト:「今日はギルドの仕事、休みだよ」
エリック:「そうじゃねぇ、町長が・・・」
カイト:「町長と俺は何の関係もない!」
エリック:「いいから起きろ!」
部屋のドアが開き、そこには眠い目をこすっているカイトの姿があった。
エリック:「支度して、下に降りてきてくれ」
カイト:「わかったよ」
エリック:「他のヤツラもたのむ」
しばらくして、カイトたちは下に降りてきた。
エリックの横に白髪交じりの髪をオールバックにしたスーツ姿の紳士が立っていた。
紳士はカイトたちを見つけると頭を下げた。
紳士:「この度、バルナックを救っていただき、ありがとうございました」
紳士:「私はバルナックの町長を務めております、バルサです」
バルサ:「少々お話したいことがあり、不躾ながらお向かいに上がりました」
バルサ:「これの無礼に対するお詫びもございますし」
バルサはエリックの方を見た、エリックは苦笑いしている。
カイト:「わかりました」
バルサ:「さぁこちらへ」
バルサにいざなわれて馬車に乗り、町長の執務室に向かった。
町長の執務室に入ると、イーサンやゴメス達がそこにいた。
バルサは執務用デスクの椅子に座る。
執務用デスクの前にある来客用のソファーにイーサンとゴメス達が左側にカイトたちとエリックが右側に座った。
バルサ:「今回のこと、改めてお礼申し上げる」
バルサ:「カイトさん、ベリアスさん、マイラさんそしてラミルさん」
バルサ:「エリック達のご無礼、どうかお許しください」
カイト:「エリックのことは、もう氣にしてないからいいですよ(笑)」
バルサ:「寛大なお心遣いに感謝します」
バルサ:「ほれ、エリック!」
カイト:「いいよ、エリック!今更気持ち悪い」
バルサ:「そうですか、それでは本題に入りましょう」
バルサ:「議題は3つあります、まず1つ目、ギルドにかんすることですが」
イーサン:「それは私から、話します。」
イーサン:「馬車でもお話しましたが・・・」
カイト:「それならベリアスから聞きました」
カイト:「マスタの裁量範囲で構いません」
カイト:「ランクCくらいが1番動きやすいかと思っています」
ベリアス:「申し上げることはできませんが、それが我々の目的にあっていると判断しました」
イーサン:「本当によろしいですか」
カイト:「はい!」
イーサン:「それなら後ほどギルドによってください」
カイト:「わかりました」
バルサ:「では2つ目ですが」
オースティン:「それは私から!」
オースティン:「もう、気づいているとは思いますが・・・」
オースティン:「シッセナ共和国の首都シッセナシティからある調査に来ています」
オースティン:「ギルドの依頼であることに変わりは無いのですが・・・」
オースティン:「その調査とは、巨大盗賊団組織の実態を調べることです」
オースティン:「今回のふた角兎事件と関係があるようなのです」
ベリアス:「盗賊団とふた角兎の関係ですか?」
オースティン:「ふた角兎は新しい繁殖地を見つけると、異常なほど繁殖します」
オースティン:「今回のふた角兎、元の繁殖地を追い出されたが、女王兎を殺されたか」
オースティン:「どちらかの可能性が高いです」
オースティン:「あのふた角兎に対抗できるとなると」
ベリアス:「相当な連中、それも1人や2ではないと」
オースティン:「そのとおりです」
オースティン:「ですから、加勢をお願いしたいのです」
ゴメス:「カイトたちがいてくれたら、心強い」
ベリアス:「どうしましょうか?」
ラミル:「カイトに任せるわ」
マイラ:「わたくしもですの」
ベリアス:「カイト」
カイト:「ん、わかった!協力するよ」
オースティン:「ありがとうございます」
ゴメス:「かたじけない」
キキ:「助かります」
アリア:「今後ともヨロシクな」
そこへエリックが割り込んだ。
エリック:「勝手ながら、俺も協力させてもらうぜ」
バルサ:「エリック、お前では足手まといであろう」
エリック:「弟達の借りはまだ返せていないんだ!」
バルサ:「だがしかし・・・」
カイト:「調査するんだったら、人手が多いほうが」
バルサ:「そう仰るのであれば」
バルサ:「エリック迷惑だけはかけるな」
エリック:「わかってますよ」
バルサ:「最後の3つ目は私から」
バルサ:「ふた角兎に畑や家畜を食い荒らされて、町の財政は極貧状態です」
バルサ:「そこで復興のためにも、あのマヨネーズを独占生産、全国販売としたいのです」
バルサ:「もちろんカイトさん、あなたにも売上の一部を還元します」
カイト:「反対です!」
バルサ:「えっ?」
カイト:「マヨネーズの作り方は非常の簡単です、すぐに知れ渡るでしょう」
カイト:「競争がなければ、低い品質で高い価格のマヨネーズになってしまうでしょう」
カイト:「それは許せません、ですから独占には反対です」
カイト:「町復興の予算でしたら」
カイト:「ポルタ」
魔王城の宝物庫に空間をつなげた。
そこから、ふた角兎の角を取り出し、ソファーテーブルの上に置いた。
カイト:「これをお使いください」
バルサ:「なんと、それは・・・」
バルサ:「本当によろしいのですか?」
カイト:「はい」
ラミル:「らしいわねぇ」
マイラ:「ホントですの」
ベリアス:「あなたという方は、いつも自分よりの・・・」
ベリアスは涙ぐんでいた
カイト:「で、調査の出発は?」
オースティン:「準備ができ次第としたいです」
オースティン:「早急に連絡します」
カイト:「わかりました」
カイト達は町長執務を出て、ギルドに向かった。