第1章 第16話 ユルムの祠
一行は、ゴーレムを倒して開いた扉の前まで来た。
キキ:「ここがユルムの祠・・・あっ、この紋章!見たことあります」
キキ:「おじいちゃんに見せてもらった、古墳の入口にある扉の絵にも同じ紋章が!」
カイト:「チャッピー、扉の前まで近づいて!」
カイトはチャッピーの背に乗ったまま扉の紋章を凝視する。
カイト:(これは家紋、『五三の桐』だ)
カイト:(日本政府の会見とかでよく見る家紋で、昔は国家指導者が使用していた)
カイト:(それに、和歌を術式に組み込んでいる)
カイト:(日本人である自分がこの世界に連れてこられて事と、何か関係がありそうだ)
カイト:「チャッピー、扉の右へ」
カイトはチャッピーの背に乗ったまま扉の右へ移動する。
カイト:「今度は左」
カイトはチャッピーの背に乗ったまま扉の左へ移動する。
カイト:「特に何も書いてはいない」
カイト:「中へ入っ見よう」
一行は扉を押し開き、祠の中へ入った。
エリック:「何だあれは?」
ゴメス:「初めて見る」
オースティン:「キキ、何か知らないか?」
キキ:「おじいちゃんからも、聞いたことありません」
アリア:「どおすれば・・・」
ベリアス:「何やらエネルギーを感じますね」
マイラ、ラミルそしてサイギョーがうなずく。
カイトはチャッピー降り前へ進む。
カイト:「ここは神社」
キキ:「ジンジャー?」
カイト:「赤いのが鳥居」
キキ:「ドリー?」
カイト:「その先、右にある水場が手水舎」
キキ:「チョーズヤ??」
カイト:「更にその先、正面の建物が拝殿」
キキ:「ハイデン??」
カイト:「賽銭箱も本坪鈴もある」
キキ:「???」
キキ:「おじいちゃんなら何か・・・」
カイト:(なぜ、こんなものがここに?)
カイト:(まぁいい、参拝してみれば何かわかるかもしれないな)
カイトはこの場所にある神社を参拝することにした。
カイトは鳥居をくぐった。すると、
女性の音声:「認証システム起動」
カイト:「システム?」
カイト:(ならば・・・)
カイトは参道を歩き手水舎に来た。
柄杓を左手に持ち、水をすくい右手にかけ洗う。
柄杓を右手に持ち替え、水をすくい左手にかけ洗う。
更に柄杓で水をすくい、口をゆすぐ。
最後にもう一度水をすくい、柄杓を垂直に立て、柄の部分を洗う。
女性の音声:「第1アクションパスワードを確認します」
女性の音声:「・・・」
女性の音声:「第1アクションパスワード正常」
カイトはニヤリと笑った。
手水舎側面からコインが出てきて受け皿に落ちた。
女性の音声:「受け皿のコインをお取りください」
カイトはコインを拾った。同時にそのコインの使いみちを理解した。
拝殿の前にある賽銭箱までやって来た。
カイトは先程のコインを賽銭箱に投げ入れると、
本坪鈴をガラガラと鳴らした。
そして、頭を2回下げる、手を2回たたき、最後に1回頭を下げた。
女性の音声:「第2アクションパスワードを確認します」
女性の音声:「・・・」
女性の音声:「第2アクションパスワード正常」
すると、拝殿扉が開き、御神体の鏡が光りだした。
光りだした鏡は宙に文字を映し出す。
その文字は同じフレーズを繰り返し表示しているようだった。
カイトはそのフレースが最初に戻ったことを確認してから、
声に出して読んだ。
カイト:「ひふみ」
カイト:「よいむなや」
カイト:「こともちろらね」
カイト:「しきる」
カイト:「ゆゐつわぬ」
カイト:「そをたはくめか」
カイト:「うおえ」
カイト:「にさりへて」
カイト:「のますあせゑほれー けー」
カイト:(神道の祝詞には詳しくないが『ひふみ祝詞』では・・・)
女性の音声:「音声パスワードを確認します」
女性の音声:「・・・」
女性の音声:「音声パスワード正常」
女性の音声:「移動先を選択してください」
宙に行き先の一覧が表示された。
行き先にはこう記されていた。
【トリイ転送システム】
現在 3番祠
次の中から行き先を選択してください
99番祠
カイト:(トリイ転送システム!)
カイト:(これがドリーゲイトのことだろう)
カイト:(行き先は99番祠一箇所か、行くしかないんだろうな)
カイト:「皆、ここがドリーゲイトのようだ」
カイト:「このゲイトを通って、別の場所へ行けそうだ」
カイト:「俺はこれからゲイトを通って見ようと思う」
ベリアス:「私達もお供します」
マイラ、ラミルそしてチャッピーもうなずいた。
ベリアス:「どおすればよろしいですか?」
カイト:「赤い柱の間を通って、俺の後ろまで来てくれ」
ベリアス:「わかりました」
チャッピーを先頭にベリアス、マイラそしてラミルが鳥居をくぐり、カイトの後ろまでやって来た。
キキ:「私達も行きます」
サイギョー:「そうだな!」
他の者達も続いた。
カイト:「じゃ、行くよ」
カイトは99番祠を選択した。
カイトの目の前に渦のような空間の歪が生じる。
カイトが渦の中へ歩を進め、皆の前から消えた。
チャッピーがカイトを追って渦の中へ、その後を他の者達も続いた。
前後、左右、上下の区別が付かない空間に入った。
が、直ぐに目の前の光の方向へと押し出された。
カイトは目の前に鳥居がある事に気づく。
真っ直ぐ歩き、鳥居くぐり、外へ出だ。
全員が鳥居をくぐるのを待ち、辺りを確認した。
カイト:「さっきの場所と作りは同じだ」
カイト:「さっきの場所が3番祠、ここが99番祠」
サイギョー:「あと97箇所はここと同じ場所があるということか?」
カイト:「もしくは、あった!」
ベリアス:「数については、また後で考えるとして、」
キキ:「そうです、ここがどこなのか?」
キキ:「もしここが古墳ならば・・・」
オースティン:「シッセナに帰ってこれた」
ゴメス:「そうだな」
アリア:「扉の外に出てみよう」
一行は扉まで向かい、扉を開けて外に出た。
そこには数人の冒険者と思える者達が武器を構え立っていた。
また、呪文を詠唱するものもいた。
カイト達も臨戦態勢に入った。
その時、キキが1人の人物を見つけ、
キキ:「おじいちゃん!」
老人:「おお、そこにいるのはキキか?」
キキ:「そうよ!おじいちゃん」
老人:「なんと!皆さん待ってください」
老人は冒険者達を制した。
キキもカイトたちを制した。
老人はカイトたちに近づいてきた。
オースティンは、キキがおじいちゃんと呼ぶその老人に、
オースティン:「ロイ博士!?」
老人:「オースティンじゃないか!?」
老人:「おっと、これは失礼しました」
老人:「私はキキの祖父、ロイと申します」
エリック:「変わり者のロイ博士!?」
ゴメス:「こらぁ!失礼だぞ!」
ロイ:「ハッハッハッハッ」
ロイ:「皆さん、孫のキキがお世話になっております」
ゴメス:「あなたがここにいるということは・・・」
ロイ:「シッセナの古墳です」
アリア:「ということはシッセナに帰ってこれたんだよな」
オースティン:「何がなんだかわかりませんが・・・」
オースティン:「とりあえず、帰って来れたんですね」
ロイ:「それにしても、びっくりしました。」
ロイ:「ここから人が出てくるとは・・・」
時系列を少し遡る。
ロイが護衛の冒険者達を連れて古墳の調査をしに来ている。
扉の前でロイとその助手が辺りを物色しながら、
ロイの助手:「ここも魔獣が多くなりましたね」
ロイ:「今回は冒険者ギルドに護衛を依頼した」
ロイ:「有能な冒険者が来ているから大丈夫だろう」
ロイの助手:「その分、研究費が・・・」
ロイ:「命には変えられないだろ」
ロイの助手:「博士、こっちに来てください」
ロイ:「何じゃ?」
ロイの助手:「この黒い丸い石・・・・」
ロイ:「ん〜、今まで気が付かなかったが、不思議な石じゃ」
ロイ:「他では見たことがない」
ロイの助手:「博士、博士っ!」
ロイ:「今度は何じゃ?」
ロイの助手:「扉・・・」
ロイ:「おお〜〜〜」
扉の隙間から光が漏れている。
ロイ:「何じゃこの光は?」
ロイ:「中で一体何が起こっているのじゃ?」
護衛の冒険者達が臨戦態勢に入る。
冒険者A:「何かが来る」
冒険者B:「ああ」
冒険者達が次々と武器を手に取る。
魔法の詠唱も行われる。
そして、扉が開きカイト達が現れた。
時系列が戻り、ロイとの会話が続く。
ロイ:「この扉じゃが、今までどうやっても開けることはできなかった」
ロイ:「一体どうやって?」
カイトが扉を見ながら、
カイト:「やっぱりそうか!」
カイト:「洞窟の奥で見たのと同じ紋章」
キキ:「ユルムの祠で見た紋章?」
カイト:「そう、ただここもユルムの祠だ」
キキ:「???」
カイト:「ブルジンの山脈、その洞窟の奥にあった祠が3番」
カイト:「そしてここが99番」
カイト:「祠と言われているのはトリイ転送システム」
カイト:「空間転移装置の一種だろう」
ロイ:「一体何を言っているのじゃ、ワシには全く理解できん」
カイト:「おそらく、ハルマゲドン以前のものかと思います」
カイトは改めて皆がわかるように説明を始めた。
カイト:「ユルムの祠、これはドリーゲイトが置かれた場所」
カイト:「ドリーゲイトは複数あり、ドリーゲイト間を自由に移動できる」
カイト:「ただ、今はブルジンの山脈にある洞窟の祠とこの古墳だけですが」
ロイ:「ドリーゲイトはいくつあるんだ?」
カイト:「それはわかりません」
カイト:「ブルジンの山脈にある洞窟の祠が3番」
カイト:「この古墳が99番」
ロイ:「そんなに?」
カイト:「いえ、番号が数を表しているのか、何を表しているのか」
ロイ:「この紋章は何を意味しているのか、お分かりか?」
カイト:「ハルマゲドン以前にとある国が使用していたとしか」
ロイ:「空間転移装置とは?」
カイト:「離れた2箇所の波動領域を同時に収縮しエネルギー場を同調させる」
カイト:「するとプラズマが発生し空間に歪みが生じ、2箇所のプラズマが同調する」
カイト:「同調したプラズマは2箇所をつなぐトンネルとなる」
カイト:「そのトンネルを通ることで、瞬時に離れた場所へ移動できる」
カイト:「都市伝説の空想科学だと思っていたが・・・」
ロイ:「カガク!?」
ロイ:「古式魔法には必ず出てくる言葉じゃ」
ロイ:「ワシは魔法師ではないので、仕組みはわからんが」
サイギョー:「詳細は不明であるが、時空間魔法の術式、その一種だと思う」
サイギョー:「おっと、失礼!私はサイギョー、古式魔法を研究しております」
ロイ:「やはり古式魔法と関係しておったか」
サイギョー:「しかしカイト、お主なにゆえ、そんなに詳しのか」
慌ててベリアスが引き取った。
ベリアス:「我々は、西の果て、名もなき村からまいりました」
ベリアス:「ハルマゲドン以前の言い伝えが村に残っておりまして」
ベリアス:「亡くなったカイトの祖父がその言い伝えを研究をしておりまして・・・」
ベリアス:(大魔王の崇高で膨大な知識を持ってすれば・・・)
マイラ:(この程度のことは当たり前ですの!)
ラミル:(あたしも驚きましたが、当然ですわ)
ベリアス・マイラ・ラミル:(・・・)
少し時間をおいて、
ロイ:「そうでしたか、惜しい方を亡くされたものじゃ」
ロイ:「生前にお会いしたかったのぉ」
ベリアス、マイラ、ラミルの3人は顔を見合わせて頷きはながら、
ベリアス・マイラ・ラミル:(よしっ!信じた)
ロイの助手:「博士、十分な収穫じゃないですか」
ロイの助手:「こちらの方の知識も相当なもの」
キキ:「カイトさんです」
ロイの助手:「これは失礼しました。」
ロイの助手:「僕はロイ博士の助手をしているサイラスです。」
ロイ:「そうじゃった、あまりのことで、自己紹介を忘れておった」
キキ:「もう、おじいちゃんったら」
全員:「ハッハッハッハッハッハッハッ」
その後、全員が自己紹介をして、
オースティン:「ここがシッセナの古墳で安心しました。」
ゴメス:「ここがシッセナであるならば、シティーに戻り、ライアンの件、いち早く報告せねば」
オースティン:「僕も教会に」
アリア:「アタイは久しぶりに実家に帰るとするよ」
エリック:「俺は知り合いを訪ねてみる」
ロイ:「他の方々は是非我が家に、孫のキキがお世話になったようですしな」
サイラス:「本当は古墳や古式魔法、カガクの事が聞きたいんじゃないですか!?」
ロイ:「いや、そのじゃなぁ〜」
キキ:「おじいちゃん!」
一行は和やかな雰囲気の中、古墳を後にした。
この古墳にはキャタピラー、ワーム、キラービー、キラーバット等が住みついていた。
カイト達にしては、この程度の魔物はものともしないが、一緒にいた冒険者達任せた。
ロイ達は古墳の調査隊は出土物を運ぶため、馬車を多めに手配していた。
その馬車に出土物ではなく、カイト達が乗り、シティー中心街まで向かうことになった。
古墳はシティー郊外の外れ、中心街までは馬車で1時間程度の道のり。
カイト達は疲れて寝ている間に到着した。
ゴメス:「報告は明日にして、今日は帰ってゆっくりするか」
オースティン:「そうですね、帰って来れた安心感で、ドット疲れが増しました」
アリア:「そうだな、帰るとするか」
エリック:「俺もこれから、知り合いを尋ねることにするよ」
ロイ:「他の皆さんは我が家に」
カイト:「こいつも連れて行っていいか」
カイトはチャッピーを撫でている
ロイ:「もちろんじゃ」
カイト:「こいつをギルド登録したいんだけど」
ロイ:「明日、研究所に行く途中に寄れば大丈夫じゃ」
キキ:「やっぱり古墳研究のためじゃない」
全員:「ハッハッハッハッハッハッハッ」
ゴメス:「明日の夜はここに集合しないか」
ゴメスはカイトにメモを渡した。
お店の名前と地図が書かれていた。
カイト:「エールパラダイス!?」
ゴメス:「そう、シティーでもビエールが飲める数少ない店」
カイト:「ビエール!!」
カイト:「わかった、明日はこの店で!」
一行はそれぞれの場所に散っていった。
カイトたちもロイの家へ向かった。