第1章 第13話 北へ
昼前、泉付近では
ゴメス:「そろそろ、ザサビに着いた頃か」
ベリアス:「オースティンさんは大丈夫ですかねぇ」
アリア:「あれでいて、根性のあるヤツだから、大丈夫だろう」
エリック:「気絶してても、狼にしがみついていそうだな」
笑う余裕がある程、穏やかにカイトの帰りを待っていた。
そこへ、カイトとチャッピーだけでなくオースティンまでもが戻ってきた。
ゴメス:「カイトとチャッピーだけでなく、オースティンお前まで・・・」
ベリアス:「何かあったようですね」
オースティン:「ええ、実は・・・」
オースティン:「ツサロ共和国は国境を封鎖しています」
オースティン:「何でも、流行病ということで」
ゴメス:「しかしなぁ〜、ツサロ共和国に入れないとすると」
エリック:「これからの行動を考え直す必要があるな」
ベリアス:「と、その前に昼食を!といきたいところですが・・・」
ベリアス:「食料が底をついています。皆さん手分けして食材の確保をお願いします」
カイト:「うん、まずは飯!腹が減っていては考えも纏まらないからねぇ」
各自は食材を探しのため、別々の方向へ歩いていった。
カイトが一人になった直後、何か気配を感じ、その方向に向かった。
カイトが茂みの中に入ると、そこには全身タイツ姿の女が片膝の姿勢で平伏していた。
カイト:「お前は・・・」
平伏している女:「はっ、グライス3姉妹デイノにございます」
デイノ:「リリン様の指示により、大魔王様ご一行の後方支援をしております」
カイト:「リリンが・・・いや今はそんなことより、話があるんだな」
デイノ:「はい」
カイト:「その話とは?」
デイノ:「ブルーノと行動をともにしていたガズという男、昨晩ここで暗殺されました」
カイト:「してやられたよ」
デイノ:「我ら3姉妹もここにおり、 エニュオと私は暗殺者を追いました。」
カイト:「なに?」
デイノ:「暗殺者はザサビの町へと」
カイト:「封鎖されているのに入れたのか?」
デイノ:「門より少し離れた場所に抜け道が」
デイノ:「エニュオは暗殺者の後をつけてザサビの町へ、私は大魔王様にご報告とここに戻って参りました」
カイト:(ザサビの町、いやツサロ共和国とブルーノ達、何か関係がありそうだな)
カイト:「わかった、ありがとう」
デイノ:「もったいなきお言葉」
カイト:「デイノ、ザサビの町向かい、エニュオと協力して、何がおこっているか探ってくれ」
デイノ:「御意」
カイト:「ベルゼブブにも連絡しておく。協力をして情報収集してくれ」
カイト:「くれぐれも、危険な真似はしないように」
デイノ:「グエン婆様からの伝言です」
カイト:「あの占い師のか?」
デイノ:「はい、一言『北』とのこと。お伝えいたしました」
デイノ:「はっ、では」
デイノは姿を消した。
カイト:「ベルゼ、聞いていたか?」
ベルゼブブ:「はい」
カイト:「では、ザサビでの情報収集よろしく頼む」
その後、カイトは木の実や蛇を数匹捕まえ、ベリアスのいる泉まで戻ってきた。
他の者もそれぞれ食材を確保して戻ってきている。
ベリアスがそれを調理した。
ゴメス:「さて、さっきの話の続きだが・・・」
アリア:「どこかから、ザサビの町に侵入できるような場所は」
オースティン:「それはダメだ、そんな事したらシッセナとツサロの外交問題になりかねない」
エリック:「キュゴーウ共和国を行くしかないが、いつどこで、どのように狙われるかもわからない」
ベリアス:「こちらはこちらで、危険です」
アリア:「アタイらだって事がわからないようにしてさ、それでキュゴーウに行くのは」
ベリアス:「無理でしょう、ガズは目の前で暗殺されたのです、今も監査されているととも限りません」
カイトはデイノから聞いたグエン婆の占いを思い出した。
カイト:「ここから北には何があるの?」
ゴメス:「山脈だが・・・」
キキ:「伝説のドリーゲイト・・・」
カイト:「なんですか、その夢の扉みたいのは?」
キキ:「そう夢の扉です、どこにでも好きな所に行ける」
カイト:「俺の瞬間移動とは違うみたいだな」
ベリアス:「あのブルーノという老人が使っていた術式とも」
マイラ:「そういえば、昔そのような移動手段があったと」
ラミル:「聞いたことあるわね」
オースティン:「もしそれが本当だったら、キキのじいちゃん、大喜びだな」
キキ:「この話もおじいちゃんに聞いたんです」
キキ:「おじいちゃんによると、シッセナにある古墳とブルジンの山脈にある祠がつながっているそうです」
エリック:「面白そうじゃん」
カイト:「RPGにつきものの、ダンジョン攻略だな」
他の8人:「???」
カイト:「いや、なんでもない」
カイト:「今は、その夢の扉にかけるしかない!」
最後はカイトの勢いに押され、翌日からは北の山脈にある祠を目指すことになった。
翌朝、一行は簡単に朝食を済まし、夢の扉のある祠を目指して出発した。
途中獣や魔獣に何度か遭遇したが、難なく退治し山脈の麓までやって来た。
オースティン:「どのへんですか?キキ!」
キキ:「わかりません、本当にあるかどうかも!」
ゴメス:「探そう!あることを信じて、今はそれしかできん」
カイト:「そうだね、俺の瞬間移動は一度行ったことのある場所にしか行けないからなぁ〜」
エリック:「探すっきゃないか、あ〜あ・・・」
エリックはそばにある岩に寄りかかった。その時、
カチッ!!
という音がした。
エリック:「何か今、何かを押したような・・・」
ズシンッ、ズシンッ、ズシンッ
地響きとともに何か巨大なものが近づいてくる。
ラミル:「あの右側の大きな岩と左側の大きな岩、近づいて来てますわね」
マイラ:「岩ではありませんの、あれは・・・」
一同:「ゴーレム!!」
ゴメスは右のゴーレムの前まで行きトマホークを構える。
エリックは左のゴーレムの前まで行き槍を構える。
2人はかけ声とともに、ゴーレムを攻撃した。
なんと、ゴーレムはあっけなく崩れ、2人は皆の場所へ戻ってくる
エリック:「たまにはいいとこ見せないとな」
オースティン:「後ろ、後ろ」
崩れたはずのゴーレムが再生しており、2人襲いかかった
マイラ:「えーい」
ラミル:「そーれ」
ゴーレムは崩れたが、またもや再生する。
アリア:「これでは、きりがない」
キキ:「どうすれば・・・」
オースティン:「コアです、コアを破壊しないと」
ベリアス:「2度崩れたのを見ましたが、コアのような物は見つかりませんでしたね」
カイトが、不思議そうな顔で、先程エリックが寄りかかった岩を見つめている。
カイト:「何か書いてあるな、何々」
カイト:「嘆けとて 月やはものを 思はする かこち顔なる わが涙かな」
カイト:「この歌、百人一首か」
一体のゴーレムが音と立てて崩れた。そして今度は再生しなかった。
カイト:「もう一首書いてあるな、こっちは」
カイト:「願はくは 花の下にて 春死なむ そのきさらぎの 望月の頃」
もう一体のゴーレムも音と立てて崩れた。そして今度は再生しなかった。
カイト:「これは、西行法師の辞世の句、百人一首の方も西行法師の句だ!」
???:「なぜ、その名を知っている?」
山の方から男の声が聞こえた。
一同は驚き、山の方を見る。
エリック:「その者が言ったではないか、私はサイギョーた。」
修行僧のような服装をした40代位の男が現れた。
カイト:「高野山の、あなたもしや・・・」
サイギョー:「コーヤサン?なんのことだ!」
カイト:(転生者ではないのか・・・)
サイギョー:「にしても、私のオリジナル術式を破るとは、アッパレだ!」
サイギョー:「あの岩よりゴーレムの一部をコアとし、その時聞こえてきた呪文をコアに注ぎ、あのゴーレムを作った」
カイト:「あれは和歌です!」
サイギョー:「ワカとは?お主も古式魔法を」
オースティンが会話に割って入ってきた。
オースティン:「あなたの魔法、闇属性ですね」
サイギョー:「いかにも、元イシュワラ教会の司祭だ」
オースティン:「では、ブルーノと」
サイギョー:「ブルーノとは懐かしい名だ、だがイシュワラ教会を離れた身、ヤツとは関係ない」
サイギョー:「それよりお主」
サイギョーは会との方を見た。
カイト:「カイトだ!」
サイギョー:「ではカイト、お主の知っている古式魔法、私に教えてくれないか?」
カイト:「キキのおじいさんは、古式魔法について何か言ってなかったか?」
キキ:「古式魔法は、わかりません、ただ・・・」
サイギョー:「ただ、何だ?」
キキ:「カガクが・・・」
サイギョー:「何、カガクだと!」
サイギョー:「是非、知りたい、教えてくれ!」
サイギョー:「おおっ、そうだな、スマン、つい興奮して取り乱した」
サイギョー:「もちろん、見合った対価を払う、望みは何だ?」
キキ:「ユルムの祠の奥にあるというドリーゲイトに」
サイギョー:「ユルムの祠だと、あの洞窟の奥にある」
サイギョー:「わかった、私が案内しよう」
サイギョー:「あの洞窟はトラップだらけだ、途中までしか行ったことないが、それでも役に立つだろう」
サイギョー:「ハッハッハッハッハッハッ!」
サイギョーが勝手に仲間に加わった。
オースティンは納得していない。
オースティン:「なぜ、あんなヤツを仲間にしたんですか?」
カイト:「したんじゃなくて、勝手に入ってきたんだよ」
オースティン:「それで、良いんですか?」
サイギョーが会話に割り込んだ。オースティンに向かって
サイギョー:「お主、イシュワラ教会を嫌っているな、キラナ教会の者なら無理もないが」
サイギョー:「イシュワラ本来の教義は、闇と一体化し、闇そのものになることだ」
サイギョー:「人との関わりなど、興味ない」
オースティン:「しかし、ブルーノや・・・」
サイギョー:「そうだな、あのような本来の教義に外れ、闇の力であざとい事を考える者も増えてな、私も悩んでいた」
サイギョー:「そんな時、古式魔法を知った、私はのめり込んだ」
サイギョー:「そして、放浪のはて、ここにたどり着いた」
サイギョー:「イシュワラは決して、一枚岩ではない、一部のものが悪事を働いているのだ」
オースティン:「でも・・・」
ゴメス:「気持ちはわかるが、今は」
ゴメスがオースティンの肩を叩いた。
カイト:「そうだな、夢の扉のことだけ考えよう」
一行は頷き、洞窟の方へ歩いて行った。
夕日が一行を照らしていた。