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小さな国だった物語~  作者: よち


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45/218

【45.王妃の代役②】

「リア様の、代わりですか?」


夜明け前。

螺旋階段の手前でロイズに呼び止められた細身の尚書は、薄い顔に驚きの表情を浮かべた。


「弓兵が退()がると、城壁の向こうが見えなくなる。あいつの代わりに、監視を頼む」

「……わかりました」


他の誰でもない。

憧れを抱く王妃の無念を、目の前の男の次に知っている。

細い瞳に覚悟を宿したラッセルは、渡された使命を短い言葉で受け取った。


「あ、一つだけ」

「なんでしょう?」


前線へと向かおうとしたロイズが振り向いて、最後に一つを伝えた。


「今は静かだけど、アイツは北を気にしてた」

「……分かりました」


城門の反対側。動きの無い理由としては、明瞭である。

それでも不気味には違いない。ラッセルは王妃の懸念を受け入れた――



「屋上に、一人居るな……」


北側へと移動したスモレンスクの副将(ブランヒル)は、ナラの大木に登って様子をうかがうと、都市城壁の上に浮かんでいる城の屋上で、大きな手振りで指示を送る人影に気が付いた。


(昨日も、居たのか?)


ふと、頭を過ぎった。

しかし記憶を辿っても、青い旗が4本、四方で靡いているだけである。


「ベインズとカプスに連絡を!」

「は!」


眼下の部下に命じると、ブランヒルは地面に降り立ってから、木々の茂みに軍を潜めた――


「西側のカプス隊より、伝達です!」


ブランヒルの作戦が、南側で戦況を窺っていた直属の上司であるバイリーと総大将(ギュース)に伝わった。


「ワシも、北へ向かう」


内容を耳にして、ギュースは切っ先の太い特製の槍を手にすると、100キロを超える体躯ながら易々と馬に跨って、短期で北へと駆け出した――


「南の城門を、内から開けるぞ!」


剃った頭には、うっすらと汗が浮かんでいる。

残ったバイリーが、居並ぶ兵士に向かって作戦を伝えた。


「見ての通り、相手は城壁から退(しりぞ)いた! これより、落とし穴に梯子を掛けて、正面から突っ切る! 梯子を用意しろ!」

「は!」


その時が来た――

将軍の言葉を耳にして、先ずは半数の兵士が林の中へと移動した。


「残りは、2隊に分ける! 落とし穴の左右から迂回して、なるべく中心に梯子を掛けろ! 角度は厳しいが、風は追い風だ。梯子は倒されぬように、隣同士を固く結べ!」

「はっ!」


続いて残りの隊列が、指示を仰いで二手に分かれた――



「俺たちが、手柄を上げるぞ!」


東側で、長身の副将(ベインズ)が叫んだ。


「おう!」

「目指すは城門だ! 何としても乗り込んで、内側から開けるぞ!」


投石器が東に回される事は無かった。

それでも彼は、トゥーラの国王が指揮する士気の高い相手に対して、先ずは忠実に、弓矢で以って牽制をしていた。


「投石器、来ます!」


そんなところへ、援護の投石器がようやくやってきた。

城壁の上にはトゥーラの弓兵が居座っている。


「どこを狙いますか?」

「南だ!」


それでもベインズは、一点突破の明確な指示を伝えた。


「ここまでか……」


投石器の姿を認めると、トゥーラの国王は城壁に設けた足場の上で無念を呟いた――



「……」


一方で、屋上ではリアの代役を務めるラッセルが、細い目を更に細くして、薄い顔に怪訝な表情を浮かべていた。


動きのあった南側。兵士が手にする梯子の長さが、明らかに短い。

10メートルもある都市城壁の上までは、到底届くとは思えなかった――


「あ……」


暫くの時間を置いて、相手の意図が明らかになる。

ラッセルは西側の対処に向かっていたグレンに向かって、大きく両腕を振って危険を知らせた。


「南?」


彼の動きを注視していた総大将。引き連れた部下には西側の援護に向かうよう指示すると、自身は単身で南に引き返した。


「グレン様ぁ!」


南の都市城門。城から伸びる一本道を、女中のマルマが快足を飛ばしてやってきた。

肉付きの良い体型をしている彼女だが、足は速いのだ。


「ラッセルさんからです!」


小石を紙片で包んだものをマルマが手渡すと、城壁の向こう側の状況をグレンが認知する。

本来ならばリアが手旗を振って知らせるところだが、不可能となった。

ならばとラッセルが、マルマに託したのだ。


「ありがとう。ここは危ない。早く、城へ戻って!」

「はい」

南側(こっち)にも、敵が来るぞ! 準備しろ!」


緊張を含んだグレンは上空を確認してから感謝を伝えると、自らの部隊に大声で指示をした。



足場の悪い中、スモレンスクの兵士は城壁の向こうから飛んでくる矢羽と砲弾を(かわ)しながら、数人がかりで長梯子を抱えて城壁へと取り付かなければならない。


続いて重力に逆らって立て掛けて、足元を人力で固定する。それから長いが故に安定しない、風に晒されて揺れ動く梯子を登るのだ。


都市城壁を登った先では、トゥーラの弓兵と投石兵が狙いを定めて待ち構えている。

盾を翳して城壁を越えたとしても、足場の先には落差10メートルが控えていて、地面に降りたところを槍で襲われる。

数で勝っていようとも、簡単に成し遂げられる任務ではない――


「そろそろ来るぞ!」


援護の砲弾が減ってきたのを察すると、グレンが大声で叫んだ――



グレンが、ライエルが、ロイズが、それぞれに指揮を執り、或いは鼓舞をする。

スモレンスクが持ち込んだ投石器は全て配備され、南側、都市城門付近の攻防はいよいよ激しいものとなっていた。


東からの投石器の砲弾は、長身の副将(ベインズ)の指示により、唯一存在する南側の都市城門付近を標的にされ、左右に対して無防備なトゥーラの兵士は旗色を悪くした。

加えて南から、高い弾道を描いて砲弾がやってくる。更には城壁を越えようとする相手とも対峙しなければならない――


持ち(こた)えていた東の城壁も同様で、梯子が一つ、また一つと掛けられていった。

それでも投石器による砲弾が少ない分、他よりマシである。

射撃塔を兼ねた住居の二階や三階で配置に就いていた弓兵が、手ぐすねを引いて侵略者が姿を現すのを待っていた。


一方で、朝から激しい攻防が続く西側は、数に劣るトゥーラの兵士にはっきりと疲労の色が見て取れた。それを悟ったルーベンが、北側から援護に出向く――


そんな情勢を、ラッセルは城の屋上の南側に立ち、手に汗を握りながら観察をし、都市城壁に向かってくる侵略者の動きを凝視していた。


中でも国王であるロイズは、絶対に見失ってはならない。ロイズもまた、そこは理解して、東側で指揮を執りながらも最前線に立つような真似はせず、屋上から姿が分かるようにと、意識的に立ち回っていた。


本来ならば、リアの大きな瞳が探せるように――



(ん? なんですか?)


眼下の国王(ロイズ)が、ふっと振り返った。

ラッセルは、彼の視線が自身に向けられている事を悟った。


(え?)


視線が合って、大きく口を開けている。右腕を横に伸ばしながら、何かを叫んでいるようだ。


(キ……タ……)


理解に及んだ刹那。尚書は自身のこめかみ付近から、血の気がさぁっと引いて行くのを感じた――

お読みいただきありがとうございました。

感想等、ぜひお寄せください(o*。_。)o

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