第1章 第17話 伝説の実在
カイト達パーティはロイとキキに連れられ、ロイの家に着いた。
ロイは変わり者だが、考古学者としての、実績も権威も高い。
今は、大きな家に妻のアデルと2人で暮らしている。
ロイ:「今帰ったゾイ」
アデル:「おかえりなさい」
アデルは料理中をしており、ロイの方を向かない。
それについては、ロイも気にしていない。
キキ:「おばあちゃん、ただいま!」
アデルはキキの声を聞いて、料理の手を止めた。
振り返り、キキの方を見た。
アデル:「あら〜、キキ!おかえりなさい」
アデルは一緒にいるカイト達を見て、
アデル:「お客んも一緒ね」
キキ:「そうなの、途中から一緒に冒険をした仲間」
アデル:「そうですか、キキがお世話になりました」
キキ:「彼ら本当に凄いのよ」
アデル:「キキ、紹介してちょうだい」
キキ:「はい、こちらがカイトさん、珍しい剣を使うの」
キキ:「それからね、重力魔法と時空間魔法も」
アデル:「まぁ」
ロイ:「それだけじゃないぞ、古墳や古式魔法にも精通しておる」
ロイが口をはさんだ。
キキはそれから、ベリアス、マイラ、ラミルの順に紹介した。
キキ:「で、こちらがサイギョーさん」
キキ:「古式魔法の研究と実戦してるの」
アデル:「あら皆さん、おじいさんの研究のために連れてこられたのね」
アデル:「ごめんなさい」
ロイ:「お前が謝るな!」
全員:「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッ」
そこに大きな狼が顔を出した。
驚いたアデルに対しカイトは、
カイト:「こいつはダイアウルフのチャッピー」
チャッピーはカイトに甘えている。
アデル:「ローンダイアまで!」
カイト:「チャッピーは人に危害を加えることはありません」
キキ:「カイトさんの言うことをよく聞きますしね」
キキもチャッピーを撫でる。
チャッピーはキキの顔を舐める。
アデルは安心した。そして、
アデル:「あらやだ、お客んが来るなんて知らなかったから、食事の準備が・・・」
キキ:「私も手伝うわ」
アデル:「ありがとう」
アデル:「皆さん、少しお待ち下さいな」
料理も出来上がり、皆で食事の時間となった。
ロイ:「それにしても、驚いたゾイ」
ロイ:「古墳から皆が出て来て・・・」
ロイ:「あの古墳はどういう仕掛けがあるのじゃ?」
サイギョー:「古式魔法の術式ですね」
ロイ:「やはり、では・・・」
キキ:「おじいちゃん、その話は明日研究所で!」
ロイ:「そうじゃったわい」
全員:「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッ」
キキ:「祠もすごかったけど、それまでも『ふた角兎』や『盗賊団』・・・」
キキは今までの冒険をロイとアデルに語り始めた。
カイト達も話に加わり、和やかな夕食となった。
流石に疲れた一行は、食事の時に飲んだエールの酔も手伝って、その後眠りについた。
そして翌朝、朝食を済ませた一行は、
ロイ:「まずは冒険者ギルドだったな」
ロイ:「そのでっかい狼を登録するとかで」
カイト:「はい、お願いします」
ロイ:「では、さっさと済ませて、研究所に向かうぞ」
サイギョー:「私もお供させてもらいます」
ロイ:「おぉ、是非、古式魔法について聞かせていただきたい」
ロイ:「キキはどうするのじゃ?」
キキ:「私は家にかえるね」
アデル:「直接家に来たの?」
アデル:「それじゃ、家に帰って安心させてあげないと」
キキ:「うん」
ロイ:「それでは、行こうかの」
アデル・キキ:「いってらっしゃ~い」
カイト・ベリアス・マイラ・ラミル・サイギョー:「いってきま~す」
カイト達一行は冒険者ギルドに着いた。
ロイ:「わしらは外で待っておる」
ロイ:「早く済ませいて来るのじゃ」
サイギョーも頷いた。
カイト:「わかりました」
カイト達パーティはギルドの中に入っていった。
ベリアス:「ギルドの建物、基本的な造りはバルナックと同じですね」
ラミル:「そうねぇ、ギルドですることは、どこも同じでしょ」
マイラ:「そうですの、早く登録を済ますですの」
カイト達パーティは受付のカウンターで、職員の女性に、
カイト:「パーティにメンバ追加をしたいのですが・・・」
ギルドの職員:「皆さんの登録カードをお願いします。」
ギルドの職員の職員は、登録カードを受け取ると、
ギルドの職員:「カイトさん、ベリアスさん、マイラさんそしてラミルさん」
ギルドの職員:「はい、それで追加メンバーは?」
カイト:「こいつです」
カイト達の後ろに隠れていたチャッピーが顔を出す。
ギルドの職員:「え゛っ、ダイアウルフ?しかも一匹狼のローンダイア?」
カイト:「登録できないんですか?」
ギルドの職員:「そんなことはありません」
ギルドの職員:「従えた魔獣、従魔獣の登録はギルドで行う必要があります」
ギルドの職員:「ローンダイアを従魔獣にするのは初めてで・・・」
ギルドの職員:「少々お待ち下さい」
ギルドの職員は水晶玉を持ってきた。
ギルドの職員:「では、この水晶に触ってください」
カイトはチャッピーの右前足を持ち上げ、水晶玉に触れさせた。
程なくして、チャッピーの登録カードも出来上がった。
ギルドの職員:「え゛っ!何これ?」
カイト:「同化しましたか?」
ギルドの職員:「ダイアウルフは上級魔獣ですので、各能力は高いと思っていたのですが・・・」
ギルドの職員:「これほどとは、思っていませんでした」
カイト:「そうなんですか・・・」
ギルドの職員:「本日、何か依頼を受けて行かれますか?」
カイト:「いえ、今日は!」
ギルドの職員:「そうですか、それでは私は失礼致します」
カイト:「はい、ではまた」
カイト達パーティはギルドを出た。
外で待っていたロイは、
ロイ:「登録はできたのか?」
カイト:「はい、できました」
カイト:「ただ・・・」
サイギョー:「驚いたんだろ!」
カイト:「そうなんです」
サイギョー:「当たり前だ、ダイアウルフを従魔獣にしたなんて、聞いたことがないからな」
ロイ:「そんなことより、研究所へ急ぐぞ!」
カイト:(そんな事ですまして良いのかなあ・・・)
一行はロイの研究所に着いた。
ロイ:「ここじゃ、さっそくだがワシの研究室に向かう、着いてきてくれ」
ロイについて行き、研究室の中へ入った。
ロイ:「昨日、古墳でいろいろと説明してもらったが、もう一度整理したいのじゃ」
ロイ:「そもそも、儂らが古墳と呼んでいたのは、古代人の埋葬施設だと思ったからじゃ」
ロイ:「だが、そうではなかった」
カイト:「ええ、ユルムの祠の99番」
カイト:「ブルジンの山脈にある洞窟の奥に、ユルムの祠の3番」
ロイ:「空間転移装置、そう言っておったな」
カイト:「はい」
ロイ:「ユルムの祠の構造は、外扉と内扉、外扉には紋章と・・・」
カイト:「気になっていたのですが、内扉の前にゴーレムはいなかったのですか?」
カイト:「祠の守護をしていたはずですが?」
ロイ:「そう言えば、昨日サイラスが妙な物を見つけてのぉ〜」
カイト:「なんですか?」
ロイ:「黒い岩のかけら、おそらく元は球体であっただろう」
サイギョー:「それ、ゴーレムのコアだな、おそらく」
カイト:「やはり、祠は同じような仕組みになっているんですね」
ベリアス:「しかしなぜ、古墳のゴーレムは・・・」
サイギョー:「既に倒されていたのか?」
ラミル:「あれを倒すなんて・・・」
ロイ:「お主たちは、それを倒してきたんだろ?」
マイラ:「もちろん、そうですの」
ロイ:「で、そのゴーレムのコアも黒い球体の岩だった・・・そういうことだな」
カイト:「はい」
ロイ:「で、お主達、そのコアはどうしたんじゃ?」
カイト:「いやぁ〜」
ベリアス:「非常に厄介な構造となっていまして・・・」
ベリアス:「物理攻撃にも、魔法攻撃にも強い耐性がありまして」
ベリアス:「カイトの特殊な魔法、重力魔法の一種、ブラックホールの超重力で吸い込みました」
ロイ:「なんと、重要な遺品を!」
サイギョー:「まぁ〜そうでもしないと、私らの命が危なかったからな」
少しの沈黙の後、
ロイ:「整理をすると、」
ロイ:「我々が古墳と呼んでいた建造物は、複数あるユルムの祠の1つ」
ロイ:「現在、見つかっているユルムの祠は2箇所」
ロイ:「2箇所のユルムの祠は同じ構造をしており」
ロイ:「外扉には紋章、え〜」
カイト:「五三桐」
ロイ:「ハルマゲドン以前にあった国家が使用していた紋章、だったな」
カイト:「はい」
ロイ:「紋章の上には番号、下には番号と関連する人名」
ロイ:「その番号と人名で、扉を開ける呪文を暗示している」
カイト:「百人一首と呼ばれる、先程の国家で文化や教養として広く知られるものです」
ロイ:「そして、外扉を開けると内扉の前に祠の守護をするゴーレムがいいると」
カイト:「ええ、そうです。」
カイト:「ゴーレムを倒さないと内扉は開かない」
ロイ:「しかし、古墳、すなわちユルムの祠99番は、」
ロイ:「外扉は既に空いており、ゴーレムも倒されていた」
ロイ:「が、内扉は空いていなかった」
ロイ:「ということじゃな!」
カイト:「そういう事になります。」
また、少しの沈黙の後、
ロイ:「祠の数だが、」
カイト:「百人一首、最大100」
カイト:「ですが、他の目的で1つ使われていたので、数はもっと少ないと思います」
ロイ:「まだ2箇所でもなので、結論を急ぐのはやめたほうが良さそうじゃ」
ロイ:「でじゃ、内扉の中だが」
カイト:「はい」
カイト:「先の国家固有の宗教施設、神社の構造です」
カイト:「鳥居、手水舎、賽銭箱、本坪鈴、拝殿」
ロイ:「トリー、チョーズヤ、サイセンバコ、ホンツボスズ、ハイデン・・・」
ロイ:「どれも聞いたことがない」
ロイ:「サイギョーさん、どうかね」
サイギョー:「私も聞いたことがない」
サイギョー:「私が知っているのは、イシュワラ教会にあった古文書に、」
サイギョー:「私と似た名前の者が私と同じように放浪の旅をしていた」
サイギョー:「その者は古式魔法を使う者であり」
サイギョー:「その者が使う呪文が古文書に記されていた」
カイト:「その内の1つが百人一首」
ロイ:「ん〜」
ロイは唸った。
カイトが続けた。
カイト:「トリイ転送システム」
カイト:「拝殿より浮かび上がった文字には、そう記されていました」
カイト:「おそらくドリーゲイトのことでしょう」
ロイ:「伝説のドリーゲイトが実在していたとは・・・」
カイト:「ええ、ドリーゲイトでは、神社で行う儀式、呪文がゲイトを開ける鍵となっていました」
カイトは手水舎でのしきたり、二礼二拍手一礼、ひふみ祝詞のことを説明した。
が、ロイには全く理解できなかった。
ロイ:「もう少し調査が必要じゃのう〜」
ロイ:「して、これを見てもらいたいのじゃが」
ロイは、数枚の古文書の写しを見せた。
カイト:(これは、この世界の文字で書かれている古文書か・・・)
カイト:(日本語で書かれているかと期待したが)
ロイ:「保存状態が悪く、虫食いも激しいので、解読が進んでおらんが・・・」
ロイ:「読める字を拾おうと、」
ロイ:「さかな、やお、ちょうじゅ・・・」
カイト:(魚にやおは八百屋?、それで長寿)
カイト:(なにかの健康法か?魚と野菜中心で長生きできる・・・)
カイト:「もう少し読める字がないと、何とも・・・」
サイギョー:「そうですな、これだけでは何とも」
ロイ:「やはりそうですか・・・」
カイトはふと思った、
カイト:(神社や百人一首、古文書は日本語ではなくこの世界の文字・・・)
カイト:(もしかすると、俺より前に日本からこの世界へ来ている人がいるのでは?)
カイト:(ユルムの祠やトリイ転送システムに何らかの関係を持ち)
カイト:(この世界の文字でそれらのことを書き記した)
カイト:(そうでなければ、古文書は日本語でなくてはおかしい)
カイト:(今まで漠然としていた旅に大きな目的ができた)
にやけた。
ベリアス:「どうしました?」
カイト:「いや、なんでもない」
ロイ:「気づいた事があれば何でも良いのじゃ、言ってくれ」
カイト:「いえ、これだけですとちょっと、何かの健康法かとしか・・・」
ロイ:「そうじゃのう、引き続き解読は続ける、古墳の調査もじゃ」
ロイ:「進展があれば連絡する、じゃからまた協力してほしいのじゃ」
カイト:「それは構いません」
カイト:(他にこっちに来ている人のことも、わかるかのしれない)
窓の外を見たマイラが、
マイラ:「だいぶ日が傾いてますの」
ベリアス:「もう、こんな時間ですか」
ラミル:「そうね、ゴメスさん達と待ち合わせている店へそろそろ行ったほうが良いかも」
サイギョー:「ぼちぼち、行くとするか」
ロイ:「儂は残って研究を続ける。」
ロイ:「サイラスのやつ、何をしておるのじゃ、帰りが遅いのぉ」
ベリアス:「そう言えば、サイラスさんは?」
ロイ:「今日も古墳の調査だ」
ベリアス:「そうですか、ではそろそろ我々は」
ロイ:「長く引き止めて、悪かったのう」
カイト:「いえ、こちらにも収穫が」
カイト:「では失礼します」
カイト達一行はロイの研究所を後にし、エールパラダイスへ向かった。
エールパラダイスに着くと、ゴメス、アリア、オースティン、キキそしてエリックが広いテーブルに座っていた。
カイト達を見つけると、
ゴメス:「こっちだ、こっちだ」
カイト:「ゴメスさん達、早いですね」
ゴメス:「いや、皆、今しがた着いたばっかりだよ」
エリック:「注文もこれからだ、ちょうどよかった」
ゴメス:「頼まれていた宿だが、この近くで取っておいたぞ」
ベリアス:「ありがとうございます」
キキ:「おじいちゃんと一緒だと休まらないでしょ」
カイト:「そういうわけでは・・・」
カイトたちも席についた。
ゴメス:「飲み物は全員、ビエールでいいな」
ゴメス:「この店来たらビエール飲まないとな」
カイト:「それを楽しみにしてたんだよ」
ビエールと食べ物を何品か注文し、注文した品がテーブルに運ばれるのを待った。
程なく、ビエールが運ばれて来て、
ゴメス:「無事シティーに帰って来れたこと」
ベリアス:「我々は初めてです」
アリア:「細かいことは置いといて」
カイト:「かんぱ〜〜い!」
皆グイグイとビエールを飲む。
カイト:「これ、これ、これ」
カイト:「まさにビール!」
キキ:「私はちょっと苦手」
オースティン:「僕もです」
ベリアス:「ところで、オースティンさん」
ベリアス:「ブルーノの件、教会では」
オースティン:「報告したところ、少々きな臭いことに」
ゴメス:「そうなんだ、ブルーノがライアンと一緒にいたことで」
オースティン:「大統領暗殺事件にイシュワラ教会が関与していた疑いが・・・」
カイト:「大統領暗殺事件?」
ゴメス:「ツサロ共和国、ディラン現大統領、暗殺未遂事件」
ゴメス:「あの事件で死んだと思っていたライアンが」
ゴメス:「生きていて、イシュワラ教会と関係があるとなると大問題だ」
この後、ツサロ共和国ディラン現大統領暗殺未遂事件について、ゴメスが語りだす。