第1章 第10話 盗賊団調査
カイト達はギルド2階にあるギルドマスター執務室にいた。
イーサンは自分のデスクの椅子に座っていた。
その前、デスクをはさんでカイトが立っていた。
イーサン:「本当に良いんだな?」
カイト:「えぇ!」
イーサン:「では、おぬし達パーティーのランクを変更する」
カイトたちパーティはランクCとなった。
イーサン:「ランクはパーティ毎だからな」
イーサン:「別のパーティを組んだら、またランクEからだ!」
イーサン:「但し、今までの実績は考慮されるので、経験は無駄にはならない」
イーサン:「で、お前たち」
イーサン:「調査に際し、新しいパーティを組むのか?」
ソファーに腰掛けていたオースティンが答えた。
オースティン:「いえ、今回の調査、我々のパーティがカイトさん達とエリックさんを雇います」
イーサン:「では、それぞれ独立したパーティということだな!?」
オースティン:「カイト、お前さんもそれで良いのか?」
カイト:「えぇ、それで構いません」
カイトはオースティンの正面に腰掛けた。
オースティン:「では、調査の話をさせてください」
オースティン:「先程は準備でき次第と言いましたが」
オースティン:「少しでも早く出発したいと思っています」
エリック:「俺は今からでも構わないぜ!」
カイトは他の3人の顔を見る。
3人共うなずいている。
カイト:「我々も大丈夫です」
オースティン:「わかりました」
オースティン:「では、明朝、夜明けと共に」
カイト:「わかりました」
エリック:「おう!」
オースティン:「移動手段はこちらで用意します」
カイト達はイーサンを残し、執務室を出た。
そして、それぞれの宿に帰っていった。
カイト達のパーティは宿のカイトの部屋に集まった。
ベリアス:「今回の調査ですが」
ベリアス:「そもそも、ゴメスさん達が何者で、何が目的か」
ベリアス:「それが不明です!」
カイト:「そんなに心配はいらないと思うが、ベルゼに素性を調べてもらおう」
ラミル:「何かこの調査、裏がありそうね」
マイラ:「わたくしもそう思うですの」
ラミル:「あれ、珍しく気があったわね」
マイラ:「正直に言ったまでですの」
ベリアス:「まっ、今は明日に備えましょう」
ベリアス:「各自部屋に戻りましょう」
ラミル:「あたしはここでいいわ」
マイラ:「カイトに迷惑ですの」
マイラ:「部屋に戻りますの」
マイラはラミルの髪を引っ張り会との部屋を出ていった。
廊下の外からマイラとラミルの声が聞こえる。
ラミル:「ちょっと、離しなさいよ」
マイラ:「部屋までダメですの」
#部屋の中では、
ベリアス:「それでは、私も失礼します」
カイト:「うん、おやすみ」
ベリアス:「はい、おやすみなさいませ」
ベリアスも自分の部屋に戻り、明日に備え各自仮眠を取った。
そして夜明け前、カイト達パーティとエリックは東門の前にいた。
2台の大型馬車が近づいてくる、#オースティンが手配した馬車である。
オースティン:「皆さん、おそろいですか」
オースティン:「皆さんは、後ろの馬車に乗ってください」
馬車はゆうに三人座れるソファーが向きあって配置されている。
かなり広く、長距離の移動にも十分である。
進行方向に向かったソファーには。真ん中にカイト、左にマイラ、右にラミルが座っている。
その正面、カイトからみて右にベリアス、左にエリックが座っている。
カイト:「このソファー、広いんだから、もう少しゆったり座ろうよぉ〜」
ラミル:「そうですよ、マイラ!」
ラミル:「離れなさい!」
と言って胸をカイトに押しあてた。
マイラ:「何をしているデスの」
マイラ:「離れるのはあなたの方ですの」
カイト:「きついから、離れてよぉ〜」
ラミル:「もぉ〜、照れちゃって」
マイラ:「そうですの」
とその時、ラミルとマイラの目が合う。
ラミル・マイラ:「ふっん!」
2人は顔をそむける。
正面で見ていたエリックはベリアスに、
エリック:「いつもこんなに賑やかなのか?」
ベリアス:「ええ、そうですね」
ベリアスは呆れている。
エリック:「これは楽しい旅になりそうだ」
と皮肉たっぷりに言ったが、正面の3人は聞いていない。
車内では、そんなやり取りをしているうちに、バルナックから結構な距離を進んでいた。
が突然、車内の5人が同時に何やら異変を感じた。
と次の瞬間、馬車が暴走を始め、馭者の制御が効かなくなった。
馭者:「どおー、どおー」
馬は全然言うことを聞かない。
エリック:「おい、どおした?」
馭者:「わかりません、急に馬が・・・」
エリック:「前の馬車もか!」
エリック:「このままだと、ヤバい、飛び降り・・・」
カイト:「エオリシ」
2台の馬車は宙に浮き、静止した。
カイト:「流石にばしゃ2台はきつい」
カイト:「皆、必要な物を持って、早く降りて!」
エリック:「わかった」
エリックは自分の荷物を持って馬車を降りた。
エリックは前の馬車に向かって、
エリック:「お前ら、必要なものだけ持って、馬車から降りろ!」
ゴメスたちが馬車から次々降りてくる。
マイラ、ラミルそしてベリアスも馬車から降りた。
最後にカイトが馬車から降りてきた。
そして、エリシオ(空中浮遊)の呪文をといた。
馬車は暴走して、走り去った。
ゴメス達がカイトの方へやって来た。
ゴメス:「また、助けられたようだな」
ゴメス:「礼を言う」
カイト:「それはここを切り抜けられたらにしてください」
ゴメスが気づくと、獣達に囲まれていた。
ゴメス:「これは・・・」
オースティン:「普段おとなしい獣たちが、なぜ?」
アリア:「四の五の言ってる暇はないよ」
ゴメス:「お〜!」
キキ:「火のエレメントよ、つどいて我に力を与えん」
キキ:「ファイアーアロー!」
1本の炎の矢が獣を貫く。
ラミル:「それっ!」
5本の炎の矢が獣を貫く
キキ:「えっ?、詠唱なしに?それも5本?」
ラミル:「そんなことは良いから、あたしらは下がるよ」
ラミル:「魔法で後方支援、それに徹するよ」
ラミル:「マイラ、あんたも」
マイラ:「わかってますの」
アリア:「オースティン、あんたも下がりな」
アリア:「回復役がやられちゃ、話になんないからね」
ゴメス:「我らは出るぞ」
アリア:「あいよ!」
エリックは2人に続いた。
カイトもその後を続こうとしたがベリアスに止められた。
ベリアス:「ちょっと待って下さい、何かおかしくないですか?」
ベリアス:「オースティンさん、あなたはどう思います?」
オースティン:「そういえば・・・」
オースティン:「ここにいる獣達、イノシシ、馬、牛、ハイエナ、犬、猫・・・」
オースティン:「普段は人を襲うような獣ではありません」
ベリアス:「それに、さっき感じた怪しい気配」
オースティン:「何らかの術式が発動したと?」
ベリアス:「その可能性が高いですね」
オースティン:「もしそうなら、その術式を破らない限り」
ベリアス:「そのとおりです」
カイト:「わかった、上空から確認してみる」
ベリアス:「はい、お願いします」
カイト:「エリシオ」
カイトは宙に浮き、上空から大地を眺めた。
不自然な岩が5つあり、それが5芒星の魔法陣を成していた。
カイト:「岩だ!岩によって5芒星の魔法陣が作られている」
カイト:「それを破壊する」
オースティン:「一番近い岩は僕がなんとかします」
オースティン:「他をお願いします」
カイト:「一番遠い岩は俺が壊す」
カイト:「ベリアス、マイラ、ラミル」
カイト:「それ以外の岩は任す」
3人:「はっ、かしこまりました」
それぞれが五芒星の岩に向かった。
カイトは宙に浮いたまま、
カイト:「ペタグマ」
中を飛行し、一番遠い岩の上で地に降り立った。
そして、抜刀のか前から一閃、太刀を抜き、岩を真っ二つに切った。
と、時を同じくし、他の岩も破壊された。
悪戦苦闘していたゴメスとアリアであるが
ゴメス:「ん?何だ?」
アリア:「獣たちが・・・」
ゴメス:「正気に戻ったのか・・・」
獣たちは、正気に戻り、蜘蛛の子を散らしたかのように、去っていった。
キキはその場に座り込んだ。
キキ:「終わった・・・の?」
オースティン:「ええ、終わりました」
キキ:「一体何があったの?」
ゴメスとアリアも2人のそばに来た。
オースティン:「精神系魔法の術式かと思われます」
他の五人も集まってきた。
ベリアス:「そんな術式、あるんですか?」
オースティン:「聞いたことは、ありません」
ベリアス:「すると、得体のしれない敵、ということですか?」
オースティン:「ええ、今回の調査との関連も不明です」
ベリアス:「より一層の注意が必要ですね」
オースティン:「それと問題が・・・」
オースティン:「馬車から慌てて降りたので・・・」
オースティン:「必要最低限のものしか」
オースティン:「それに、これからは徒歩の移動になります」
ゴメス:「仕方あるまい」
オースティン:「しかし、徒歩で予定したルートでは時間がかかりすぎる」
ゴメス:「ナルバ盆地を行くしか・・・」
エリック:「危険だな、あそこは魔獣の住処という噂が」
カイト:「他に道はあるのか?」
オースティン:「ありませんが・・・」
カイト:「じゃ、ここで悩んでいても仕方ない」
ゴメス:「行くしかないようだな」
エリック:「これだけの面子だ、なんとかなるだろう!」
ゴメス:「わかりました、行きましょう」
移行は、ナルバ盆地に向かい歩を進めた。
ナルバ盆地に近づくに連れ、重々しい雰囲気が漂ってくる。
カイト達パーティ以外の息が荒くなってくる。
進むに連れ怪しい紫色の霧が濃くなっていく。
そして、霧のせいで知らぬ間にナルバ盆地の中を歩いていた。
キキ:「はぁーはぁー」
オースティン:「キキ、大丈夫ですか」
#うなずくものの、かなりきつそうだ
オースティン:「この霧、何かおかしいですね」
オースティン:「気が付きませんでした、すいません」
オースティン:「少量ですが、この霧、瘴気が含まれていますね」
オースティン:「このままだと・・・」
オースティン:「光に属するもの達よ、つどいて我に力を与えん」
オースティン:「ホーリープロテクト」
オースティン:「さぁ、皆さんこの光の中へ」
カイト:「我々は大丈夫です」
カイト達パーティはこの瘴気をものともしていない様子であった。
カイト:「それよりもさっきから、」
ベリアス:「ええ、かなりの数です」
ラミル:「まずいわね、囲まれているわ」
マイラ:「すでにナルバ盆地の中なの」
カイト:「知らない間に引き込まれていたか!」
ベリアス:「さて、どぉします?」
カイト:「オースティンさん、大丈夫ですか?」
ベリアス:「ホーリープロテクトを維持するのがやっとのようです」
ベリアス:「オースティンさん、意識朦朧で長くは」
ラミル:「他の人達も氣を失っているようね」
マイラ:「長くは持ちそうにないですの」
カイト:「霧が邪魔だ、ラミル、風魔法で払ってくれ」
ラミル:「それー!」
辺りに竜巻が起こり、紫色の霧が晴れた。
物凄い数のいきり立った魔獣達に囲まれていた。
霧が晴れたおかげで、魔獣たちはおとなしくなった。
しかし、ナルバ盆地を抜けた先、小高い丘から紫の霧がやって来る。
すぐさまナルバ盆地は霧で覆われた。
カイト:「なに!」
ラミル:「これでは、いくら払ってもきりがないわ」
ホーリープロテクトも切れかかっている。
その時ゴメスが気がついた。
ゴメス:「気を失うとは、不覚であった」
ゴメス:「ホーリープロテクトのおかげで、回復したわい」
アリア:「アタイもね」
アリアも気がついた。
アリアはエリックを揺すって起こす。
エリック:「んっ!」
オースティン:「皆さん、これを飲んでください」
オースティンは回復薬の入った瓶3つを出した。
ゴメス、アリアそしてエリックはその瓶を受け取ると飲み干した。
3人の体力が回復すると同時にオースティンは氣を失い、ホーリープロテクトが切れた。
ゴメス:「俺はオースティンを抱えて、盆地の出口まで走る」
アリア:「わかった、アタイはキキを抱えて走る」
アリア:「エリック、あんたはアタイらの道を開いて」
エリック:「わかった」
と言ってエリックは槍を構える。
それを聞いていたカイトは、
カイト:「わかった、我々も援護する」
カイト:「マイラ、あの魔獣をお前の眷属たちで足止めはできるか?」
マイラ:「難しいのね、あの興奮状態では」
カイト:「霧がなければ良いのか?」
マイラ:「それだけではないですの、この数・・・」
マイラ:「対抗する眷属の数も必要ですの」
マイラ:「数が多いので、それだけ集中が必要ですの」
マイラ:「わたくし、動けなくなりますの」
カイト:「これなら良いか?」
カイトはマイラをお姫様抱っこした。
マイラ:「はっ、ハイですの」
マイラの顔は真っ赤になっている。
ラミル:「ちょっと、あんた、こんな時に・・・」
マイラ:「わかってますの!」
カイトはニヤリと笑い、
カイト:「ラミル、マイラ、たのむ」
マイラ・ラミル:「はい!」
ラミルの竜巻で霧が晴れる。
魔獣たちが正気に戻る。
マイラの眷属達が魔獣を威嚇する。
魔獣たちがひるむ。
カイト:「ゴメスさん、今です!」
ゴメス:「おっ、おぅ!」
ゴメス:「エリック、アリア」
エリック・アリア:「おぉ〜〜」
エリックを先頭に走り出す。
数が多いため、マイラの眷属だけでは抑えきれず、襲ってくる魔獣をエリックが槍で薙ぎ払う。
その後ろを、オースティンを抱えたゴメス、キキを抱えたアリアが続く。
アリアの後ろにマイラを抱えたカイトが続いた。
カイトの後ろをベリアスが続き左右の魔獣を弓で射る。
殿を受け持つラミルは火魔法で背後の魔獣を蹴散らす。
エリック:「出口が見えてきた!」
エリック:「もう少しだ、皆、ふんばれ!」
出口に近づくにつれ、魔獣達の圧も強くなる。
紫色の霧も盆地に、たまり始めた。
エリックは鬼の形相で槍を振っている。
ゴメスもトマホークを片手で振っている。
アリアは近づく魔獣に裏拳を喰らわす。
カイトも脇差、篭手切丸で魔獣に応戦し始めた。
エリック:「よし出口だ」
エリックを先頭にラミルまで走り抜け、盆地を出た。
カイトはマイラを抱えたまま振り返り、篭手切丸を鞘に納めると
カイト:「バリキータ」
重力波を放った。
カイトたちはそのまま走り、泉湧く池のまでやって来た。
オースティン:「もう大丈夫です、おろしてください」
ゴメス:「ああ」
オースティンは地べたに座り込んだ、キキも地べたに座り込んだ。
ラミル:「ちょっと、あんた、いつまでそうしているの?」
マイラはお姫様抱っこのまま、降りようとしない。
カイト:「おぅ、ごめん」
気がついたカイトがマイラをおろした。
マイラ:(もう少しあのままで・・・)
ラミル:「何か言った!」
ベリアスは不可解なものを感じていた。
ベリアス:「我々、あそこへ誘導されていますね!」
先にある紫色の煙が発生している小高い丘を指差した。
ベリアス:「あの術式にしても、この霧にしても」
オースティン:「罠だと?」
ベリアス:「可能性は十分にありますね」
カイト:「罠だとしても、行くしかない、そうだろ」
エリック:「俺はカイトに賛成だ!」
アリア:「アタイもだね、戻るにしてもあの霧はもうゴメンだよ」
オースティン:「皆さんのそうですか、わかりました、進みましょう」
カイト達9人はこの泉のそばで、しばし休憩した後、出発した。
日はだいぶ傾いていた。
何かに監視されているような気配はあったものの、襲ってくる敵はいなかった。
そして、小高い丘の前に到着した。
カイト:「これは・・・」