第1章 第8話 ふた角兎
カイトたちはギルドを飛び出した。
その時、ベルゼブブから通信が入る。
ベルゼブブ:「大魔王様!巣の場所がわかりました」
カイト:「ベルゼか!、どこだ?」
ベルゼブブ:「バルナックより南南東、杉の森です」
ベルゼブブ:「歩いて十数分の距離、ん?」
カイト:「どぉした?」
ベルゼブブ:「杉の森の入口に人間がいます」
ベルゼブブ:「ふた角兎どもと交戦中です」
カイト:「どんな連中だ?」
ベルゼブブ:「はい、トマホークを持った男、格闘家らしき女、魔法使いの少女に僧侶の少年です」
カイト:「間違いない、ゴメスさんたちだ!彼らを助ける」
ベルゼブブ:「かしこまりました、杉の森までは我が使い魔がご案内いたします」
カイト:「頼む!」
ベルゼブブ:「大王様、その前に外にいる大量のふた角兎どもをなんとか・・・」
カイト:「それはこちらで考える」
カイト:「皆、杉の森だ!急ぐぞ!」
カイトたちは東門へ向かった。
その途中に行く手を遮るかの如く、一人の男がたっていた。
カイト:「お前はエリック、今はお前のイヤミを聞いている暇はない」
エリック:「それについては、謝る、このとおりだ」
エリックは深々と頭を下げる。頭を下げたまま。
エリック:「俺の弟達、コーエンとリトバッファ…あんたらに助けられた!」
エリック:「深手を負ったが、命に別状はない」
エリック:「あんたらがいなかったら、おそらく死んでいた」
エリック:「それにゴメスたちには恩がある」
エリックは顔を上げカイトに向かい、
エリック:「俺にも手伝わしてくれ!」
マイラ:「こんなヤツの言うこと、信じられますの?」
カイト:「今はそんな事言っている場合ではない」
ベリアス:「カイトの判断に任せます」
カイト:「町の外にはふた角兎の大群がいる」
カイト:「それを倒しながら、杉の森まで行くには時間がかかりすぎる」
エリック:「わかった、そいつらは俺に任してくれ」
エリック:「俺が囮になる、馬を使えば大丈夫、追いつかれることはない」
エリック:「馬で東門から出て、町の北側を通り西門から町に戻る」
エリック:「あんたたちはその間に杉の森まで行ってくれ」
カイト:「あんたではない、カイトだ!よろしく頼む」
カイトは右手を出す、エリックはその右手を掴み握手する。
エリック:「改めて、エリックだ、ゴメスたちのこと、頼む」
カイト、ベリアス、マイラ、ラミルそしてエリックは門の外に出た。
エリックは馬に乗っている。優しく馬をなで、
エリック:「行くぞ!」
エリックはふた角兎の群れの方向へ馬で駆け出した。
ふた角兎の群れがエリックに気が付き近づいてくる刹那、馬は方向を北に変えた。
ふた角兎の群れは馬につられて、北の方角へ行き、南側が空いた。
カイト:「よし、今だ!杉の森まで急ぐぞ」
3人:「はい」
その頃、ゴメスたちはふた角兎の群れと戦っていた。
ゴメス:「倒しても倒しても森から出てくる」
オースティン:「泣き言言っても状況は良くなりません」
アリア:「そうさ、とにかくやっつける!」
キキ:「しかし、これではMPがもちません」
ゴメス:「オースティンとキキは下がってくれ」
アリア:「後方支援をよろしく!」
オースティン:「はい」
キキ:「きゃ!」
キキはふた角兎に囲まれた。
キキ:「魔法が間に合わない」
3匹のふた角兎がキキに飛びかかった。
とその時、3本の矢が3匹のふた角兎を射抜いた。
キキの右側では氷魔法で、左側では火魔法でふた角兎が倒れていく。
キキが顔を上げるとそこにはカイトたち4人の姿があった。
カイト:「どうやら間に合ったようですね」
ゴメス:「カイト・・・」
ベリアス:「皆さん、随分疲弊していますね」
カイト:「ここは一旦引きましょう」
ベリアス:「森からどんどん出てきましからね」
オースティン:「引くって言っても、どぉやって?」
カイト:「皆、集まって」
8人は一箇所に集まった。
カイト:「ラミル、風魔法を使って、この周囲を竜巻で囲んでくれ」
ラミル:「はい、えーい!」
竜巻が8人をとり囲んだ。
カイト:「マイラ、氷の刃を竜巻の中へ打ち込め!」
マイラ:「ハイですの、それ!」
マイラが氷の刃を竜巻に打ち込むと、外へ向かって勢いよく飛び出していく。
近づいてくる大量のふた角兎は氷の刃にツラヌカれバタバタと倒れていった。
カイト:「よし、今だ!、キーニス」
カイトは時空魔法の瞬間移動を使った。
8人は森の入口から消え、バルナックのギルド前に現れた
突然現れた8人に周囲の人たちは驚き、その中にいたエリックが近づいてくる
カイト:「エリック、無事だったか、良かった」
エリック:「いや、兄さんたちの方こそ…」
カイト:「兎の方は?」
エリック:「西門に近づいてきている」
カイト:「まずはそっちだな」
冒険者達が近づいてくる。
冒険者A:「兄ちゃんたちだけに任せるわけにはいかないね」
冒険者B:「そいつらは、俺らにまかせてもらえるか!?」
冒険者A:「さっきは、不意を疲れてビビっちまったがよ」
冒険者A:「敵がふた角兎って最初からわかっていれば、打つ手もある」
冒険者B:「それに、エリックのおかげで、東側とは分断されてるんだろ」
冒険者B:「数に限りがあればなんとかなる。」
冒険者B:「東側から新たに出てくるヤツラと合流する前に叩こうぜ」
冒険者達:「おーーーー!」
カイト:「そちらは頼みます」
冒険者A:「任せておけ!」
戦える冒険者達は西門の方へ向かった。
ベリアス:「我々は少し休みましょう」
オースティン:「先程の魔法は…瞬間移動!?」
オースティン:「初めてです、噂では聞いておりましたが・・・」
カイト:「魔法は時空間魔法と重力魔法しか使えないんだけれどね(笑)」
オースティン:「重力魔法も!?十分すごいじゃないですか!」
オースティン:「空中浮揚ができるはずですよ、慣れれば空を飛ぶことも!」
カイト:「物を浮かすことしか考えていなかったけど、自分を浮かすか、うんうん…」
カイト:「エオリシ!」
カイトの身体が中に浮いた。
カイト:「おぉ、なるほど…では!」
カイト:「ペタグマ」
カイトは空中を飛行した、が動きはぎこちない。
カイト:「うあーー」
どーんという音とともに、カイトは地上に落下した。
カイト:「痛たた、飛ぶのは難しいね、初めてじゃ」
オースティンは目を丸くしてカイトを見つめる。
オースティン:「すごいです、初めてで!」
ベリアス:「カイト、大丈夫ですか?」
カイト:「ああ」
ベリアス:「しかし、女王兎、どうしますかね?」
カイト:「ベルゼ、聞こえるか?」
ベルゼブブ:「はい、大魔王様」
カイト:「女王兎の状況は?」
ベルゼブブ:「先程から変わらず、産卵中です」
カイト:「えっ、兎なのに卵なの!?」
ベリアス:「今はそこ、ツッコむところではありません」
ベルゼブブ:「2本足で立っている兎がいますね、」
ベルゼブブ:「四方に1匹づつ、あともう1匹女王兎横に」
カイト:「その使い魔が見ている映像、俺も見れるか」
ベルゼブブ:「やってみます」
ベルゼブブから映像が送られてくる、上から見た映像だ。
異常なほどでかい兎を中心に、二本足で立つ異様な形態の兎が横と四方にいた。
異常なほどでかい兎からは引っ切り無しに卵が生まれ、すでに生まれている卵からは兎が孵っていた。
四方から近づこうとしているベルゼブブの使い魔達は二本足の兎に、ことごとく倒され、近づく事ができない。
カイト:「ベルゼ、ありがとう」
ベルゼブブ:「はっ、ではまた」
映像を見た4人は話し合う
ラミル:「あの2本足が厄介ねぇ」
オースティン:「2本足・・・」
マイラ:「そんなに青ざめて、どうしたですの?」
オースティン:「最悪の魔獣・・・そんなのまでいるとは」
アリア:「そんなのまでいたとは・・・カイト達が来なかったらヤバかったね!」
オースティン:「そうですね」
ゴメス:「それより、どうするか考えよう」
キキ:「そうだよ、オースティン!」
ゴメス:「カイト、これから行くんだろ!」
カイト:「ああ」
ゴメス:「援護は我らに任せろ!」
エリック:「それに、俺も加わらせてもらうぜ」
カイト:「わかった、皆、俺に掴まれ」
カイト:「キーニス」
先程の森の入口まで瞬間移動した。
オースティン:「ここは、さっきまで戦っていた場所」
カイト:「一度来たところへは行ける」
カイト:「が、ここから先森の中へはキーニスでは行けない!」
カイト:「あの2本足が厄介だ!」
カイト:「ベリアスは背後、マイラは右、ラミルは左の2本足を頼む」
3人:「はい」
3人は、それぞれ自分の持ち場へ向かった。
カイト「オースティン達は背後を頼む」
オースティンたちはうなずいた。
カイト:「ゴメス、エリック、我々は正面から行くぞ」
2人:「おおっ」
左右、背後からの攻撃をそれぞれの2本足兎が防いでいる。
ゴメス、エリックの攻撃は正面の2本足兎防がれ、カイトが中へと切り込む隙がない。
カイト:(ヤツらの動き、無駄がない!どうやって中に・・・)
カイト:(ん?待てよ!)
カイト:(ベルゼの映像・・・上から)
カイト:(使い魔のサイドからの侵入はことごとく・・・)
カイトはノリスでスピードをあげ、近づいては離れるを繰り返している。
カイト:(見つけた、あそこか)
カイト:「エオリシ」
カイトは中に浮いた。
カイト:「ペタグマ」
カイトはスーと飛行した。そして中に浮いたまま、ある場所でとまった。
そこはベルゼブブの使い魔がいる場所。
カイト:(やはりそうか、上は死角だな!)
カイトは太刀を抜き、
カイト:「もらった!」
急降下、女王兎の脳天の刀を突き刺す。
刀を抜き、素早く横にいた2本足兎の首を跳ねる。
2匹の兎は何事が起きたかわからぬまま、絶命した。
それに気づいた左右の2本足がカイトの襲いかかる。
カイトは左に動き、脇差を左手で抜く。
素早い動作で脇差を左から来た2本足の心臓に突き刺す。
脇差は突き刺したままにし、両手で太刀を握り、右から来る2本足に突きを喰らわす。
足で蹴り飛ばしながら、右の2本足から太刀を抜き、後ろからきた2本足の胴を真っ二つにした。
それを見ていた正面の2本足は、背を向けて逃げようとしたところをカイトに背中を袈裟斬りされた。
カイトは、太刀を振り血糊を落としてから鞘におさめる。
左側にの2二本足のところに行き、突き刺さったままの脇差を抜き、血糊をぬぐって鞘におさめる。
ふと正面の2本足を見ると、まだ息があり、地べた這いつくばっていた。
カイトは太刀を抜き、止めを刺した。
気配に気づいたエリックは、森の中へ入っていった。
エリック:「何があった?まさか?」
正面の2本足がいた辺りまで来ると。
2本足兎:「ぎゃー」
カイトが太刀で地べたに這いつくばった2本足兎の心臓を突き刺しているところだった。
2本足兎は絶命し、動かなくなった。
更に奥に入ったエリックは目を見張った。
エリック:「これを兄さんが…」
カイト:「ああ、終わった!」
エリック:「いや、まだ卵が…」
カイト:「それは頼む」
エリック:「ああ…」
エリック:(しっかし、驚いたなぁ〜)
エリック:(あんだけの相手をあの一瞬で)
エリック:(上に飛んだと思ったら…)
キキ:「きゃー」
背後を守っていたキキ、アリア、オースティンの前に大量のふた角兎が集まってきた。
即座にゴメスが加勢に入った。
だが襲ってくる気配はない。
1匹のふた角兎がわまりのふた角兎を喰い始めた。
その兎は、みるみる大きくなり、女王兎へと変貌した。
あっけにとられて動けないゴメス達、襲いかかる女王兎、
その一直線上に森から出てきたカイトが立つ。
太刀を抜き、上段に構え、大きく振り下ろす。
物凄い衝撃が辺りを襲う。
カイトはくるりとこちらを向き、太刀を鞘に収める。
その直後、女王兎は真っ二つになり、左右に別れて倒れる。
カイトはフラフラと歩いてゴメス達の方へ近づくが、
膝から崩れ落ちるように、仰向けに倒れた。
慌てて、ゴメスたちが駆け寄る。
カイト:「疲れた〜〜っ!」
オースティン:「もぅ、ビックリさせないでくださいよ」
緊張がとけたのか、ゴメスたちは笑った。